スポンサーリンク

2025年 改正育児・介護休業法 (14)育児期社員へのテレワーク対応 中小企業が押さえるべき実務対応ポイント 助成金編➂

人材確保支援助成金 目標達成助成 法律・労務・業界のインサイト
目標達成後の助成金です
スポンサーリンク
スポンサーリンク

前回の記事では、「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」のうち、テレワーク制度の整備に対して支給される「制度導入助成」について解説しました。制度を「つくる」段階を支援するこの助成金は、取り組みのスタートを後押ししてくれる心強い制度です。

しかし、この助成金の魅力はそれだけにとどまりません。

今回はその続きとして、「目標達成助成」──つまり、実際にテレワークを運用し、労働者の雇用定着につなげる取り組みについて解説します。制度の整備で終わらせず、「使って、成果を出す」ことがカギです。

スポンサーリンク

目標達成助成金を受給するためには?

目標達成助成金は、次の2つの要件を満たすことで受給できる、10万円(※要件により15万円)の助成金です。

要件①:テレワークを6か月以上実施していること

対象労働者に対して、整備したテレワーク制度を活用し、6か月以上にわたって実施していることが求められます。

このとき注意したいのは、「実施記録」の保存です。

✅ テレワークの「実施記録」、どう残す?

では、どんな書類・データがあれば安心なのか? 実務上、以下のような方法で記録を残すことが推奨されます。

① 出勤簿(勤怠管理システムの記録)
  • テレワーク勤務日が明確に分かるように、「在宅勤務」「テレワーク」などの勤務区分を記載。
  • 紙ベースの場合は、テレワークと通常出勤が区別できるように工夫。
  • 勤怠システムを導入している場合は、「勤務場所(自宅等)」が記録される設定にしておく。

🔍 ポイント:
単に「出勤」とだけ記録されている場合は不十分です。勤務形態が「テレワーク」であることが明確になっていることが必要です。

➁ 勤務報告書・日報
  • テレワーク対象者が、日々の業務内容・勤務時間・成果などを報告した資料。
  • ExcelやWord形式、またはクラウド上のチャットツール・タスク管理ツールでも可。

🔍 チェックポイント:
「日付」「勤務時間」「業務内容」が一目でわかる様式になっていると◎。業務管理の実態も把握できるため、制度としての実効性が評価されやすくなります。

➂ 使用機器・システムの利用ログ
  • 社内ネットワークやVPNへの接続ログ、社内システムへのログイン記録。
  • クラウド勤怠ツール、業務管理システム(例:Google Workspace、Slack、Chatworkなど)の利用記録。

🔍 注意点:
ログイン履歴だけではなく、「誰が、いつ、どこから」アクセスしていたかが確認できるとより信頼性が高まります。

➃ テレワーク勤務の社内規程や雇用契約書の写し
  • 対象労働者がテレワーク勤務の対象であることを示す文書。
  • 規程に「在宅勤務が可能であること」や「勤務管理の方法」などが明記されていることが望ましい。

これらを日常的に整えておくことで、いざ助成金を申請する際もスムーズに対応できます。
特に中小企業では、「記録の仕組みづくり」から始めるケースも多いため、制度導入時に合わせて記録体制を整えておくことが肝心です。

要件②:雇用定着の成果が出ていること(離職率の改善)

「成果」とは、離職率の改善のことを指します。具体的には、テレワークを導入した労働者の6か月間の離職率が30%以下であることが求められます。「改善」といっても「以前との比較」ではなく、「30%以下かどうか」の話です。

✅ 離職率の計算式(厚労省様式より)

【テレワーク対象者の離職者数】÷【対象者数】×100
※計算期間:テレワーク開始から6か月間

🔍 たとえばこんなケース

ある中小企業が、テレワーク制度を導入して対象となる社員5名に在宅勤務を開始させました。
その6か月後、以下のような状況だったとします。

  • 対象者:5名
  • そのうち、1名が自己都合で退職

この場合の離職率は次の通りです。

【テレワーク対象者の離職者数1名】÷【対象者数5名】×100=20%

結果、離職率は20%となり、30%以下の基準をクリアしています。

目標達成助成の支給対象になります。

⚠ もうひとつのケース(NGパターン)
  • 対象者:5名
  • そのうち、2名が退職(1名は家庭の事情、もう1名は転職)

この場合の離職率は次の通りです。

【テレワーク対象者の離職者数2名】÷【対象者数5名】×100=40%

離職率は40%となり、基準オーバーのため目標達成助成は受けられません

スムーズに受給するための留意点

この具体例を踏まえて、「誰を対象にするか」は、助成金をちゃんと受け取るためにも、意外と大事な判断ポイントだとわかります。

  • できるだけ勤続1年以上の安定層から対象者を選ぶ
  • 育児・介護などでテレワークのニーズが高く、かつ定着度も高い層を選ぶ

→ 試用期間中の社員や、契約満了が近い人は避けるのがベターです。

対象者が途中で退職してしまうと、離職率が上がってしまい、目標達成助成の支給が受けられなくなる可能性もあるからです。

最大15万円もらえるケースもある?

目標達成助成は原則10万円ですが、次の要件を満たせば15万円に増額されます。

賃金の5%以上アップ

対象となる労働者のうち、1人以上の賃金が5%以上アップしていれば、助成金額が5万円加算されます。

この「5%」は月額換算または時間額換算で比較します。

例えば、テレワーク導入後に在宅勤務手当を支給するようになったり、勤続年数に応じた昇給があれば、それも加算要因となる場合があります。

✅ 具体例1:在宅勤務手当を新設した場合
  • テレワーク導入前の時給:1,200円
  • テレワーク導入後、在宅勤務手当として月額5,000円支給開始
  • 月160時間勤務(8時間×20日)と仮定すると:

▶ 実質的な時給は:
 1,200円 +(5,000円 ÷ 160時間)= 約1,231円
 → 時給換算で約2.6%のアップ → 5%未満なので対象外

✅ 具体例2:昇給により5%以上アップした場合
  • テレワーク導入前の月給:200,000円
  • 勤続2年目を迎え、定期昇給で月給210,000円に
     → 昇給率:5%アップ
     → 対象者1人が5%以上アップしているので、5万円加算対象に該当
✅ 具体例3:在宅勤務手当+昇給の合わせ技で5%超え
  • テレワーク導入前の時給:1,300円
  • テレワーク導入後、在宅勤務手当を月3,000円支給
  • さらに、評価昇給により時給を1,350円に引き上げ
     → 実質時給:1,350円 +(3,000円 ÷ 160時間)= 約1,368.75円
     → 元の時給1,300円と比較して約5.3%アップ
     → 加算対象に該当

💡社労士視点のひとこと

  • テレワークの成果と直接関係がなくても、申請時に5%以上上がっていればOK。
  • だからこそ、「申請時期の見極め」「昇給反映月との調整」が実務上のテクニックになります。
スポンサーリンク

目標達成助成の申請の流れとタイミング

「目標達成助成」は、テレワークの実施を6か月以上継続したあとに申請します。

その際、以下のスケジュールや書類の準備が重要なポイントとなります。

一般的な申請フロー(抜粋)

  1. 制度導入計画の提出(※助成金申請の前提)
  2. テレワーク制度の整備 → 制度導入助成の申請
  3. テレワークを6か月以上継続実施
  4. 離職率(30%以下)や賃金アップ(5%以上)などの実績を確認
  5. 目標達成助成の申請(6か月経過後2か月以内)

スケジュール管理がカギ

項目内容
テレワーク実施開始日例:2025年6月1日
実施期間(6か月)~2025年11月30日まで
申請期間実施終了日の翌日から2か月以内 → この例では2026年1月末まで
※期限を過ぎると申請不可計画的なスケジュール管理が重要

必要書類(例)提出先

  • 目標達成助成 支給申請書
    • 「目標達成助成金支給申請書(様式)」もしくは「助成金申請書(目標達成分)」という形で、都道府県労働局または助成金センターが提供する専用の書式が存在します。
  • 実施状況報告書(厚労省様式)
  • 離職率の算出根拠資料(出勤簿・雇用契約書・退職届など)
  • 賃金台帳・給与明細の写し(賃金アップの証明)
  • テレワーク実施記録(勤務システムログ、在宅勤務命令書など)
    • 目的:テレワークが実際にどのように運用されたかを証明するための記録です。
    • 内容
      • 勤務システムログ:従業員がテレワーク中にどのように働いたか、勤務時間や稼働状況などを記録するデータです。
      • 在宅勤務命令書:テレワークを実施するために、会社からの正式な指示書。従業員に対してテレワーク勤務を命じた証拠となります。

※都道府県労働局または管轄の助成金センターによって細部が異なることがあるため、事前確認が望ましいです。

提出先の違い:制度導入助成 vs 目標達成助成

制度導入助成(テレワーク制度を整備したとき)

提出先は「都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))」のみです。
→ この段階では制度内容の審査があるため、原則として労働局が窓口です。

目標達成助成(6か月間実施後の支給申請)

提出先は、以下のいずれか(※地域により異なる)

  • 「都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))」または、
  • 「管轄する助成金センター(ハローワークの一部等)」→「○○労働局助成金センター」や「ハローワーク助成金担当窓口」など、地域によって名称が異なります。実務はハローワークの一部または別棟の助成金専用部門が担当していることが多いです。

なぜ違いがあるの?

目標達成助成では、実績(離職率や賃金アップ)に関する「確認業務」が主になり、地域によっては事務的な処理を助成金センターに委託しているケースがあるためです。

地域によっては、都道府県労働局が助成金の事務処理業務を「助成金センター(正式名称:助成金事務センターなど)」に委託している場合があり、その場合は申請書類の提出先が「助成金センター」と指定されていることがあります。

結論

  • 制度導入計画書 ・「制度導入助成金」の支給申請
    • 都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))
  • 目標達成助成の支給申請
    • 提出先は全国一律ではなく、地域によって異なる。
    • あなたの地域で「制度導入計画書」を提出した窓口に、目標達成助成金の申請書類も提出するのが原則です。
    • 助成金センターが窓口になっている地域では、労働局ではなく助成金センターに提出する必要があることになります。
スポンサーリンク

まとめ 助成金を活用し、持続可能な働き方改革を実現

「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」は、制度を整えて終わりではありません。

実際に制度を運用し、成果を上げてこそ、真の支援が実現します。

特に中小企業にとって、「制度導入助成」と「目標達成助成」を合わせた最大35万円の支援は、大きな後押しとなるでしょう。

助成金の申請には一定の手間がかかりますが、事前準備と実績の積み重ねが成功の鍵です。

テレワーク制度の整備は、助成金の受給を目的とするのではなく、時代の流れや働き方の多様化、人材の確保・定着といった課題への対応として取り組むべきです。

助成金は、そのような前向きな取り組みの副次的な成果として位置づけるのが望ましいでしょう。

働きやすい制度や環境を整えることを第一に考え、助成金はその成果として活用する——
そうした姿勢が、企業の持続可能な人事・労務管理につながります。

次回は、テレワークの実現を支援する助成金制度の一つ、「IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)」について詳しく解説します。

企業の制度導入を後押しするこの補助金が、テレワーク環境の整備にどのように活用できるか、
実務的なポイントを交えてご紹介する予定です。

どうぞお楽しみに。

コメント