2025年4月1日から施行された改正育児・介護休業法では、男性の育児休業取得促進に向けた数々の施策が打ち出されました。
具体的には、男性の育児休業取得率をさらに向上させるために、以下のような施策が盛り込まれています。
- 育児休業取得状況の公表義務の拡大
- 3歳未満の子を養育する労働者へのテレワーク選択肢の提供(事業主の努力義務)
- 育児休業制度の周知・意向確認の強化
- 柔軟な育児休業取得の促進
今回はこれらの4つの施策の中から、「3歳未満の子を養育する労働者へのテレワーク選択肢の提供(事業主の努力義務)」に関しての実務ポイントに焦点を当てていきます。
今回の法改正においては、従業員を雇う企業に対して、テレワーク制度の導入や整備を求めるものではありません。制度がある場合には3歳未満の子を育てる労働者に対して選択肢としての活用を検討・提示するように努めるものです。
とはいえ、中小企業にとっては「テレワーク」と聞くだけでハードルが高く感じられるかもしれません。本記事では、中小企業が実務上留意すべきポイントや対応のヒントについて解説します。
法改正に関しての詳しい内容はこちらから⇩
法改正の背景と趣旨
近年、男性の育児休業取得率は少しずつ上昇しています。しかし、依然として「取得しづらい雰囲気」や「業務上の支障」が理由で取得をためらうケースが多く見られます。
今回の改正では、こうした課題に対応するため、育児と仕事を柔軟に両立できる環境整備が柱のひとつとなっており、特に3歳未満の子どもを持つ労働者(男女問わず)に対するテレワークの「選択肢の提供」が努力義務とされました。
ポイントは「提供が努力義務」かつ「制度がある企業」が対象
つまり、テレワーク制度そのものの導入を義務づけるものでは、既に何らかのテレワーク制度や在宅勤務制度を導入している企業において、対象となる労働者に対してその制度を柔軟に活用できるように配慮すべきという位置づけです。
対象となる企業と労働者
- 対象企業: テレワーク制度を導入しているすべての企業(大企業・中小企業問わず)
- 対象労働者: 3歳未満の子を養育している労働者(性別は問わない)
中小企業であっても、すでに一部職種で在宅勤務を導入している場合などは、本改正の努力義務の対象に該当します。
中小企業における実務対応のポイント
現在の就業規則や制度を見直す
2025年改正育児・介護休業法の「テレワークの選択肢提供(努力義務)」に対応するには、まず自社のルールや制度が“育児とテレワークの両立”に向いているかどうかを点検することがスタートラインになります。
以下の3つの観点から、制度や就業規則を見直してみましょう。
①育児を理由とする利用が認められているか?
テレワーク制度がすでに存在していても、「災害時対応」「業務効率向上」「感染症対策」などの目的に限って適用されているケースも少なくありません。
そのため、テレワーク制度の適用理由に「育児」や「家庭の事情」などが明記されているかを確認する必要があります。
チェックポイント
- 在宅勤務規程に「育児を目的とする在宅勤務の利用」が認められているか?
- テレワークの申請書式に「育児・子の看護」などの理由欄があるか?
実務のヒント
- 育児を理由としたテレワークを許可する明確な記載がない場合は、「子が3歳になるまでの間に限り、申出により在宅勤務を認める」といった一文を規程に追記するだけでも、対応がぐっと進みます。
➁制度の対象者や利用可能な業務範囲は適切か?
テレワーク制度の対象者が「役職者に限定されている」「勤続年数○年以上のみ」など、育児期の若年社員が対象外になっている場合もあります。
また、制度の対象となる業務が限定されすぎていると、育児と両立が可能な社員であっても制度を活用できません。
チェックポイント
- 「対象者」が正社員のみ・勤続年数や職種で絞られていないか?
- 「対象業務」が全社員の業務内容を反映した範囲で設定されているか?しかしながら、すべての職種で一律に適用することは現実的ではありません。
- IT関連職、設計、総務・経理など:テレワークの適用が比較的容易
- 製造現場、接客販売、物流など:テレワーク適用は困難
実務のヒント
- たとえば、「事務系業務は在宅可能だが営業職は不可」と一律に判断するのではなく、営業職でも事務処理や報告書作成など一部業務はテレワーク可能な場合があります。
- 対象業務を「○○業務のみ可」と制限するのではなく、「業務内容に応じて所属長と協議の上、在宅勤務を許可する」と柔軟に表現するのが望ましいです。
- 一部業務だけでも在宅で可能であれば、その分だけでもテレワークを導入する工夫が求められます(例:資料作成や会議参加のみテレワーク等)。
➂育児期の労働者が利用しやすい運用となっているか?
制度があっても、使いづらい制度になっていないか?という視点も重要です。たとえば、申請手続きが煩雑すぎたり、上司の裁量が大きくて申請が通らないなど、運用面の問題で活用されないケースもあります。
チェックポイント
- 申請・承認のフローは明確で、負担の少ないものになっているか?
- 利用者が孤立しないような支援体制(定期的な面談やサポート窓口)はあるか?
- 「制度を使うと評価が下がるのでは?」という不安を持たれていないか?
実務のヒント
- 在宅勤務利用者向けのマニュアルやQ&Aを用意する
- 上司への説明責任や判断基準を明文化して、属人化を防ぐ
制度は「整える」だけでなく「使わせる」意識を
このパートで最も重要なのは、「制度があるかどうか」だけでなく、「その制度を育児中の社員が安心して使える状態になっているか?」という点です。
就業規則や運用ルールを改定する際には、次のようなステップで進めるとスムーズです。
- 現行制度の棚卸し(育児目的での利用可能性を確認)
- 関係部署・社員とのヒアリング(ニーズや障害を把握)
- 就業規則・制度文書の見直し
- 社内への丁寧な周知と相談窓口の整備
- 実施後のフィードバックと改善
一度整備すれば、それ以降の育児支援制度の活用もぐっと進みます。中小企業にとっても、長い目で見れば従業員満足度・定着率の向上に寄与する施策となるでしょう。
テレワーク導入に消極的な企業はどうする?
制度の導入自体は義務ではないため、テレワーク制度が未導入の場合、今回の改正に基づく義務は直接的には発生しません。
その場合は、次の5つの措置のうち、「テレワークの導入」以外の2つ以上を選択して実施すればいいのです。
- フレックスタイム制度の導入
- 始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ
- 事業所内保育施設の設置
- テレワークの導入(改正後に初めて義務として明文化される選択肢)
- 育児目的休暇(就業しつつ子を養育するための休暇)の付与
しかしながら、以下のような点からも、今後の導入を検討する価値は十分にあります。
- 離職防止と人材確保に効果あり
- 育児期の柔軟な働き方への対応は、従業員の離職防止やエンゲージメント向上につながります。特に若年層の採用では「柔軟な働き方が可能な企業」が選ばれる傾向が強まっています。
- 補助金・助成金の活用が可能
- 中小企業向けには、「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」など、テレワーク導入に関する補助金制度も用意されています。制度整備やICTツール導入の費用を補助するもので、活用しない手はありません。
まとめ:テレワークは「制度」より「運用」がカギ
今回の改正で最終的に求められているのは、子育てと仕事の両立が可能な職場環境の実現です。
この記事では、その実現に向けた社内制度や就業規則の整備という視点にフォーカスしてお伝えしてきました。
しかし、制度を形だけ整えるのではなく、育児期の社員に寄り添う姿勢と柔軟な運用の工夫があってこそ、はじめて本当に「使える制度」となります。
中小企業にとっては、大きな負担や不安もあるかもしれません。
けれども、ほんの一歩からでも、制度の見直しや運用改善を少しずつ積み重ねていくことで、確実に育児と仕事の両立支援は前に進みます。
社員が安心して子育てできる環境を整えることは、企業の信頼性や人材の定着、長期的な成長にもつながる重要な投資です。
この機会に、まずは「今ある制度の確認」から始めてみませんか?
制度の整備とあわせて、働く人の声にも耳を傾けながら、育児しながら働ける職場づくりに取り組んでいきましょう。
今回の記事では、育児と仕事の両立を支える社内制度の整備に焦点を当ててお伝えしてきましたが、その取り組みを後押ししてくれる「助成金制度」についても少し触れました。
次回は、この助成金制度にスポットを当てて、
- テレワーク導入や制度整備に活用できるもの
- 申請のポイントや注意点
- 中小企業が無理なく取り組むための工夫
など、実務に役立つ情報をわかりやすく解説していきます。
制度の導入・見直しを「コスト」ではなく「チャンス」に変えるために、ぜひ次回もご覧ください。
続きはこちらから⇩
前回の記事へ⇩
コメント