「うちにはテレワークの制度がないけれど、3歳未満の子を育てている社員から『在宅勤務はできませんか』と相談されたら、どう答えればよいでしょうか」。
育児・介護休業法には、2025年4月1日から、3歳未満の子を養育する労働者のテレワークについて、事業主の努力義務が定められています。
同じ4月には、短時間勤務制度の代替措置にも、テレワークが加わりました。似た名前の2つの仕組みですが、義務の重さも、対象も異なります。
この記事では、2つの違いを整理したうえで、中小企業が就業規則と運用で確認したいポイントをお伝えします。
この記事で分かること
- 3歳未満の子のテレワーク努力義務と、代替措置としてのテレワークの違い
- 努力義務で求められること、求められていないこと
- 短時間勤務制度の代替措置の5つの選択肢
- 就業規則と運用で確認したいポイントと、今日からの5つのステップ
3歳未満の子に関するテレワーク|努力義務と代替措置の違い
2025年4月1日に始まった、3歳未満の子に関する2つのテレワークを、まず並べてみましょう。
あわせて、10月に始まった別の制度も、参考として1列だけ載せています。
3つの制度の比較
| 制度① テレワーク導入の努力義務 | 制度② 短時間勤務の代替措置としてのテレワーク | (参考)10月施行:柔軟な働き方を実現するための措置のテレワーク等 | |
|---|---|---|---|
| 施行日 | 2025年4月1日 | 2025年4月1日 | 2025年10月1日 |
| 対象となる労働者 | 3歳に満たない子を養育する労働者(現に育児休業をしている人を除く) | 3歳に満たない子を養育する労働者のうち、業務の性質や実施体制から短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事し、労使協定によって対象外となった人 | 3歳から小学校就学前の子を養育する労働者 |
| 事業主の義務の重さ | 努力義務(すべての事業主) | 義務(代替措置を講ずる) | 義務(5つの措置から2つ以上を用意する。労働者はその中から1つを選んで利用) |
| テレワークを必ず選ぶ必要があるか | テレワーク等を選択できるように措置を講ずることが、事業主の努力義務です | 事業主は、テレワーク等を必ず選ぶ必要はありません。5つの代替措置の選択肢の1つです | 事業主は、テレワーク等を必ず用意する必要はありません。5つの措置の1つです |
| 利用日数・時間単位などの要件 | 法令上の基準はありません | 法令上の基準はありません | 要件があります(別記事で解説) |
10月に始まった措置は、育児・介護休業法第23条の3に基づく別の制度で、対象年齢も、事業主に求められる対応も異なります。詳しくは、別の記事でお話ししています。→【10月施行の柔軟な働き方措置の記事へのリンク】
混同しやすい点
- 制度①(テレワーク導入の努力義務)は、すべての事業主に対する努力義務です。テレワーク制度を一律に導入するよう義務づけるものではありません。
- 制度② (短時間勤務の代替措置としてのテレワーク)で義務なのは、短時間勤務制度を対象外にした労働者に「代替措置」を講ずることです。必ずテレワークを選ばなければならないわけではありません。
- 制度①と制度②は、対象も義務の重さも別です。「努力義務のテレワークを導入している」ことが、代替措置を講じたことになるわけでもありません。
努力義務のテレワーク|求められること、求められていないこと
努力義務は、どこまで求められているのか、分かりにくいものです。厚生労働省の資料に沿って整理します。
求められていること
育児・介護休業法では、3歳に満たない子を養育する労働者(現に育児休業をしている人を除きます)が、テレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主の努力義務とされています。
すべての事業主が対象で、男女は問いません。
趣旨は、通勤時間の削減などを通じて、仕事と育児の両立を容易にすることです。
厚生労働省は、積極的な措置を求めています。
一律の導入義務ではありません
- テレワーク制度がない会社も、対象ですか?
- はい。すべての事業主が対象です。
- 制度がない場合も、導入を検討し、整えるよう努めることが求められます。
- 全員に認めなければなりませんか?
- いいえ。事業所内にテレワーク等を講ずることが難しい業種・職種がある場合には、対象者を限定することも可能です。ただし、テレワーク等が困難な労働者を、テレワーク等が可能な職種へ配置転換したり、そのための職種を新設したりすることまでは求められていません。
- ただし、対象を男女のどちらか一方に限るような内容は認められません。
- 頻度や内容に決まりはありますか?
- 法令上、内容や頻度などの基準は設けられていません。
制度がない会社が検討したいこと
制度がない会社は、まず「どの業務なら自宅で実施できるか」を洗い出すことから始めます。
そのうえで、対象者や利用頻度、労務管理のルールを検討します。必要に応じて就業規則やテレワーク規程などを整備し、制度を利用できる環境を整えていきましょう。
短時間勤務の代替措置としてのテレワーク
もう一つのテレワークは、短時間勤務制度の代替措置です。
こちらは、対象となる企業にとって、措置を講ずる義務の話です。
短時間勤務制度の位置づけ
育児・介護休業法第23条は、3歳に満たない子を養育する労働者のために、事業主が短時間勤務制度(1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含みます)を講ずることを義務づけています。
ただし、次の労働者は、労使協定を結べば対象から除外できます。
- 継続雇用1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
- 業務の性質や実施体制から短時間勤務を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
このうち3つ目の労働者には、短時間勤務の代わりに代替措置を講ずる義務があります(育児・介護休業法第23条第2項)。
対象外にできるのは、客観的に困難と認められる具体的な業務があり、その業務に従事する労働者がいる場合に限られます。その業務は、労使協定で明らかにする必要があります。
短時間勤務制度の代替措置|5つの選択肢
短時間勤務制度の対象外とした労働者には、次の5つの選択肢のいずれかを講じなければなりません。2025年4月1日から、5つ目のテレワーク等が加わりました。
- 育児休業に関する制度に準ずる措置
- 育児休業に関する制度に準じた措置です。
- フレックスタイム制
- 労働者が一定の範囲内で始業・終業時刻を調整できる制度です。
- 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤)
- 始業・終業時刻を変更し、育児と仕事を両立しやすくする措置です。
- 保育施設の設置・運営等
- 保育施設の設置・運営や、これに準ずる便宜の供与などです。
- テレワーク等
- 2025年4月1日から追加された選択肢です。自宅を基本に、自宅に準ずる場所での実施も含まれます。
テレワーク等は、5つの代替措置の選択肢の1つです。
事業主が必ずテレワーク等を選ばなければならないわけではありません。
テレワークを選ぶときの注意点
テレワーク等を代替措置として選ぶ場合は、次の点に注意してください。
- 「テレワーク等」は、情報通信技術を使う業務に限られません。実施場所は、自宅を基本に、自宅に準ずる場所として就業規則などで定める場所(サテライトオフィス等)を含みます。
- 内容や頻度の基準は、法令上ありません。ただし、保育所への送迎の便宜などを考慮して措置する必要があり、対象を男女のどちらか一方に限るような内容は認められません。
- 対象の業務がテレワーク等で実施できる場合に講ずるものです。テレワークができる職種への配置転換や、そのような職種の新設までは求められていません。
就業規則とテレワークの運用|育児期の社員が使える制度にするために
ここからは、法令上の義務ではなく、制度①(テレワーク導入の努力義務)の努力義務に向けた、実務上の取り組みです。
厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」も参考にしてください。
制度があっても、育児中の社員が実際に使えなければ、意味が薄れてしまいます。
1. 対象業務と対象者を決める
「テレワークに向かない」と安易に結論づけず、業務ごとに見直すことが大切です。
事務職でも営業職でも、資料作成や報告書の作成、会議参加など、一部の業務だけなら自宅でできる場合があります。
「業務内容に応じて、所属長と協議のうえ許可する」といった柔軟な定め方も一案です。
対象者は、正社員かどうかといった雇用形態の違いだけを理由に外さないようにします。
役職者や一定の勤続年数以上に限ると、育児中の若手社員が使えなくなります。
一方、製造現場や接客のように、テレワークが難しい職種もあります。
その場合は、対象者を限定できます。ただし、オフィスに出勤する人だけに業務が偏らないよう、配慮が必要です。
2. 申請・承認の流れと、労働時間の把握
申請と承認の流れは、できるだけ簡単にします。上司の裁量だけで決まる形だと、申請が通りにくくなります。
判断の基準を文書にしておくと、運用の属人化も防げます。
労働時間の把握も欠かせません。オフィスの外で働くため、現認はできません。
使用者には、ガイドラインに沿った適切な管理が求められます。
始業・終業時刻の報告の方法や、子どもの送迎などで業務を中断する「中抜け」時間の取扱いを、あらかじめ労使で話し合って決めておきましょう。
長時間労働を防ぐ方法として、時間外のメールを控えることや、システムへのアクセスを制限することも考えられます。
厚生労働省は、夜間の勤務や長時間労働で心身に不調が生じないよう、面談などで状況を把握することが望ましいとしています。
3. 情報共有と、利用しやすさの工夫
利用者が孤立しないよう、定期的な面談や相談窓口を用意します。
ふだんの連絡方法や、緊急時の連絡方法も決めておくと安心です。
新入社員や異動直後の社員には、特にコミュニケーションへの配慮が望ましいとされています。
「使うと評価が下がるのでは」という不安も、利用を妨げます。
テレワークを理由に評価が不利にならないよう、評価の考え方を明確にしましょう。
利用者向けのマニュアルやQ&Aがあると、上司も迷わず対応できます。
4. 就業規則・テレワーク規程を整える
テレワークのルールは、労使で話し合ったうえで就業規則に定め、労働者に周知することが望ましいとされています。
通信費などの費用負担も、あらかじめ話し合って、就業規則等に定めておきましょう。
育児を目的に使えるかも、点検のポイントです。
すでにテレワーク制度がある場合は、「災害時」「業務効率化」「感染症対策」など、目的が限られていないかを確認します。
明記されていなければ、一文を加えるだけでも前に進みます。
たとえば、「子が3歳になるまでの間、申出により在宅勤務を認める」といった条文です(記載の一例です)。
なお、制度② (短時間勤務の代替措置としてのテレワーク)でテレワークを選ぶ場合は、先ほどの注意点に合う内容にする必要があります。
就業規則を変更した場合、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、所轄の労働基準監督署への届出が必要です。
テレワークの努力義務への対応や、短時間勤務制度の代替措置を検討する際は、自社の業務内容に合った制度設計が大切です。
就業規則や育児・介護休業規程の見直しに不安がある経営者・人事担当者の方は、お気軽にご相談ください。👉 就業規則の作成・見直しはこちら(ココナラ)
今日から進める5つのステップ
上から順に進めれば、迷いません。
- 自社にテレワーク制度があるかを確認します。
- ある場合は、育児を目的に利用できるかを確認します。ない場合は、自宅でできる業務を洗い出します。
- 対象者、頻度、労務管理のルールを決め、就業規則などを整えます。
- テレワークが難しい職種には、短時間勤務や始業・終業時刻の繰上げ・繰下げなど、ほかの両立支援策との組み合わせを考えます。
- 3歳未満の子を養育する社員に、利用できる制度を知らせます。
制度の整備やツールの導入には、助成金を活用できる場合があります。内容は年度ごとに変わります。
まとめ|2つの制度を分けて考え、努力義務は運用の工夫で
3歳未満の子に関するテレワークは、「努力義務」と「代替措置」の2つに分かれます。
努力義務は、すべての事業主が対象で、テレワークの一律導入を義務づけるものではありません。
代替措置は、短時間勤務を講ずることが困難な業務を労使協定で除外した場合に必要で、5つの選択肢から選びます。必ずテレワークを選ぶ必要はありません。
2025年10月に始まった3歳以降の子の措置は、別の制度です。
努力義務に、決まった正解はありません。
だからこそ、制度があるかどうかではなく、育児中の社員が実際に使える状態になっているかが問われます。規程の一文、申請の流れの見直しといった小さな一歩から、始めてみてください。
次回予告|10月改正の柔軟な働き方への対応を詳しく解説
本文でも触れたとおり、2025年10月改正では、3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者に対し、企業は柔軟な働き方を実現するための措置を講じる必要があります。
この措置の選択肢の一つにもテレワークが含まれています。ただし、4月改正で取り上げた3歳未満の子に関するテレワークとは、対象年齢も制度の仕組みも異なります。
次回の記事では、企業が5つの措置から2つ以上を選ぶ仕組みや、それぞれの措置の内容、就業規則の整備など、10月改正への実務対応を詳しく解説します。👉柔軟な働き方を実現するための措置|5つから2つ以上を用意する義務
出典・参考資料
- 厚生労働省「令和6年改正育児・介護休業法に関するQ&A(令和7年9月24日時点)」:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001567572.pdf
- 厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説」:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001407488.pdf
- 厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例[簡易版](令和7年4月1日、10月1日施行対応版)」:https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/content/contents/kaisei_ikukai202502-shiryou-5.pdf
- 厚生労働省「テレワークガイドラインの改定 主な概要」:https://www.mhlw.go.jp/content/000805551.pdf

- 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
- 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。
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