
執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二
法改正対応のスペシャリスト。戸塚淳二社会保険労務士事務所 代表として、多岐にわたる労働関連法規の解説から、実践的な労務管理、人事制度設計、助成金活用まで、企業の「ヒト」と「組織」に関する課題解決をサポートしています。本記事では、事業主の皆さまが安心して法改正に対応できるよう、専門家の視点から最新情報をお届けします。
社会保険労務士登録番号:第29240010号
この「2025年改正育児介護休業法」シリーズでは、育児介護休業法の改正ポイントや、男性育休取得における実務対応について詳しく解説しています。
前回の【第5回】では、育児休業と密接に関連し、その前段階に位置する重要な制度である「産前産後休業期間中の社会保険料免除制度」について掘り下げて解説しました。
制度の概要や要件は理解できても、実際に自分のケースに当てはめた時に「いつ、どうなるんだろう?」と具体的なイメージが湧きにくいと感じる方もいるかもしれません。
特に、男性の育休取得で増えている「合わせ技」のように、期間が複雑になる場合はなおさらでしょう。
そこで今回の【第6回】では、前回までの解説内容をより深く、実践的に理解していただくために、具体的な事例を用いて社会保険料免除の適用フローを詳細に追っていきます。
夫婦で「パパママ育休プラス」を活用するケースを想定し、登場人物の育休期間に合わせて、各期間で社会保険料免除がどのように適用され、企業側はどのような手続きを行うのかを時系列で解説します。
この事例を通じて、社会保険料免除のルールがご自身のケースにどう当てはまるかを具体的にイメージできるようになるはずです。
ぜひ最後までお読みいただき、育休中の経済的な安心材料を一つ増やしてください。
事例で解説 社会保険料免除の具体的な流れ
ここでは、以前の記事【第2回】の育児休業給付金の申請フローでも登場した夫婦を例に、社会保険料免除の具体的な適用と企業側の手続きを見ていきましょう。
なお、ここでは賞与が毎年7月と12月に支給されると仮定して解説します。
登場人物と期間設定(前回記事の事例を流用)
- 妻Aさん: 2025年7月10日出産。産後休業を経て育児休業を取得予定。
- 産前休業期間
- 2025年5月30日 〜 2025年7月9日(出産予定日の6週間前〜出産前日=41日間)
- 産後休業期間
- 2025年7月11日 〜 2025年9月7日(出産日の翌日から8週間=56日間)
- ※出産日は労働基準法上、産前・産後休業日のどちらにも入りません。
- Aさんの育児休業開始予定日
- 2025年9月8日(産後休業明けの翌日)
- Aさんの育児休業終了予定日
- 2026年7月9日(子が1歳になる前日まで)
- 産前休業期間
- 夫Bさん: 「産後パパ育休」と「パパママ育休プラス」を利用して育休を取得予定。
- 育休期間①(産後パパ育休)
- 第1期: 2025年7月10日 〜 2025年7月16日(出生日を含む7日間)
- 第2期: 2025年7月25日 〜 2025年8月8日(15日間)
- 育休期間②(通常の育児休業 / パパママ育休プラス適用)
- 2026年7月10日 〜 2026年9月9日(子が1歳から1歳2ヶ月になる前日まで)
- ポイント: Aさんが子が1歳になるまで育休を取得しているため、Bさんは「パパママ育休プラス」の適用により、子が1歳2ヶ月になる前日まで育休を取得できます。
- 2026年7月10日 〜 2026年9月9日(子が1歳から1歳2ヶ月になる前日まで)
- 育休期間①(産後パパ育休)

各期間における社会保険料免除の適用
ここからは、上記の育休期間に応じて、妻Aさんと夫Bさんの社会保険料がどのように免除されるかを確認します。
産前産後休業期間中の社会保険料免除
産前産後休業中は、休業を開始した日の属する月から、休業が終了した日の翌日の属する月の前月まで、健康保険・厚生年金保険の保険料が免除されます。
つまり、月の途中で休業が始まった場合でも、その月の保険料は免除の対象となり、月末まで休業していなくても免除されます。
育児休業期間中の社会保険料免除
- 月々の保険料免除
- 月末に育休を取得していること
- 月の途中で育児休業が開始・終了し、月末に育休をしていない場合でも、同一月内で14日以上育児休業を取得していること
- 賞与にかかる保険料免除
- 賞与月の末日を含んで1か月を超える育休を取得すること
がカギとなります。
妻Aさんの場合
(産前休業期間)2025年5月30日 〜 2025年7月9日
(産後休業期間)2025年7月11日 〜 2025年9月7日
(育児休業期間)2025年9月8日〜2026年7月9日
- 2025年5月(産前休業期間中)
- 月々の社会保険料
- たった2日間ですが、産前休業を取得しております。したがって、免除されます。
- 月々の社会保険料
- 2025年6月(産前休業期間中)
- 月々の社会保険料
- 免除されます。
- 月々の社会保険料
- 2025年7月(産前・産後休業期間中)
- 月々の社会保険料
- 免除されます。
- 賞与(7月支給)
- 同じく、免除されます。
- 月々の社会保険料
- 2025年8月(産後休業期間中)
- 月々の社会保険料
- 免除されます。
- 月々の社会保険料
- 2025年9月〜2026年6月(育児休業期間中⦅Aさんの育休は9月8日開始で、各月の末日に育休中⦆)
- これらの月の月々の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)は全額免除されます。
- 賞与(2025年12月支給)
- Aさんは12月を通して育児休業を取得しており、「賞与月の末日(12月31日)を含んで1か月を超える育休を取得」要件を満たしているため、12月に支給される賞与にかかる社会保険料も免除されます。
- 2026年7月(育児休業終了月⦅育休は7月9日に終了⦆)
- 月々の社会保険料
- 月末(7月31日)には育休が終了しているため、7月分の社会保険料は免除されず、通常通り発生します。
- 賞与(7月支給)
- 7月中の育休期間は9日間(7月1日~7月9日)となり、「賞与月の末日(7月31日)を含んで1か月を超える育休を取得」要件を満たさないため、7月に支給される賞与にかかる社会保険料は免除されません。
- 月々の社会保険料
夫Bさんの場合
(産後パパ育休)2025年7月10日 〜 2025年7月16日(出生日を含む7日間)
(産後パパ育休)2025年7月25日 〜 2025年8月8日(15日間)
(通常の育児休業 / パパママ育休プラス適用)2026年7月10日 〜 2026年9月9日(子が1歳から1歳2ヶ月になる前日まで)
育休期間①(産後パパ育休)
- 2025年7月(育休期間は7月10日〜7月16日⦅7日間⦆と7月25日〜7月31日⦅7日間⦆)
- 月々の社会保険料
- 7月31日時点で育休中(7月25日からの育休が続いている)のため、7月分の社会保険料は免除されます。
- 賞与(7月支給)
- 「賞与月の末日を含んで1か月を超える育休を取得すること」という要件を満たしていないため、7月に支給される賞与にかかる社会保険料は免除されません。
- 月々の社会保険料
- 2025年8月(育休期間は8月1日〜8月8日)
- 月々の社会保険料
- 月末(8月31日)には育休が終了しているため、8月分の社会保険料は免除されません。
- 月々の社会保険料
- 2025年12月( 育休期間なし)
- 月々の社会保険料
- 通常通り発生。
- 賞与(12月支給)
- 育休期間がないため、賞与にかかる社会保険料は免除されません。
- 月々の社会保険料
育休期間②(通常の育児休業 / パパママ育休プラス適用)
- 2026年7月(育休開始は7月10日。月末⦅7月31日⦆に育休中)
- 月々の社会保険料
- 7月分の社会保険料は免除されます。
- 賞与(7月支給)
- 7月10日から継続して育休を取得しており、月末の7月31日において休業をしております。
- なお、最終的に9月9日まで育児休業を取得しているため、「賞与月の末日を含んで1か月を超える育休を取得すること」という要件を満たすため、7月に支給される賞与にかかる社会保険料も免除されます。
- 月々の社会保険料
- 2026年8月(育休期間中。月末⦅8月31日⦆に育休中)
- 月々の社会保険料
- 8月分の社会保険料は免除されます。
- 月々の社会保険料
- 2026年9月(育休終了月⦅育休は9月9日に終了⦆)
- 月々の社会保険料
- 月末(9月30日)には育休が終了しているため、9月分の社会保険料は免除されず、通常通り発生します。
- 月々の社会保険料
企業側の具体的な手続き
この事例における企業側の社会保険料免除に関する手続きは、主に以下の通りに進められます。
1.従業員からの休業申出書の受理
- AさんとBさんから、それぞれ育休取得や産前産後休業の申出書が提出されます。これらの申出書には、社会保険料免除の希望も含まれていることを確認します。
2.「産前産後休業取得者申出書」の作成と提出
2025年5月30日の産前休業開始後、速やかに「産前産後休業取得者申出書」を作成し、管轄の年金事務所へ提出します。
開始日を「2025年5月30日」、終了予定日を「2025年9月7日」と記載します。
- ポイント
- 産前産後休業の期間は、産前と産後を一連の休業として、出産予定日を考慮して一括で届け出ることが一般的です。
- 社会保険料の免除は、この申出書の提出により行われます。
3.「育児休業等取得者申出書」の作成と提出
- Aさんの場合
- 2025年9月8日の育休開始後、速やかに「育児休業等取得者申出書」を作成し、管轄の年金事務所へ提出します。
- 開始日を「2025年9月8日」、終了予定日を「2026年7月9日」と記載します。
- Bさんの場合(育休期間①)
- 2025年7月10日の産後パパ育休開始後、速やかに「育児休業等取得者申出書」を作成し、提出します。
- 開始日を「2025年7月10日」、終了予定日を「2025年8月8日」と記載します。
- Bさんの場合(育休期間②
- 2026年7月10日の育休開始後、改めて「育児休業等取得者申出書」を作成し、提出します。
- 開始日を「2026年7月10日」、終了予定日を「2026年9月9日」と記載します。
- ポイント
- Bさんのように育休を分割取得する場合、それぞれの育休期間開始ごとに申出書の提出が必要になります。
- ポイント
4.給与計算における社会保険料の控除処理
- 各従業員の育休期間に応じて、免除対象となる月の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)を給与計算時に控除しません。
- 賞与が支給される月に、その月の育休期間が「賞与月の末日を含んで1か月を超える」要件を満たしているかを確認し、要件を満たしていれば賞与にかかる社会保険料も控除しません。
5.「育児休業等取得者変更届」の提出(期間変更があった場合)
- もしAさんやBさんの育休期間に短縮や延長などの変更が生じた場合は、その都度、速やかに「育児休業等取得者変更届」を年金事務所へ提出し、正確な期間を届け出ます。
企業担当者向け 社会保険料免除と育児休業給付金の手続きの違い
社会保険料免除と育児休業給付金は、似て非なる制度です。
特に手続きの面で大きな違いがあるため、混同しないよう注意が必要です。
以下の表にまとめています。
項目 | 社会保険料免除(健康保険・厚生年金保険) | 育児休業給付金(雇用保険) |
---|---|---|
目的 | 育児休業期間中の経済的負担軽減(会社・従業員双方の保険料負担なし) | 育児休業期間中の生活保障(賃金の一部を給付) |
手続きの性質 | 休業開始時に一度だけ届出すれば、免除要件を満たす限り自動的に適用されます。 | 給付を受けるため、原則2ヶ月ごとに申請が必要です。 |
対象 | 健康保険料、厚生年金保険料 | 給付金(休業開始時賃金日額の67%または50%) |
窓口 | 年金事務所 | ハローワーク |
継続的申請 | 不要(期間変更時のみ変更届が必要) | 必要(2ヶ月ごとの申請をしないと給付が止まるため、企業担当者による継続的な手続きサポートが重要です) |
ポイント | 月々の免除は「月末育休」または「同月内14日以上育休」、賞与の免除は「賞与月の末日を含んだ1ヶ月超育休」が要件です。 | 初回申請後も2ヶ月ごとにハローワークへの申請が必要な点を従業員に伝え、企業側も忘れずに手続きを行いましょう。 |
よくある質問(Q&A)
育児休業中の社会保険料免除に関して、実務上よくある質問とその回答をまとめました。
具体的なケースでの疑問解消にお役立てください。
Q1 育休中の住民税は免除されますか?
いいえ、住民税は社会保険料とは異なり、育児休業中であっても免除されません。
住民税は前年の所得に対して課税されるため、育休に入った年の住民税は、原則として前年の所得に基づいて計算され、徴収されます。育休中は収入が減少するため、支払いが負担に感じることもあるかもしれませんが、免除制度はありませんのでご注意ください。
Q2 育休を分割取得した場合、それぞれの期間で社会保険料免除の手続きが必要ですか?
はい、基本的には育休期間が始まるごとに「育児休業等取得者申出書」を提出する必要があります。
ただし、産後パパ育休と通常の育休を間に就労を挟まず連続して取得する場合は、まとめて1回の申出書で手続きが可能です。
詳細は前回の記事をご参照ください。
Q3 育休が終わって復帰した後、何か社会保険に関する手続きは必要ですか?
はい、育休終了後に会社が行う手続きとして、「育児休業等取得者終了届」の提出が必要です。
これにより社会保険料の免除が終了します。
また、育休期間中に報酬が低下した場合は、復帰後の給与に応じて社会保険料の標準報酬月額を見直す「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出することで、適切な保険料が適用される場合があります。
Q4 育児休業中に就労した日があると、免除の対象外になりますか
いいえ、育児休業期間中に一時的に就労した日があっても、それが直ちに社会保険料免除の対象外となるわけではありません。
ただし、就労時間や日数には上限があります(原則として月80時間以下、かつ休業前の所定労働日数の半分以下ま。
この上限を超過すると、育児休業給付金の支給対象外となるだけでなく、育児休業の取得自体が認められなくなり、結果として社会保険料免除の対象外となる可能性がありますので注意が必要です。
月々の社会保険料免除の要件は、「月末時点で育児休業を取得していること」です。
または、月の途中で育児休業が開始・終了し、月末に育休をしていない場合でも、同一月内で14日以上育児休業を取得していることでも免除されます。
したがって、月の途中で数日間だけ就労しても、上記のいずれかの要件を満たし、かつ育児休業の要件(就労時間の上限など)を逸脱していなければ、その月の保険料は免除されます。
賞与にかかる社会保険料免除の要件は、「賞与月の末日を含んで1か月を超える育児休業を取得していること」です。
就労期間が連続した休業期間を中断させたり、育児休業としての要件を満たさなくなったりすると、この免除が受けられなくなる可能性がありますので注意が必要です。
まとめと次回予告
今回の【第3回】【第4回】および【第5回】では、育児休業中の経済的負担を大きく軽減する「社会保険料の免除」制度について、その仕組みから具体的な事例、そしてよくある質問まで詳細に解説しました。
月々の保険料免除の要件である「月末時点での育休取得」、または「月の途中で育休が開始・終了しても同一月内に14日以上育休を取得していること」、そして賞与にかかる保険料免除の「賞与月の末日を含んで1か月を超える育休取得」という条件は、特に重要なポイントです。
この制度を正しく理解し活用することで、育休期間中の経済的な不安を解消し、安心して育児に専念できる環境を整えることができます。
今回の記事で、育児休業取得における、男性育休「合わせ技」徹底ガイドシリーズ、はいったん終了となります。
次回予告
「男性育休 合わせ技 徹底ガイドシリーズ」で以前解説しました、育児休業期間中の大切な経済的支え、雇用保険の育児休業給付金。
以前の記事では給付金の手続きを中心に見てきましたが、次回は「結局、いくらもらえるの?」「どうやって計算するの?」といった、皆さんが一番知りたい具体的な支給額の計算方法に焦点を当てて、詳しく解説していきます。
社会保険料免除と育児休業給付金を合わせれば、育休期間中の経済的な不安は大きく解消されます。
安心して育児に専念できるよう、次の記事でも役立つ情報をお届けしますので、ぜひご期待ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟
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