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見せかけの忙しさはなぜ生まれるのか?タスクマスキングの背景と、企業ができる対策

タスクマスキングとは? 社労士の視点・コラム
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「メンバーはいつも忙しそうなのに、何が進んでいるのかが見えない」。そんな違和感を覚えたことはありませんか。

忙しそうに見えることと、成果を出していることは、必ずしも一致しません。現代の職場では、実際の成果とは別に、「見せかけの忙しさ」が評価を左右する場面があります。

こうして忙しさを演出する行為が、「タスクマスキング(Task Masking)」です。サボりや怠慢として片づけられがちですが、評価の基準があいまいな職場では、成果を出している人が「見せ方」に頼るケースもあるとされています。

本記事では、人事・管理職の方に向けて、タスクマスキングの定義と背景、放置した場合の組織への影響、評価制度やマネジメントの見直しによる対策を整理します。

この記事でわかること

  • タスクマスキングとは?
  • タスクマスキングを放置するとどうなるのか?
  • タスクマスキングを減らすには?

タスクマスキング(Task Masking)の定義|「見せかけの忙しさ」とは何か

タスクマスキング(Task Masking)とは、実際の成果や業務の進み具合とは関係なく、上司や同僚に対して「忙しく働いているように見せる行為」を指します。

仕事が少ない人が忙しさを装う場合もあれば、成果を出している人が評価への不安から「見せ方」に力を入れる場合もあり、背景はさまざまです。

項目タイプA:自己防衛型タイプB:業務回避型
実際の働き業務を行っている業務量が少ない、または取り組んでいない
動機「見せないと評価されない」という不安暇な状態や手抜きを隠したい
組織側の課題評価制度、成果の可視化業務設計、マネジメント

本記事では便宜上2つに分けて説明します。主に取り上げるのは、評価制度の曖昧さから生まれるタイプAです。実際の職場では両タイプが混在することもあります。

「タスクマスキング」という言葉は、TikTokなどのSNSで広がった職場のトレンドとして知られています。海外のメディアでも、新しい流行語だが昔からある問題と紹介されています。

人事ソフトウェア企業のWorkhumanが、米国・英国・アイルランドの正社員3,000人を対象に2024年に行った調査では、忙しくないのに活動を装ったことがあると答えた人は、管理職で37%、管理職以外で32%でした。経営層では38%で、管理職以外よりやや高い傾向がみられます。

一方、人事ソフトウェア企業のBambooHRの調査では、「タスクマスキングをしている」と答えた従業員は15%でした。そのうえで、オフィス勤務の79%、リモート勤務の88%は、自分が生産的であることを示す必要を感じていると回答しています。

調査によって数字に開きがあるのは、質問の内容や対象が異なるためと考えられ、実態を一つの数字で示すことは難しいといえます。

なお、これらの調査は日本の職場を対象としたものではなく、回答は自己申告です。

背景には、成果を重視するはずの職場でも、「働き方の見せ方」や「表面的なパフォーマンス」が評価に影響しやすい環境があります。

典型的な行動例|タスクマスキングに見られるオフィスとデジタルでの「見せ方」

タスクマスキングは、周囲の目を意識した行動として現れます。

分類行動の具体例行動の目的
オフィスでの演出会議中のフリをする(ワイヤレスイヤホンを付けて通話中を装う、いわゆる「エアポッド会議」など)重要な打ち合わせに参加している体裁を取り、自分の時間を確保する。
書類を抱えてオフィスを徘徊する重要な業務に関わっている雰囲気を醸し出し、声をかけにくい状況を作る。
キーボードを大きな音で叩く仕事への「熱意」や「集中」を周囲に音でアピールする。
デジタルツールでの演出SlackやTeamsでオンライン状態を常時保つマウスを動かすツールなどを利用し、チャットツール上で「いつでも仕事をしている」状況を演出する。

これらの行動は、実務の効率化とは無関係に「自分が働いていること」を周囲に認識させることを主な目的としています。

デジタルツールを使った行為のリスク

表のうち、マウスを動かすツールなどでオンライン状態を偽装する行為は、就業規則違反や勤務時間の虚偽申告につながる可能性があります。

ただし、行為を取り締まるだけでは、背景にある評価への不安は解消されません。

まず「なぜそうした行動が選ばれるのか」を確認し、評価の仕組みを見直すことが重要です。

タスクマスキングの構造的要因|評価制度と「見える指標」の影響

忙しく見せる行為自体は以前からありましたが、現代のタスクマスキングが注目されるのは、「組織の評価システムの矛盾と、時代の変化」が影響しているためと考えられます。

比較点昔の類似現象(長時間労働への適応)現代のタスクマスキング(タイプAが中心)
主な発生要因個人の怠惰の隠蔽や、長時間労働を美徳とする文化への物理的適応。不透明な評価制度の矛盾と、オンライン表示やログなど「見える指標」に頼った評価への対応。
行動の目的「サボっている時間をごまかす」ため。「成果より印象が評価される」環境で、評価の獲得と自己防御を目的とする。

現代の職場では、企業が成果主義を掲げながらも、実際には「真の成果」と「努力の可視化」のどちらを評価するかの基準が曖昧です。

また、リモートワークの普及で、チャットのオンライン表示や稼働ログといった「見える指標」で働きぶりを判断しやすくなったことも、「見せ方」を意識させる一因として、海外メディアでも指摘されています。

こうした評価基準の曖昧さや「見える指標」への依存が、タスクマスキングを生む大きな要因の一つとなっており、組織の歪みに適応するための行動としての性質を強めています。

タスクマスキングの心理と背景|「見せ方」を選ぶ背景にある職場の矛盾

ここでは、成果を出していても「見せ方」で評価が左右される職場で起きるタイプAを中心に、行動の背景を整理します。

評価の拠りどころが「成果」ではなく「見え方」になっている職場では、忙しさを示すことが合理的な選択になり得ます。

構造的な矛盾が「見せ方」を選ばせる理由

この矛盾に直面した従業員は、以下の論理を経て「見せ方」を選ぶことがあります。

  • 矛盾の認識(成果を出しているのに評価されない)
    • 従業員は、実際に価値のある成果を出しているにもかかわらず、それが「目立たない」「アピールが足りない」といった理由で正当に評価されないことを知っています。
    • このとき、従業員は「本物の成果が報われない」という強い不公平感を抱きます。
  • 戦略への転換(評価を獲得・防御するための見せ方)
    • そこで従業員は、「真の成果」だけを追求するよりも、「評価される見せかけの忙しさ」を意図的に演じることで、自分の立場を守り、評価を得ようとします。

真面目に働いてはいるものの、職場の「見られ方」や「印象」で評価が左右される矛盾に対応するための工夫とも言えます。

具体的には、業務の内容や成果よりも、キーボードの音や態度で忙しそうに見せたり、特に意味もなく画面共有だけを行うなど、「業務そのものと乖離した忙しさの演出」が見られます。

これは、評価を得るための「自己防衛」と解釈できます。

構造問題としての捉え方

この行為を、個人の資質の問題だけで片づけるべきではありません。

むしろ、「なぜ演じなければならないのか?」という職場環境の構造問題を問うべきだという見方もあります。

つまり、評価制度や職場文化の問題が背景にあるケースも多いと考えられます。

このように、タスクマスキングは、「正当な評価を得るために見せかけの忙しさを演出する」という、評価への不安に対する一つの行動とも見られています。

タスクマスキングは「個人の怠慢」だけでなく「組織の鏡」でもある

タスクマスキングを、評価基準の明確化や職場の信頼関係の構築、成果を評価する文化づくりを進めるきっかけとして捉えることが重要です。

組織は、この「見せかけの忙しさ」の背景にある構造的な矛盾の解消に努めることが求められます。

タスクマスキングのリスクと解決策|組織の健全性を取り戻すために

このタスクマスキングが広がると、単なる非効率にとどまらず、組織の根幹にある「公正な評価」を揺るがし、長期的な企業価値を損なうおそれがあります。

タスクマスキングが招く組織への影響|評価と実力が乖離したリーダーが生まれるリスク

特に、職場に大きな歪みをもたらすおそれがあるのが、能力と評価の乖離です。

  • 見せ方が評価され、実力と評価が乖離するリスク
    • 実際に成果を出している従業員ではなく、表面的な「忙しさ」や「熱意」のアピールに長けた従業員が出世し、会社の中核を担うおそれがあります。
  • 負のスパイラル
    • 見せ方に長けた人が評価されてリーダーになり、その人が自身の成功体験から部下にも「見せかけの努力」を求めるようになると、歪な職場文化の形成が進むおそれがあります。
  • Workhumanの調査
    • 米国・英国・アイルランドの正社員3,000人を対象とした2024年の調査で、次の結果が示されました。
      • 活動を装ったことがある管理職の69%が、チームでもよくある問題だと回答しました。
      • 装っていない管理職で、同じ回答をした人は37%でした。
    • 同社は、この結果を組織文化の問題の表れかもしれないと分析しています。
  • 生産性と人材の損失
    • 結果として、真の生産性の低下を招くだけでなく、公正な評価を望む優秀な人材の離職や、見せ方に疲弊した従業員のバーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こすおそれがあります。

タスクマスキングを減らすための3つの見直し

この負のスパイラルを断ち切り、企業の健全な成長につなげるためには、組織の評価システムと文化そのものに対する以下の見直しが有効です。

1. 企業の評価基準の明確化と転換

タスクマスキングの動機を和らげるため、「努力の可視化」だけでなく「価値」に焦点を当てます。

「プロセスや印象」だけに頼らず、測定しやすい「成果」と「価値の創出」にも評価基準を広げます。

具体的には、次のような取り組みが考えられます。

  • 職種ごとに「成果」を言葉で定義する。
    • 例えば、営業なら受注額に加えて提案の質や顧客との関係構築、事務なら処理の正確さや対応のスピードなどを、期初に具体的に示します。
  • 期初に「何ができたら成果か」を上司と部下で合意する。
    • OKRやMBOなど、目標と成果物を先に決める仕組みが使えます。
  • 在席時間やオンライン表示を評価項目に含めない。
    • 在席表示やログを評価に使わないことを明文化する。
      • 勤怠管理とは別に、チャットのオンライン表示や稼働時間のログは、成果の評価に使わない方針を示します。
      • ただし、これは成果の評価についての方針です。勤務時間の虚偽申告などが疑われる場合に、事実を確認することまで否定するものではありません。
    • 「常時オンライン」を求めない連絡ルールを決める。
      • コアタイムや返信の目安時間(例:半日以内。適切な水準は職種や業務により異なります)を決めておけば、ステータスを保つ必要が減ります。
    • モニタリングツールを導入する場合は、目的と使い方を示す。
      • 目的(情報セキュリティ、労務管理など)を明らかにし、評価には使わない範囲を決めます。
      • ※モニタリングツールの導入・運用には、目的の明示、従業員への周知、個人情報の取り扱いなど、法的な確認事項が関わる場合があります。導入にあたっては、法務や社会保険労務士などの専門家に確認してください。

2. 適切な評価方法の確立と実行

評価制度に対する従業員の信頼を取り戻すことが、見せ方に頼る必要性を減らすことにつながります。

評価者の偏りを減らすため、同僚や関係部署からのフィードバックを含む多角的な評価システムを導入します。

評価の理由とプロセスを透明化することで、評価制度への納得感と信頼を回復させます。

具体的には、次のような工夫があります。

  • 1on1や週次の進捗共有で、成果を言葉にする場を設ける。
    • 見せ方に頼らなくても、成果が上司に伝わる仕組みになります。
  • 成果物や進捗を共有する場所を決める。
    • 週報や共有ドキュメントなど、リモートでも見える形にします。
  • 評価者どうしで評価結果をすり合わせる会議を開く。
    • 上司ごとの評価のばらつきを減らします。

3. 従業員を評価する立場の管理職の教育

評価を行うマネージャー層の意識とスキルを変革することが、鍵となります。

管理職に対し、「タスクマスキング」の危険性を認識させるとともに、「実態のない努力」と「本質的な価値」を見抜くためのマネジメント能力を高めていくことが求められます。

具体的には、次のような内容を研修に取り入れる方法があります。

  • 評価時に起こりやすいバイアスを学ぶ。
    • 例えば、目に入りやすい人や遅くまで残っている人を高く評価してしまう傾向です。
  • 「忙しそうだね」ではなく、「何が進んだか」を尋ねる。
    • 「進んだことを共有してよい」と伝えたうえで、週次の1on1で「今週の完了事項と次の予定」を聞く形にすると、部下は見せ方に頼らなくても成果を伝えやすくなります。
  • 部下の成果を、自分の目に入る範囲だけで判断しない。
    • 成果物、関係者からの意見、数値などを併せて確認します。

評価者側の意識に加えて、部下が「見せ方」に頼らず成果を伝えられる環境づくりも欠かせません。

  • 業務量に余裕があるメンバーが、隠さずに相談できる雰囲気をつくる。
    • 手が空いている状態を取り繕う必要が減り、追加の業務や学習の機会につなげやすくなります。

ここで挙げた取り組みは一般的な手法であり、効果は職場によって異なります。

まとめ|評価の仕組みを見直し、タスクマスキングを減らすために

タスクマスキングは、組織の評価システムの矛盾が背景にあるケースも多い「見せかけの忙しさ」です。

その広がりは、評価と実力が乖離した人をリーダーに据え、真の生産性や優秀な人材を失うという、企業にとって大きな構造的リスクにつながるおそれがあります。

この負のスパイラルを断ち切り、組織の健全な成長を確保するためには、組織の評価制度とマネジメント文化そのものを見直すことが重要です。

タスクマスキングを、評価の仕組みを見直すきっかけとして受け止め、これらの見直しに取り組むことは、従業員が安心して本来の業務に集中し、持続的な成長につなげるための重要な道筋となります。

参考

戸塚淳二
この記事を書いた人
  • 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
  • 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。

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