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静かな退職がもたらす影響|個人と企業の光と影(副業社労士の考察2)

静かな退職による光と影 社労士の視点・コラム
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こんにちは。副業社労士の戸塚淳二です。

静かな退職を実践している人の4割以上は、「職場への影響はない」と考えています。

ところが、経営層や管理職の上司層で同じように答えた人は11.9%にとどまります(Great Place To Work® Institute Japan(以下、GPTW Japan)「静かな退職に関する調査2025年」)。

静かな退職は、個人にとっては心の余裕という「光」をもたらす一方で、職場や自分の将来には「影」を落とす可能性があります。

この記事では、個人と企業それぞれへの影響を、光と影の両面から整理します。

前回の第1回では、静かな退職の意味と、増えている理由を解説しました。まだの方は、先にこちらをどうぞ。👉 静かな退職とは?増加する理由とやりがい搾取の構造(社労士解説)

この記事でわかること

  • 静かな退職が個人に与える影響(得られるものと失うもの)
  • 静かな退職が企業に与える影響(見えにくい損失)
  • 本人と上司層で、影響の捉え方が違うこと(調査データ)

このテーマは全4回で書いています。

第2回の今回は、「静かな退職が個人と企業に与える影響」を整理します。

静かな退職は特定の世代の話ではない

マイナビの調査(2026年、20〜59歳の正社員が対象)では、静かな退職をしている正社員の割合は、20代50.5%、30代49.1%、50代46.7%、40代42.3%でした。

年代による差はあるものの、20〜50代のどの年代でも4割を超えています。

「今の若い奴らは、責任を背負いたがらず、出世を望んでいない」「働かないおじさんが……」といった話は、よく聞きますよね。

ところが調査では、若手にも中高年にも、静かな退職をしている人が多く見られます。

静かな退職は、特定の世代に限られた話ではなく、多くの働く人が、それぞれの理由で選んでいる働き方の変化を示しているのかもしれません。

一方、世代によって見通しには違いがあります。

同じ調査で、静かな退職を「今後も続けたい」と答えた人の割合は50代が76.7%と最も高く、「続けたくない」と答えた人の割合は20代が29.4%と最も高い結果でした。

ただし、どの年代でも「続けたい」は7割以上です。

静かな退職が個人に与える影響|得られる心の安定と減りやすい成長機会

「静かな退職」を選ぶ個人にとって、それは自身の心身を守り、より健全な働き方を手に入れるための選択という側面があります。

しかしながら、その選択の裏側には、時に望まない結果が伴うこともあります。

ポジティブな側面|精神的安定とワークライフバランスの改善

過度なプレッシャーや責任から距離を置くことで、精神的な負担が減り、燃え尽き症候群に陥るリスクを下げられる可能性があります。

無理に頑張りすぎないことで、心身の健康を保つことにつながる場合があります。

また、仕事に費やす時間とエネルギーを必要最低限に抑えることで、プライベートな時間や趣味、家族との時間をより充実させることが可能です。

これは、多様な価値観を持つ現代人にとって、幸福度を高める重要な要素と言えるでしょう。

マイナビの2025年調査(2024年実績)でも、静かな退職をしている人の57.4%が、静かな退職で「得られたものがある」と答えています。最も多かったのは、休日や労働時間、自分の時間への満足感でした。

さらに、不当な評価や前回の記事で触れた「鶴の一声」のような理不尽な状況から自分自身を守るための手段としても機能します。

会社に過度に依存せず、自身の人生の主導権を取り戻す感覚を得られることもあります。

私の場合は、本業の担当業務は責任をもって行っているつもりです。ただ、それを会社や周囲がどう受け止めているかは、私自身には分からない部分もあります。

そのうえで、会社に依存せず、自分の人生を主体的にコントロールするための選択として、副業の社会保険労務士の活動に時間を割いており、精神的な安定と自己成長を感じています。

ネガティブな側面|社内でのスキルアップの停滞とキャリアの頭打ち

「静かな退職」では、自ら積極的に新しい業務に挑戦したり、困難なプロジェクトを乗り越えたりする機会が減るため、社内でのスキルアップや専門性の向上が停滞する可能性があります。

社内での経験が積み上がらなければ、長期的には、市場価値の低下や、将来のキャリアの選択肢が狭まるリスクにつながるおそれがあります。

GPTW Japanの調査(「この会社で長く働きたい」に当てはまり、「仕事を達成するための努力を惜しまない」に当てはまらない人を実践者と定義)では、静かな退職の実践者に将来への不安を聞いています。

上位は、「収入が増えないかもしれない」が41.2%、「仕事のスキルが上がらないかもしれない」が33.0%でした。

実践者自身も、収入やスキルの面で不安を抱えていることが分かります。一方、「職場で孤立してしまうかもしれない」は5.4%にとどまりました。

ただし、スキルアップの場は社内に限りません。副業や資格の勉強など、社外で力を伸ばしている人もいます。

マイナビの研究員も、静かな退職は、人にとって必ずしもキャリアの選択肢を狭めるものではないと指摘しています。

また、昇進や昇給への意欲が薄いため、社内でのキャリアパスは限定的になりやすくなります。

勤め先への感情的なコミットメントが下がると、仕事そのものから得られる充実感や達成感が薄れ、「単なる作業」になってしまい、虚無感を覚えることもあり得ます。

なかでも、評価への不満や仕事の不一致から、不本意なかたちで静かな退職を選んでいる場合は、不満を抱えたまま働くことになり、この傾向が強まる可能性があります。

将来的に「あの時もっと頑張っていれば」と後悔する可能性もゼロではありません。

特に、本業以外の活動で十分に自己実現ができていない場合、この感情は強くなりやすいかもしれません。

静かな退職が企業に与える影響|見えない損失と職場への波及

従業員が「静かな退職」状態に陥ることは、企業にとって見えにくい影響をもたらす可能性があります。

多くの場合、その影響はすぐに表面化しないため、「見えない損失」として少しずつ職場に積み重なっていきます。

GPTW Japanの調査では、この影響の捉え方に、実践者と上司層で大きな差がありました。実践者の4割以上が「職場への影響はない」と答えた一方、上司層(経営・役員、部下を持つ管理職)で同じように答えた人は11.9%にとどまりました。

上司層は、「周囲から期待されなくなる」「仕事量の偏りによる不満が募る」「連帯感が低下する」といった影響を主に挙げています。特に、職場への不満と連帯感の低下は、実践者との間に20ポイント以上の差がありました。

なお、GPTW Japanの調査とマイナビの調査では、「静かな退職」の定義が異なるため、実践者の割合も大きく異なります。詳しくは、第1回の「数字で見る静かな退職」で解説しています。

生産性・イノベーションの低下

従業員が必要最低限の業務に絞るため、チーム全体の生産性や効率に影響が出ることがあります。

また、新しいアイデアや改善提案が生まれにくくなり、イノベーションも停滞しかねません。

組織全体の士気低下と負の連鎖

「静かな退職」は、確かに大々的に宣言されるわけではないため、すぐに周りが気づくわけではありません。

しかし、その影響は水面下で、少しずつ広がっていく可能性があります。

具体的には、一部の従業員が必要最低限の業務に絞ると、その分の業務のしわ寄せが、真面目に頑張っている他の従業員に回ってくることがあります。

また、特定のメンバーのパフォーマンス低下が、プロジェクトの遅延や目標未達につながれば、頑張っている従業員ほど「なぜ自分だけがこんなに大変なんだ?」「なぜ達成できないんだ?」という不公平感や不満を募らせることがあります。

管理職の負担も大きくなりがちです。GPTW Japanの調査では、静かな退職を知っている部下持ちの管理職の77.9%が、実践者にも、意欲的な部下と同等かそれ以上の時間をかけてマネジメントしようと努めていました。

公平に向き合おうとする分、管理職の負担が高まる可能性があると、GPTW Japanは指摘しています。

このような状況が続けば、「頑張っても報われないなら、自分も必要最低限に抑えよう」という考えが、組織全体にじわじわと伝播していく「負の連鎖」を生み出しかねません。

これは、組織の士気というよりは、「モチベーションの相対的な低下」を引き起こし、組織全体の意欲を下げかねません。

辞めないからこそ見えにくいリスク

静かな退職は、退職や転職を前提としない働き方です。マイナビの2026年調査でも、静かな退職をしている人の73.7%が、今後も続けたいと答えています。

そのため、問題は人材の流出よりも、離職率には表れにくい形で、意欲の低い状態が続くことにあると考えられます。

GPTW Japanも、離職率では測れない静かな退職の予備軍や実践者を見極める手法を、経営者が複数持つことが重要だと指摘しています。

また、きっかけはさまざまです。

マイナビの調査では、評価への不満や、仕事・環境が合わないことを理由にする人(評価不満タイプ・不一致タイプ)は合わせて33.0%でした。こうした不満が背景にある場合は、評価や配置の仕組みを見直すことで、不本意な静かな退職を減らせる可能性があります。

一方、もともとの価値観や損得を理由にする人(無関心タイプ・損得重視タイプ)は合わせて39.4%でした。

ただ、GPTW Japanの約1年前の調査では、実践者の約4割が「勤め先の環境が変わっても働き方は変わらない」と答えており、働きかけの効果が小さいケースもあるようです。

隠れたコストの発生と育成の非効率化

従業員のエンゲージメントが低い場合、新しいスキル習得や研修への意欲も下がりやすくなります。

結果として、教育投資が十分に生かされなくなるなど、目に見えない形で企業にコストが発生する可能性があります。

企業の受け止めと、法的な注意点

企業側の受け止めは一様ではありません。

マイナビの2026年調査では、企業の中途採用担当者の42.2%が静かな退職に賛成し、反対の30.1%を上回りました。

賛成の理由には、決められた仕事を確実にこなす社員も一定数必要だという意見があり、反対の理由には、生産性や精神面への悪い影響が周囲に広がることへの懸念がありました。

なお、企業が静かな退職に向き合う際は、法的な点にも注意が必要です。

人事評価や昇給・賞与に、合理的な基準にもとづいて差をつけること自体は、会社の裁量の範囲で行えます。

ただし、理由が不明確なまま大きな不利益を与えたり、仕事を与えないなどして退職に追い込んだりすれば、人事権の濫用やパワーハラスメントと評価されるおそれがあります。

解雇については、法律に明確なルールがあります。

客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性がなければ無効になります(労働契約法16条)。

定められた業務を誠実にこなしている限り、「静かな退職」であること自体は、直ちに解雇の理由にはなりません。いずれも、個別の事案ごとに判断されます。

出典・詳細

・Great Place To Work® Institute Japan「静かな退職に関する調査2025年」
👉 https://kyodonewsprwire.jp/release/202503045086

・マイナビ キャリアリサーチLab「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」
👉 https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260413_109736/

・マイナビ キャリアリサーチLab「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」
👉 https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250422_95153/

まとめ|静かな退職の影響は、個人と企業で異なる

「静かな退職」は、過剰な働き方から距離を取り、自分の時間や心を守るという点で、個人にとっては一種の自衛手段であり、時にはポジティブな選択肢とも言えます。

確かに、社内でのキャリアの選択肢を狭める可能性はあるものの、目の前のストレスや消耗を避け、心身の健康を守るという意味では理にかなった行動です。

一方、企業側にとっては、職場の連帯感の低下や、管理職の負担増など、影響が小さくない可能性があります。

気づかないうちに組織の活力が失われていく、いわば「組織のサイレントクライシス」になりかねません。

今のこの状況をこのまま放置しておいていいのでしょうか?もし放置した場合どうなるのでしょうか?

今回も長くなってしまいました。続きは次回。👉静かな退職は企業の「ツケ」?「合成の誤謬」の落とし穴

では、また。

戸塚淳二
この記事を書いた人
  • 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|29240010号)
  • 会社員歴30年以上、転職5回を経験した氷河期世代の社会保険労務士です。自らが激動の時代を生き抜いたからこそ、机上の空論ではない、働く人の視点にたった情報提供をモットーとしています。あなたの働き方と権利を守るために必要な、労働法や社会保険の知識、そしてキャリア形成に役立つヒントを、あなたの日常に寄り添いながら、分かりやすく解説します。

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