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同一労働同一賃金の法改正対応|2026年10月施行に備える「実務の最短ルート」

2026年10月法改正同一労働同一賃金 労務の基礎知識
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本記事は「同一労働同一賃金の本質と対策」シリーズの第5話です。

第1話は👉同一労働同一賃金とは|非正規雇用50年の変化と格差の背景

前回は、ハマキョウレックス事件やメトロコマース事件といった裁判例を紐解きながら、法的に許容される格差と、不合理とみなされる境界線について整理しました。

前回の記事は👉同一労働同一賃金|非正規の手当、最高裁が示した線引きとは

裁判所が示した「手当の支給目的を明確にする」という指針は、まさに今の時代、どの企業にも求められる「評価の透明性」そのものです。

実は今、この判例によって示されてきた考え方をベースに、さらなる法改正が予定されています。2026年10月には、企業の対応義務をより明確化する新しいルールが施行されることになりました。

この法改正を踏まえ、私たちは自社の賃金制度をどのような基準で見直し、現場の運用をどう適正化すべきなのでしょうか。

今回は、裁判例から学んだ原則を活かしつつ、今後本格化する改正法にも耐えうる「説明できる賃金制度」を構築するための、実務の最短ルートを解説します。

この記事で分かること

  • 現状把握が同一労働同一賃金対応の鍵となる理由
  • 現場の運用レベルを客観評価できるセルフチェックリスト
  • 判明した課題に対する優先順位の付け方
  • リスクを抑えながら公平な組織を作るための実務的ステップ

法律の基本構造|均等・均衡の原則と監督の視点

2026年10月の改正に対応するためには、改めて私たちが向き合っている「同一労働同一賃金」というルールの本質を整理しておく必要があります。

法律が求めているのは、単純に「すべての待遇を正社員に合わせること」ではありません。

以下の「2つの原則」に基づき、自社の待遇を客観的に説明できる状態を作ることです。

均等・均衡という「2つの物差し」

このルールの構造は、大きく分けて以下の2点に集約されます。

  • 均等待遇(差別禁止)
    • 職務内容や責任、配置変更の範囲が「同じ」であるならば、雇用形態を理由に差別的な取り扱いをしてはならないというルール。
  • 均衡待遇(不合理な差の禁止)
    • 職務内容や責任に「違い」がある場合、その違いに応じた範囲内で待遇のバランスを取りなさいというルール。

※これら2つの原則の詳しい定義や背景については、パートの時給が低い本当の理由|均等待遇と均衡待遇の違いを解説で詳しく解説していますので、併せてご確認ください。

行政が注視する「4つのチェック視点」

改正法の施行を控える中、労働局による監督指導の現場では、制度の形だけを整えるのではなく、「それが現場で機能しているか」が厳しく見られるようになっています。

行政が確認するポイントは、以下の4点に集約されます。

  1. 目的
    • その待遇差は、どのような支給目的で設けられているか?(「なんとなく」「前例だから」といった抽象的な理由は通用しません)
  2. 基準
    • 職務内容・責任・配置転換などの客観的な要素と、実際の待遇差が論理的に整合しているか。
  3. 説明
    • 採用時、労働条件通知書等で正しく説明が行われているか。
  4. 実態
    • 就業規則の規定と、現場の実際の業務運用が一致しているか。

行政の監視の目は、いまや「就業規則という書類上の整備」だけでなく、「現場の実態運用」という深層にまで及ぶようになっています。

いくら立派な規程を整えても、現場で「運用がずれている」状態では、法的防御線としては機能しません。

「書面上の制度」と「現場の実態」が整合しているか。

この一点こそが、これからの組織運営における最重要課題です。

社労士の現場から|見落としがちな「福利厚生」の盲点

同一労働同一賃金の対応というと、どうしても基本給や賞与といった「大きなお金」ばかりに意識が向きがちです。

しかし、日々現場にいると、もっと足元で見落としたり、スルーしてしまっているポイントに気づきます。

例えば、会社の「食堂の食事補助(社員は月5,000円補助、アルバイトはなし)」や「インフルエンザの予防接種(社員は無料、パート・アルバイトは一部自己負担)」といった福利厚生です。

「長年の慣行だから」「正社員の福利厚生だから」と、何の疑問も持たずに線を引いていないでしょうか。

私自身、会社員の顔と社労士の顔を行き来する中で、「ここを『アルバイトだから』という理由だけで一律に対象外にしている状態は、法的な観点からも実務の観点からも、一度立ち止まって検証が必要ではないか」と感じています。

こうした身近な福利厚生こそ、後述する雇用管理指針の改正で明確に点検対象となる部分です。

「これまでの慣行のままで、今回の法改正やガイドラインの基準に照らして本当に説明がつくのだろうか」――。

現場の人間として、また企業の労務を支える社労士として、こうした身近な制度のあり方を冷静に見つめ直す必要があると痛感しています。

2026年10月1日施行|法改正の重要ポイント

今回の法改正は、単なる事務手続きの追加ではありません。

「同一労働同一賃金」が施行されてから5年余り。なぜ国は、今あえてこのタイミングで制度を厳格化するのでしょうか。

その背景には、現場で浮き彫りになった「無視できない現実」があります。

なぜ、今、法改正が必要なのか

厚労省の審議会等で繰り返し指摘されてきた背景は、主に以下の4点に集約されます。

  1. 「制度はあるが機能していない」という現実
    • 労働政策研究・研修機構(JILPT)が2025年3月に公表した企業調査(2023年9〜10月実施)では、待遇差について尋ねられた場合に「説明できる場合とできない場合がある」「説明できないと思う」と答えた企業が合わせて3割超にのぼりました。施行から3年近く経った時点でもなお、いざという時に説明しきれない企業が一定数残っているのが実情です。
    • 同時期に実施された労働者調査でも、同一労働同一賃金ルールの内容を「知っている」と答えた労働者は約3分の1にとどまり、「まったく知らない・わからない」も2割を超えています。制度はあっても、当事者である非正規雇用労働者本人に十分浸透していない状況がうかがえます。
    • 今回の改正は、形だけの整備から「実効性のある運用」へと強制的にギアを切り替えるものです。
  2. 人材確保のための「納得感」
    • 少子高齢化による人手不足が深刻化する中、雇用形態を理由に報われない人材が流出することは、企業にとって致命的な損失です。
    • 「同じ仕事には同じ賃金を」という納得感のあるルールは、今や人材定着のための最重要戦略です。
  3. ガイドラインの曖昧さの解消
    • 賞与や退職金、各種手当の算定基準がこれまで「抽象的」すぎました。
    • 今回の改正では、特に手当の支給において「正社員か否か」という形式的な区別ではなく、「業務内容や貢献度」という実質的な判断基準がより鮮明に示されます。
  4. 労使トラブルの未然防止
    • トラブルの多くは「なぜ差があるのか」という不信感から生まれます。
    • 雇入れ時に説明を求める権利を明確化することは、企業の法的リスクを下げ、労使間の信頼を構築するための防波堤となります。

法改正の実務ポイント

この背景を踏まえ、企業が直ちに準備すべき重要ポイントは以下の3点です。

  1. 雇入れ時の説明義務拡充
    • 労働条件通知書等へ「待遇の相違について説明を求めることができる旨」の記載が義務化されます。
    • 明示を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があるため、採用時の書類様式は速やかな見直しが必要です。
  2. ガイドラインの精緻化
    • 賞与・退職手当・各種手当等の支給目的が類型化されます。
    • 「業務内容や貢献に応じた支給が原則」という基準が強化されるため、「正社員だから」という理由だけで差をつけていた手当は、その合理性を改めて検証し、説明できる状態にしておく必要があります。
  3. 雇用管理指針の改正|福利厚生・正社員転換の明確化
    • 今回の改正では、雇用管理指針(告示)も見直され、福利厚生施設の利用や正社員転換の機会について、これまで以上に明確な取り組みが求められます。
    • 先ほど触れた「食堂の食事補助」や「インフルエンザの予防接種」といった福利厚生は、まさにこの雇用管理指針改正が対象とする領域です。
    • 「正社員だから」「アルバイトだから」という雇用形態のラベルだけで利用対象を線引きしている制度が残っていないか、この機会に棚卸ししておく必要があります。
    • あわせて、パート・有期雇用労働者が正社員に転換できる制度の内容や条件についても、これまで以上に分かりやすく明示することが求められます。

改正の背景を知ることは、単に「法を守る」ためだけではありません。

「納得できる賃金制度を整えることは、従業員のエンゲージメントを高め、結果として自社の生産性を向上させる」――この本質を理解している企業だけが、法改正を追い風に変えることができるはずです。

経営者が今すぐ取り組むべき「実務の最短ルート」

法改正を前にして、「何から手をつければいいのかわからない」と悩まれる経営者様も多いはずです。

しかし、対策は決して難解なものではありません。最も効率的かつ確実な「実務の最短ルート」を4つのステップにまとめました。

ステップ①|現状の「目的・基準・実態」を棚卸しする

まずは自社の賃金制度を客観的に見直します。

  • 目的
    • その手当や賞与は、何のために支払っているのか?(能力への対価か、勤続への報いか、生活補助か)
  • 基準
    • その目的を達成するための基準は合理的か?
  • 実態
    • 規程上のルールと、現場の実際の支払いは一致しているか?

現場のリアル|「アルバイトの属性」を見極める

現状を棚卸しする際に見落としてならないのが、アルバイト・パートの働き方の「実態の多様性」です。

日々現場に身を置いていると痛感しますが、一言で「アルバイト」と言っても、その属性や働き方はさまざまです。

学業の合間に時間を限定して働くアルバイトもいれば、フルタイムで入り、この仕事だけで生計を立て、正社員と何ら変わらない責任ある業務を担っている「生計維持型」のアルバイトもいます。

先ほどの昼食代や予防接種の例で言えば、もし正社員と変わらない責任や業務を担っている「生計維持型」のアルバイトに対して、単に「アルバイトという雇用形態のラベル」だからという理由だけで一律に対象外にしているとすれば、それは法的なリスクが非常に高い状態と言わざるを得ません。

形式的な規程の整備にとどまらず、「実際の職務や責任の度合い」に照らしてフェアな設計になっているか。自社のスタッフ一人ひとりの働き方の実態に目を向け、フラットに検証することが棚卸しの第一歩となります。

注意点

「前例踏襲である」項目を棚卸しする際、特に注意が必要なのが「将来の役割期待の差」という曖昧な根拠です。

これのみを理由とした待遇差は、今回の改正で不合理と評価されるリスクが高まるため、より客観的な指標への置き換えを検討してください。

ステップ②|安易に「下げる」方向へ進まないという原則を理解する

最も注意すべきは、待遇差を是正するプロセスです。

厚生労働省のガイドラインでは、「正社員の待遇を一方的に引き下げる形で均衡を図ること」は、望ましい対応ではないとされています。

「正社員の賃金を下げる」のではなく、「納得感のある客観的基準に基づいて、非正規労働者の待遇を適正に引き上げる方向で全体を最適化する」という考え方が、実務上の基本方針となります。

ステップ③|「規程」と「運用」を一致させる

規程は立派でも、現場運用が乖離していれば法的防御力はゼロです。

  • 待遇差がある場合、その論理的な根拠を明文化してください。
  • 客観資料の整備
    • 単なる業務リストだけでなく、「配置転換の履歴」「評価記録」「職務記述書」などの客観的資料を揃えておくことが、後の監督調査やトラブルを防ぐ最強の盾となります。

ステップ④|いつでも説明できる「体制」を構築する

改正後は、雇入れ時に「待遇の相違について説明を求めることができる旨」を明示することが義務化されます(違反は過料の対象)。

これと併せ、問い合わせへの応答フローを整備してください。

  • 応答フローの整備
    • 誰が(責任者・人事)、どの資料(賃金規程・比較表)を使って、どう説明するかを決めておきます。
  • 「社長がその場で感情的に答える」のではなく、「制度に基づいた客観的説明」を誰が行っても同じ回答ができる体制こそが、従業員との信頼関係を維持する鍵となります。

この4ステップは、単なる法対応の作業ではありません。

「自社の賃金制度という『経営の骨格』を正常化し、従業員に誠実に向き合うための改革」です。

準備に早すぎるということはありません。

2026年10月の施行に向け、まずは自社の「棚卸し」から始めてみてはいかがでしょうか。

まとめ|法対応を「経営戦略」へ昇華させる

同一労働同一賃金への対応は、一見すると手間のかかる「守りの作業」に思えるかもしれません。

しかし、これからの時代、適法な制度運用は、法的なリスクヘッジであると同時に、人材を惹きつけ、定着させるための「最強の経営戦略」そのものです。

「なぜこの給与なのか」という問いに対して、経営者が客観的かつ論理的に説明できる――。この透明性こそが、従業員との信頼関係を強固にし、結果として組織全体の生産性を高めるための土台となります。

2026年10月の改正は、貴社が「納得感のある職場」へとアップデートするための絶好の機会です。ぜひ、この波を前向きに捉え、自信を持って社員と向き合える組織づくりを進めていきましょう。

次回予告|自社を守る「同一労働同一賃金・自己診断リスト」

次回は、今回整理した4つのステップをより具体的に実践していただくためのツールとして、「自社の同一労働同一賃金・自己診断チェックリスト」を公開します。

「今の待遇で、本当に調査を乗り切れるのか?」という不安を解消し、貴社の規程を即座に点検できるよう、項目を絞り込んだ実務的なリストを作成しました。

次回もぜひ、制度整備のパートナーとしてご活用ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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戸塚淳二
この記事を書いた人
  • 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
  • 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。

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