2025年・改正育児介護休業法【実務対応編】(21)中小企業が男性育休を「当たり前」に!産後パパ育休活用術

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産後パパ育休 2025年改正育児介護休業法
産後パパ育休を活用しましょう
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社会保険労務士 戸塚淳二

執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二

法改正対応のスペシャリスト。戸塚淳二社会保険労務士事務所 代表として、多岐にわたる労働関連法規の解説から、実践的な労務管理、人事制度設計、助成金活用まで、企業の「ヒト」と「組織」に関する課題解決をサポートしています。本記事では、事業主の皆さまが安心して法改正に対応できるよう、専門家の視点から最新情報をお届けします。

社会保険労務士登録番号:第29240010号

育児・介護休業法の改正、特に2025年4月からのさらなる制度拡充を前に、「男性の育児休業取得」への関心は高まるばかりです。少子化が進む現代において、夫婦で育児を分担することは、家庭の幸福だけでなく、企業の人材戦略にとっても不可欠な要素となっています。

前回の記事では、女性従業員の妊娠報告から育休復帰までの「見える化」フローの全体像をお伝えしました。

今回は、2025年の育児・介護休業法改正の直接的な項目には含まれていないものの、男性の育児休業を促進する上で非常に重要な制度である「産後パパ育休(出生時育児休業)」と「パパ・ママ育休プラス」について、2回にわたり解説していきます。

これらの制度は、育児を積極的にしたいと考えている男性従業員の方はもちろんのこと、男性従業員を雇用する経営者の皆様、そして中小企業の総務ご担当者の方々にぜひ深く理解していただきたい内容です。

今回はまず、「産後パパ育休(出生時育児休業)」に焦点を当てて、その詳細を解説していきます。

この制度自体は2022年10月に施行されていますが、2025年からの給付金拡充でその取得がより現実的になるため、中小企業が今こそ活用すべき極めて重要な制度です。

具体的な取得例や、それに伴う企業の対応、そして制度を「当たり前」にするための実践的なガイドを徹底的に解説していきます。

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なぜ今、男性育休が中小企業に重要なのか?

「男性が育休を取るなんて、うちの会社には無理」
「ただでさえ人手不足なのに、男性が休んだら業務が回らない」

そう考えている中小企業の経営者や担当者の方もいるかもしれません。しかし、男性育休の促進は、短期的な負担以上に、長期的な企業成長にとって大きなメリットをもたらします。

人材の定着と確保

育児と仕事を両立できる環境は、優秀な人材を引きつけ、離職を防ぎます。特に共働き世帯が増える中で、男性の育休取得を支援する企業は、求職者にとって魅力的な選択肢となります。

女性従業員の活躍推進

男性が育児に関わることで、女性従業員の育児負担が軽減され、キャリア継続を支援できます。これは、企業のダイバーシティ推進にも直結します。

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生産性の向上

ワークライフバランスが充実することで、従業員のモチベーションやエンゲージメントが向上し、結果として生産性アップに繋がります。

企業イメージの向上

育児に理解のある企業として社会的な評価が高まり、ブランド力向上にも寄与します。

中小企業こそ、柔軟な発想と制度活用で、男性育休をチャンスに変えるべき時が来ているのです。

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産後パパ育休(出生時育児休業)

「産後パパ育休」は、2022年10月1日に施行された改正育児・介護休業法により新たに創設された制度で、正式名称は「出生時育児休業」といいます。この制度は、通常の育児休業とは別に取得できる男性向けの休業制度であり、男性が子の出生直後から柔軟に育児に関われるよう設計されています。

制度のポイント

  • 対象期間
    • 子の出生後8週間以内
  • 休業期間
    • 最長28日間(4週間)まで取得可能
  • 分割取得
    • 2回に分けて取得可能(それぞれ2週間など)
  • 申出期限
    • 原則として休業開始日の2週間前まで(通常の育児休業は原則1ヶ月前)

この制度の大きな特徴の一つに、「休業中の就業」が可能になるという点があります。これは、会社と従業員の代表者(労働組合または従業員の過半数を代表する者)との間で「労使協定」☟語句解説を締結していれば、休業中であっても一時的に必要な業務を行うことができるという仕組みです。

ここで少し寄り道して、「労使協定」について簡単に説明させてください。

労使協定とは、会社(使用者)と従業員の代表者(労働組合、または労働者の過半数を代表する者)との間で書面で取り交わされる約束のことです。

「法律で定められていること」とは別に、例えば「時間外労働をさせる場合」や「変形労働時間制を導入する場合」など、特定の事項について、労使双方が合意し、それを書面で明確にすることで、初めてその内容が有効になります。労働基準監督署への届出が必要な場合もあります。

この労使協定は、従業員との良好な関係を築き、会社の状況に合わせた柔軟な働き方を実現するために非常に重要なものです。ただし、会社が一方的に決めることはできず、従業員側の代表と話し合い、合意することが大前提です。

「出生時育児休業中の就業」に関する労使協定のポイント

中小企業で「完全に休まれると困る」という声がある中で、この「休業中の就業」を可能にする労使協定は、柔軟な運用を可能にする重要なカギとなります。具体的には、以下の項目を労使協定で定めます。

  1. 就業を可能とする旨
    • 「出生時育児休業中に、従業員と会社が合意した場合、一時的に就業させることがある」と明確に定める。
  2. 就業させることができる時間帯
    • 例えば、「所定労働時間の一部」「週〇日まで」「1日〇時間まで」など、就業できる時間帯や頻度の具体的な上限を定める。
  3. 就業させることができる業務の内容
    • 育児休業の目的を損なわない範囲で、緊急性の高い業務や引継ぎ業務など、具体的な業務内容を定める。
  4. 就業日数の上限
    • 休業期間中の就業日数の上限を定める(例:休業期間中の所定労働日・時間の半分以下、または休業期間中の就業日数の上限を5日とする、など)。
  5. 申出・合意に関する事項
    • 従業員からの就業希望の申出方法や、会社が就業を依頼する場合のルール、最終的に従業員と会社が個別に合意することの必要性などを定めます。

これにより、緊急時やどうしても人手が必要な場合に、一時的・部分的に業務を依頼できる柔軟性が生まれます。ただし、これはあくまで育児休業の目的を妨げない範囲での運用が大前提です。従業員の心身の負担に配慮し、あくまで例外的な措置として活用しましょう。

具体的な取得例と中小企業の対応

男性がこの「産後パパ育休」をどのように活用できるか、中小企業の事例を交えて見てみましょう。

例1:出産直後の入院・退院期間に集中してサポート

  • 出産予定日: 2025年7月15日(火)
  • 取得期間: 2025年7月15日(火)~7月29日(火)までの15日間を連続して取得。
  • 目的: 妻の出産直後の入院(数日)から退院、そして新生児との生活に慣れる期間に集中して育児・家事を分担する。特に、夜間の授乳や赤ちゃんのお世話を積極的に担当し、妻の身体的負担を軽減する。
  • 企業側の対応
    • 事前準備
      • 約2週間の休業となるため、従業員と綿密な面談を行い、休業期間中の業務棚卸しと引継ぎ計画を策定。担当業務の進捗状況を共有シート等で可視化し、緊急連絡先を共有する。
    • 代替体制
      • 業務が集中する日や特定の業務については、他の従業員でカバーできる体制を事前に整える。場合によっては、一時的な業務委託や既存社員への業務分担を検討。
    • 労使協定の活用(任意)
      • もし労使協定で休業中の就業に関する規定があれば、例えば「週に一度、オンラインで緊急会議に参加する」「どうしても今日中に返信が必要な顧客からのメール対応を依頼する」など、必要最低限の範囲で、従業員と合意のもと就業を依頼することも選択肢となります。ただし、あくまで本人の意思を尊重し、育児への専念を妨げない配慮が不可欠です。

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例2:妻の体調回復と里帰り期間、そして復帰後の生活立ち上げを分割でサポート

  • 出産予定日: 2025年9月5日(金)
  • 取得期間1: 2025年9月5日(金)~9月10日(水)までの6日間(出産直後、妻の入院~退院をサポート)。
  • 取得期間2: 2025年10月20日(月)~10月24日(金)までの5日間(妻の里帰り終了後、新しい生活リズムに慣れる期間にサポート)。
  • 合計: 11日間。
  • 目的: 夫婦で時期をずらして育児負担を分散し、妻の体調回復や生活環境の変化に合わせて柔軟にサポートする。
  • 企業側の対応
    • 複数回の引継ぎ
      • 短期間の休業が2回発生するため、それぞれの期間の前に業務の再調整と引継ぎを行う。特に、1回目の休業後の業務習熟期間と2回目の休業までの期間を考慮し、業務量を調整する。
    • 情報共有の徹底
      • 休業中に発生した社内情報や業務変更について、復帰時にスムーズにキャッチアップできるよう、情報共有の仕組み(社内チャットツール、共有フォルダなど)を整備する。
    • 従業員との定期的な対話
      • 休業期間中の従業員とは、必要に応じて連絡を取り(連絡方法や頻度は事前に合意)、復帰後の働き方について不安がないか確認する。

2025年4月からの給付金拡充が取得を強力に後押し!

この「産後パパ育休」の最大の魅力は、2025年4月からの給付金の大幅な拡充にあります。

従来の「出生時育児休業給付金」に加え、2025年4月からは「出生後休業支援給付金」が新設されます。これにより、両親がともに14日以上の育児休業(通常の育休も含む)を取得した場合、男性が産後パパ育休を最大28日間取得すると、実質的に手取り収入の約10割に相当する給付金が受け取れるようになります。

これは、育児休業中の経済的な不安を大きく軽減するため、従業員がより安心して休業を取得しやすくなる強力な後押しとなります。中小企業は、この経済的メリットを従業員に分かりやすく伝えることで、取得への心理的ハードルを大きく下げ、男性育休の促進につなげることができます。

なお、この2025年4月からの給付金拡充の詳細については、別の記事でさらに詳しく解説する予定です。

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中小企業が「産後パパ育休」を「当たり前」にするための実践ステップ

せっかくの制度も、活用されなければ意味がありません。中小企業が「産後パパ育休」を「当たり前」にするための具体的なステップをご紹介します。

男性育休の促進において、ここからご紹介する具体的なステップは、まさに制度を形骸化させず、貴社に深く根付かせるための本質的な取り組みです。これまでにも触れてきた内容ではありますが、その重要性ゆえに、改めて焦点を当てて解説します。

STEP1 経営層のコミットメントとメッセージ発信

男性育休を推進するには、まず経営トップがその重要性を理解し、従業員に対して明確なメッセージを発信することが不可欠です。「育児休業は社員の権利であり、会社として全面的に支援する」という姿勢を具体的に示しましょう。社内報や朝礼、個別面談の機会などを活用できます。

STEP2 社内ルールの明確化と周知徹底

就業規則や育児休業規程に、産後パパ育休の詳細、申請手続き、給付金に関する情報などを明記し、全従業員に周知徹底します。分かりやすいQ&Aやガイドラインを作成するのも良いでしょう。
また、出生時育児休業中の就業を可能にする場合は、必ず従業員の代表者との間で労使協定を締結し、その内容も従業員に伝わるように周知しましょう。

STEP3 業務体制の「見える化」と引継ぎの仕組みづくり

男性育休取得で最も懸念されるのが「業務が回らなくなること」です。これを解消するためには、以下の対策が有効です。

  • 業務の標準化
    • 各従業員の業務内容をマニュアル化し、誰でも一定レベルで対応できるようにします。
  • 多能工化
    • 複数の従業員が複数の業務をこなせるよう、OJTなどを通じてスキルアップを促します。
  • 業務の優先順位付け
    • 休業中に停止・延期できる業務と、代替要員が必要な業務を明確にします。
  • 代替要員の確保
    • 必要に応じて、社内での応援体制を組むか、派遣社員や外部サービス活用も検討しましょう。

STEP4 取得者・復帰者への丁寧なフォロー

育休を取得する男性従業員、そして復帰後の男性従業員に対しても、継続的なサポートが重要です。

  • 取得前の面談
    • 休業中の業務引継ぎや復帰後の働き方について丁寧に話し合い、不安を解消します。
  • 休業中の連絡
    • 必要最低限の範囲で、社内の情報共有や相談に対応できるよう連絡手段を確保します。労使協定により休業中の就業を行う場合は、その内容や実施状況についても適切に管理し、従業員の負担とならないよう配慮しましょう。
  • 復帰後のフォロー
    • 育児との両立に関する悩み相談、業務習熟のための支援などを継続的に行いましょう。

STEP5 成功事例の共有とロールモデルの創出

社内で男性育休を取得した従業員がいれば、その体験談を共有してもらうのも効果的です。具体的な事例は、他の従業員が「自分も取得できるかもしれない」と感じるきっかけになります。

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まとめ

2025年の育児・介護休業法改正は、中小企業にとって、男性育休取得を促進し、より柔軟で働きやすい職場環境を築く絶好の機会です。「産後パパ育休」を積極的に活用し、制度を「知っている」だけでなく「使える」ものにすることで、企業は人材の定着、生産性の向上、そして社会からの信頼獲得へと繋がります。

次回の記事では、予告通り「パパ・ママ育休プラス」というもう一つの重要な育休制度について、中小企業が知っておくべき実務上のポイントやトラブル回避策を詳しく解説していきます。どうぞご期待ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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