副業や兼業、いわゆるダブルワークという働き方が、少しずつ身近なものになっています。
「本業の収入にもう少し上乗せしたい」「空いた時間を有効に使いたい」「別の仕事にも挑戦してみたい」など、副業をする理由は人によってさまざまです。
一方で、複数の会社で働く場合、労働法上は原則として労働時間を通算して管理することになっています。
これは労働者を長時間労働から守るための仕組みですが、ここで一つの疑問が生まれます。
会社に命じられて働く残業と、労働者自身が「働きたい」と考えて選ぶ副業を、同じように扱ってよいのでしょうか。
実は現在、この問題について国でも見直しの議論が進められています。
この記事では、現在の制度の詳しい仕組みを説明するのではなく、なぜ今、労働時間通算の見直しが議論されているのか、そして労働者保護と「自分で働き方を選ぶ自由」をどう両立させるのかについて考えてみます。
この記事でわかること
- なぜ複数の会社で働く場合、労働時間を通算する仕組みがあるのか
- 会社に命じられる残業と、自分で選ぶ副業を同じルールで扱うことの問題点
- 割増賃金の通算が、実際には副業希望者の雇用機会を狭めかねないこと
- 2026年9月現在、制度がどうなっていて、何が決まっていないのか
なお、企業の労務担当者の方で、副業・兼業者の受け入れに伴う実務対応を知りたい場合は、こちらもあわせてご覧ください。
なぜの労働時間を通算するのか、そしてそれは今も適切なのか
複数の会社で働く場合、労働時間は原則として通算されます。
A社とB社は別の会社でも、働いているのは同じ一人の労働者だからです。
「会社が違えばゼロから計算し直す」としてしまえば、労働時間規制は簡単にすり抜けられてしまいます。
だからこそ、使用者が違っても労働者保護が失われないよう、労働時間を通算する仕組みが設けられてきました。
しかし、ここに一つの疑問があります。
会社に「残業してくれ」と求められ、断りにくい状況で働くケースと、収入を増やしたい・別の仕事に挑戦したいという理由で自ら副業を選ぶケースは、同じ「労働時間が長くなる」という結果であっても、その背景は大きく異なります。
前者は労働者が力関係の中で断りづらい状況にありますが、後者は労働者自身の意思による選択です。
もちろん、自分で選んだ副業だからといって健康への影響を無視してよいわけではありませんが、「会社に求められた労働」と「本人が選んだ労働」を、まったく同じルールで規制し続けてよいのかは、改めて問われるべき論点です。
さらに、この通算ルールには副作用もあります。
副業・兼業をする労働者を雇う企業は、他社での労働時間を把握し、通算した結果として割増賃金が必要かどうかを管理しなければなりません。
この実務負担の大きさから、企業が「副業していない人の方が管理しやすい」と考え、副業希望者の採用に慎重になる可能性が指摘されています。
労働者を守るためのはずの制度が、結果として働きたい人の選択肢を狭めてしまうとすれば、皮肉な話です。
実際、厚生労働省の調査でも、副業・兼業者を受け入れている事業所のうち、他社の労働時間と通算して割増賃金を支払っている企業は5.2%にとどまり、管理モデル導入分を含めても10.3%でした。
この調査結果からも、副業・兼業における割増賃金の通算が、実務上簡単な仕組みではないことがうかがえます。
だから国でも見直しが議論されている
このように、労働者保護のための通算ルールが、かえって副業を望む人の機会を狭めかねないという指摘もあり、国では現在、副業・兼業における労働時間通算、とりわけ割増賃金のための通算のあり方について、見直しの議論が進められています。
実は、国の議論はこの問題を単純な「通算をなくすか残すか」ではなく、健康確保のための労働時間管理と、割増賃金計算のための通算を切り分けて考える方向で進んでいます。
詳しい経緯は後述しますが、まずは働き方そのものの変化について見ていきましょう。
労働者保護をなくすのではなく、時代に合わせて考え直す
では、労働者を守りながらも、働き方の変化に対応するには、どう考えればよいのでしょうか。
大切なのは、労働者保護をなくすことではありません。
会社と労働者の間には立場の違いがあり、「今日も残業してくれ」と言われて簡単に断れない状況がある以上、長時間労働から労働者を守るという考え方は、今後も欠かせません。
ただし、働き方そのものも変わってきました。
一つの会社で働き、必要なら残業する、という働き方だけでなく、複数の仕事を自ら組み合わせる働き方も広がっています。
だとすれば、労働者保護とは「働きすぎから守ること」だけでなく、「本人が望む働き方を自由に選べること」も含めて考える必要があるのではないでしょうか。
守ることと選べることは、本来対立するものではないはずです。
2026年9月現在、制度はどうなっている?
結論から言えば、現在の制度はまだ変更されていません。
副業・兼業をする労働者については、現在も原則として労働時間を通算して管理する必要があり、その結果、法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払いなどが必要です。
厚生労働省の2026年4月の資料でも、この取り扱いが現行制度として示されています。
一方で、この「割増賃金のための労働時間通算」については、現在、見直しの議論が進められています。
制度変更が決定したわけではない
健康確保のための労働時間管理と、割増賃金を計算するための労働時間の通算を、同じ仕組みで扱う必要があるのか。この点が、現在の議論の一つの焦点になっています。
ただし、2026年9月現在、副業・兼業の割増賃金について労働時間の通算をなくすことは決まっていません。
2026年3月の労働政策審議会でも、割増賃金の通算を見直すべきだという意見がある一方、長時間労働の防止や労働者保護の観点から慎重な意見も示されています。
また、2025年12月以降は、日本成長戦略会議の下に設けられた労働市場改革分科会でも、働き方改革を含む労働市場のあり方について幅広い議論が進められています。
つまり、
「これから副業の労働時間通算はなくなる」
と決まったわけではありません。
現時点では、現在の制度を前提として労務管理を行う必要があります。
そのうえで、今後、健康確保のための労働時間管理と割増賃金の計算をどのように扱うのか、国の議論を引き続き確認していく必要があります。
まとめ|労働者を守りながら、働く自由も守れる制度へ
副業・兼業における労働時間通算には、複数の会社で働いても労働者を長時間労働から守るという重要な役割がありました。
しかし、会社に命じられる残業と、本人が望んで選ぶ副業を同じルールで扱い続けてよいのかという疑問が、この制度を考え直す出発点になっています。
割増賃金のための通算は、企業側の実務負担となり、結果として副業希望者が採用されにくくなるという皮肉な副作用も指摘されています。
そのため現在は、健康確保のための労働時間管理と、割増賃金計算のための通算を切り分け、前者は維持しながら後者は見直すという方向で議論が進められています。
ただし、2025年12月には関連法案の2026年通常国会への提出自体が見送られており、制度変更はまだ決定していません。今後の動向を注視する必要があります。
これからの労働時間制度に求められているのは、「守るか、自由にするか」の二者択一ではありません。
労働者の健康を守ることと、働きたい人が自分の意思で働き方を選べることを、どう両立させるか。
副業・兼業が当たり前になりつつある今だからこそ、この視点が重要になっています。
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- 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
- 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。

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