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中小企業オーナーの退職金・事業防衛|法人生命保険を活用した賢い出口戦略

法人生命保険と社長の退職金 労務の基礎知識
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本記事は「退職金・企業年金制度」シリーズの第4話です。

第1話は👉中小企業が退職金制度を導入すべき理由|採用・定着・節税を同時に実現

前回の記事では、中退共などの外部制度を利用する際に「退職金規程」との間で生じる金額のズレや、会社が予期せぬ追加負担を背負うリスクについて解説しました。

前回の記事は👉中退共と退職金規程が一致しない?差額が生じる仕組みと実務上の注意点

制度の見直しを進める中で、「うちでは共済のほかに、法人生命保険も活用しているけれど……」と思い至った経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

中小企業の退職金準備において、もう一つの有力な選択肢として広く選ばれているのが「法人生命保険を活用した退職金制度」です。

しかし、いざ言われてみると、

  • 「生命保険で退職金? そんなのあったっけ?」
  • 「中退共以外の選択肢として生命保険を勧められたが、いまいち仕組みがピンとこない」
  • 「毎月高い保険料を払っているが、本当にこれが退職金になるのか?」

そんな疑問やモヤモヤを、実は多くの事業主や経営者が心のどこかで抱えています。勧められるがままに加入したものの、保険料がどのように将来のキャッシュに結びついているのか、実態がよく分からないままになっているケースも少なくありません。

今回は、「生命保険を退職金として活用する仕組み」の全体像を分かりやすく解き明かしていきます。

生命保険がどのように退職金の原資へと変わるのかの基本構造を押さえつつ、「他の制度では作れない、オーナー社長の退職金になり得る」という生命保険ならではの最大の特徴と、税務上の基本(損金算入)の全体像を一緒に掴んでいきましょう。

この記事で分かること

  • 中退共ではカバーできない「オーナー社長自身の退職金」を作る方法
  • 万が一の事業防衛と将来のキャッシュ確保を同時に叶える仕組み
  • 保険料がどこまで経費(損金)になるのか、その税務上の基本ルール
  • 保険会社から確認すべき具体的な数値や見積もりのポイント
  • 税務リスクを防ぐために、必ず税理士を交えて進めるべき理由と手順

万が一の「保障」と「退職金」は一石二鳥?

エフピー教育出版「令和元年 企業経営と生命保険に関する調査」(従業員11〜300人の企業の経営者・役員480人が対象)によると、社長の万一に備えて法人契約の生命保険に加入している中小企業は約7割(69.0%)にのぼり、平均加入件数は1.9件となっています。

多くの企業で生命保険がこれほど活用されているのは、保険が単なる「万が一の掛け捨ての保障」ではなく、「万が一の保障」と「将来の退職金」を1つの契約で同時に兼ねられる点に最大の理由があります。

実際に、中小企業が法人保険に加入する目的の多くは、次のような項目に分かれています。

  • 社長の死亡退職金・弔慰金の準備(多くの企業が挙げる筆頭の目的)
  • 万一に備えた会社の運転資金(事業防衛資金)の確保
  • 社長自身の勇退退職金の準備

ここで重要になるのが、その設計を支える「契約の構造」です。従業員や役員に保険をかける場合、一般的な設計は次のようになります。

  • 契約者: 会社(保険料を支払う人)
  • 被保険者: 社員、または役員(保険をかけられる人)
  • 受取人: 会社

この構造によって、生存時と万が一の時で、次のような「一石二鳥」のメリットが生まれます。

生存時のメリット(退職金への活用)

何事もなく無事に定年まで働き続けた場合、長年かけて育った解約返戻金を、そのまま「勇退時の退職金」の原資として活用できます。コツコツと積み上げてきた保険という器から、計画的にキャッシュを取り出すことができます。

死亡時のメリット(弔慰金・事業防衛)

もし、在職中に不幸にも万が一のことがあった場合、会社に多額の「死亡保険金」が支払われます。

会社に入ってきた保険金は、遺族へ支払う「死亡退職金」や「弔慰金」の原資になるだけでなく、突然の人材損失に伴う売上減少や採用費など、会社の急なキャッシュアウトを防ぐ「事業防衛資金(会社の経営を守る盾)」としても強力に機能します。

他の制度にない最大の強み|なぜ「オーナー社長の退職金」になるのか?

ここまで読むと、「中退共などの外部制度と、何が違うのか?」という疑問が湧くはずです。数ある退職金準備の手段の中で、なぜ生命保険がこれほど多くの経営者に選ばれ続けているのでしょうか。

その決定的な違いは、掛金の上限を気にせず、オーナー社長自身の退職金として必要な規模の原資を計画的に準備できるかどうかという点にあります。

大企業と中小企業の違い

潤沢な内部留保があり、自前で退職金の原資を社内にコツコツと貯められる大企業であれば、会社の財布から直接、従業員にも役員にも十分な退職金を支払うことができます。

しかし、多くの中小企業やオーナー企業において、自前のキャッシュだけで巨額の退職金(特に数千万円規模になりがちな役員退職金)をその都度用意するのは、資金繰りやキャッシュフローの面で大きなリスクを伴います。

中退共・特退共の「大きな壁」、企業型DCの「規模の壁」

自前の準備が難しい中小企業にとって頼りになる外部制度として、「中退共(中小企業退職金共済)」や「特退共(特定退職金共済)」があります。

しかし、これらは法律上、原則として「従業員のための福利厚生・退職金制度」という位置づけになっています。

商工会議所などが窓口となる特退共も含め、どれだけ身を粉にして会社を引っ張ってきたオーナー社長や取締役(役員)であっても、原則としてこれらの共済に加入し、会社に自分の掛金を払ってもらうことはできません。

一方、近年人気の「企業型DC(確定拠出年金)」は、中退共・特退共とは異なり、厚生年金被保険者であれば社長を含む役員も加入対象になります。

ただし、掛金には上限があり、他に企業年金がない場合で月額5.5万円程度が上限です。役員退職金として一般的に必要とされる数千万円規模の原資を、勇退までの限られた年数で計画的に確保するには、企業型DCの掛金だけでは力不足になりやすいという、規模面での制約があります。

生命保険だからこそ実現できる「社長の出口戦略」

こうした「加入できない」「加入はできても掛金に上限がある」という制約がある中で、法人名義で加入する生命保険であれば、被保険者を社長自身に設定し、掛金の上限を気にせず必要な規模の原資を計画的に準備することが可能です。

自前で巨額の原資を置いておくのが難しい中小企業でも、法人生命保険(逓増定期保険や長期平準定期保険など)という「安全なお金の置き場所(器)」を利用すれば、時間をかけて数千万円規模の退職金原資を計画的にストックしていくことができます。

役員の退職金は、長年の経営功績や最終報酬、功績倍率などに基づいて計算されるため高額になりがちですが、生命保険を活用することで以下のようなオーナー特有の経営課題に直結させることができます。

  • 経営者自身の老後の生活資金(退職金)の確実な準備
  • 万が一の際の事業防衛と、遺族へのスムーズな財源移転
  • 将来の株の引継ぎ(事業承継)や相続に向けた財務対策

中退共や特退共などの外部共済が「従業員の土台作り」の王道だとすれば、法人生命保険は「大企業のように自前でキャッシュを溜め込むのが難しい中小企業において、経営者自身の出口戦略と会社の事業リスクヘッジを同時に叶える数少ない手段」と言えます。

気になる「保険料は経費(損金)になるのか?」と、実務での注意点

生命保険を退職金の積立として検討する際、経営者が最も気になるのが「その保険料は、税務上どこまで経費(損金)になるのか?」という点でしょう。

結論からお伝えすると、すべての保険料が全額経費になるわけではありません。加入する保険の種類や契約の仕組みによって、税務上の扱いは大きく次の3つに分かれます。

  1. 全額損金になるケース
    • 一定の条件を満たす掛け捨てに近い保険などが該当します。
    • 当期の利益を圧縮しつつ、手厚い保障を確保したい場合に選ばれます。
  2. 一部が損金、一部が資産になるケース
    • 解約返戻金が育つタイプの保険の多くがこれに該当します。
    • 将来戻ってくる貯蓄部分は「保険積立金(資産)」としてバランスシート(B/S)に残り、掛け捨てに相当する部分だけを「損金(経費)」として落とす仕組みです。
  3. 全額資産計上になるケース
    • 支払った保険料のほとんどが将来解約返戻金として戻ってくる、非常に貯蓄性の高い保険などが該当します。
    • この場合、お金の形が「現金」から「保険積立金(資産)」に変わるだけであり、会社の純資産そのものは減らないため、当期の節税にはなりませんが将来の大きな原資を安全にストックできます。

国税庁の基本的なルールとして、「将来自分たちにお金として戻ってくる部分(解約返戻金など)のために支払うお金は、単なる消耗品としての経費ではなく、『資産の購入(または貯蓄)』と同じである」という考え方があります。

したがって、「今期の法人税を抑えるためにどれくらい損金算入を狙いたいか」と、「将来どれくらいの手元資金(返戻率)を確実に確保したいか」のバランスを、自社の決算や利益の状況に合わせて設計していくことが、税務上も極めて重要になります。

保険会社に確認すべきことと、税理士への相談の重要性

こうした法人保険の税務区分は、2019年の通達改正以降ルールが非常に複雑化しており、同じ商品でも保険期間や払込期間、年齢などによって細かく異なります。

そのため、契約を進めるにあたっては、保険会社(営業担当者)に対して以下の数値を必ず確認することが大前提となります。

  • 最高解約返戻率(契約期間中で最も高くなる解約返戻率)
  • その商品がどの損金算入区分に該当するか
  • 保険料支払い期間中の損金算入割合と資産計上割合
  • 30万円特例の適用可否(最高解約返戻率が50%超70%以下の商品でも、一被保険者あたりの年換算保険料が30万円以下<全保険会社の契約を通算>であれば、全額損金算入が認められる特例があります)

ただし、ここで注意しなければならないのは、「生命保険会社の説明だけで判断しない」ということです。

保険会社の担当者は商品の説明や販売が主目的であり、貴社の決算状況や利益水準、税務リスクの許容度まで踏まえた「最適な設計」までは見られないことが多々あります。

また、死亡保険金の受取人の設定や、役員退職金制度との整合性など、経理処理上の微妙な判断を誤ると、後々の税務調査で思わぬ指摘を受けるリスクがあります。

生命保険会社から正確な見積もりや数字を出してもらった上で、必ず自社の決算や財務状況を熟知している「税理士等の専門家」の助言も併せて得る。

このステップを踏むことが、実務上最も安全かつ確実な進め方と言えます。

「じゃあ、どう動く?」保険会社への連絡と税理士への相談のステップ

「ここまで聞いて、自社の保険を見直したり、新しく設計したりしたいと思ったけれど、具体的にどこから手をつければいいのだろう?」

そう思われた経営者の方も多いはずです。こうした法人保険の見直しや新規契約を進めるとき、まず頭に浮かぶのは「お付き合いのある生命保険会社(営業担当者)に電話をすること」でしょう。

もちろん、それは間違いではありません。連絡をすれば、営業担当者はすぐに飛んできてくれ、現在の加入状況の分析や、新しいプランの見積もり(最高解約返戻率や損金算入割合が記載された設計書)を持ってきてくれます。

しかし、実務で絶対に外してはいけないのは、「保険会社に連絡して終わり」にしないことです。

失敗しないための「2ステップ」の進め方

安全かつ自社の財務に最もプラスになる形で退職金準備を進めるためには、次の順番で動くことが重要になります。

  1. まずは生命保険会社に連絡し、正確な数字を出してもらう
    • 現在の契約の解約返戻金の推移や、新提案の「最高解約返戻率」「損金算入割合」「資産計上割合」を必ず書面(設計書)でもらいます。
  2. その資料を持って、会社の税理士に必ず相談する
    • 保険会社の営業担当者は「商品を売るプロ」ですが、会社の決算状況、当期の利益見込み、将来の税務リスク全体をコントロールするプロではありません。
    • もらった設計書を税理士に見せ、「自社の今の決算に照らし合わせて、本当にこの損金・資産のバランスで問題ないか」「役員退職金規程との整合性は取れているか」を必ず確認してもらいます。

「保険会社に電話をすること」は第一歩として重要ですが、それを「税理士を交えた全体最適のチェック」に必ず繋げること。

これが、後々の税務調査でのトラブルを防ぎ、経営者自身の確実な出口戦略を成功させるための鉄則です。

まとめ|社長自身の「出口戦略」を描くための最初の一歩

ここまで、生命保険を退職金の原資として活用する仕組みや、他の共済制度との決定的な違い、税務上の基本、そして実務での正しい進め方について見てきました。

中退共や特退共といった外部制度が「従業員の土台作り」としては非常に優秀である一方、大企業のように自前で潤沢な内部留保を溜め込むのが難しい中小企業において、オーナー社長自身のまとまった出口戦略を形にする選択肢は限られています。

その数少ない現実的な手段の一つが、法人生命保険を活用した計画的な原資のストックです。

  • 万が一の保障を備えながら、
  • 将来の役員退職金の準備を同時に進め、
  • 事業防衛資金としてのキャッシュを会社に残す。

この「一石二鳥」の仕組みを自社にどう取り入れるかは、会社の財務状況や今後の利益計画、そして経営者の年齢や事業承継のタイミングによって大きく異なります。

「毎月払っている保険料が、本当に将来の自分や会社の力になるのか?」と疑問に感じた今こそ、自社の契約内容やこれからの出口戦略を見直す絶好のタイミングです。

保険会社から正確な数字や見積もりを取り寄せ、それを税理士などの専門家とともにしっかりと見極めながら、自社にとって最も無理なく、かつ確実な「退職金のカタチ」を設計していきましょう。

次回予告|企業型DCの導入とiDeCo併用の実務ポイント

中退共や法人生命保険と並び、中小企業の退職金・資産形成の選択肢として近年ますます注目を集めているのが「企業型確定拠出年金(企業型DC)」です。

「自社の規模でも導入できるのか?」「従業員がすでにやっているiDeCoとはどう兼ね合いをつければいいのか?」といった、経営者が気になる近年のトレンドや導入の具体的なステップ、実務上見落としがちな注意点を分かりやすく解説していきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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戸塚淳二
この記事を書いた人
  • 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
  • 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。

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