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【実際の問合せから】106万円の壁と130万円の壁|まだ誤解している人が多い社会保険の判定ルール

106万円の壁・130万円の壁 社労士の視点・コラム
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こんにちは。社会保険労務士の戸塚淳二です。

従業員数51人以上の企業を対象とした社会保険の適用拡大。

2024年10月の法改正から1年半以上が経過しました。

当初の混乱は「落ち着いた」と思っていませんか。

実は今が最も危ない時期です。

施行から1年半が経ち、「わかっていたつもりだったが、実は判定を間違えていた」という相談が私の事務所にも急増しています。

特に実務の現場で根深く残っているのが、従来からの「130万円の壁」と、改正で注目された「106万円の壁」の混同です。

  • 法改正から時間が経ち、運用の見直しをしていたら、実は106万円の判定基準を勘違いしていた
  • 後から『実は加入対象だった』と判明して、遡って保険料を徴収することになり困っている

こうした声を聞くたびに、制度の正確な理解がいかに重要かを痛感します。

曖昧な知識での運用は、従業員との信頼関係を損なうだけでなく、企業にとっても予期せぬコスト増のリスクを孕んでいます。

そこで今回は、施行後の運用実績と、日々寄せられる最新の相談事例をもとに、今あらためて整理しておきたい「106万円」と「130万円」の判定ポイントを、実務家の視点で詳しく解説します。

相談事例①|106万円の壁は誰が対象?自社に適用される社会保険の基準

最近の問い合わせでまず確認が必要になるのが、その会社が「106万円の壁」の対象となるかどうかです。

法改正から時間が経ち、事業の拡大や縮小によって「いつの間にか基準が変わっていた」というケースが見受けられます。

従業員数51人以上の会社(特定適用事業所)では106万円の壁が適用される

この規模の会社では、いわゆる「106万円の壁(月額8.8万円)」が適用されます。

ここで注意したいのは、「51人」の数え方です。これは全従業員数ではなく、「現在の厚生年金保険の被保険者数」の合計です。

  • 落とし穴
    • 「パートを含めれば100人いるが、社会保険に入っているのは40人だけ」という会社は、まだ51人未満の扱いとなり、106万円のルールは適用されません。
  • 今の時期の注意点
    • 施行から1年半が経ち、新たに社会保険に加入させた人が増えた結果、いつの間にか「被保険者が51人」を超えている場合があります。
    • 一度超えると、基本的にはその後も特定適用事業所として扱われるため、最新の人数確認が不可欠です。

50人以下の会社では106万円の壁は適用されず130万円の壁が基準

50人以下の会社では、従来通り「130万円の壁」が基準となります。

よくある誤解が、「世間で106万円と言われているから、うちも月8.8万円を超えたら入れないといけない」と思い込んでしまうことです。

  • 判定ルール
    • 50人以下の会社であれば、月額8.8万円を超えていても、労働時間が正社員の4分の3(週30時間など)に満たない場合は、直ちに職場の社会保険への加入義務は発生しません。

106万円の壁か130万円の壁かで対策が大きく変わる

このように、会社の規模によって「守るべきライン」が106万円なのか130万円なのかが明確に分かれます。

現場では、この区分を曖昧にしたまま「なんとなく106万円を超えないようにシフトを組もう」と指導してしまい、結果として人手不足を加速させている例もあります。

まずは自社がどちらの土俵に立っているのかを正確に把握することが、無用な混乱を防ぐ第一歩です。

相談事例②|106万円の壁の判定で交通費や残業代は含めるのか

「時給が上がったので、交通費を合わせると月8.8万円を超えてしまう。どう対応すればよいか?」という相談を受けた際、まず確認すべきは「その8.8万円に何が含まれているか」です。

実は、106万円の壁(月額8.8万円)を判定する際、給与明細の総額(額面)で判断してはいけません。

ここには「算定に含めていいもの」と「含めてはいけないもの」が厳格に決まっているからです。

106万円の壁の判定に含めないもの

実務担当者が特に間違いやすいのが以下の項目です。

これらは金額がいくらであっても、8.8万円の判定基準からは除外します。

  • 通勤手当(交通費)
    • 実費支給であっても定額支給であっても含めません。
  • 割増賃金(残業代、休日手当など)
    • 突発的な残業等で一時的に収入が増えても、判定には影響しません。
  • 賞与(ボーナス)
    • 臨時に支払われる賃金は除外します。
  • 家族手当・精皆勤手当
    • 特定の条件で支払われる手当も対象外です。

106万円の壁の判定に含めるもの

あくまで「雇用契約で決まっている固定的な賃金」がベースとなります。

  • 基本給
  • 役職手当・資格手当など、毎月固定で支払われる手当

106万円の壁の誤解によって起きている不必要な就業調整

例えば、基本給が8万5,000円で、交通費が1万円支給されているパートさんの場合、月額総額は9万5,000円となります。

しかし、判定基準となる賃金は「8万5,000円」ですので、51人以上の会社であっても「106万円の壁」による加入義務は発生しません。

従業員から「シフトを減らしたい」と申し出があった場合、その背景に交通費の誤解が潜んでいるケースがあります。

正しい判定基準を伝えることで、不必要な就業調整を防ぐことができます。

106万円の壁と130万円の壁の判定ルールの違い

さらに実務を複雑にしているのが、「130万円の壁(家族の扶養)」を判定する際には、交通費や残業代も含めて計算するという点です。

  • 106万円の判定(職場加入)
    • 交通費を含めない
  • 130万円の判定(家族の扶養)
    • 交通費を含める

この「基準の不一致」が、現場の混乱を招く最大の要因となっています。

私が社労士としてお問合せにお答えする際は、まず「どの壁の話をしているのか」を整理し、それぞれの基準に沿った正しい賃金内訳で判定し直すようアドバイスします。

それが、トラブルを防ぐ唯一の手段です。

相談事例③|106万円の壁と130万円の壁、なぜルールが違うのか

実務の現場で混乱を極めているのが、「交通費や残業代の扱い」の差です。

相談者からはよく「同じ社会保険の話なのに、なぜ計算方法が違うのか」という不満に近い疑問をぶつけられます。

この「ルールの乖離」が、現場でどのような事態を引き起こしているのかを整理します。

106万円の壁と130万円の壁で起きる「扶養と社保のねじれ」

最も注意が必要なのは、以下のようなケースです。51人以上の企業におけるケースです。

  • 基本給8.5万円、交通費2.5万円(月収11万円)のパートさん
    • 106万円の壁(職場加入)
      • 交通費を除外するため、判定は「8.5万円」。基準(8.8万円)未満なので、職場の社保には入りません。
    • 130万円の壁(家族の扶養)
      • 交通費を含めて判定するため、年収見込みは「132万円」。
      • 基準(130万円)を超えるため、家族の扶養から外れます。

この場合、本人は「職場の社保」にも入れず、「家族の扶養」にも残れないという「ねじれ」の状態に陥ります。

なお、年収130万円を超えた場合は、勤務先で社会保険に加入できないときは、原則として国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。

この「全額自己負担」という事態は、従業員にとって手取り額が激減する大きな負担となります。

106万円の壁と130万円の壁でルールが違う理由

この差は、それぞれの制度の「目的」が異なるために生じています。

  • 106万円の壁(厚生年金保険法等)
    • 「働いている本人の処遇」に着目した基準です。そのため、月々の安定した「基本の給与」をベースに判定します。
  • 130万円の壁(健康保険法・被扶養者認定)
    • 「その人が誰かに養われているか(生計維持)」に着目した基準です。
    • 手元に入るお金が「生活できるレベル(年130万円以上)」であれば、交通費であっても収入とみなして扶養から外すという考え方をとります。

実務における「落とし穴」への対策

法改正から時間が経ち、こうした「ねじれ」に後から気づくケースが増えています。

「106万円に収まっているから安心だと思っていたら、交通費を含めたら扶養の認定基準を超えていた」という事態は、従業員との信頼関係に深刻なヒビを入れることになりかねません。

私が社労士として現場でアドバイスする際は、単に「月8.8万円」という数字を見るだけでなく、必ず「交通費込みで年収130万円を超えていないか」をセットで確認するよう、強く推奨しています。

50人以下の会社で起きやすい「社会保険の空白地帯」のリスク

「上記のような捻じれ現象は、51人以上の大きな会社だけの話」と思い込んでいませんか?

実は、従業員50人以下の会社の経営者・人事担当者にとっても、この問題は決して他人事ではありません。

むしろ、50人以下の会社の方が、従業員にとって手酷い結果を招く「空白地帯」に陥るリスクが高いのです。

50人以下の会社で起こり得るケース

例えば、50人以下の会社で週25時間働くパートさんが、残業や交通費を含めて年収130万円を超えてしまった場合を考えてみましょう。

  1. 勤務先の社会保険に入れない
    • 50人以下の会社には「月8.8万円」という特例の枠がありません。
    • 加入の絶対条件は「週30時間以上(4分の3基準)」です。
    • 従業員が加入を希望していても、法律上の要件を満たさない以上、会社として加入させることができません。
    • この場合、従業員への丁寧な説明と、国民健康保険への加入手続きのサポートが会社に求められます。
  2. 家族の扶養からは外される
    • 一方で、家族の健康保険組合などの扶養判定には、交通費や残業代がすべて合算されます。
    • ここで130万円を超えてしまうと、「自立して生活できる収入がある」とみなされ、扶養の資格を失います。

行き着く先は「保険料の全額自己負担」

この方は、職場の社会保険には入れないのに、家族の扶養にも留まれないという、いわば「社会保険の迷子」になってしまいます。

結果として、自ら市区町村の窓口へ足を運び、「国民健康保険」と「国民年金」に加入し、その保険料をすべて自分一人で負担しなければならなくなります。

会社が半分を負担してくれる職場の社保に比べ、この全額自己負担という事態は、手取り額に極めて深刻なダメージを与えます。

経営者の本音|106万円の壁と社会保険料という「コスト」とどう向き合うか

ここまでは制度の仕組みや「空白地帯」のリスクについて解説してきました。

この問題を解決する最もシンプルな方法は「社会保険に加入すること」ですが、ここで労使の立場による視点の差が浮き彫りになります。

従業員が社会保険加入を望む理由を理解する

労働者の立場からすれば、社会保険への加入は非常に魅力的です。

国民健康保険なら全額自己負担となる保険料を、会社が半分肩代わりしてくれる「労使折半」という大きなメリットがあるからです。

さらに、将来の年金の上乗せや傷病手当金といった手厚い保障が手に入るのですから、条件を満たす従業員が加入を希望するのは、こうした理由からです。

経営者から見れば社会保険料の負担というダイレクトな利益減少

しかし、経営者の視点に立てば、話はそう簡単ではありません。

労働者にとっての「肩代わり(メリット)」は、企業にとっては「目に見えない人件費が約15%上乗せされる」というダイレクトなコスト増を意味します。

特に50人以下の小規模事業所にとって、この負担増は営業利益を直接削る死活問題です。

「社員のために加入させてあげたいのは山々だが、会社の持ち出しが増えるのは正直きつい」というのが、現場を預かる経営者の偽らざる本音ではないでしょうか。

社会保険料のコストを「リスクヘッジ」と「人材投資」として考える

それでもなお、人手不足が深刻な現在の労働環境では、このコストを単なる「出費」ではなく、経営を守るための「戦略的投資」と捉え直す局面に来ています。

  • 「遡及徴収」という致命的なリスクを避ける
    • 加入要件を満たしているのに未加入で放置していると、年金事務所の調査によって最大2年分の保険料を遡って一括徴収される恐れがあります。
    • 例えば、月収10万円のパートを3人未加入のまま2年間放置した場合、遡及徴収される保険料は企業負担分だけで約130万円になります。
    • さらに延滞金が加算されるケースもあり、キャッシュフローへのダメージは甚大です。
    • 「正しく処理しておく」ことは、会社を守る最大の防御策となります。
  • 人材流出を防ぐ「定着への投資」
    • 先ほど触れた「どこの保険にも入れず、国保の全額負担になる」という状態は、従業員に深刻な不満を与えます。
    • 採用難の時代、一人採用・教育するためにかかるコストを考えれば、保険料を負担してでも優秀な人材を引き留める方が、長期的には経営にプラスに働くケースが多いのです。

社労士とともに探る「納得感のある着地点」

ただ「法律だから」と背負い込むのではなく、助成金の活用や給与体系の再設計をセットで検討し、このコストを「事業を継続させ、従業員との信頼を担保するための必要経費」としてどう戦略的に組み込むか。そこを共に考えていくのが、我々社労士の役割です。

まとめ|106万円の壁・130万円の壁を正しく理解し、戦略的に乗り越える

「106万円」という言葉が独り歩きしている現在、実務の現場ではかつてないほどの混乱が生じています。

しかし、今回整理してきたように、会社の規模や働き方によって、守るべきルールも直面するリスクも全く異なります。

最後に、この記事で特にお伝えしたかったポイントを振り返ります。

  • 50人以下の会社に「106万円の枠」はない
    • 原則として「週30時間以上」が加入の絶対条件です。
    • 枠がない以上、無理に加入させることはできません。
  • 判定の内訳を正しく切り分ける
    • 「106万円(職場加入)」の判定には交通費を含めず、「130万円(扶養)」の判定には交通費を含めます。この小さな違いが、実務では大きな分岐点となります。
  • 50人以下の会社こそ「空白地帯」に注意
    • 週30時間未満(枠なし)でありながら年収130万円超(扶養脱退)となってしまうと、従業員は「全額自己負担の国民健康保険」という最も重い負担を背負うことになります。
  • コストを「会社の守り」に変える
    • 経営者にとって社会保険料の負担は重いものですが、適正な加入は、将来の遡及徴収リスクの回避や、優秀な人材の定着につながる「守りの投資」でもあります。

社会保険の制度は複雑で、法改正も頻繁に行われます。

しかし、それらを正しく理解し、自社に合った最適な運用を見出すことは、従業員の安心だけでなく、ひいては会社の健全な発展に直結します。

もし、貴社のパートさんの働き方や、社会保険料の負担増への対策で少しでも不安や迷いを感じることがあれば、お一人で悩まずにぜひご相談ください。

共に最適な着地点を探っていきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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戸塚淳二
この記事を書いた人
  • 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
  • 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。

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