こんにちは、社会保険労務士の戸塚淳二です。
今回は、私の事務所に寄せられた実際のお問い合わせをもとに、会社主導で行われる『有給休暇の処理』のあり方について考えていきたいと思います。
私の事務所のホームページに設置している相談フォームに、ある時給制のアルバイトスタッフの方から次のような内容の問い合わせが届きました。
お問い合わせ内容
私の職場は年末年始が8連休でした。1月の給料明細を見たところ、そのうちの5日間が『有給休暇』として処理されていました。 私は時給制なので、連休で給料が減るのを心配していましたが、有給扱いのおかげで手取り額はほぼ変わっていませんでした。特に文句があるわけではないのですが、会社から事前の説明はなく、知らないうちに有給が5日分も減っていることに多少戸惑っています。このような処理は法律的に認められているのでしょうか?
この内容を見て、「給料を減らさないようにしてあげたのだから、問題ないのではないか」と考える経営者の方は少なくありません。
特に時給制の場合、連休による稼働日の減少は、そのまま従業員の生活費の減少に直結します。
経営者としては、欠勤控除で手取りを減らさないための「配慮」として、有給を充当したのだと考えられます。
しかし、「違法ではないのか」というご相談の点について結論を言えば、同意や事前の説明のないまま会社が有給休暇を勝手に消化させる処理は、たとえ給与を補填する目的であっても、労働基準法上の問題が生じ得ます。
有給休暇は、いつ使うかを決める権利が労働者にあるためです。
実際、従業員にとっては手取り額が維持されるメリットがある一方で、「自分の意思で使えるはずの有給休暇が、会社側の判断で5日間も消費されてしまった」という不利益が生じているからです。
今回の相談者のように、同意や事前の説明がないまま有給が充てられていた場合は、会社に処理の理由を確認し、必要であれば有給の残日数を戻してもらえないか相談することができます。
労働者の方は、働く人のための有給休暇ガイド|取り方・権利・制度まとめもあわせてご覧ください。
このように、経営側の「良かれと思って」という判断が、説明不足や手続きの不備によって、思わぬ法的リスクや従業員とのトラブルに発展してしまうケースがあります。
今回の記事では、この年末年始の有給処理が「法的に認められるライン」はどこにあるのか、経営者が守るべきルールを整理して解説します。
雇用形態で変わるのは「不利益の大きさ」|同意が必要な点は共通
年末年始の有給処理で本人の同意が必要なことは、雇用形態を問わず共通です。
ただし、同意なく処理された場合に従業員が受ける不利益の性質は、給与体系によって異なります。
2019年から義務化された「年5日の有給休暇取得義務」を達成しようとするあまり、一律に連休へ有給を割り当ててしまうケースが見受けられますが、不利益が大きい雇用形態ほど、法的リスクやトラブルにつながりやすくなります。
給与体系ごとの違いを、2つのパターンに分けて解説します。
① 完全月給制・日給月給制の場合|不利益が大きく、特に問題になりやすい
月給制の従業員に対して、会社が同意なく有給を充てることは、特に問題になりやすい処理です。
- 不利益の正体
- 月給制の場合、年末年始がもともと「公休日(会社の休日)」であれば、有給を使わなくても欠勤控除はされず、給料は満額支払われます。
- そこに会社が同意なく有給を充ててしまうと、従業員は「本来減るはずのない有給残数」だけを失うことになります。
- これは、従業員の資産である有給を会社が「タダ取り」しているのに近い状態といえます。
- 想定されるリスク
- この処理は、従業員の時季指定権(いつ休むか決める権利)を侵害するおそれがあり、是正勧告やトラブルにつながる可能性があります。
② 時給制・日給制の場合|同意があれば「福利厚生」として機能する
今回の相談者のように時給制(または日給制)の場合、判断のポイントは「実利」と「手続き」のバランスにあります。
- 実利の正体
- 時給制の方にとって、本来出勤するはずだった日が休みになると、その日の収入はゼロになります。
- ここに有給を充てることは、収入の減少を防ぎ、生活を安定させるという大きなメリットがあります。
- この点では、従業員にとって「ありがたい配慮」となり得ます。
- 適法に運用できるかの分かれ道
- 実利があるとはいえ、会社の判断だけで処理していいわけではありません。あくまで有給休暇は本人の権利だからです。
- 適正な運用:事前に「連休中の収入補填として、有給使用を希望しますか?」と確認し、本人の合意(申請)を得る。または後述する「計画的付与制度」を正しく導入する。
- 不適切な運用:本人の意思を確認せず、事後報告で有給を消化させる。これはたとえ収入補填が目的でも、本人の「別の日に使う自由」を奪うため、労働基準法上の問題が生じ得ます。
- 実利があるとはいえ、会社の判断だけで処理していいわけではありません。あくまで有給休暇は本人の権利だからです。
経営者に求められる視点
結論として、同意なく有給を充てることは、どちらの雇用形態でも問題になり得ます。
月給制では本人に得がなく不利益だけが残りやすく、時給制では収入が維持される利点がある分、「事前の合意」を得れば優れた福利厚生として機能します。
経営者が陥る「3つの落とし穴」――法律が求めるのは「合意」
経営者様が「良かれと思って」行った処理が、なぜトラブルに発展するのか。
そこには、法律が求める「合意」というプロセスを軽視してしまったことによる、3つの大きな落とし穴があります。
落とし穴1|5日の取得義務を「使い道を会社が決める権利」と勘違いしている
2019年から始まった「年5日の有給休暇取得義務」。
これを達成するために、「年末年始に有給を割り当てれば一石二鳥だ」と考える経営者様は多いです。
しかし、有給休暇の「いつ休むか」を決める権利(時季指定権)は、本来、従業員側にあります。
会社が日を指定できる場面は、法律上限られています。
たとえば、年5日の取得義務を果たすための「使用者による時季指定」(労働基準法39条7項)は、年10日以上の有給が付与される従業員が対象で、就業規則への記載と、事前の意見聴取・希望の尊重が必要です。
なお、パート・アルバイトの方でも、勤続年数や所定労働日数によって年10日以上付与されていれば対象になります。
一方、比例付与で年10日未満の方には、この5日の取得義務そのものがありません。
対象者や罰則など、年5日の取得義務の詳しい内容は、コチラで詳しく解説しています。👉年5日有給義務化の基礎知識|対象者・罰則|企業担当者必見!
つまり、「義務化された5日」であっても、会社が自由に日を決めてよいわけではありません。
条件を満たさないまま、本人の同意なく会社が一方的に割り振ることは、従業員が「子供の行事や急な病気のために取っておきたい」と考えていた自由な選択権を奪うことになり、労働基準法上の問題が生じ得ます。
落とし穴2|「休業手当」の支払い義務を有給で「相殺」していないか
もし年末年始が本来は「仕事がある日(営業日)」であるにもかかわらず、会社都合で一斉休業とする場合、原則として会社には「休業手当(平均賃金の60%以上)」を支払う義務が生じます。
このとき、従業員の意思を確認せずに「休みだから有給を充てておいたよ」と処理することは、法的な問題が生じ得ます。
- 「義務」と「権利」の混同
- 休業手当は、会社が負担すべき「法的な義務」です。
- 一方で有給休暇は、従業員が行使する「法的な権利」です。
- 本人の合意なく有給を充てると、会社が果たすべき義務を、従業員の「有給の残り日数」で肩代わりさせているとみなされるおそれがあります。
- 従業員の選択肢の無視
- 有給休暇中の賃金は、所定労働時間分の通常の賃金、平均賃金などから就業規則で定める方法によるため、休業手当の額と大きな差がないケースもあります。
- それでもなお、従業員には「給料が多少減っても(休業手当になっても)、有給は別の日のために残しておきたい」という選択をする余地があります。
このように、金額の差がわずかであっても、「会社が払うべき手当」と「従業員が使う権利」を一方的に入れ替えてしまうプロセスこそが、法的な落とし穴となるのです。
休業手当と年次有給休暇の扱いは、会社の休業理由や就業規則などによって判断が異なります。自社の対応が適切か不安な経営者・人事担当者の方は、個別の労務相談をご利用ください。👉 労務相談についてはこちら
落とし穴3|事後報告が招く「不信感」と「離職リスク」
最も現場で起こりやすいのが、今回の相談事例のように、給与明細を見て初めて従業員が「有給が減っている」と気づく事後報告です。
「お給料を払っているのだから文句はないだろう」というのは経営者側の理屈に過ぎません。
事前の説明も合意もない処理は、従業員にとって「自分の有給を会社の判断で使われた」という不信感に繋がります。
特に透明性を重視する現代の労働環境において、こうした「一方的なルール」は優秀な人材が会社を離れる決定的な引き金になりかねません。
キーワードは「勝手に行わない」
この3つの落とし穴に共通しているのは、「金額的に『プラス』もしくは『損が無い』のであれば、プロセス(合意)は省略していい」という思い込みです。
有給休暇は、従業員にとっての「大切な権利」です。
それを扱う以上、たとえ「親切心」であっても「勝手に行わない」という一線が不可欠です。
社労士の処方箋|月給制でも適切に運用するための具体策
「月給制の従業員には有給を充てるのは無理なのか」と諦める必要はありません。
大切なのは、これまでの事後報告による処理を、法に基づいた「適正なルール」に書き換えることです。
具体的には、以下の2ステップを踏むことで、円満に運用することが可能になります。
ステップ①|年間カレンダーにおける「休日」と「労働日」の区分けを明確にする
月給制でトラブルになる最大の原因は、「休日(公休)なのか、労働日(稼働日)なのかが曖昧な日に、会社が有給を重ねる」ことにあります。
これを防ぐために、あらかじめカレンダー上で「何日が休みで、何日が仕事の日か」を従業員に示しておくことが大前提となります。
- 所定休日
- もともと労働義務がない日。ここは有給を充てる対象にはなりません。
- 所定労働日
- 本来は仕事をする日。ここを「有給休暇を充てる対象日」として設定します。
ここで重要なのは、「公休日を削って労働日に置き換える」ことではなく、年間の休日日数のバランスを保ちつつ、大型連休の中日などを「有給休暇を使って休む日」として公式に位置づけるという視点です。
すでに休日と定めている日を労働日に変えることは、従業員にとって労働条件の不利益変更になり得ます。
就業規則の変更が必要になり、従業員の合意や変更の合理性が求められるため、慎重に進めてください。
ステップ②|計画的付与制度の導入(労使協定の締結)
ステップ①で設定した「稼働日」を、会社主導で一斉に有給休暇にするためには、「有給休暇の計画的付与制度」の活用が不可欠です。
これが事後報告の処理を「適法な運用」に変える最大の武器となります。
- 就業規則への明記
- まずは就業規則に「労使協定により、有給休暇の付与日数のうち5日を超える分について、計画的に付与することがある」旨を規定します。
- 労使協定の締結
- 事業場の過半数で組織する労働組合(ない場合は、労働者の過半数を代表する者)と「計画的付与に関する労使協定」を締結します。ここで「年末年始の〇日間を、一斉に有給休暇とする」と具体的に定めます。
年次有給休暇の計画的付与制度についての詳しい解説はコチラ👉年次有給休暇の計画的付与制度:導入の基本と手順
年次有給休暇の計画的付与制度を導入するには、就業規則の整備や労使協定の締結など、適切な準備が必要です。自社の実情に合った就業規則を作成・見直ししたい経営者の方は、お気軽にご相談ください。👉 就業規則の作成・見直しについてはこちら
この手続きを踏むメリット
- 月給制でも適法
- 協定を結ぶことで、会社は個人の時季指定権に優先して有給を割り振ることができます。
- 「年5日取得義務」の確実な消化
- 計画的に付与した分は、法的な取得義務(5日間)にカウントされます。
- 不信感の解消
- 「一方的に減らされた」のではなく「ルールに基づいてみんなで休もう」という合意形成ができているため、従業員の納得感が全く違います。
5日の「自由枠」を忘れずに
この制度を利用する際の注意点は、従業員が自分の意思で自由に使える有給を「5日間」は残しておかなければならないというルールです。
全日数を会社が指定することはできませんが、この「ステップ①×ステップ②」の組み合わせにより、大型連休を安定して作りつつ、法的な義務もクリアする。
これこそが、経営者と従業員の双方が納得できる、労務管理の「正解」です。
まとめ|労務管理の「みそ」は「合意」にある
今回の相談事例から見えてくるのは、労務管理では支払った金額だけでなく、「本人の同意を得たか」「事前に説明したか」というプロセスが問われるということです。
たとえ給与額に不足がなくても、同意のない「一方的な処理」は、法的な問題が生じ得るだけでなく、従業員の信頼を損ないます。
「連休でも手取りを減らしたくない」という経営者の想いは、本来、従業員にとってもプラスになるものです。その善意を、次の2点で「ルール」にしておきましょう。
- 年間カレンダーで休日と労働日の区分けを整理する
- 就業規則を整え、過半数組合または過半数代表者と「労使協定」を締結する
公明正大な手続きを踏むことで、経営者の想いは初めて「感謝される福利厚生」になり、会社を守り、従業員が安心して働ける環境にもつながります。

- 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
- 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。
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