
執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二
法改正対応のスペシャリスト。戸塚淳二社会保険労務士事務所 代表として、多岐にわたる労働関連法規の解説から、実践的な労務管理、人事制度設計、助成金活用まで、企業の「ヒト」と「組織」に関する課題解決をサポートしています。本記事では、事業主の皆さまが安心して法改正に対応できるよう、専門家の視点から最新情報をお届けします。
社会保険労務士登録番号:第29240010号
本記事は「2025年改正育児介護休業法シリーズ」の第45弾です。他のシリーズの記事はコチラから👉社労士ブログ 記事一覧 労務管理・育児介護法/最新記事まとめ
前回の記事では、両立支援等助成金の「柔軟な働き方選択制度等支援コース」について、制度の概要や申請フロー、具体的な事例まで詳しく解説しました。
前回の記事は👉両立支援等助成金「柔軟な働き方選択制度等支援コース」➁|申請フロー|テレワーク導入で20万円!
今回は、その続編として、育児休業中の従業員の業務を円滑に代替する体制づくりを支援する新しい助成金、令和6年度から新設された 「育休中等業務代替支援コース」 に焦点を当てます。
育児休業取得者の増加や、短時間勤務制度の普及により、企業にとって「業務の代替」はますます重要な課題となっています。
育休中等業務代替支援コースとは➀制度の概要
この助成金は、従業員が安心して育児休業や短時間勤務を取得できるよう、企業が代替体制を整備した際の費用負担を軽減することを目的としています。
従業員が安心して育児休業や短時間勤務を取得できるようにしつつ、業務が滞らない体制をどう整えるかが、企業の重要な経営課題になっているのです。
そこで令和6年度から新設されたのが、「育休中等業務代替支援コース」です。
この助成金は、育児休業や短時間勤務を取得する従業員の業務を代替する体制を整備した企業に対して、費用の一部を支援する制度です。
育休中等業務代替支援コースとは➁制度の目的と対象
このコースの狙いは大きく分けて2つです。
- 企業の負担軽減
- 育児休業中の業務を代替するための人材雇用や既存従業員への手当など、企業が負担するコストを補助します。
- 安心して育休・短時間勤務を取得できる環境づくり
- 従業員が育児休業や短時間勤務をためらうことなく取得できるよう、業務代替体制を整備し、安心して職場復帰できる環境を支援します。
この助成金を活用することで、従業員の働きやすさと業務の円滑な運営を両立させることが可能になります。
育休中等業務代替支援コースの支給対象となる企業・条件
「育休中等業務代替支援コース」の助成金は、育児休業や育児短時間勤務を取得する従業員の業務を円滑に代替する体制を整備した企業が対象です。
具体的には、代替要員を新たに雇用して業務を補完した場合や、既存の従業員に代替手当を支給して業務を兼務させた場合に助成の対象となります。
特徴的なのは、中小企業・大企業の区別がなく、規模に関わらず利用できる点です。
助成金制度の多くでは中小企業のみが対象だったり、大企業は支給額が減額されたりすることが多いです。
そのような中、このコースは企業規模に左右されず、育児休業中の従業員が安心して休業や短時間勤務できる環境づくりを支援します。
育児休業等業務代替支援コース|制度の概要と3つのメリット
育児・介護休業法の改正により、男性の育児休業(育休)取得が増加するなど、多様な働き方が社会全体で広まりつつあります。
しかし、特に人材に限りがある中小企業にとって、「育休中の従業員の業務を誰がカバーするのか」は大きな課題です。
この助成金は、育児休業を取得する従業員の業務を代替するために、新たな要員(有期雇用労働者、派遣労働者など)を雇用した事業主に対して支給されるものです。
単に業務を補うだけでなく、育休を取得する従業員と、その業務をカバーする既存社員双方の負担を軽減することを目的としています。
助成金の支給は、主に以下の2つのパターンがあります。
- 代替要員を新規で雇用した場合
- 育休取得者が休業に入った際に、その業務を代替するために新たな人材を雇用することで支給されます。
- 既存社員に業務代替手当を支給した場合
- 育児休業を取得する社員の業務を、社内の既存の社員が代わりに行った場合、会社がその社員に対して特別な手当を支給することで、その費用の一部が助成されます。
「育児休業等業務代替支援コース」は、単なる資金援助にとどまらず、企業に多くのメリットをもたらします。
メリット1|育休取得者が安心して休める環境づくり
- 従業員にとって、育休中の業務の引き継ぎや、休業後の職場復帰に対する不安は大きなものです。
- この助成金を活用して代替要員を確保することで、「自分の業務が誰かにカバーされる」という安心感が生まれます。
- これにより、育休取得者は育児に専念でき、企業は従業員への配慮を示すことができます。
- 結果として、従業員満足度の向上や定着率の改善にもつながります。

メリット2|既存社員の負担軽減
- 育休中の業務を代替要員なしで既存社員が分担する場合、一人ひとりの業務量が増加し、残業時間の増加やストレスの原因となることがあります。
- この助成金を利用して、育休者の業務を専門に担当する代替要員を確保することで、既存社員は過度な負担から解放されます。
- チーム全体のパフォーマンスを維持し、社内の良好な人間関係を保つためにも重要な施策です。
メリット3|新たな人材確保のチャンス
- 代替要員として雇用した人材が、業務を通じて企業の文化や仕事内容を理解することは、将来的な正社員雇用への道を開く可能性があります。
- 育休期間の限定的な雇用を通じて、企業のニーズに合った人材をじっくり見極めることができます。
- これは、採用活動におけるミスマッチのリスクを減らす効果的な手段となり、結果として企業の成長を支える新たな戦力獲得につながる大きなチャンスとなります。
育児休業等業務代替支援コースの助成金|いくらもらえる?支給額一覧
この育児休業等業務代替支援コースは、育休中の社員の業務をカバーするために、新たに人を雇ったり、既存の社員に手当を出したりする会社を助ける国の制度です。
「具体的にいくらもらえるの?」という疑問にお答えします。
助成金は、大きく3つのパターンで金額が決まります。
1. 新しい人を雇う場合(雇用期間ごとの支給額)
育休中の社員の代わりとなる人を、新たに「有期雇用」や「派遣社員」として雇ったときにもらえます。
雇った期間が長いほど、もらえる金額も増えます。
雇用期間 | 支給額 |
---|---|
7日以上14日未満 | 9万円 |
14日以上1か月未満 | 13.5万円 |
1か月以上3か月未満 | 27万円 |
3か月以上6か月未満 | 45万円 |
6か月以上 | 67.5万円 |
2. 既存社員に手当を出す場合(育児休業中)
育休中の社員の仕事を、社内の別の社員が代わりに行い、その社員に特別な手当を支払ったときにもらえます。
- 会社の体制を整えるための費用として
- 5万円
- 仕事を代わりに引き受けた社員への手当として
- 払った手当の総額の3/4(ただし、1か月あたり最大10万円)
3. 既存社員に手当を出す場合(短時間勤務中)
この制度は、育児休業を取得できる従業員が、育児のため短時間勤務で対応している場合にも適用されます。
短時間勤務で空いた業務の穴埋めを、他の社員が行った際に支払われる手当も助成の対象となります。
- 体制整備費
- 2万円
- 業務代替手当
- 支払った手当の総額の3/4(上限3万円)
これらの金額は目安です。詳細な条件や手続きについては、会社の所在地を管轄する労働局などに確認することをお勧めします。
4. 加算措置(有期雇用労働者加算)
これは、育児休業を取得した社員が、正社員ではなく契約社員やパート社員などの「有期雇用労働者」であった場合に、追加で支給される助成金です。
- 加算額
- 1人あたり10万円
- 条件
- 業務代替期間が1か月以上であること。
この加算は、育休を取りづらい立場にある有期雇用労働者の育休取得を企業が支援した場合に、より手厚くサポートすることを目的としています。
5. 加算措置(情報公表加算)
これは、自社の育児休業取得状況などを厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」で公表した場合に、追加で支給される助成金です。
- 加算額
- 1回限り2万円
- 公表内容
- 主に、以下の3つの項目を公表する必要があります。
- 雇用する男性労働者の育児休業等の取得割合
- 雇用する女性労働者の育児休業の取得割合
- 雇用する労働者(男女別)の育児休業の平均取得日数
- 主に、以下の3つの項目を公表する必要があります。
この加算(有期雇用労働者加算と情報公表加算)は、企業の育児休業取得状況を社会に「見える化」することで、より多くの企業が育児と仕事の両立支援に取り組むことを促す目的があります。
これらの加算は、メインとなる助成金(新規雇用または手当支給)と合わせて申請することで、より多くの助成金を受け取ることができます。
ただし、加算のみを単独で申請することはできません。
育児休業等業務代替支援コースの助成金|申請の流れと受給フロー
Aさんの事例に即した助成金受給フローです。
育児休業等業務代替支援コースの事例|前提条件
- Aさんの出産日
- 2025年7月26日
- Aさんの産前休業開始日
- 2025年6月14日
- Aさんの育児休業期間
- 2025年9月21日~2026年7月25日(子が1歳になる日の前日)
- 代替社員の雇用期間
- 現実的なフローとして、2025年6月頃からAさんの育休終了日まで
- Aさんの雇用形態
- パート社員(有期雇用労働者)
- 会社の取り組み
- 両立支援広場に情報公開済み
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1. 育児休業等業務代替支援コース|助成金申請手続きの流れ
助成金は、以下の3つのステップで進めます。
- 計画書の提出(育休開始前)
- 育児休業等業務代替支援コースを利用する旨を、Aさんの育児休業開始日である2025年9月21日の前日までに、管轄の労働局に届け出ます。
- 代替社員の雇用と業務引き継ぎ
- 業務をスムーズに引き継ぐため、Aさんの産前休業開始日である2025年6月14日より前に代替社員を雇用し、引き継ぎを行います。
- ポイント
- 助成金の対象期間は、Aさんが育児休業に入った2025年9月21日からとなります。それ以前の引き継ぎ期間は助成金の対象外です。
- 情報公表と助成金申請
- 情報公表の時期
- 両立支援広場への情報公表は、計画書の提出後かつ助成金の支給申請日までに行う必要があります。
- 最も一般的なのは、計画書提出時、またはその直後です。
- 助成金の申請時期
- 代替社員の雇用期間が終了した日以降、つまり2026年7月25日以降に、すべての書類を揃えて助成金の支給申請を行います。
- 情報公表の時期
2. もらえる助成金の合計金額
今回のケースでは、代替社員の雇用期間が6ヶ月を超えるため、以下の助成金をまとめて受け取ることができます。
- 新規雇用助成
- 67.5万円(雇用期間6ヶ月以上)
- 有期雇用労働者加算
- 10万円(育休取得者がパート社員のため)
- 情報公表加算
- 2万円(両立支援広場に情報公開済みのため)
合計金額: 79.5万円
まとめ|育児休業等業務代替支援コースを賢く活用して、働きやすい会社へ
「育児休業等業務代替支援コース」は、育児休業中の業務を円滑にカバーするためのコストを国が支援してくれる、非常に有効な制度です。
今回ご紹介したAさんの事例のように、たとえ有期雇用社員の育休であっても、新たな人材を雇用し、計画的に体制を整えることで、最大79.5万円もの助成金を受け取ることが可能です。
この制度をうまく活用すれば、育児休業を「企業の課題」ではなく「企業の成長機会」と捉えることができます。
従業員が安心して長く働ける環境を整えることは、企業の魅力向上にもつながる、重要な経営戦略の一つと言えるでしょう。
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次回予告|申請に必要な書類と注意点を徹底解説
今回は、新設された「育休中等業務代替支援コース」の概要と、具体的な受給金額とフローについて解説しました。
次回は、いよいよ助成金申請の実践編です。
実際に助成金を申請する際に「どんな書類が必要なのか?」「どこに提出するのか?」といった具体的な疑問にお答えします。
また、手続きをスムーズに進めるための重要な注意点も合わせてご紹介します。
この助成金に興味を持った方は、ぜひ次回の記事も参考にしてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟
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