本記事は「【社労士が解説】企業のための熱中症対策 実践講座」シリーズの第11話です。第1話は👉熱中症は「他人事」ではない!企業に求められる安全配慮義務の基礎
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「賃上げと熱中症対策が同時にできる助成金がある」と聞いたら、どう思いますか?
業務改善助成金は、従業員の賃金を引き上げながら、業務改善につながる空調設備や換気設備などの設備投資費用の一部を助成する制度です。
令和8年度は、事業場内最低賃金が1,050円未満の場合は4/5、1,050円以上の場合は3/4の助成率が基本です。
熱中症対策による生産性向上が賃上げを可能にする、という論理で活用できます。
この記事では、制度の仕組み、助成額の計算方法、対象となる設備を整理します。
前回の記事は👉働き方改革推進支援助成金で熱中症対策|申請手順と必要書類を解説
この記事でわかること
- 業務改善助成金が熱中症対策と結びつく仕組みと論理
- 助成金を受けるために必要な2つの要件(賃上げと設備投資)
- 助成率・助成上限額の計算方法と具体的な計算例
- 熱中症対策として認められる設備の具体例
- 申請時に注意すべきポイント
業務改善助成金とは?
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者を応援するための制度です。
この助成金の大きな特徴は、単に賃金を上げるだけでなく、賃金アップと同時に行う「生産性向上」の取り組みをセットで支援する点にあります。
具体的には、「従業員の賃金を引き上げます」という計画と、「その賃金アップを可能にするために、業務を効率化する機械を導入します」といった生産性向上のための設備投資の計画を立てる必要があります。
熱中症対策と生産性、賃金アップの繋がり
では、なぜ熱中症対策が賃金アップに繋がるのでしょうか?
この助成金の仕組みでは、その論理的な繋がりが重要になります。
夏の猛暑の中で働く従業員は、集中力の低下や体調不良のリスクが高まります。
これは業務効率を下げ、生産性の低下に直結します。
そこで、業務改善助成金を活用して空調設備や大型扇風機を導入すると、以下の良いサイクルが生まれます。
- 労働環境の改善
- 従業員が快適に働けるようになり、熱中症のリスクが減ります。
- 生産性の向上
- 集中力が維持され、作業効率が上がります。
- これが「生産性向上」として認められるポイントです。
- 賃金アップの実現
- 向上した生産性によって会社の利益が生まれ、それが従業員の賃金上昇につながります。
この一連の取り組みを支援するために、国から助成金が支給されるのです。
誰が業務改善助成金を支給してくれるのか?
「生産性向上」として認め、助成金を支給するのは、各都道府県にある労働局です。
企業が提出した助成金申請書類は、労働局の担当者によって審査されます。
この審査では、熱中症対策のための設備投資が、企業の「生産性向上」にどのようにつながるのか、その計画が妥当であるかが詳細にチェックされます。
たとえば、「空調設備の導入によって作業場の温度が下がり、従業員の集中力が向上することで、不良品の発生率が減る」といった論理的な説明が求められます。
この計画が労働局に認められると、助成金の交付が決定されます。
この制度は、賃金アップの努力と、それを可能にするための工夫を両方行う企業を、国が後押しするためのものだと考えてください。
業務改善助成金を受けるための2つの基本要件
業務改善助成金は、「賃金を上げる努力」と「それを可能にする工夫」の両方を応援する制度です。
そのため、支給を受けるには以下の2つの要件を同時に満たす必要があります。
要件①|従業員の賃金を引き上げること
まず、事業場内(会社全体または一部の部署)の最低賃金を引き上げる必要があります。これは、時給制の従業員だけでなく、月給制の従業員も対象となります。
時給制の場合
令和8年度は50円・70円・90円の3コースです。事業場内最低賃金を、選択したコース以上引き上げます。
- 例
パート従業員の時給を現在の1,177円から1,227円以上に引き上げる。(50円コースの場合)
月給制の場合
月給制の従業員については、最低賃金が時給換算で引き上げ目標額を上回るように調整します。
- 例
- 月給20万円、所定労働時間160時間の場合、現在の時給は1,250円。
- ここから50円以上の賃金アップを目指す場合、時給換算で1,250円から1,300円以上に引き上げる必要があります。月給に換算すると20万8,000円(160時間×1,300円)以上となります。
この賃金引き上げは、これから実施するという計画を、賃金規定や就業規則、労働条件通知書などで明確に示し、助成金の申請時に提出することが求められます。
また、実際に引き上げた後は、賃金台帳などで証明できるように準備しておく必要があります。
要件②|生産性向上につながる設備投資を行うこと
賃金を引き上げても会社の経営が苦しくならないよう、業務効率化や労働環境改善につながる設備投資を行う必要があります。この「生産性の向上」は、単に売上が上がることだけを指すわけではありません。
この「生産性向上」を、誰が、どのように判断するのかというと、助成金を支給する労働局が、企業が提出する「業務改善計画書」の内容を見て判断します。
労働局がチェックするポイント
労働局は、企業が熱中症対策として導入する設備が、単なる快適性の向上だけではなく、会社の生産性向上にどれだけ貢献するかを具体的に審査します。
- 改善前と改善後の違い
- 設備導入前と後で、生産性がどう変わるかを具体的に示します。
- 客観的な数値
- 「作業効率が〇〇%アップする」「不良品の発生率が〇〇%減少する」といった、できるだけ具体的な数値を盛り込みます。
- 論理的な因果関係
- 「空調設備の導入で作業場の温度が下がる」→「従業員の集中力が高まる」→「作業ミスが減る」→「生産性が向上する」というように、論理的なつながりを明確に説明します。
このように、単に「エアコンを買います」と書くだけではなく、「熱中症対策が生産性向上に繋がる」というストーリーを、具体的かつ論理的に説明することが、助成金を受け取るための鍵となります。
業務改善助成金はいくらもらえる?計算方法と上限額
最も気になるのは、「一体いくら助成金がもらえるのか?」という点でしょう。
助成金額は、以下の2つの金額を比べて、低い方が支給されます。
「設備投資等にかかった費用 × 助成率」と「助成上限額」
助成率と上限額の詳細
助成率
助成率は事業場内最低賃金によって異なります。令和8年度は、事業場内最低賃金が1,050円未満の場合は4/5、1,050円以上の場合は3/4です。
これは、賃金水準が低い事業場ほど手厚く支援するという考え方に基づいています。
ただし現在、多くの都道府県の最低賃金は1,050円を超えています。大阪府の最低賃金は1,177円のため、大阪府内の事業場では助成率は一律3/4(75%)となります。
自社の事業場がある地域の最低賃金を事前に確認してください。
助成上限額
令和8年度は賃上げコースが50円・70円・90円の3コース制です。
上限額は賃金を引き上げる人数や金額に応じて変わります。以下の表を参考に、自社のケースに当てはめてみてください。
以下の表は賃金を引き上げる金額(コース)と、対象となる従業員の人数によって、助成金として受け取れる上限額がどれくらいになるのかを一覧でまとめたものです。
| 賃金引き上げ額 | 助成対象労働者数 | 助成上限額 |
| 90円以上 | 1人 | 50万円 |
| 2人 | 120万円 | |
| 3人 | 180万円 | |
| 4人 | 240万円 | |
| 5人 | 300万円 | |
| 6人 | 360万円 | |
| 7人以上 | 450万円 | |
| 70円以上 | 1人 | 40万円 |
| 2人 | 100万円 | |
| 3人 | 150万円 | |
| 4人以上 | 200万円 | |
| 50円以上 | 1人 | 30万円 |
| 2人 | 60万円 | |
| 3人 | 80万円 | |
| 4人以上 | 90万円 |
※上記は令和8年度の制度内容を前提にした整理です。実際の申請前に、厚生労働省の最新案内で要件と上限額を確認してください。
なお令和8年度の申請受付は9月1日から開始され、地域別最低賃金の発効日前日または11月末日のいずれか早い日が締切となります。
申請期間が短期集中型のため、設備の見積取得や申請準備は8月までに進めておくことをおすすめします。
具体的な計算例でイメージしよう
では、実務でよくあるケースで計算してみましょう。
ケース1 熱中症対策に200万円かかる場合
従業員3人の賃金を50円引き上げ、熱中症対策として空調設備に200万円かかったとします。
事業場内最低賃金が1,050円以上(大阪府の場合は一律該当)のため、助成率は3/4(75%)です。上限額は(上の表から)80万円です。
- 「費用 × 助成率」
- 200万円 × 3/4 = 150万円
- 「助成上限額」
- 80万円
この2つを比べて、低い方の80万円が助成金として支給されることになります。
ケース2 熱中症対策に80万円かかる場合
同じく従業員3人の賃金を50円引き上げ、熱中症対策として大型扇風機やWBGT測定器に80万円かかったとします。助成率は3/4(75%)、上限額は(上の表から)80万円です。
- 「費用 × 助成率」
- 80万円 × 3/4 = 60万円
- 「助成上限額」
- 80万円
この2つを比べて、低い方の60万円が助成金として支給されることになります。
このように、助成金の金額は「設備投資にかかった金額」と「上限額」のどちらか低い方になります。
そのため、申請前にしっかりと計画を立てることが重要です。
熱中症対策は業務改善助成金の対象?
業務改善助成金は、賃金アップと同時に行う「生産性向上」の取り組みを支援するものです。
そして、熱中症対策のための労働環境改善も、生産性向上に繋がるものとして認められています。
では、どのようなものが具体的に助成金の対象になるのでしょうか。
対象となる設備の具体例
熱中症対策として認められる設備投資の例をいくつかご紹介します。
- 空調設備
- 換気設備
- 作業場全体の空気を循環させる大型の換気扇やシーリングファン。
- 休憩環境の整備
- 従業員が休憩中に涼を取れるように、冷水器やウォーターサーバー、塩分補給用のタブレットなどを設置する費用。
- 暑さの「見える化」
- 暑さ指数(WBGT)を測定する機器(WBGT測定器)の購入。
- リスクを可視化し、適切なタイミングで休憩を促すために役立ちます。
注意すべきポイント
ただし、どんな設備でも対象になるわけではありません。
汎用性の高い設備は、本来の目的以外にも使えるため、助成金の対象から外れる可能性があります。
- PCや車両
- これらの設備は、業務効率化に繋がりますが、熱中症対策に特化したものではないため、原則として対象外となります。
あくまで「熱中症対策」として、労働環境改善と生産性向上に直接的に結びつく設備を選ぶことが重要です。
申請する際は、その設備がどのように熱中症対策に役立ち、生産性向上に貢献するのかを、明確に説明できるようにしておきましょう。
まとめ|賃上げと熱中症対策を同時に進める制度
熱中症対策のための空調設備や換気設備の導入が生産性向上として認められます。
支給額は「設備投資費用×助成率」と「助成上限額」を比較して低い方になるため、申請前に自社の賃金水準と賃上げ人数を確認し、上限額を把握しておきましょう。
次回予告|業務改善助成金の申請から支給までの完全ガイド
次回は、業務改善助成金の申請手順と必要書類を解説します。
申請から支給までの具体的な流れと、手続き上の落とし穴を事前に把握しておきたい経営者にとって、すぐに使える情報をお届けします。
次回の記事は👉熱中症対策に活用できる業務改善助成金の申請方法とポイント
ぜひ続けて読んでみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟
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- 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
- 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。

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