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【企業向けガイド】有給休暇の取得希望と会社の対応|時季指定権・時季変更権の正しい運用法

年次有給休暇 時季変更権 時季指定権 労務の基礎知識
時季指定権と時季変更権の留意点
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本記事は「知っておきたい!年次有給休暇のすべて」シリーズのvol3です。

vol1は👉年次有給休暇の基本と付与のルール(企業担当者|中小企業経営者向け)

前回は、シフト制アルバイトの有給休暇について詳しく解説しました。

前回の記事は👉シフト制アルバイトの有給休暇管理、これで完璧!人事担当者向け

週によって勤務日数が変動する短時間労働者への有給休暇の付与や、その取得時の賃金計算、さらには日々の運用でつまずきやすいポイントなど、ご理解いただけたと思います。

今回は、有給休暇の取得タイミングを巡る2つの権利──労働者の「時季指定権(じきしていけん)」と、会社の「時季変更権(じきへんこうけん)」について解説します。

「繁忙期に有給を申請されたら拒否できる?」「会社の都合で取得日を変更してもいい?」といった疑問は、人事・総務ご担当者の皆さまからよく寄せられるご相談です。

この2つの権利を正しく理解することが、有給休暇を巡るトラブル回避の第一歩になります。

この記事で分かること

  • 有給休暇は会社の「承認」がいる?それとも労働者が決めるもの?意外と誤解されがちな時季指定権の正体
  • 「繁忙期だから」はNG?時季変更権が認められる条件・認められない条件
  • 時季変更権を行使するとき、会社がやってはいけないこと・やるべきこと
  • 代わりの休暇日は誰が決める?実は会社ではなく労働者側というルール
  • トラブルを未然に防ぐ、就業規則の整備と職場づくりのポイント

有給休暇で必ず押さえるべき権利|労働者の時季指定権とは

年次有給休暇(有給)は、働く労働者にとって非常に重要な権利です。その中でも特に核となるのが、「時季指定権(じきしていけん)」です。

これは、従業員が「この日に有給を取りたい」と会社に伝える権利のことです。

「いつ休むか」は労働者が決める!時季指定権のポイント

この権利のポイントは、従業員が希望する時季に有給休暇を取得できるという点にあります。

原則として、従業員が希望した日に有給休暇を与える義務が会社にはあります。

「従業員から申請があれば、会社が承認・許可してはじめて取得できる」と誤解している方も少なくありませんが、実は違います。

有給休暇は、会社が「許可します」「許可しません」と自由に決められるものではないのです。従業員が「休みたい」と伝えれば、会社はその希望に応えるのが原則です。

つまり、従業員が「○月○日に有給を取りたいです」と伝えれば、会社はその希望を基本的に拒否することはできず、その日に有給休暇を与える義務がある、ということになります。

有給休暇の希望日取得方法|時季指定権の使い方と申請ポイント

時季指定権を使う方法は、法律上、口頭でも有効です。

ただし、後から「言った」「言わない」といったトラブルになるのを避けるため、有給休暇申請書など、書面で申請してもらうルールを設けておくことをおすすめします。

従業員が申請する際は、あくまで「この日に休みます」という「時季の指定」であり、「許可」を求めるものではないという点を、就業規則の説明会などで周知しておくと、双方の誤解を防げます。

もちろん、会社の就業規則に申請期限が書いてある場合は、それに従うのが一般的です。

補足

  • ここで言う「申請期限」は、会社が従業員に義務付ける期限のことです。
  • 例えば「1週間前までに申請してね」といったものです。会社が従業員に「半年前までに申請しろ」といった、あまりにも長すぎる(=合理的ではない)期間を義務付けることは、法的に認められない場合があります。
  • しかし、従業員が自主的に、例えば3ヶ月前や半年前といった早い段階で有給休暇を申請することは、会社側にとっては非常に望ましいことです。会社は代替要員の確保や業務調整を計画的に行えるため、大歓迎されるでしょう。

有給休暇の時季指定権|押さえておきたい重要ポイントと注意点

時季指定権に関して、ぜひ知っておいてほしい重要なポイントがいくつかあります。

まず、有給休暇は、休む理由を会社に伝える必要がありませんし、会社がその理由によって取得を拒否することもできません。「私用のため」と伝えれば、それで十分なのです。

ただし、一つ例外があります。「計画的付与(けいかくてきふよ)制度」が導入されている会社の場合、従業員が持つ有給休暇の一部については、会社が取得日をあらかじめ指定することがあります。

この制度は、従業員が自由に休む日を決められる権利を一部制限するものですが、会社と従業員の代表が話し合って合意の上で導入されます。

この計画的付与制度については、次回の第4話で詳しく解説しますので、そちらもぜひ参考にしてください。

有給休暇の時季変更権|会社が行使できる唯一の調整手段

従業員の「この日に有給を取りたい」という希望は、原則として会社に受け入れる必要があります。しかし、会社には唯一、その希望を一時的に変更できる権利があります。

それが「時季変更権(じきへんこうけん)」です。

時季変更権は「事業の正常な運営を妨げる場合」のみ行使可能

「事業の正常な運営を妨げる」とは、具体的にどのような状況を指すのでしょうか?

単に「人手が足りないから」「今は忙しい時期だから」といった抽象的な理由では、時季変更権は認められません。

会社が時季変更権を行使するには、以下のような客観的かつ合理的な理由が必要です。

1. 代替要員の確保が著しく困難である場合

  • 例えば、特定のスキルを持つ従業員がその日しか出勤しておらず、かつその日にしかできない緊急性の高い業務がある場合などです。

2. その時季でなければ対応できない緊急の業務がある場合

  • 突発的なトラブル対応や、納期が迫った重要なプロジェクトの最終局面など、その日を逃すと事業に重大な損害が出るといった状況です。

過去の裁判の判例を見ても、「代わりの人がいない」「忙しくなる」という理由だけで時季変更権が認められなかったケースは多く、非常に厳しく判断されます。

時季変更権が認められるのは、会社が代替要員の確保や業務の調整など、できる限りの手を尽くしたにもかかわらず、どうしても業務に支障が出る場合に限られる、ということを覚えておきましょう。

有給休暇の時季変更権|行使方法と企業の注意点

会社が時季変更権を行使する場合、いくつか守るべきルールがあります。

まず、会社は具体的な理由(事業の正常な運営を妨げる事情)を、従業員に対してできるだけ丁寧に伝える努力が求められます。

ここで気をつけたいのは、代わりの休暇日をいつにするかを決めるのは、法律上従業員自身(労働者側)であり、会社が一方的に「○月○日にしてください」と指定する権利はないという点です。

一方的に「有給は取れない」とだけ伝えて終わらせるのではなく、業務状況を共有したうえで、いつなら取得できそうか従業員と話し合う姿勢が会社には求められます。

そして最も重要なのは、時季変更権を行使しても、有給休暇自体が消滅するわけではないということです。

あくまで「取得する時季」を変更するだけであり、従業員の有給休暇の権利自体は残ります。

もし、会社から伝えられた事情を踏まえても、いつ取得し直すかについて話し合いで合意に至らない場合は、有給休暇の取得を巡るトラブルに発展する可能性があります。

そうならないためにも、お互いが法律のルールを理解し、誠実に話し合う姿勢が大切です。

有給休暇トラブル回避|企業が実践すべきスムーズ運用術

年次有給休暇を巡るトラブルは、ほとんどの場合、法律の知識不足とコミュニケーション不足から生じます。

「時季指定権」と「時季変更権」のルールを理解した上で、会社と従業員が日頃から協力し合うことで、こうしたトラブルは大きく減らせます。

企業が取り組むべき有給休暇対策|従業員が取得しやすい職場づくり

会社には、従業員が気持ちよく有給休暇を取得できるよう、積極的に環境を整える責任があります。

就業規則にしっかり明記し、周知する

  • 有給休暇の申請方法や、時季変更権を使う可能性があるケースなど、ルールを就業規則に分かりやすく記載し、すべての従業員にきちんと伝えておきましょう。
  • 透明性があれば、従業員も安心して申請できます。

早めに調整し、しっかり話し合う

  • 従業員から有給休暇の申請があったら、特に繁忙期や長期休暇の希望など、業務への影響が大きそうな場合は、早めに本人と話し合いの場を設けましょう。
  • 一方的に拒否するのではなく、「この日は難しいんだけど、いつ頃なら都合がつきそう?」と従業員の希望を聞きながら一緒に調整するなど、業務への影響を最小限に抑えつつ、従業員の希望を最大限尊重する姿勢が大切です。

理由を明確に、丁寧に説明する

  • もし、やむを得ず時季変更権を行使する場合は、なぜその日では困るのか、具体的な理由を明確に伝えましょう。
  • 例えば、「その日は〇〇のプロジェクトの最終確認があり、あなたの専門知識が不可欠なんです」といったように、従業員が納得できるような丁寧な説明と、業務状況の共有が不可欠です。

業務の属人化を防ぎ、複数人で対応できるようにする

  • 特定の人しかできない業務が多いと、その人が休むだけで業務が滞ってしまいます。
  • 日頃から業務の分担を見直したり、複数人が様々な業務をこなせるように育成したりする(多能工化)努力をしましょう。
  • これにより、「あの人がいないと困る」という状況を減らし、従業員が気兼ねなく有給休暇を取れる体制を築けます。

従業員にも知っておいてほしいポイント|協力を引き出すための伝え方

従業員も、自分の権利を主張するだけでなく、会社との協力関係を築くことで、よりスムーズに有給休暇を取得できます。

  • 早めに申請してもらう
    • 従業員には、会社が業務調整をしやすいよう、余裕を持って有給休暇を申請するよう日頃から伝えておくとよいでしょう。
    • 特に長期の休暇や、繁忙期に取得したい場合は、できるだけ早めに伝えることで、会社も代替要員の確保や業務の引き継ぎなどを計画的に行いやすくなります。
  • 会社の事情にも理解を促す
    • 有給休暇は権利ですが、会社も事業を継続していく必要があります。
    • 極端な話、全員が同じ日に休んでしまえば、事業は立ち行かなくなります。
    • 会社の正常な運営に大きな支障が出る可能性がある場合は、その事情を従業員にも丁寧に説明し、協力を求める姿勢が会社側にも必要です。
  • 代替の取得日について話し合ってもらう
    • 会社から時季変更権を行使された場合、従業員には一方的に拒否するのではなく、いつ取得し直すかについて会社と話し合う姿勢を持ってもらうことが、円滑な解決につながります。
    • お互いが譲り合うことで、納得のいく解決策が見つかることも少なくありません。

まとめ|企業が押さえるべき有給休暇の権利と義務のバランス

ここまで、年次有給休暇における「時季指定権」と「時季変更権」という二つの重要な権利について詳しく見てきました。

改めて強調したいのは、年次有給休暇は、働く労働者に法律で保障された大切な「権利」であるということです。

そして、会社には、その権利を行使できるよう有給休暇を取得させる「義務」があります。

有給休暇トラブル回避のために企業が実践すべき運用ポイント

有給休暇を巡るトラブルの多くは、この権利と義務の関係性、そしてそれぞれのルールの理解不足から生まれます。

円滑な有給休暇の運用には、法律のルールを正しく理解するだけでなく、会社と労働者双方の協力と、日頃からの良好なコミュニケーションが不可欠です。

お互いが「時季指定権」と「時季変更権」のルールを正しく理解し、互いの立場や事情に配慮することで、有給休暇はストレスなく取得できるものになります。

時季変更権」は、あくまで会社が事業の正常な運営を守るための例外的な手段であり、むやみに使えるものではないということを、ぜひ覚えておいてください。

有給休暇で会社も従業員もWin-Winの関係へ

有給休暇の適切な取得は、従業員の心身のリフレッシュを促し、仕事へのモチベーション向上につながります。

それが結果的に、従業員の満足度向上ひいては会社の生産性向上や持続的な発展にもつながる、という良い循環が生まれるんです。

つまり、有給休暇は単なる権利義務の話に留まらず、会社と従業員が共に成長していくための大切な要素とも言えるでしょう。

次回予告|計画的付与制度を活用して企業も従業員もメリットを享受

さて、今回の記事で触れたように、会社が有給休暇の取得日を一部指定できる「計画的付与制度」というものがあります。

これは、労使が協力することで、会社も従業員も予測可能で、より計画的に有給休暇を取得できるメリットがある制度です。

次回の、「知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol4」では、この年次有給休暇の計画的付与制度について、その仕組みから、会社と従業員双方にとってのメリット・デメリット、導入時の注意点まで、詳しく解説していきます。

次回の記事は👉【企業向け徹底解説】計画的付与制度の基礎と導入ステップ

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戸塚淳二
この記事を書いた人
  • 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
  • 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わる様々な課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を初めての方にもわかりやすくお伝えします。

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