本記事は「会社員の給料とお金の基本」シリーズの第12話です。
私は現在、社会保険労務士として自分の事務所を運営しながら、会社員としても働いています。
このように日々実務に携わっていると、職場の同僚はもちろん、顧問先の従業員の方からも「社労士の先生なら詳しいだろうから教えて」と、給与や扶養について質問されることがよくあります。
なかでも特に多いのが、パートで働いている方々からのこんなリアルな声です。
- 「主人の会社の人から『パートをしてるなら収入金額に気を付けてね』と言われたんです……」
- 「やっぱり、130万円を1円でも超えてしまったら一発アウトで、すぐに扶養から外されちゃうんですか?」
配偶者の勤務先から釘を刺されると、「もし超えたらどうしよう」と不安になりますよね。
このような疑問や、パートの現場を悩ませる「130万円の壁」の本当の判定ルールについては、以下の別記事で実務の視点から徹底的に詳しく解説しています。気になる方はぜひ合わせて参考にしてください。
【社労士が解説】130万円の壁の「本当のルール」は👉130万円の壁が変わる|2026年4月新ルールを社労士が解説
前回の記事では、給与明細の右側にある「控除(天引きされるお金)」の仕組みを解説しました。
毎月機械的に引かれていく健康保険や厚生年金、所得税そして住民税。
実は、その天引き額(特に自分で払う社会保険料)に最も大きな影響を与える強力な仕組みが、今回テーマにする「扶養(ふよう)」です。
前回の記事は👉2026年版|給与明細の控除とは?手取りの仕組みを社労士が解説
ネットやニュースを見ていると「103万円の壁」「130万円の壁」など、さまざまな数字が飛び交っていて、「結局、私はどれを気にすればいいの?」と混乱してしまいますよね。
細かい数字の計算に頭を悩ませる前に、まずは頭の中に「扶養の全体マップ」を描くことが最優先です。
ここを間違えると、良かれと思って増やしたシフトのせいで、あとから大損することにもなりかねません。
この記事で分かること
- 税金の扶養と社会保険の扶養の違い
- パート主婦がまず押さえるべき103万円・106万円・130万円の意味
- 次回以降で詳しく学ぶための扶養の全体像
今回は、細かい専門用語に振り回される前に、まず頭に入れておくべき「扶養の全体マップ」を社労士の視点で分かりやすく整理します。
自分が今どのステージにいるのか、まずは全体像をすっきりクリアにしていきましょう!
大前提|「税金」と「社会保険」の扶養は完全に別モノ
パートで働く方から相談を受けていて、一番多く見られる勘違いがあります。
それが、「税金の扶養(103万円など)に入っているから、社会保険(健康保険や年金)の扶養も自動的に手続きできているはず」という思い込みです。
はっきり申し上げますと、この2つは名前こそ同じ「扶養」ですが、中身は完全に別の制度です。
まずは、この2つを頭の中でしっかりと切り離すことから始めましょう。
なお、一口に「税金の壁」と言っても、実は「所得税」と「住民税」の2種類があり、それぞれ基準が異なります。
そのため、パートの現場で飛び交う数字は、単に「税金」と「社会保険」という2つの大きな枠組みだけでなく、内訳まで含めると少し複雑に見えてしまうのです。
まずは、皆さんが今気にされている「扶養」という言葉が、具体的にどのような基準で動いているのか。その全体像を以下の表で整理しました。
【ひと目でわかる】2つの扶養の違い
| 項目 | 所得税の扶養 | 住民税の扶養 | 社会保険の扶養 |
| 主な目的 | 国税(所得税)の軽減 | 地方税(住民税)の軽減 | 本人の保険料免除 |
| 主な基準 | 136万・169万 | 約100万前後(自治体による) | 106万・130万 |
| 管轄 | 国税庁(税務署) | 各市区町村 | 日本年金機構/健保組合 |
| 判定ルール | 過去1年間の合計所得 | 過去1年間の合計所得 | 今後の見込み年収 |
なぜ「別モノ」と知っておく必要があるのか?
上の表を見ていただくと分かる通り、そもそもルールを仕切っている国(窓口)が全く違います。
「税金の扶養」は税務署の管轄で、目的は「税金を安くすること」です。年末調整の書類に名前を書けば、夫(妻)の所得税や住民税が減るという形でメリットが返ってきます。
一方で、「社会保険の扶養」は年金機構や健康保険組合の管轄で、目的は「本人の健康保険料や年金保険料を免除すること」です。こちらは配偶者の会社を通じて、個別に厳しい審査を受けて初めて認められます。
最大の違いは「通勤手当」の扱い
特に実務の上で注意が必要なのが、「どこまでの収入をカウント対象にするか」という範囲の違いです。
お給料と一緒にもらう「通勤手当(交通費)」は、税金の扶養を判定する場合、所得税法上の非課税枠(月15万円まで)にあたるものは収入のカウントから除外することができます。
しかし、社会保険の扶養を判定するときには、この通勤手当もすべて収入としてカウントしなければなりません。
たとえば、基本給やシフトの収入だけで見れば「税金の扶養内(136万円以下)」かつ「社会保険の扶養内(130万円未満)」にきれいに収まっている人でも、毎月支給される通勤手当を上乗せすると、社会保険の判定基準(月額10万8,333円以上など)をオーバーしてしまうケースがあります。
本人が気づかないうちに「社会保険の壁」だけを突破して、手続きの段階で慌ててしまうのは、この2つのレールの計算ルールのズレが原因です。
まずは、「税金の壁」と「社会保険の壁」は全く違う基準で動いているのだ、ということをしっかりと押さえておきましょう。
2026年|「年収の壁」一覧
実務上意識すべき「年収の壁」の正しい境界線と判定ルールは以下の通りです。
| 壁の金額 | レールの種類 | 境界線の内容・注意点 |
| 約110万円 | 住民税の壁 | 自治体ごとの条例による課税ライン(給与所得者)。所得税より先に住民税が発生します。 |
| 106万円 | 社会保険の壁 | 従業員数51人以上の企業等で、勤務先の社会保険加入が必要になるライン。※2026年10月に賃金要件(106万円)自体が撤廃される予定があり、今後ルールが変わる可能性があります。 |
| 130万円 | 社会保険の壁 | 企業規模に関わらず、家族の健康保険・年金の扶養から外れるライン。 |
| 150万円 | 社会保険の壁 | 19歳〜23歳未満の学生等を対象とした、被扶養者認定の特例ライン。 |
| 178万円 | 所得税の壁 | 所得税の課税開始ライン(2026年からの新基準)。 |
| 180万円 | 社会保険の壁 | 60歳以上または障害者の場合における、被扶養者認定の特例ライン。 |
社会保険の壁(106万円・130万円・150万円/180万円)
最も働き方に直結する社会保険の扶養基準は、金額だけでなく「働き方の条件」や「契約」で判定されます。
- 106万円(勤務先での社保加入)
- 単に年収だけでなく、「週の労働時間が20時間以上」「学生ではない」などの複数条件に加え、勤務先の従業員数が51人以上の企業である場合に本人が社会保険に加入となります。
- 130万円(家族の扶養から外れる目安)
- 健康保険の被扶養者から外れる基準です。2026年4月からは「契約上の年収が130万円未満」であれば、突発的な残業代等によって実際の収入が一時的に130万円を超えても扶養を維持できるようになっています。
- 130万円の壁の「本当のルール」はこちらこの契約ベースでの判定ルールや、実務における具体的な運用方法については、コチラで詳しく解説しています。👉130万円の壁が変わる|2026年4月新ルールを社労士が解説
- 150万円 / 180万円(特定の家族の特例)
- 19歳以上23歳未満の被扶養者(被保険者の配偶者を除く)については、健康保険の被扶養者認定における年間収入要件が、令和7年10月1日から130万円未満→150万円未満に引き上げられています。
- なお、税金側の「特定親族特別控除」にも同じ19〜23歳という年齢層を対象にした控除があり、そちらは令和8年度税制改正で159万円まで引き上げられていますが、これは別の制度(親の所得税の控除)の基準なので混同しないようご注意ください。
- 60 歳以上・障害者の場合は180万円です 。

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税金の壁(103万円・136万円・169万円)
税金の扶養レールにおいては、現在の基準に合わせた以下の数字が適用されます。
- 103 万円
- 給与収入のみで基礎控除を受けても所得税が課税される実質的な課税開始ラインです(所得 48 万円以下は非課税)。
- ※103万円は「パート本人」の所得税のかつての基準(現在は178万円)、136万円・169万円は「配偶者や親」が受ける控除の基準です。対象者が違う点にご注意ください。
- 136万円(旧123万円)
- 扶養控除・配偶者控除の対象となるかどうかの収入ラインです。
- 令和7年度税制改正でいったん103万円→123万円に拡大された後、 令和8年度税制改正でさらに136万円(所得62万円以下)まで 引き上げられました。
- 2026年時点で実務上の目印にすべきは、 この136万円です。
- 169万円(旧160万円)
- 令和7年度税制改正時点の基準額です。令和8年度税制改正でさらに引き上げられ、配偶者特別控除が満額(38万円)受けられる上限は169万円になっています。
- 配偶者特別控除は、配偶者の給与収入が136万円超〜169万円以下であれば配偶者控除と同額(38万円)、169万円超〜207万円以下では段階的に減少し、207万円を超えるとゼロになります(令和8年分以後)。
まとめ|税金と社会保険の扶養を正しく区別する
パートの現場で飛び交う「扶養」という言葉は、実は「住民税」「所得税」「社会保険」という3つの異なる制度の合計点です。
所得税の壁が178万円へと大幅に引き上げられ、税金面でのハードルは大きく下がりました。
しかし、忘れてはいけないのが、所得税よりも低い金額で発生する場合がある「住民税の壁」と、制度自体が全く別物である「社会保険の壁(106万・130万)」の存在です。
今回の全体マップを頭の片隅に置いておくことで、今後それぞれの関門が具体的にどういう仕組みなのかを理解しやすくなるはずです。
まずは「税金と社会保険は別モノであり、税金の中にも2つの関門がある」という全体構造を切り離して整理しておくことが、自分に合った働き方を見つけるための第一歩となります。
次回予告|所得税における扶養の深掘り
今回の全体マップを踏まえ、次回からは「結局、私にとって何が一番重要なの?」という疑問に、より実務的な視点から回答していきます。
まずは「税金の壁」を深掘りします。所得税・住民税の仕組みや、配偶者(特別)控除が段階的に縮小していくことで、最終的に世帯の手取りがどう変化するのか。
難しい計算式は抜きにして、皆さんが気にすべきポイントを具体的に解説します。

- 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|29240010号)
- 会社員歴30年以上、転職5回を経験した氷河期世代の社会保険労務士です。自らが激動の時代を生き抜いたからこそ、机上の空論ではない、働く人の視点にたった情報提供をモットーとしています。あなたの働き方と権利を守るために必要な、労働法や社会保険の知識、そしてキャリア形成に役立つヒントを、あなたの日常に寄り添いながら、分かりやすく解説します。
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