知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol4【徹底解説】計画的付与制度の基礎と導入ステップ

スポンサーリンク
年次有給休暇 計画的付与制度の基礎 労務の基礎知識
計画的付与の導入について
スポンサーリンク
スポンサーリンク
社会保険労務士 戸塚淳二

執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二

戸塚淳二社会保険労務士事務所の代表として、日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方、人事制度の整え方まで、はじめての方にもわかりやすく解説することを心がけています。本記事では、「これだけは知っておきたい」労務の基礎について、専門家の視点からやさしくお伝えします。

社会保険労務士登録番号:第29240010号

現代社会において、従業員が柔軟に働ける環境を整備することは、多くの企業にとって喫緊の課題です。

2019年4月から本格的に施行された「働き方改革関連法」以降、政府は「働き方改革」を推進し、2025年4月の改正育児・介護休業法施行による男性育休取得の促進や、年次有給休暇の確実な取得など、様々な角度からワークライフバランスの向上を後押ししています。

とりわけ、従業員が気兼ねなく休みを取り、心身をリフレッシュすることは、企業の生産性向上にも直結します。

そんな中で注目されるのが、有給休暇の計画的な取得を促すための施策の一つ、計画的付与制度です。

スポンサーリンク

計画的付与制度とは? その目的とメリット

「有給は取りたいけれど、周りの目が気になる」「業務が忙しくて、なかなか有給消化が進まない」――こんな悩みを抱える従業員、そして「有給消化率を上げたいけれど、業務が回らなくなるのは困る」と考える企業、双方の課題を解決する可能性があるのが年次有給休暇の計画的付与制度です。

制度の概要

計画的付与制度とは、労働基準法第39条第6項に基づいて、労働者が持つ年次有給休暇のうち5日を超える部分について、企業が労働者との間で労使協定を結ぶことで、計画的に取得日を割り振れる制度です。

これは、年次有給休暇を「従業員が請求したときに与える」という原則から一歩踏み込み、企業側が主導して有給休暇の取得日をあらかじめ定めることができる点が特徴です。

ただし、最低5日間の有給休暇は、従業員が自由に取得できる日として残しておく必要があります。

制度導入の主な目的

この制度を導入する目的は、主に以下の3点です。

  • 労働者の年次有給休暇取得促進
    • 従業員が「有給を取りたい」と考えていても、業務の都合や周囲への遠慮からなかなか申請できないケースは少なくありません。
    • 計画的付与により、企業側が取得日を定めることで、従業員は気兼ねなく有給休暇を取れるようになります。
  • 企業側の業務計画の安定化
    • 従業員が各自でバラバラに有給を取得すると、業務の繁閑時期に人員が不足したり、突発的な欠員が生じたりして、業務に支障が出る可能性があります。
    • 計画的付与によって、企業はあらかじめ人員配置や業務計画を立てやすくなります。
  • 有給消化率の向上
    • 上記の理由から、結果として企業全体の有給休暇消化率の向上が期待できます。
    • これは、企業のコンプライアンス遵守だけでなく、従業員のワークライフバランス向上にも繋がります。

企業と労働者双方のメリット

計画的付与制度は、単に企業の義務を果たすためだけでなく、企業と労働者の双方にとって大きなメリットをもたらします。

企業側のメリット

  • 業務の繁閑に合わせた休暇取得の促進
    • 年末年始やゴールデンウィーク、夏季休暇など、比較的業務が落ち着く時期に有給休暇を充てることで、効率的に有給消化を進められます。
  • 計画的な人員配置と業務遂行
    • あらかじめ休暇取得日が決まっているため、人員配置やプロジェクトの進行計画が立てやすくなり、業務の停滞を防げます。
  • 突発的な欠勤の減少
    • 計画的に有給消化が進むことで、従業員が無理なくリフレッシュでき、病欠など突発的な欠勤の減少にも繋がります。
  • 年5日取得義務化への対応
    • 労働基準法で義務付けられている「年5日の有給休暇取得」を確実に達成するための有効な手段となります。未取得による罰則リスクを軽減できるでしょう。
人事労務管理ならこれ!

水町詳解労働法 第3版 公式読本 単行本 – 2024/6/16
水町 勇一郎 (著)

この本は、『詳解 労働法〔第3版〕』をテキストとした全16回のセミナー(2023年11月から2024年3月に日本法令にて開催)で、毎回参加者から提起された質問にその場で答えたものを原稿化し、Q&Aにまとめたものであります。非常に参考になります。👉Amazonより

労働者側のメリット

  • 遠慮なく有給休暇が取得できる
    • 会社が取得日を指定してくれるため、上司や同僚に気を遣うことなく、堂々と有給休暇を取ることができます。
  • リフレッシュ機会の確保
    • 定期的に休暇が確保されることで、心身のリフレッシュが促され、モチベーション維持や生産性向上に繋がります。
  • 家族や友人との予定が立てやすい
    • 計画的に休暇日が決まることで、家族旅行や友人とのイベントなど、プライベートな予定を立てやすくなります。
  • 有給の消滅時効(2年)対策
    • 有給休暇には2年間の消滅時効があります。計画的付与によって定期的に消化できるため、「せっかくの有給が消滅してしまった」という事態を防ぎやすくなります。

このように、計画的付与制度は、単なる法令遵守のツールではなく、労使双方にとってWin-Winの関係を築き、より良い職場環境を実現するための有効な手段と言えるでしょう。

スポンサーリンク

計画的付与制度の導入要件と手順

計画的付与制度が企業と従業員双方にとってメリットのある制度であることはご理解いただけたかと思います。

しかし、この制度は「会社が勝手に有給休暇日を決める」というものではありません。

適切に導入し運用するためには、労働基準法で定められた要件をクリアし、正しい手順を踏むことが不可欠です。

導入には就業規則と労使協定が必須

計画的付与制度を導入する上で、特に重要となるのが「就業規則への記載」と「労使協定の締結」です。

就業規則への記載

まず、あなたの会社の就業規則に、年次有給休暇の計画的付与に関する規定を盛り込む必要があります。

就業規則は、労働者の労働条件や服務規律などを定めたものであり、企業と労働者の間で遵守すべきルールブックです。

ここに制度の根拠を明記することで、制度の正当性が担保されます。

就業規則の「年次有給休暇」に関する章(またはその付近)に、以下のような条文を追加・追記することが考えられます。

(年次有給休暇の計画的付与)

第〇条

  1. 会社は、労働者の過半数で組織する労働組合(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者)との書面による協定に基づき、前条第〇項に定める年次有給休暇のうち、5日を超える部分について、計画的に取得時季を定めることができる。
  2. 前項の定めにより計画的に付与する年次有給休暇の対象者、日数、付与時季、付与方法その他必要な事項は、前項の労使協定に定めるものとする。
  3. 前項の労使協定を締結した場合、労働者は、同協定に定められた時季に年次有給休暇を取得するものとし、その時季変更権は行使できないものとする。ただし、労使協定に別段の定めがある場合はこの限りではない。
文言の解説とポイント
  • 第〇条
    • 就業規則の適切な条項番号を入れてください。
  • 第〇条第〇項に定める年次有給休暇のうち
    • これは、就業規則内の「年次有給休暇の付与日数や条件」を定めた条項を指します。
    • 具体的に該当する条項番号を記載することで、規定間の連携を明確にします。
  • 5日を超える部分について、計画的に取得時季を定めることができる
    • 労働基準法で定められた「労働者が自由に取得できる5日」を残すことを明確にするための重要な文言です。
    • この部分が最も基本的な法的要件となります。
  • 労働者の過半数で組織する労働組合(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者)との書面による協定に基づき
    • 労使協定が必須であること、およびその締結相手を明確に示しています。
  • 第2項(労使協定に委ねる内容)
    • 就業規則の本文には詳細を記載せず、具体的な運用ルールは全て「労使協定」に記載する旨を定めています。
    • これにより、就業規則を頻繁に改定する手間を省き、労使協定で柔軟に運用を変更できるようにします。
    • 労使協定に記載すべき事項の例は、以下の項目です。
      • 計画的付与の対象となる労働者の範囲
      • 計画的付与の対象となる有給休暇の日数
      • 具体的な付与日
      • 付与方法
      • 急な事由による欠勤等の取り扱い
  • 第3項(時季変更権の制限)
    • 計画的付与の日に指定された有給休暇については、原則として労働者からの時季変更権(別の日に休みたいという権利)が行使できないことを明記します。
    • ただし、特例を設ける場合はその旨も記載します。
注意点
  • 専門家への相談推奨
    • 上記はあくまで一般的な文言例です。
    • 会社の規模、業種、現在の就業規則の内容、労使関係によって最適な文言は異なります。
    • 労働基準法や関連法令は複雑なため、実際に就業規則を改定する際には、社会保険労務士などの専門家や労働基準監督署に相談し、法的に問題がないか、自社の実情に合っているかを確認することを強くお勧めします。
  • 周知義務
    • 就業規則は、変更後も従業員に周知する義務があります。

この文言例を参考に、就業規則への記載を進めてみてください。

労使協定の締結

次に、最も重要なステップが労使協定の締結です。

計画的付与制度は、労働者の有給休暇取得時季に関する権利(時季指定権)を制限する側面を持つため、労働者の同意が必要とされます。

この同意の証となるのが、以下のいずれかと書面で締結する労使協定です。

  • 労働者の過半数で組織する労働組合
  • もし労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者(民主的な方法で選出された者)

この労使協定には、以下の事項を必ず記載しなければなりません。

  • 計画的付与の対象となる労働者の範囲
    • 全従業員が対象か、特定の部署や職種のみかなどを明確にします。
  • 計画的付与の対象となる有給休暇の日数
    • 5日を超える部分であること。
    • 例えば、「付与日数が10日の場合、計画的付与の対象は5日以下」といった形で具体的な日数を定めることも可能です。
  • 具体的な付与日
    • 例えば「夏季休暇として8月〇日~〇日のうち3日間」のように、計画的付与によって取得させる日を具体的に記載します。
  • 付与方法
    • 一斉付与、個人別付与、グループ別付与など、具体的な取得方法を定めます。
  • 急な事由による欠勤等の取り扱い
    • 計画的付与日に急な病気や慶弔事が発生した場合の対応なども定めておくと、後々のトラブルを防げます。

具体的な導入手順

実際に計画的付与制度を導入する際の具体的なステップは以下の通りです。

1:現状把握と検討
  • まず、あなたの会社でどの時期に、どの部門や職種の従業員に有給休暇を取得させることが最も効率的かを検討します。
  • 業務の繁閑、プロジェクトのスケジュール、人員体制などを考慮し、制度の導入目的(有給消化促進、業務効率化など)に最も合致する運用方法を考えましょう。
2:労使間の協議と労使協定の締結
  • 検討した内容を基に、労働組合または労働者代表と十分に話し合いの場を設け、制度の目的、メリット、具体的な運用方法などを丁寧に説明します。
  • 双方の理解と合意形成を図った上で、前述の労使協定を締結します。
3:就業規則の変更と労働基準監督署への届け出
  • 就業規則に計画的付与に関する規定を新たに盛り込む場合や、既存の規定を変更する場合は、変更後の就業規則を労働基準監督署に届け出る必要があります。
  • 計画的付与に関する労使協定自体は、原則として労働基準監督署への届け出は不要です。
4:労働者への周知徹底
  • 制度の導入が決定し、準備が整ったら、全従業員に対して計画的付与制度の内容、運用ルール、対象となる有給休暇の日数、取得日などを十分に周知徹底することが重要です。
  • 掲示板、社内イントラネット、説明会など、複数の方法で繰り返し説明し、従業員が疑問なく制度を利用できるよう配慮しましょう。

これらの要件と手順を適切に踏むことで、計画的付与制度はあなたの会社にとって円滑な有給休暇取得を促し、働きやすい環境づくりに貢献する強力なツールとなるはずです。

スポンサーリンク

計画的付与制度導入の第一歩と次回予告

今回の計画的付与制度に関するテーマは、内容の充実を図るため2回に分けてお届けします。

今回は、年次有給休暇の計画的付与制度について、その目的やメリットに加え、導入に不可欠な就業規則への記載や労使協定の締結、そして具体的な導入手順を詳しく解説しました。

この制度を企業に導入する際には、法令を遵守し、労使間の合意形成を丁寧に進めることが、円滑な運用とトラブル回避の鍵となります。

さて、次回では、引き続き計画的付与制度に焦点を当て、その「主なパターン(一斉付与、個人別付与など)と運用例」、そして導入における「注意点や起こりうるトラブル事例とその対策」について、さらに深掘りしていきます。どうぞお楽しみに!

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

📌社会保険・労務対応・就業規則作成等について👉奈良県・大阪府・京都府・三重県など、近隣地域の企業・個人の方は・・・⇨戸塚淳二社会保険労務士事務所 公式ホームページからお問い合わせください。

📌遠方の方や、オンラインでのご相談をご希望の方は⇨ココナラ出品ページをご利用ください。

コメント