知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol3 時季指定権と時季変更権

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年次有給休暇 時季変更権 時季指定権 労務の基礎知識
時季指定権と時季変更権の留意点
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社会保険労務士 戸塚淳二

執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二

戸塚淳二社会保険労務士事務所の代表として、日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方、人事制度の整え方まで、はじめての方にもわかりやすく解説することを心がけています。本記事では、「これだけは知っておきたい」労務の基礎について、専門家の視点からやさしくお伝えします。

社会保険労務士登録番号:第29240010号

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有給休暇、どう使ってますか?~労働者の希望と会社の調整~

労働者の皆さん、年次有給休暇、使ってますか?

「疲れた体を癒やしたい」「家族と旅行に行きたい」「趣味の時間を満喫したい」など、有給休暇を取ってやりたいことは山ほどありますよね。

有給休暇は、働く私たちにとって法律で守られた大切な権利です。

適切に取得することで、心身をリフレッシュし、仕事へのモチベーションを高めることができる、まさに労働者の特権と言えるでしょう。

有給休暇、こんな悩み抱えていませんか?

しかし、その「大切な権利」である有給休暇の取得を巡っては、意外と多くの疑問や悩みを抱えている方がいらっしゃいます。

  • 「本当は休みたいけど、周りに迷惑がかかるから言いにくい…」
  • 「繁忙期に有給を申請したら、会社に拒否されるんじゃないか?」
  • 「会社の都合で、申請した日と違う日に変更されてしまった!」

こんな経験、ありませんか?

特に、「いつ有給を取るか」というタイミングは、労働者と会社、双方にとってデリケートな問題になりがちです。

労働者は自分の希望する日に休みたい。

一方で会社は、業務が滞りなく進むよう、人員配置やスケジュールを調整する必要があります。

この両者の希望がぶつかった時に、どうすれば円満に解決できるのでしょうか?

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「時季指定権」と「時季変更権」を知ってトラブル回避!

今回の記事では、この有給休暇の取得タイミングに関する核心部分、つまり労働者が有給を希望する権利である「時季指定権(じきしていけん)」と、会社がその希望を変更できる唯一の権利「時季変更権(じきへんこうけん)」について、掘り下げて解説していきます。

この二つの権利は、有給休暇を巡るトラブルの多くに関わっています。

法律のルールを正しく理解していれば、「不当な拒否に泣き寝入りする」ことも会社の正当な理由を理解せずに反発する」ことも避けられるはずです。

労働者の皆さんは、自分の権利を正しく理解し、会社と円滑なコミュニケーションを取るためのヒントを得られるでしょう。

そして、会社の担当者の皆さんは、従業員の有給取得をスムーズに進め、法律違反のリスクを回避するための実務的なポイントを掴めるはずです。

さあ、私と一緒に、有給休暇を巡る「いつ休むか」のルールを学び、お互いにとってより良い働き方を実現するための第一歩を踏み出しましょう。

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労働者の強い権利「時季指定権」とは?

「いつ休むか」を決めるのは労働者自身

年次有給休暇(有給)は、働く私たちにとって非常に重要な権利です。

その中でも特に核となるのが、「時季指定権(じきしていけん)」です。

これは、あなたが「この日に有給を取りたい!」と会社に伝える権利のことです。

この権利のポイントは、あなたが希望する時季に有給休暇を取得できるという点にあります。

原則として、あなたが希望した日に有給休暇を与える義務が会社にはあります。

「会社に承認してもらわないと有給は取れない」と思っている人もいるかもしれませんが、実は違います。

有給休暇は、会社が「許可します」「許可しません」と自由に決められるものではないのです。あなたが「休みたい」と伝えれば、会社はその希望に応えるのが原則です。

これ結構大事です。意外と誤解されている方が多いのですが、有給休暇は、労働者が「申請」してそれを受けて会社が「承認」もしくは「許可」みたいなことをして初めて取得できるものではありません。

つまり、あなたが「○月○日に有給を取りたいです」と伝えれば、会社はあなたの希望を基本的に拒否することはできず、その日に有給休暇を与える義務がある、ということなんですね。

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時季指定権の使い方

時季指定権を使う方法は、法律上、口頭でも有効です。

でも、後から「言った」「言わない」といったトラブルになるのを避けるためにも、有給休暇申請書など、書面で申請するのが断然おすすめです。

先ほども申しましたが、会社に申請する際は、あくまで「この日に休みます」という「時季の指定」であり、「許可」を求めるものではないという意識を持つことが大切です。

もちろん、会社の就業規則に申請期限が書いてある場合は、それに従うのが一般的です。

補足

  • ここで言う「申請期限」は、会社が従業員に義務付ける期限のことです。
  • 例えば「1週間前までに申請してね」といったものです。会社が従業員に「半年前までに申請しろ」といった、あまりにも長すぎる(=合理的ではない)期間を義務付けることは、法的に認められない場合があります。
  • しかし、従業員が自主的に、例えば3ヶ月前や半年前といった早い段階で有給休暇を申請することは、会社側にとっては非常に望ましいことです。会社は代替要員の確保や業務調整を計画的に行えるため、大歓迎されるでしょう。

覚えておきたい大切なポイント

時季指定権に関して、ぜひ知っておいてほしい重要なポイントがいくつかあります。

まず、有給休暇は、休む理由を会社に伝える必要がありませんし、会社がその理由によって取得を拒否することもできません。「私用のため」と伝えれば、それで十分なのです。

ただし、一つ例外があります。「計画的付与(けいかくてきふよ)制度」が導入されている会社の場合、あなたが持つ有給休暇の一部については、会社が取得日をあらかじめ指定することがあります。

この制度は、あなたが自由に休む日を決められる権利を一部制限するものですが、会社と従業員の代表が話し合って合意の上で導入されます。

この計画的付与制度については、次回の第4話で詳しく解説しますので、そちらもぜひ参考にしてくださいね。

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会社が持つ唯一の対抗手段「時季変更権」とは?

あなたの「この日に有給を取りたい!」という希望は、原則として会社に受け入れてもらえます。しかし、会社には唯一、その希望を一時的に変更できる権利があります。

それが「時季変更権(じきへんこうけん)」です。

「事業の正常な運営を妨げる場合」のみ行使可能

「事業の正常な運営を妨げる」とは、具体的にどのような状況を指すのでしょうか?

単に「人手が足りないから」「今は忙しい時期だから」といった抽象的な理由では、時季変更権は認められません。

会社が時季変更権を行使するには、以下のような客観的かつ合理的な理由が必要です。

  • 代替要員の確保が著しく困難である場合
    • 例えば、特定のスキルを持つ従業員がその日あなたしかおらず、かつその日にしかできない緊急性の高い業務がある場合などです。
  • その時季でなければ対応できない緊急の業務がある場合
    • 突発的なトラブル対応や、納期が迫った重要なプロジェクトの最終局面など、その日を逃すと事業に重大な損害が出るといった状況です。

過去の裁判の判例を見ても、「代わりの人がいない」「忙しくなる」という理由だけで時季変更権が認められなかったケースは多く、非常に厳しく判断されます。

時季変更権が認められるのは、会社が代替要員の確保や業務の調整など、できる限りの手を尽くしたにもかかわらず、どうしても業務に支障が出る場合に限られる、ということを覚えておきましょう。

企業には、日頃から業務の属人化(特定の人がいないと業務が回らない状態)を解消したり、複数人が様々な業務をこなせるようにする「多能工化」を進めたりするなど、従業員が有給を取りやすい体制づくりに努力する義務があることも知っておきましょう。

時季変更権の行使方法と注意点

会社が時季変更権を行使する場合、いくつか守るべきルールがあります。

まず、会社は具体的な理由を明確にあなたに伝え、そして代替日を提案する必要があります。

一方的に「有給は取れない」と拒否するだけでは、法律上認められません。

また、あなたにいくつかの代替日の選択肢を与える努力義務も会社にはあります。

そして最も重要なのは、時季変更権を行使しても、有給休暇自体が消滅するわけではないということです。

あくまで「取得する時季」を変更するだけであり、あなたの有給休暇の権利自体は残ります。

もし、会社が提示した代替日にもあなたが納得できず、話し合いで合意に至らない場合は、有給休暇の取得を巡るトラブルに発展する可能性があります。

そうならないためにも、お互いが法律のルールを理解し、誠実に話し合う姿勢が大切です。

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トラブルを避けるためのスムーズな運用術

年次有給休暇を巡るトラブルは、ほとんどの場合、法律の知識不足とコミュニケーション不足から生じます。

「時季指定権」と「時季変更権」のルールを理解した上で、会社と従業員が日頃から協力し合うことで、こうしたトラブルは大きく減らせます。

会社がすべきこと 有給を取りやすい環境を整える

会社には、従業員が気持ちよく有給休暇を取得できるよう、積極的に環境を整える責任があります。

就業規則にしっかり明記し、周知する

  • 有給休暇の申請方法や、時季変更権を使う可能性があるケースなど、ルールを就業規則に分かりやすく記載し、すべての従業員にきちんと伝えておきましょう。
  • 透明性があれば、従業員も安心して申請できます。

早めに調整し、しっかり話し合う

  • 従業員から有給休暇の申請があったら、特に繁忙期や長期休暇の希望など、業務への影響が大きそうな場合は、早めに本人と話し合いの場を設けましょう。
  • 一方的に拒否するのではなく、「この日は難しいけど、〇月〇日ならどうかな?」と具体的な代替案を提示するなど、業務への影響を最小限に抑えつつ、従業員の希望を最大限尊重する姿勢が大切です。

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理由を明確に、丁寧に説明する

  • もし、やむを得ず時季変更権を行使する場合は、なぜその日では困るのか、具体的な理由を明確に伝えましょう。
  • 例えば、「その日は〇〇のプロジェクトの最終確認があり、あなたの専門知識が不可欠なんです」といったように、従業員が納得できるような丁寧な説明と、代替日の提案が不可欠です。

業務の属人化を防ぎ、複数人で対応できるようにする

  • 特定の人しかできない業務が多いと、その人が休むだけで業務が滞ってしまいます。
  • 日頃から業務の分担を見直したり、複数人が様々な業務をこなせるように育成したりする(多能工化)努力をしましょう。
  • これにより、「あの人がいないと困る」という状況を減らし、従業員が気兼ねなく有給休暇を取れる体制を築けます。

労働者がすべきこと 円滑な取得のために協力する

従業員も、自分の権利を主張するだけでなく、会社との協力関係を築くことで、よりスムーズに有給休暇を取得できます。

  • 早めに申請する
    • 会社が業務調整をしやすいよう、余裕を持って有給休暇を申請しましょう。
    • 特に長期の休暇や、繁忙期に取得したい場合は、できるだけ早めに伝えることで、会社も代替要員の確保や業務の引き継ぎなどを計画的に行いやすくなります。
  • 会社の事情にも一定の理解を示す
    • 有給休暇は権利ですが、会社も事業を継続していく必要があります。
    • 極端な話、全員が同じ日に休んでしまえば、事業は立ち行かなくなります。
    • 会社の正常な運営に大きな支障が出る可能性がある場合は、できる範囲で会社の事情を理解し、協力する姿勢も大切です。
  • 代替日について話し合う
    • もし、会社から時季変更権を行使され、代替日を提案された場合は、一方的に「嫌だ」と拒否するのではなく、代替日について会社と話し合う姿勢が円滑な解決につながります。
    • お互いが譲り合うことで、納得のいく解決策が見つかることも少なくありません。
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まとめ 有給休暇は「権利」と「義務」のバランスで成り立つ

ここまで、年次有給休暇における「時季指定権」と「時季変更権」という二つの重要な権利について詳しく見てきました。

改めて強調したいのは、年次有給休暇は、働く私たち労働者に法律で保障された大切な「権利」であるということです。

そして、会社には、その権利を行使できるよう有給休暇を取得させる「義務」があります。

有給休暇トラブルを避けるために

有給休暇を巡るトラブルの多くは、この権利と義務の関係性、そしてそれぞれのルールの理解不足から生まれます。

円滑な有給休暇の運用には、法律のルールを正しく理解するだけでなく、会社と労働者双方の協力と、日頃からの良好なコミュニケーションが不可欠です。

お互いが「時季指定権」と「時季変更権」のルールを正しく理解し、互いの立場や事情に配慮することで、有給休暇はストレスなく取得できるものになります。

時季変更権」は、あくまで会社が事業の正常な運営を守るための例外的な手段であり、むやみに使えるものではないということを、ぜひ覚えておいてください。

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会社も従業員もWin-Winの関係へ

有給休暇の適切な取得は、従業員の心身のリフレッシュを促し、仕事へのモチベーション向上につながります。

それが結果的に、従業員の満足度向上ひいては会社の生産性向上や持続的な発展にもつながる、という良い循環が生まれるんです。

つまり、有給休暇は単なる権利義務の話に留まらず、会社と従業員が共に成長していくための大切な要素とも言えるでしょう。

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次回予告 計画的付与制度で有給をもっと有効活用!

さて、今回の記事で触れたように、会社が有給休暇の取得日を一部指定できる「計画的付与制度」というものがあります。

これは、労使が協力することで、会社も従業員も予測可能で、より計画的に有給休暇を取得できるメリットがある制度です。

次回の、「知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol4」では、この年次有給休暇の計画的付与制度について、その仕組みから、会社と従業員双方にとってのメリット・デメリット、導入時の注意点まで、詳しく解説していきます。

ぜひ、次回の記事もご期待ください!

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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