知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol1 年次有給休暇の基本と付与のルール

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知っておきたい 年次有給休暇の全て 労務の基礎知識
正しい有給休暇の知識を
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社会保険労務士 戸塚淳二

執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二

戸塚淳二社会保険労務士事務所の代表として、日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方、人事制度の整え方まで、はじめての方にもわかりやすく解説することを心がけています。本記事では、「これだけは知っておきたい」労務の基礎について、専門家の視点からやさしくお伝えします。

社会保険労務士登録番号:第29240010号

社会保険労務士の戸塚淳二です。

企業の持続的な成長と従業員のエンゲージメント向上に欠かせない「年次有給休暇(以下、有給休暇)」。しかし、その複雑な制度や頻繁な法改正に、経営者様や人事・総務ご担当者様は日々頭を悩ませていませんか?

本記事では、そのような皆様が直面する有給休暇に関する疑問を解消し、法令遵守と円滑な運用を実現するためのポイントを解説いたします。

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年次有給休暇とは?

有給休暇は、労働基準法39条に定められた、労働者の心身の疲労回復と生活の質の向上を目的とした重要な権利です。労働者が賃金の減額なく休暇を取得できる制度であり、企業にとっても従業員のエンゲージメント向上や生産性維持に資する不可欠な要素です。

特に、2019年の法改正により「年5日の有給休暇取得義務化」が導入され、企業側の管理責任がより明確化されました。これは、日本の有給休暇取得率の改善と、従業員のワークライフバランス推進への社会的な要請を背景としています。

経営者様、総務ご担当者様におかれましては、本制度を正確に理解し、適正に運用することが求められます。従業員との良好な関係を構築し、健全な職場環境を維持するためにも、本解説が皆様の一助となれば幸いです。

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年次有給休暇の基本要件【付与対象は?】

有給休暇は、全ての労働者に一律に付与されるものではありません。労働基準法では、以下の2つの要件を満たした労働者に付与されると定められています。

  1. 「雇入れの日から6ヶ月継続勤務」していること
  2. その6ヶ月間の「全労働日の8割以上出勤」していること

これらの要件について、詳細を解説いたします。

「雇入れの日から6ヶ月継続勤務」とは?

「継続勤務」とは、雇用関係が中断することなく継続している期間を指します。単に会社に在籍している期間だけでなく、以下のような期間も原則として継続勤務として扱われます。

  • 休業期間・休職期間
    • 業務上の負傷や疾病による休業(労災休業)、育児休業、介護休業、産前産後休業など、法律で定められた休業期間は、原則として継続勤務とみなされます。また、私傷病による休職など、就業規則等で会社が独自に認める一般的な休職期間も、雇用契約が継続している限り、原則として継続勤務に算入されます。
  • 在籍出向
    • 他社への出向であっても、元の会社との雇用契約が継続している場合は、継続勤務として扱われます。
  • パートから正社員への転換
    • 雇用形態が変更された場合でも、雇用契約が継続していれば、それまでの勤務期間も通算されます。

重要な点は、雇用契約が途切れていないことです。

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出勤率の考え方と計算方法【例題付き】

これは、労働者が対象期間中にどれだけ勤務したかを示す指標です。出勤率は以下の計算式で算出されます。

出勤率 = (全労働日 − 欠勤日数) ÷ 全労働日 × 100

出勤率を計算する際の「全労働日」とは、就業規則や労働契約で定められた、従業員が働くことになっている日(所定労働日)を指します。 また、「欠勤日数」の扱いには特段の注意が必要です。以下の期間は、出勤したものとして扱われます

  • 業務上の負傷・疾病による休業期間(労災休業)
  • 育児休業期間、介護休業期間
  • 子の看護休暇、介護休暇の取得期間
  • 産前産後休業期間
  • 年次有給休暇を取得した日
  • 会社都合による休業日

なお、慶弔休暇など、法律で取得が義務付けられていない会社独自の休暇については、その扱いが異なります。これらの休暇を出勤率の計算において「出勤したもの」とするか、「欠勤したもの」とするか、あるいは計算の対象外とするかは、貴社の就業規則や労働協約の定めによりますので、必ずご確認ください。

例えば

全労働日が120日の期間で、欠勤が5日、有給休暇取得が3日、育児休業が10日、子の看護休暇が2日あった場合を考えてみましょう。

  • 全労働日:120日
  • 欠勤日数:5日
  • 出勤とみなされる日数(有給休暇取得、育児休業、子の看護休暇):3日 + 10日 + 2日 = 15日

この場合、出勤率は以下のように計算されます。

出勤率 = (120日 − 5日) ÷ 120日 × 100 出勤率 = 115日 ÷ 120日 × 100 出勤率 = 約 95.83%

この計算結果は80%を大きく上回るため、この労働者は年次有給休暇の付与要件を満たしていることになります。出勤率の計算において、これらの「出勤とみなされる日」は欠勤には含めず、分母の「全労働日」にも影響を与えないため、労働者にとって不利にならないよう配慮されています。

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フルタイム・パートでの付与日数の違い

上記の要件を満たした場合、労働者の勤続年数や労働時間に応じて、有給休暇が付与されます。

フルタイム労働者の付与日数

週の所定労働時間が30時間以上または週の所定労働日数が5日以上の労働者(いわゆる正社員など)には、以下の日数が付与されます。

継続勤務期間付与日数
6ヶ月10日
1年6ヶ月11日
2年6ヶ月12日
3年6ヶ月14日
4年6ヶ月16日
5年6ヶ月18日
6年6ヶ月以上20日

パートタイム労働者(短時間労働者)の付与日数(比例付与)

週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下、または年間所定労働日数が216日以下の労働者(パートタイマーやアルバイトなど)には、その労働日数に応じて以下のように比例的に有給休暇が付与されます。

継続勤務年数週4日勤務 (年169~216日)週3日勤務(年121~168日)週2日勤務(年73~120日)週1日勤務(年48~72日)
6か月7日5日3日1日
1年6か月8日6日4日2日
2年6か月9日6日4日2日
3年6か月10日7日5日2日
4年6か月12日8日6日3日
5年6か月13日9日6日3日
6年6か月以上15日10日7日3日

付与日を統一する方法(斉一的取扱い)とは?

従業員ごとに雇入れ日が異なる場合、有給休暇の付与日も個別に発生し、管理が煩雑になることがあります。そこで、全ての従業員の有給休暇付与日を特定の日に統一する「斉一的取扱い」という方法があります。

  • メリット
    • 管理業務が大幅に簡素化され、事務負担が軽減されます。
    • 従業員にとっても、自身の有給休暇付与日を明確に把握しやすくなります。
  • デメリット
    • 従業員によっては、本来の付与日よりも有給休暇の付与が遅れる可能性があります。ただし、労働者の不利益とならないよう、初年度は法定の付与日数を下回らないように調整することが必要です。

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具体例 斉一的取扱いによる付与の遅延と調整方法

会社が毎年4月1日に有給休暇を斉一的に付与するとします。 ある従業員Aさんが2024年5月1日に入社したとしましょう。

  • 本来のルールなら
    • 2024年11月1日(入社から6ヶ月後)に最初の有給休暇(10日)が付与されます。
  • 斉一的取扱いのみを厳格に適用した場合
    • 会社が「次の4月1日(2025年4月1日)まで待って付与する」運用をしてしまうと、Aさんの有給付与は2024年11月1日から2025年4月1日まで約5ヶ月遅れてしまうことになります。

このような遅延は労働者にとって不利益となるだけでなく、労働基準法第39条(年次有給休暇の付与義務)違反となる可能性が高いため、斉一的取扱いを導入する際は、本来の付与日よりも遅れてしまう従業員に対しては、前倒しで付与するなど、法定の付与日数を下回らないように調整することが義務付けられています。

調整の具体例

上記のケースで調整を行う場合、「本来の付与日に前倒し付与する」方法が最もシンプルで、かつ法令遵守の観点からも推奨されます。

  • 本来の付与日に前倒し付与する
    • 2024年11月1日(本来の付与日)に、最初の有給休暇10日を付与します。 そして、その後の有給休暇は、2025年4月1日を基準日として、他の従業員と同様に斉一的に付与していく形になります。この際、2025年4月1日には、2024年11月1日から2025年3月31日までの期間(5ヶ月間)に対応する5日(※)を追加で付与します。

(※)勤続1年6ヶ月経過時に付与される11日を基準に比例計算(11日 ÷ 12ヶ月 × 5ヶ月 ≒ 4.58日)し、労働者保護の観点から切り上げて5日として付与します。

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【注意喚起】

一部の企業で、管理の簡素化を目的として、本来の付与日には有給休暇を付与せず、会社の斉一的付与日にまとめて付与する運用が見られることがあります。(上記の例示では2024年11月1日に付与せず、2025年4月1日にまとめて付与する)

しかし、この方法は、労働基準法第39条の付与義務を本来の付与日に履行しないため、法令違反となるリスクが非常に高くいです。

また、本来の付与日から最初の斉一的付与日までの間に有給休暇を取得したいという労働者の希望があった場合に、対応が難しくなるなどの課題があり、計算も複雑になりやすいため、この記事では決して推奨できません。

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まとめ

今回は、年次有給休暇の基本的な概念、付与要件、そして具体的な付与日数について解説いたしました。特に、パートタイム労働者への比例付与は、見落とされがちな義務ですので、貴社の状況を改めてご確認いただくことを推奨いたします。

次回は、特にご質問の多い「シフト制アルバイトの年次有給休暇」に焦点を当て、出勤日数が一律ではない短時間労働者の有給休暇がどのように付与されるのか、その具体的な考え方と、実務でつまずきやすいポイントを徹底解説いたします。複雑と思われがちなシフト制の有給管理を、分かりやすく紐解いていきますので、ぜひご期待ください。

貴社の労務管理に関してご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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