
執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二
戸塚淳二社会保険労務士事務所の代表として、日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方、人事制度の整え方まで、はじめての方にもわかりやすく解説することを心がけています。本記事では、「これだけは知っておきたい」労務の基礎について、専門家の視点からやさしくお伝えします。
社会保険労務士登録番号:第29240010号
前回の記事では、増加する非正規雇用者の有給休暇について、比例付与の考え方から5日取得義務化への対応、雇用形態変更時の注意点まで、中小企業の皆さまが直面する課題と解決策を深掘りしました。
前回の記事は👉知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol10 パート・アルバイトの有給休暇管理、中小企業が知るべき実務と法的リスク
しかしながら、現代の働き方は、正社員、非正規雇用といった枠組みには収まりません。
フレックスタイム制、裁量労働制、在宅勤務・リモートワークなど、さらに多様化しています。これらの柔軟な働き方は、従業員のワークライフバランス向上や生産性向上に寄与する一方で、有給休暇の運用をより複雑にしています。
多様化する働き方における有給休暇の課題と解決策
今回の記事では、こうした多様な勤務形態における有給休暇の具体的な考え方、取得時の「1日」のカウント方法、そして企業が直面しやすい実務上の課題と、その解決策に焦点を当てて解説します。
労働時間の柔軟性が高い制度だからこそ、有給休暇のルールを曖昧にしていると、従業員との間で認識のズレが生じたり、予期せぬトラブルに発展したりするリスクがあります。
この多様な働き方に即した有給休暇の管理は、企業のコンプライアンス強化はもちろん、従業員が安心して働ける環境を整える上で不可欠です。
複雑に思える運用も、正しい知識と具体的な対応策を知ることで、円滑に進めることができます。
多様な働き方における有給休暇の運用と課題
ここでは、一般的な非正規雇用者にとどまらない、さらに多様な勤務形態における有給休暇の具体的な考え方や、実務で生じやすい課題に焦点を当てて解説します。
フレックスタイム制における有給休暇の考え方
フレックスタイム制は、一定期間(清算期間)の中で総労働時間を定めておけば、日々の始業・終業時刻や労働時間を従業員の裁量に委ねる制度です。
この制度下での有給休暇の扱いは、通常の固定時間勤務とは異なる点があります。
有給休暇取得時の「1日」「半日」「時間」の考え方
- フレックスタイム制の場合、有給休暇を取得した日は、「標準となる1日の労働時間」労働したものとして扱います。
- たとえば、1日の標準労働時間が8時間と定められている場合、有給休暇を1日取得すれば、その日は8時間労働したものとして扱われ、清算期間の総労働時間に8時間加算されます。
- 半日単位年休・時間単位年休との組み合わせ
- フレックスタイム制は、労働時間を柔軟に設定できるため、特に時間単位年休との相性が良いとされます。
- 時間単位年休を導入していれば、たとえば「今日は午前中だけ病院に行きたい」といった場合に、半日ではなく必要な時間数だけ有給休暇を消化できるため、従業員の利便性が向上します。
- 導入には労使協定の締結が必要ですが、従業員満足度を高める有効な手段となるでしょう。
- 時間単位の年休に関してはこちらでご確認ください👇
賃金の算出方法(標準労働時間に応じた賃金)
- 有給休暇を取得した日の賃金は、原則として「平均賃金」「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」「健康保険の標準報酬日額に相当する額」のいずれかを就業規則等で定めて支払います。
- フレックスタイム制の場合も、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」を基準とする際には、「標準となる1日の労働時間」に対して支払われる賃金を計算することになります。これにより、有給休暇取得によって給与が変動することを防ぎます。
裁量労働制における有給休暇の考え方
裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や時間配分を大幅に労働者の裁量に委ねる働き方です。
この制度では、実際に働いた時間に関わらず、あらかじめ定めた時間(みなし労働時間)を労働したものとみなします。
- 有給休暇取得時の「労働したとみなす時間」と賃金計算
- 裁量労働制下で有給休暇を取得した場合、その日は、あらかじめ定められた「みなし労働時間」を労働したものとして扱います。
- 例えば、みなし労働時間が8時間と定められていれば、有給休暇を1日取得した日も8時間労働したとみなされ、その分の賃金が支払われます。
- 実際に労働しなくても給与が発生することの理解と運用上の注意点
- 裁量労働制の特性上、有給休暇を取得した日は、労働の実態がなくてもみなし労働時間分の賃金が支払われます。
- これは、「有給休暇を取得したことで賃金が減額されることはない」という労働基準法の原則を維持するためのものです。
- 従業員がこの制度を正しく理解していないと、有給休暇を取ることに躊躇したり、誤解が生じたりする可能性があるため、制度の説明を丁寧に行うことが重要です。
在宅勤務・リモートワークにおける有給休暇の考え方
急速に普及した在宅勤務・リモートワークは、場所の制約を受けない柔軟な働き方ですが、有給休暇の運用には独自のポイントがあります。
有給休暇取得時の連絡体制と承認フローの明確化(オンラインツールの活用)
- オフィスでの対面が少ないため、有給休暇の申請・承認プロセスを明確にする必要があります。
- 勤怠管理システムやグループウェアなどのオンラインツールを活用し、申請・承認をシステム上で完結できる体制を構築することで、スムーズな運用と記録の正確性を確保できます。
- 誰に、いつまでに、どのような方法で連絡するかを明確に伝えましょう。
「みなし労働時間制」適用時の有給休暇の考え方と、実態との乖離への対応
- 在宅勤務にも、外勤が多い営業職などで「事業場外みなし労働時間制」が適用される場合があります。
- この場合も、裁量労働制と同様に、有給休暇を取得した日は「みなし労働時間」労働したものとして扱われます。
- もし、みなし労働時間と実際の労働実態に大きな乖離がある場合は、その制度設計自体を見直す必要があるため注意が必要です。
在宅勤務における有給休暇中の「業務対応」への懸念と、信頼関係の構築の重要性
- 在宅勤務では、従業員の勤務実態が見えにくいことから、「有給休暇中に本当に休んでいるのか。」「業務連絡に対応してしまわないか。」といった懸念が生じることがあります。
- しかし、有給休暇は従業員の心身のリフレッシュを目的とした権利であり、企業は休暇中の従業員に業務を指示したり、連絡を強要したりすることはできません。
- この問題の根底には、企業と従業員間の信頼関係が大きく関わっています。従業員を信頼し、明確なルールと期待値を共有することが重要です。
- 休暇中の連絡先や緊急時の対応ルールを事前に取り決めることは許容されますが、従業員が安心して休暇を取得できるよう、企業側が「休む権利」を尊重する姿勢を明確に示すことが求められます。
派遣社員、業務委託、日雇い労働者の有給休暇
多様な働き方の中には、直接雇用ではない形態や、雇用期間が限定される形態も含まれます。
それぞれの有給休暇の取り扱いを確認しましょう。
派遣社員の有給休暇は?
この派遣社員に対する有給休暇の付与義務と管理責任は、派遣元企業(派遣会社)にあります。
派遣先企業は、派遣社員の有給休暇の取得を妨げることはできませんが、直接的に有給休暇を付与したり、その取得時季を決定したりする権限はありません。
派遣社員の有給休暇取得が派遣先の業務運営に支障をきたす可能性
しかし、派遣社員の有給休暇取得が派遣先の業務運営に支障をきたす可能性があるのも事実です。このような事態を避けるため、派遣先企業は以下の点に留意し、派遣元企業と密に連携して対応する必要があります。
事前の情報共有と連携体制の構築
- 派遣契約締結時や更新時に、派遣元企業と有給休暇の申請・承認プロセス、連絡方法、緊急時の代替要員の可否などを具体的に確認し、取り決めておきましょう。
- 派遣社員から直接有給休暇の申請があった場合は、速やかに派遣元企業にも情報共有を行うよう徹底します。
早期の申請と業務調整の協力
- 派遣元企業に対し、派遣社員が有給休暇を取得する際には、できる限り早期に派遣先へ通知するよう働きかけを依頼しましょう。
- 早期に情報が入れば、派遣先は業務の調整や引き継ぎ、代替対応の検討など、必要な準備をする時間を確保できます。
時季変更権の行使は派遣元の判断
- 派遣先の業務運営に重大な支障が出る場合でも、有給休暇の時季変更権を行使できるのは、派遣社員の雇用主である派遣元企業のみです。
- 派遣先は派遣元に対し業務上の困難を伝え、相談することは可能ですが、直接派遣社員に取得時季の変更を命じることはできません。
- 派遣元企業が時季変更権を行使するには、その派遣元の事業運営に支障をきたす場合に限られます。
代替要員の要請
派遣社員が有給休暇を取得する際に業務が停滞するようであれば、派遣元企業に一時的な代替要員の派遣を相談する、あるいは派遣契約の人数を増やすことを検討するなどの対応が考えられます。
計画的付与制度の活用に関する相談
もし派遣社員の業務が計画的付与制度になじむ性質であれば、派遣元企業に計画的付与の導入可能性について相談し、事前に休暇日を定めることで業務への影響を最小限に抑えることも検討できます。
業務委託契約者には原則として有給休暇が付与されないことの明確化と、労働者性の判断基準
この業務委託契約は、雇用契約とは根本的に異なります。
業務委託契約を結んでいる個人事業主やフリーランスは、労働基準法の「労働者」には該当しないため、原則として有給休暇は付与されません。
偽装請負の問題
しかし、実態として指揮命令を受けていたり、労働時間や場所の拘束があったりするなど、「実質的に労働者と判断される」ケースも存在します。
このような場合、「偽装請負」とみなされ、企業は労働基準法上の義務(有給休暇付与を含む)を負う可能性が出てきます。
業務委託契約を結ぶ際は、契約内容だけでなく、実際の業務実態が「労働者性」を示していないかを慎重に確認する必要があります。
「うちは業務委託だから有給休暇は関係ない」と考えていると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。それが「偽装請負」です。
この「偽装請負」は最近特に注目される労働問題の一つです。
企業が偽装請負をしてしまう背景には、主に社会保険料や残業代などの人件費削減、採用・解雇手続きの簡素化といった目的があると考えられます。
形式的に業務委託契約を結んでいても、実態が「雇用契約」とみなされる場合、それは偽装請負と判断されます。
どんな場合に偽装請負とされる?(主なポイント)
以下の項目に多く当てはまるほど、偽装請負と判断されるリスクが高まります。
- 指揮命令関係がある
- 業務の指示
- 業務のやり方、進め方を具体的に細かく指示している。
- 時間・場所の拘束
- 勤務時間や出勤場所を会社が指定・管理している。
- 勤怠管理
- 遅刻や欠勤にペナルティを課すなど、労働者のように勤怠を管理している。
- 業務の指示
- 業務遂行の独立性がない
- 代替性の否定
- 契約者以外の人が代わりに業務を行うことを認めない。
- 報酬の形態
- 業務の成果物ではなく、時間や日数を基準に報酬を支払っている。
- 備品提供
- 業務に必要なパソコンや工具などを会社が無償で提供している。
- 専従性の要求
- 会社以外の仕事を受けることを制限している。
- 代替性の否定
- 事業者としての責任がない
- 業務の完成に対する責任(欠陥があった場合の修正など)が、労働者のように曖昧になっている。
偽装請負と判断されたらどうなる?
- 労働基準法などの適用
- 委託者が「労働者」とみなされ、会社は有給休暇の付与、残業代の支払い、社会保険・労働保険への加入といった義務を遡って負うことになります。
- 多額の支払い
- 未払いの賃金や保険料などが積み重なり、多額の費用が発生する可能性があります。
- 罰則・指導
- 労働者派遣法違反などとして、行政指導や罰則(罰金など)の対象となることもあります。
- 会社の信用失墜
- 法令違反が公になると、企業のイメージダウンや採用活動への悪影響が生じます。
「業務委託」は便利な契約形態ですが、実態が伴っていなければ大きなリスクになります。
契約内容だけでなく、実際の業務が指揮命令関係にないか、独立性が保たれているかを定期的に見直しましょう。
不安があれば、迷わず社会保険労務士などの専門家に相談してください。
日雇い労働者(日々雇用される者)への有給休暇付与の例外(継続勤務が条件)
- 「日々雇用される者」とは、1日単位で雇用契約が更新される労働者のことです。
- 原則として有給休暇の付与対象とはなりませんが、例外的に「継続勤務」とみなされる場合は有給休暇が付与されます。
- 具体的には、6ヶ月を超えて継続勤務し、かつその6ヶ月間の出勤日数が労働契約締結当初から継続して雇用されている他の労働者の所定労働日数の8割以上である場合は、有給休暇が付与されます。
- これは、形の上は日々雇用でも、実態として継続的に雇用されている労働者を保護するための措置です。
企業が取るべき有給休暇管理の実務的対応
ここでは、企業が全体として有給休暇管理を適切に行い、従業員が取得しやすい環境を整えるための具体的な実務対応について掘り下げていきます。
就業規則の再確認と明文化
有給休暇の適切な運用には、就業規則が非常に重要です。最新の法令に準拠し、自社の実態に合わせた内容になっているか、定期的に見直しましょう。
8訂版 リスク回避型就業規則・諸規程作成マニュアル 単行本
岩﨑 仁弥 (著), 森 紀男 (著)
「働き方改革」で何から手をつけるか迷う総務担当者さんへ。
私自身、この本を読んで「これだ!」と確信しました。ハラスメント対応から賃金まで、最新ルールに対応した就業規則の作成ガイドで、Wordデータ付きだから、すぐに顧問先で使えて本当に助かっています。
非正規雇用者を含む全従業員への有給休暇付与基準の明確化
- 正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員といった非正規雇用者への有給休暇の付与日数、出勤率の計算方法、付与日などを明確に記載してください。
- 特に比例付与のルールは誤解が生じやすいため、具体例を交えて分かりやすく定めておくと良いでしょう。
半日単位・時間単位年休に関する規定の追加と、その導入メリット(従業員の利便性向上)
- 従業員のニーズに合わせて、半日単位年休や時間単位年休の導入を検討しましょう。
- これらは、短時間の私用(通院や子どもの学校行事など)で全日休む必要がない場合に非常に便利で、従業員の有給休暇取得を促進します。
- 導入には労使協定の締結が必要ですが、従業員のワークライフバランス向上に大きく貢献します。詳しい内容は👇よりご確認ください。
- 知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol6 時間単位年休とは?➀導入のメリットと制度概要を徹底解説【労働基準法対応】
- 知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol7 時間単位年休とは?➁時間単位年休の導入・運用を徹底解説!成功事例とポイント
時季変更権、計画的付与に関する規定の詳細と、適切な行使方法
- 企業が有給休暇の取得時季を調整する時季変更権や、あらかじめ休暇日を定める計画的付与制度についても、就業規則に明確に定めておく必要があります。
- これらの権利や制度を適切に行使するためには、運用ルールや手続きを詳細に記載し、労使協定の内容と齟齬がないように注意しましょう。詳しい内容は👇よりご確認ください。
- 知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol3 時季指定権と時季変更権
- 知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol4【徹底解説】計画的付与制度の基礎と導入ステップ
- 知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol5 計画的付与制度の実務で困らないための制度の使い方
懲戒規定における「有給休暇の不正取得」に関する検討
- 有給休暇は従業員の権利ですが、虚偽の申請などによる不正取得は、懲戒処分の対象となり得ます。(例:病気と偽って旅行に行くケース:「私用」を装い、無許可で副業を行うケース:慶弔休暇などを不正に利用するケース、など)
- 就業規則の懲戒規定に、不正取得に対する処分を明確に定めておくことで、不正行為の抑止力となります。
有給休暇管理簿の適切な運用と効率化
2019年4月1日からは、年10日以上の有給休暇が付与される全ての従業員について、有給休暇管理簿の作成が義務化されています。
これは、有給休暇の取得状況を正確に把握し、適切に管理するための重要なツールです。
- 有給休暇管理簿は付与日、日数、取得日、残日数などを従業員ごとに記録するものです。
- 非正規雇用者であっても、年10日以上の有給休暇が付与される対象者については、この管理簿の作成が必須です。詳しい内容は👇よりご確認ください。
- 知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol8 年5日間の有給休暇取得義務化とは?企業の対応と実務ポイントを徹底解説
- 知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol9 年5日「有給休暇義務化」にどう対応する?就業規則と管理簿の整備ポイントを徹底解説
本商品は20人未満の小規模事業場に最適な年次有給休暇管理簿です。一斉付与方式を 採用する事業所はもちろん、法定付与方式を採用する事業所でも管理しやすい簡単設計と なっています。 また、一人当たりの年間コストはなんと20円。月額固定費の問題や面倒な操作方法など、 システム導入を躊躇しがちな中小企業の有給休暇管理に最適の商品です。
デジタルツールの活用による管理の効率化と、導入のメリット・デメリット
- 紙やエクセルでの管理は、従業員数が少ないうちは可能ですが、増えるにつれてヒューマンエラーのリスクや管理の手間が増大します。
- 有給休暇管理を効率化するために、デジタルツールの活用を検討しましょう。
- メリット: 計算ミスの削減、リアルタイムでの取得状況把握、従業員への情報共有のしやすさ、過去データの蓄積と分析の容易さなど。
- デメリット: 初期導入コスト、運用ルールの変更、従業員への浸透・教育の必要性など。
エクセル管理の限界と、勤怠管理システム導入の検討
- 簡易的なエクセルシートでの管理は手軽ですが、有給休暇の自動計算や残日数の自動更新、年次繰り越しなどの機能は限定的です。
- 複雑な比例付与の計算や、5日取得義務の進捗管理には、専用の勤怠管理システムの導入を強くお勧めします。
- 多くのシステムが有給休暇の自動計算機能を備えており、管理者の負担を大幅に軽減し、法令遵守にも役立ちます。
従業員への周知と取得促進策
有給休暇は従業員の権利ですが、「忙しくて取りにくい」「上司に悪い」といった理由で、なかなか取得が進まないケースも少なくありません。
企業側が積極的に取得を促す環境を整えることが重要です。
有給休暇制度に関する説明会の定期的な実施や、分かりやすい資料の配布
- 入社時だけでなく、定期的に有給休暇の制度(付与日数、取得方法、5日取得義務など)について説明会を実施しましょう。
- 特に非正規雇用者には「自分も対象」という認識がない場合があるため、分かりやすい資料やパンフレットを作成し、積極的に配布することが効果的です。
管理職への教育徹底(部下の有給休暇取得状況の把握と取得推奨の重要性)
- 管理職は、従業員の有給休暇取得を促進する上で最も重要な役割を担います。管理職に対し、部下の有給休暇取得状況を把握する責任があること、そして積極的に取得を推奨することの重要性を教育しましょう。
- 管理職が率先して有給休暇を取得する姿を見せることも、職場の雰囲気を変える上で有効です。
取得しやすい職場環境の醸成(業務の属人化解消、業務の見える化、多能工化の推進)
「自分しかできない仕事があるから休めない」という状況は、有給休暇取得の大きな障壁となります。
- 業務の属人化を解消し、誰でも一定の業務をこなせるようにマニュアル整備や情報共有を徹底しましょう。
- 業務の見える化を進め、各従業員の業務量や進捗状況をチーム全体で把握できるようにします。
- 多能工化(複数の業務をこなせるスキルを持つ従業員を増やすこと)を推進することで、急な有給休暇取得時でも、他の従業員が業務をスムーズにカバーできるようになります。
従業員が有給休暇を申請しにくいと感じる要因の排除
企業文化として「休むのは悪」という雰囲気があったり、申請プロセスが煩雑だったりすると、従業員は有給休暇の申請をためらいます。
- ポジティブな声かけ
- 上司や同僚が「有給取ってリフレッシュしてきてね」「困ったらいつでもサポートするよ」といったポジティブな言葉をかけ、応援する雰囲気を醸成しましょう。
- シンプルな申請プロセス
- 複雑な承認ルートや不必要な書類提出は避け、申請から承認までを簡潔に行える仕組みを構築します。
- 「お互いさま」の意識
- チーム全体で助け合う「お互いさま」の意識を育むことで、従業員は安心して休暇を取得できるようになります。
まとめ 多様な働き方に応じた有給休暇管理で、強くしなやかな企業へ
ここまで、非正規雇用者からフレックス、裁量労働、リモートワークといった多様な働き方における有給休暇の具体的な運用方法、そしてそれに伴う実務上の課題と解決策を詳しく見てきました。
有給休暇の適切な管理は、もはや「法律だから仕方なく」行うものではありません。
それは、従業員一人ひとりが安心して働き、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整える、未来に向けた戦略的な投資です。
法的なリスクを回避するだけでなく、従業員エンゲージメントの向上、ひいては企業の生産性向上と競争力強化に直結します。
就業規則の明確化、勤怠管理システムの活用、そして何よりも従業員との信頼関係に基づいたコミュニケーションを通じて、企業の実態に合った最適な有給休暇管理体制を構築していきましょう。
複雑に思える課題も、正しい知識と計画的な対応で必ず乗り越えられます。
次回予告 トラブル発生!有給休暇を巡る「これってNG?」ケースと解決のヒント
次回の記事では、有給休暇に関するルールをきちんと整備していても起こりうる、「有給休暇を巡るトラブル事例」に焦点を当てます。
- 従業員からの突然の申請で業務が回らない!
- 「体調不良」で休んでいたはずが、SNSで旅行中の写真が…
- 有給休暇取得をめぐって従業員から不満の声が上がっている
など、実際に企業が直面しやすい具体的なトラブルケースを取り上げ、それぞれが法的に「NG」なのかどうかを分かりやすく解説します。
さらに、そうしたトラブルが発生した際の具体的な対処法や、労使双方の視点から考える解決策についても掘り下げていきます。
企業の「困った!」を解消するための実践的なヒントが満載です。どうぞご期待ください!
最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟
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