本記事は「あなたの働く人生を守るセーフティネット!雇用保険のすべて」シリーズの第20話です。第1話は👉雇用保険とは?何のためにある?|加入メリットや目的を解説
前回の記事では、雇用保険の失業手当を受給している方が、「受講指示」によって手当の支給を延長し、キャリアを有利に進める公共職業訓練のメリットを解説しました。
前回の記事は👉公共職業訓練で失業手当を延長しながら再就職を目指す方法
しかし、多くの方が抱えるのは、「離職時に雇用保険に入っていなかった」「主婦・主夫から再就職を目指す」「フリーランスを廃業した」など、失業手当を受け取れない場合の切実な疑問でしょう。
また、せっかく雇用保険を受給していたのに、すでに給付期間が過ぎてしまった方も、次に頼れる支援を探しているはずです。
学びたい気持ちはあっても、生活費の不安から一歩を踏み出せない方は少なくありません。
本記事の焦点は、まさにこの「雇用保険のセーフティネット外」にいるすべての方を対象とした国の強力な支援、「求職者支援訓練」にあります。
この制度の最大の価値は、訓練の受講料が無料になることに加え、一定の要件を満たせば、月額10万円の「職業訓練受講給付金」という強力な生活支援があることです。
これにより、あなたは「経済的な理由」で学びを諦める必要がなくなり、キャリア再構築に専念できる道が開かれます。
費用と生活費の不安を同時に解消し、未経験からでも新しい分野に挑戦できるこのチャンスを、ぜひ活用しましょう。
求職者支援訓練とは?制度の全体像と給付金による経済的支援の仕組み
求職者支援訓練は、雇用保険のセーフティネット外にいる方々に対し、誰もが新しいスキルを身につけて早期に安定した仕事に就くことを目的とした公的制度です。
求職者支援訓練の対象|失業手当の受給資格がないあなたへ
この訓練は、特に以下の理由で雇用保険の失業手当の受給資格がない求職者を主な対象としています。
この制度は、キャリアをリセットし、新たな挑戦を始めるすべての人に開かれています。
- 具体的な対象者例
- 初めての就職を目指す方、あるいは短期間の雇用などで雇用保険の加入期間が不足している方。
- 主婦・主夫から再就職を目指す方。
- フリーランスや個人事業主を廃業し、安定した雇用形態を目指す方。
- 失業手当の給付期間がすでに過ぎてしまった方。
- その他、雇用保険に加入していなかった求職者。
訓練期間と分野|未経験でも安心して就職を目指せる『求職者支援訓練』
求職者支援訓練は、就職に直結する実践的なスキルの習得に焦点を当てています。
- 訓練期間
- 中期(数ヶ月〜1年程度)のコースが多く、集中的にスキルを身につけ、早期の再就職を目指します。
- 主な分野
- IT・Webスキル(プログラミング、デザイン)、医療事務、介護、簿記、OA事務スキルなど、未経験者が比較的挑戦しやすく、企業の需要が高い分野が中心です。
- 特徴
- 公共職業訓練とは異なり、民間教育機関に委託されたコースが多いため、最新の市場ニーズに合わせた、多様で柔軟なカリキュラムが提供されています。
求職者支援訓練の最大のメリット|職業訓練受講給付金(月額10万円)の支援内容
この求職者支援訓練の最大の魅力は、受講料が無料であることに加えて、生活費の不安を解消する「職業訓練受講給付金」が用意されていることです。
- 訓練の受講料が無料になることに加え、一定の要件を満たせば、生活支援として月額10万円が支給されます。
この強力な経済支援こそが、あなたが経済的な心配なく、新しいスキル習得に集中し、自信をもって再就職を実現するための土台となります。
ただし、給付金を受け取るためには厳格な要件があります。
その詳細を具体的に確認しましょう。
職業訓練受講給付金(月10万円)の支給要件と注意点|求職者支援訓練の申請前に確認すべきこと
月額10万円の「職業訓練受講給付金」は、あなたの生活を支える非常に強力な支援です。
この給付金は、「早期の就職を促す」という明確な目的があるため、支給を受けるためには、国が定めた以下のすべての要件を厳格に満たす必要があります。
1. 職業訓練受講給付金の経済的要件|世帯全体の収入・資産の確認が必要
給付金は「生活に困窮している求職者」を支援するためのものです。
審査は本人だけでなく、世帯全体の状況が対象となります。
- 本人収入
- 原則として、訓練開始日の前1ヶ月における本人の収入が月8万円以下であること。(※年金や不動産収入などの不労所得がこれに該当します。)
- 訓練中のアルバイト収入の例外
- 原則として、訓練中は学習と就職活動に専念し、アルバイトを行うべきではありません。
- ただし、生活が困窮しているなど、やむを得ない理由がある場合に限り、ハローワークに届け出を行うことで、例外的に収入上限が月12万円以下となります。
- これは訓練に支障のない範囲で行うことが前提であり、出席率の維持と積極的な就職活動が義務付けられます。
- この上限を少しでも超えると、その月の給付は即座に停止されます。
- 必ずハローワークの担当者にご相談のうえ、事前届出が必要です。
- 世帯収入
- 世帯全体の収入が月30万円以下であること。
- 資産
- 世帯全体の金融資産(預貯金、株式、保険など)が300万円以下であること。
- その他
- 現在住んでいるところ以外に土地や建物を所有していないこと、過去5年間に不正行為による給付を受けていないことなども要件に含まれます。
2. 職業訓練受講給付金の訓練要件|高い出席率と就職への積極的な取り組みが必要
給付金は「真剣に学ぶこと」と「積極的に就職活動を続けること」への対価です。
- 出席率(最重要)
- 原則として、すべての訓練日への出席が必要です。
- やむを得ない理由(病気、介護など)による欠席を除き、8割以上の出席率を維持することが必須であり、これを下回ると給付金は支給されません。
- 就職活動と訓練の終了
- 訓練期間中も、ハローワークが定める回数以上の積極的な就職活動を行うことが求められます。
- 就職決定時のルールとジレンマ
- 訓練の目的が「早期の安定就職」であるため、たとえ訓練期間の途中であっても、就職が決定し雇用契約を結んだ時点で、目的達成と見なされます。
- この場合、給付金(月額10万円)の支給は即座に終了となり、訓練も他の求職者に機会を譲るため原則として辞退(中途終了)となります。
- 「スキルを完全に習得する前に訓練が終わってしまう」というジレンマはありますが、就職が決まったことは、訓練で学んだことが市場で通用したことの証明であり、制度上は最大の成功と見なされます。
- 未習得の部分は、入社後のOJTや自己学習で補うことが前提となります。
3. 手続きの注意点と不支給リスク|知らないと損する『職業訓練受講給付金』の落とし穴
- 必要書類が多い
- 給付金申請には、あなたの収入や資産状況、世帯構成を証明するための多くの書類が必要です(例:住民票、世帯全員の所得証明書、預貯金通帳の写しなど)。
- 不支給リスクの継続
- 訓練期間中に経済的な要件を満たさなくなった場合や、一度でも出席率が基準を下回った場合は、その月の給付が停止されたり、不支給となったりします。
- 訓練中は常に上記の厳格なルールを守り続ける必要があります。
給付金制度は、「訓練に集中し、必ず就職を目指す」という強い意志を証明するための制度でもあります。
まずはハローワークの訓練担当窓口で、あなたの状況で給付金の要件を満たすかを厳密に確認することから始めましょう。
職業訓練受講給付金の獲得と求職者支援訓練の申込みステップ|申請から受講までの流れを解説
月額10万円の給付金を受け取りながら訓練をスタートさせるためには、ハローワークで厳格な手続きを踏む必要があります。
以下のステップを順序立てて進め、確実に給付金と訓練の機会を獲得しましょう。
ステップ1|職業訓練受講給付金の初期相談と要件確認|申請の第一歩
まずは、あなたの状況で給付金の受給資格があるかどうかを確認することが最優先です。
- ハローワークで求職登録
- 最寄りのハローワークの窓口へ行き、求職の申し込みを行います。
- 訓練担当窓口で相談
- ハローワーク内の「職業訓練担当窓口」へ進み、給付金を受け取りたい旨と、興味のある訓練コースを伝えます。
- 専門の職員に、前章で確認した支給要件(特に世帯収入、資産)を満たすかを厳密にチェックしてもらいます。
- これが、この制度を利用するためのすべてのスタートラインとなります。
ステップ2|職業訓練受講給付金の必要書類準備と求職者支援訓練の申込み手順
支給要件を満たすことが確認できたら、給付金申請と訓練受講に必要な書類を準備します。
- 必要書類の準備
- ハローワークの指示に基づき、資産や収入に関する証明書類を慎重かつ正確に準備します。
- 書類の不備は、給付金申請の遅れに直結するため、専門の職員と相談しながら進めましょう。
- 訓練の申込みと選考
- 希望する訓練コースの募集期間中に申込みを行います。
- 筆記試験や面接があるため、訓練への強い意欲と、修了後の具体的な就職計画を明確に伝えられるよう、入念に準備してください。
- 給付金と訓練受講の分離
- 仮に経済的な要件を満たせず、給付金(月額10万円)が不支給となった場合でも、就職意欲と訓練の必要性が認められれば、無料(※テキスト代などは自己負担)で求職者支援訓練を受講できます。
- 給付金の可否にかかわらず、訓練受講のチャンスは残されています。
ステップ3|職業訓練受講給付金の支給決定と求職者支援訓練の開始手順
訓練の選考に合格し、手続きが完了すれば、いよいよ訓練と給付金支給が始まります。
- 合格と受講決定
- 訓練実施機関の選考に合格したら、ハローワークから受講の決定を受けます。
- 給付金の支給申請と継続の義務
- 訓練が開始された後、改めてハローワークに支給申請を行うことで、審査を経て給付金の支給が決定されます。
- その後、この制度の根幹をなすルールとして、毎月ハローワークへの来所・報告が全国共通で義務付けられます。
- この来所は原則として月に1回、ハローワークが指定する特定の日に行う必要があり、出席状況の確認や就職活動状況の報告が行われます。
- 報告や指導の内容は担当者により個別化されますが、給付金を受け取るための毎月の来所義務自体は変わりませんので、指定日は厳守が必要です。
- 要件を満たしている限り、月額10万円の給付が継続されます。
まとめ|職業訓練受講給付金と求職者支援訓練で費用と生活費の不安を解消
本記事では、失業手当の受給資格がない方を対象とした「求職者支援訓練」について解説しました。
求職者支援訓練と月額10万円の「職業訓練受講給付金」は、雇用保険のセーフティネットの枠を超えて、誰もが費用と生活費の不安なくキャリアチェンジに挑戦できる、強力な国の投資です。
給付金の要件(収入・資産など)は厳格ですが、満たせばあなたは専門スキルの習得に集中し、早期の安定就職を目指すことができます。
また、仮に給付金の支給が否決されたとしても、無料(※テキスト代などは自己負担)で訓練を受講するチャンスは残されています。
あなたの再就職に向けた第一歩は、まずはハローワークを訪問し、あなたが「給付金対象者」としての要件を満たすか、あるいは「無料訓練の受講資格」があるかを厳密に確認してもらうことです。
次回予告|仕事は辞めない!働きながらスキルアップする「在職者訓練」
さて、離職者を対象とした2つの訓練(公共職業訓練・求職者支援訓練)の解説が完了しました。
次回は、「今は仕事を辞めるつもりはないが、将来のためにスキルアップしたい」という、キャリアアップに意欲的な「在職者」向けの支援に焦点を当てます。
働きながら受けられる「在職者訓練(能力開発セミナー)」とは何か?夜間や土日に開催されるコースの具体的なメリットと、さらには企業を巻き込み、費用を会社に負担させることも可能になる助成金制度についても解説します。
自己投資の時間を最大限に活用したい方は、どうぞご期待ください。

執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
会社員歴30年以上、転職5回を経験した氷河期世代の社会保険労務士です。自らが激動の時代を生き抜いたからこそ、机上の空論ではない、働く人の視点に立った情報提供をモットーとしています。あなたの働き方と権利を守るために必要な、労働法や社会保険の知識、そしてキャリア形成に役立つヒントを、あなたの日常に寄り添いながら、分かりやすく解説します。
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