本記事は「企業のハラスメント対策バイブル」シリーズの第11話です。
前回は、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)が、男女雇用機会均等法や育児介護休業法、そして最高裁判例によって、企業の「回避不可能な義務」へと変わった歴史的経緯と、その法的類型(不利益型・環境型)を解説しました。
前回の記事は👉マタハラと企業責任|不利益取扱いを防ぐための企業対応戦略
企業が負う安全配慮義務と使用者責任は、もはや「知らなかった」「配慮が足りなかった」では済まされない、重大な経営リスクです。
しかし、実際の職場における妊娠中の体調変化や、育休明けの配置転換の判断は、法令が定める表面的な基準だけでは割り切れない、複雑な「実務的なグレーゾーン」に満ちています。
企業が「配慮を尽くした」つもりが、法廷では「不利益を与えた」と断罪されるケースは少なくありません。
本記事では、この法的グレーゾーンに焦点を当てます。
実際の裁判例、特に企業が敗訴した具体的な事例を深く分析することで、法令の裏側に隠された裁判所が企業に求める「実務的配慮」の真のレベルを解明し、企業の取るべき最適解を提示します。
この記事でわかること|マタハラ訴訟が示す企業の防御策
- 法的義務|マタハラ対策は不利益回避の「あらゆる努力」が求められる厳格な法的義務
- 敗訴の論点|不利益回避のプロセスを客観的な記録で立証できず敗訴するケースが多い
- 防御の核となる記録|「業務調整措置決定書」と「復職後面談記録」の作成と保管
- 賠償リスクの回避|ハラスメント放置の禁止と、相談窓口が機能している記録の重要性
- 最終原則|業務上の必要性と本人の同意に基づく措置であることを証明する
なぜ裁判例を知る必要があるのか?
マタハラ防止は、企業の単なる倫理的な取り組みではなく、すでに法的義務として完全に確立されています。
最高裁判例(広島中央保健生協事件)は、妊娠中の社員に不利益が生じる措置は原則として違法であり、企業はそれを回避するために「あらゆる努力」を尽くさなければならないという極めて厳しい基準を示しました。
この義務を果たさなければ、企業は安全配慮義務違反や使用者責任を問われ、多額の賠償リスクを負います。
グレーゾーンの危険性|労務実務で陥りやすい“判断ミス”の落とし穴
企業が直面するリスクの核心は、法令の明確な禁止事項(例:妊娠を理由とした解雇)ではなく、「軽易な業務への転換」や「育休後の配置」といった、一見すると配慮に見える行為が、裁判で実質的な不利益と判断されてしまう点にあります。
- 問題の構造
- 裁判所は、企業の業務上の必要性よりも、労働者が被る不利益の程度を優先的に比較衡量します。
- 企業の敗訴リスク
- 法令の文字面通りに運用したつもりでも、「不利益回避の努力が足りない」と判断された瞬間、実務的なグレーゾーンが一気に法的リスクへと転じ、敗訴へと繋がります。
リスク許容度の設定と最適解の明確化|企業が取るべき労務判断とは
本記事は、抽象的な法令理解に留まらず、具体的な裁判例を通じて、企業のリスク許容度を明確に理解することを目的とします。
実際の判決文から裁判所が重要視した判断材料(証拠)を抽出し、企業が「法的に配慮を尽くした」と認められるために、今日から何を記録し、どのような手続きを踏むべきかという実務上の最適解を提示します。
法的境界線|マタハラ(マタニティ・ハラスメント)を構成する2つの類型と主要裁判例
企業が負うリスクを理解し、対策を講じるためには、マタハラが法的に何を指すのかを明確に把握する必要があります。
ここでは、法的に厳しく規制される「不利益型」と、判断が分かれやすい「環境型」について、具体的な判例を対比させ、企業側の視点から責任が問われたポイントを明確化します。
不利益取扱い型マタハラ|妊娠・出産を理由とする不利益処分は“厳格に禁止”される
「不利益型マタハラ」は、妊娠や制度利用を直接的な理由として、降格、解雇、不当な配置転換など、労働者にマイナスとなる人事上の不利益を与える行為です。
企業側が勝訴するためには、この不利益が妊娠とは無関係の業務上の必要性に基づいていたことを、明確に立証する必要があります。
企業側が敗訴した裁判例|産育休復帰後の“不利益な契約変更”が違法と判断されたポイント
企業が「配慮」の名目で措置を講じたものの、結果として不利益取扱いと認定された事例です。
- 事例|東京地方裁判所判決(平成30年7月5日)
- 事件の概要
- 嘱託社員が育休後に短時間勤務を希望した際、会社が一方的にパート契約への転換を求め、その後、契約更新を拒否したことが争われた。
- 裁判所の認定(企業側の敗因)
- 会社が求めたパート契約への転換は、育児・介護休業法が禁止する不利益な労働条件の変更にあたると判断。
- 契約更新拒否も制度利用を理由とするものであり、男女雇用機会均等法・育児介護休業法に違反すると認定されました。
- 判決と金額
- 裁判所は、会社に対し、慰謝料として50万円を含む、合計約120万円(逸失利益等を含む)の支払いを命じました。
- 法的リスクの核心は、柔軟な働き方要求に対し、不利益な契約転換を一方的に迫った点です。
- 事件の概要
企業側が勝訴した裁判例|“合理的な立証”によってマタハラ認定を回避できた境界線
企業側の措置が「不利益取扱いではない」、あるいは「業務上の合理性がある」と裁判所に認められた、マタハラ訴訟における重要な判例です。
- 事例|ジャパンビジネスラボ事件(最高裁判決 2020年12月8日)
- 事件の概要
- 育児休業取得後に正社員から契約社員へ身分を変更され、その後の雇い止めがマタハラにあたるとして争われました。
- 最高裁は、女性側の上告を棄却し、企業側の勝訴が確定しました。
- 企業側が勝訴した要件(原審の判断の核心)
- この事案で企業側の主張が認められた最大の要因は、不利益措置が育休取得を理由とするものではないという客観的な事実を立証できた点にあります。
- 業務上の必要性
- 雇い止めや契約変更の原因が、当該社員の育休取得とは別の、全社的な組織改編や当該社員のポストの消滅といった、客観的な業務上の理由に基づいていたことを立証しました。
- 不利益回避の努力
- 企業は、ポストが消滅した後も、代替として契約社員のポストを提示するなど、不利益を回避するための代替措置を真摯に検討し、その過程を記録していました。
- これは、「あらゆる努力を尽くした」という企業の姿勢を示す重要な証拠となりました。
- 諸事情の総合考慮
- 裁判所は、会社が提示した合理的な代替ポストを社員側が拒否したことや、復職に向けた保育園の確保などの努力が不十分であったことなど、社員側の事情も総合的に判断材料として考慮しました。
- 事件の概要
この判例は、企業が業務上の合理性、不利益回避の努力、そしてその全てを裏付ける記録を揃えていれば、マタハラ訴訟においても十分勝訴の可能性があることを示しています。
環境型マタハラ|どこから“違法な就業環境の侵害”と判断されるのか
「環境型マタハラ」は、上司や同僚の心ない言動や嫌がらせによって、社員の就業環境を悪化させる行為です。企業は安全配慮義務違反や使用者責任を問われるリスクがあります。
妊娠を理由とした退職強要が違法とされた敗訴例|企業の言動が“環境型マタハラ”と認定された理由
妊娠を理由に雇用関係の継続そのものを否定する言動は、最も悪質なハラスメントと見なされます。
- 事例|大阪地方裁判所堺支部判決(平成14年3月13日)
- 事件の概要
- 私立幼稚園教諭が妊娠を理由に園長から退職を強要された事件。
- 裁判所の認定(企業側の敗因)と慰謝料
- 裁判所は、妊娠理由による退職強要を男女雇用機会均等法違反であると認定しました。
- 企業に対し、慰謝料280万円の支払いと復職を命じるという、非常に厳しい判断が下されました。
- 妊娠した労働者の地位を否定し、不利益を強要する言動は、悪質な環境型ハラスメントとして重罰に処されます。
- 事件の概要
企業側が勝訴した裁判例|妊娠とは無関係の“信頼関係破壊行為”が解雇の合理性を裏付けたケース
企業側の合理的な解雇理由と社員側の信頼関係破壊行為が、マタハラによる責任を回避させた稀少な代表例です。
- 事例|Y社事件(東京地裁 平成28年3月22日判決)
- 事件の概要
- 妊娠中の従業員Xが、勤務態度等を理由に解雇され、解雇がマタハラであると主張し、慰謝料等を求めた事案。
- 裁判所の認定(企業側の勝因の核心)
- この事案では、企業側の解雇が妊娠を理由とするものではないという客観的な事実が認められ、社員の訴えが退けられました。
- 解雇の合理性
- 従業員Xの勤務態度や言動が、職場の秩序を乱し会社運営に支障をきたすレベルであったと認定。妊娠とは無関係に解雇は妥当であると判断されました。
- 信頼関係の破壊
- Xが、職場で会話を無断で繰り返し録音し、会社代表者への追及行動を行うなど、会社との信頼関係を著しく損ねる行為があったと認定されました。
- 会社の信用毀損
- Xが他社に対し「マタハラがある」と誤った情報を流布し、会社の信用を傷つけた点も考慮されました。
- 解雇の合理性
- この事案では、企業側の解雇が妊娠を理由とするものではないという客観的な事実が認められ、社員の訴えが退けられました。
- 結論
- 裁判所は、Xの損害賠償請求を棄却しただけでなく、逆にXに対して会社への慰謝料等20万円の支払いを命じました(一審判決時)。
- この判例は、客観的な秩序違反の証拠と社員の信頼関係破壊行為が、企業の防御において極めて有効であることを示しています。
- 事件の概要
裁判例から導く「法的グレーゾーン」の実務基準|企業が迷いやすい判断ポイントをどう整理するか
マタニティ・ハラスメント(マタハラ)訴訟における企業の勝敗は、法令の知識の有無ではなく、実務上の「配慮のプロセス」を裁判所に対してどれだけ客観的な証拠で示せるかにかかっています。
ここでは、判例から抽出された、マタハラリスクをゼロにするために企業が着目すべき「三つの要素」を解説します。
配慮の“実務的努力”があったか|裁判所が必ず確認するプロセス
問題の核心は、企業が不利益を回避するための「あらゆる努力」を尽くしたか否か、というプロセスの証明にあります。
裁判所は、企業が労働者保護の義務を果たすため、実際にどれだけの実務的な努力を行ったかを厳しく検証します。
- 問われる証拠
- 軽易業務への転換に関する書面記録
- 妊娠中の体調変化に応じて、業務内容を具体的に調整し、その内容と合意を文書で交わした記録が必要です。
- 口頭での指示やメモ書きだけでは、企業の努力として認められません。
- 育休後の復職面談記録
- 復職後のポストや配置について、本人の意向を踏まえて複数回面談し、その結果を詳細に記録していることが求められます。
- ジャパンビジネスラボ事件のように、代替ポストを提示した記録は、企業側の不利益回避の努力を証明する強力な証拠となります。
- 産業医(または医師)の意見聴取の有無
- 措置の必要性や合理性を裏付けるために、専門家の客観的な意見を正式に聴取し、その記録に基づいて措置を決定したかどうかが重要になります。
- 軽易業務への転換に関する書面記録
企業の措置は“正当性・必要性”があったか|不利益取扱いを避けるための立証ポイント
企業が講じた降格や配置転換といった措置が、法的に正当であると認められるための核心的な基準です。
企業は、措置が妊娠・出産とは無関係の明確な業務上の必要性があり、かつ、他に代替手段がない最終手段であったことを証明しなければなりません。
- 判断基準の厳しさ
- 企業が主張する業務上の必要性は、組織改編やポストの消滅のように、客観的かつやむを得ない理由でなければなりません。
- 単なる「人手不足」や「能力不足」といった曖昧な理由は、裁判では認められにくい傾向にあります。
- リスク要素|「マミートラック」と見なされる曖昧な配置転換
- 妊娠や育休を契機に、専門性の低い部署や昇進コースから外れた部署への配置転換が行われた場合、たとえ減給がなくても、キャリア上の不利益(いわゆるマミートラック)と見なされ、違法と判断されるリスクがあります。
- 企業は、転換後の業務が依然として合理的かつ公正なものであることを説明できるようにする必要があります。
予防|組織文化と教育体制の整備が不可欠
マタハラ防止義務は、個人のハラスメント行為を防ぐだけでなく、企業がハラスメントを許さない健全な組織文化を構築する責任を問うものです。
この要素は、訴訟が発生した場合の損害賠償額を極大化させるリスクに直結します。
- 企業の責任|ハラスメントを放置した期間
- 社員から相談があったにもかかわらず、企業が調査や是正措置を怠り、ハラスメント状態を長期にわたって放置した場合、企業の安全配慮義務違反の悪質性が格段に高まります。
- 裁判所は、ハラスメントが放置されていた期間が長くなるほど、企業に課す損害賠償額を大幅に増額する傾向にあります。
- 相談窓口の機能不全
- 相談窓口が形骸化しており、相談員が適切な対応をしなかった、あるいは相談者に対する不利益な取扱い(二次ハラスメント)が発生した場合、企業は重い責任を負います。
- 判例では、相談窓口の担当者が相談内容を軽視したり、守秘義務を怠って情報が流出したりした事例で、企業側の賠償責任が加重されています。
これらの「三つの要素」は、マタハラリスクを管理するためのチェックリストとして機能します。
リスクを最小限に抑えるには、これらすべての要素において実務的な対応と、それを裏付ける証拠を揃えることが不可欠です。
企業を守る「記録」の力|今日から始める実践的な作成方法
マタハラ訴訟のリスクを回避するために、企業の規模に関わらず、法的防御力を最大化するための記録作成方法を解説します。
基本は「一枚のチェックリストと二つの行動」で防御を確立しますが、余裕がある企業は専門家の意見を組み込むことで、さらに防御力を高めることができます。
1. 妊娠中の業務調整|安全配慮義務の履行を証明する
妊娠中の社員から業務軽減や配置転換の要望があった際、その措置が「会社の一方的な不利益取扱い」ではないことを証明する必要があります。
- 必須となる行動と記録
- 社員からの申出記録
- 社員が提出する「母性健康管理指導事項連絡カード」などの医師の指導書を必ず受け取り、添付書類とします。
- 社員からの申出記録
母健連絡カードの推奨元と法的位置づけ
1. 推奨元|厚生労働省
「母性健康管理指導事項連絡カード」は、厚生労働省が作成・公表している公式の様式です。
- 目的
- 働く妊産婦が安心して働き続けられるよう、医療機関と事業主(企業)との間で情報が円滑かつ正確に伝達されることを目的としています。
- 入手先
- 厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできるほか、母子健康手帳に様式が含まれている場合や、産婦人科で発行される場合もあります。
- ダウンロード先⇨https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/download/
2. 法的根拠|男女雇用機会均等法
このカードの提出と、それに基づく措置の義務付けは、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)に定められています。
- 企業の義務
- 同法第13条に基づき、企業は女性労働者がこのカードを提出した場合、そこに記載された医師等の指導事項に応じて、通勤緩和や勤務時間短縮、休業などの必要な措置を講じる義務があります。
このように、母健連絡カードは、企業が妊娠中の社員に対して法的な義務を適切に履行したことを証明する、最も重要かつ公的な文書として位置づけられています。
- 措置の文書化
- 会社が措置(例|重い物を持たせない、残業免除など)を決定したら、その内容を「業務調整措置決定書」に簡潔に記載し、本人と会社が署名します。これにより、法的な義務(労働安全衛生法等)を履行した証拠となります。
業務調整措置決定書の位置づけ
この「業務調整措置決定書」および「復職後面談記録」は、法令で定められた公的な文書や様式ではありません。
これらは、マタハラ訴訟において企業の防御力を最大化するために、自社で作成・運用することを強く推奨する記録文書です。
これらの文書を作成し、従業員と会社双方の署名・押印をもって保管することで、措置が客観的な根拠と相互の合意に基づいて行われた確実な証拠となります。
【妊娠中】業務調整措置決定書に盛り込むべき項目
この文書は、安全配慮義務の履行を証明し、措置が客観的な根拠と同意に基づいたことを記録します。
- 対象となる従業員の氏名、所属部署、妊娠週数、出産予定日。
- 措置の根拠となった公的文書名と提出日(例:母性健康管理指導事項連絡カード、〇年〇月〇日提出)。
- 医師の主な指導事項を具体的に記載(例:〇〇作業の制限、長時間の立ち仕事の禁止など)。
- 措置の適用開始日と終了予定日(例:〇年〇月〇日〜出産予定日まで)。
- 会社が決定した具体的な措置内容を箇条書きで記載し、措置の履行を明確にする。
- 例:業務内容の軽減(〇〇作業からの除外、内勤専任など)。
- 例:勤務時間の調整(時間外労働の免除、時差出勤の適用など)。
- 会社が上記措置を講じることに対し、従業員が内容を確認し同意した旨の確認。
- 従業員と会社担当者の署名(または押印)。
- 記録を行った日付。
【復職時】復職後面談記録に盛り込むべき項目
この文書は、不利益取扱いを否定し、措置が業務上の必要性と本人の意向を踏まえたものであることを記録します。(育休終了前の面談時に作成)
- 面談実施日と担当者氏名。
- 対象となる従業員の氏名と復職希望日。
- 従業員の希望する勤務形態(例:時短勤務、フルタイム)と希望ポスト。
- 会社が提示する復職後のポストと労働条件(変更の有無に関わらず具体的に記載)。
- 労働条件に変更がある場合、その客観的な理由を簡潔に記載(例:全社的な組織改編による旧ポストの消滅)。
- 従業員が提示された条件に合意したか、非合意の場合はその具体的な理由。
- 従業員と会社担当者の署名(または押印)。
この2種類の文書を作成し、署名・押印をもって完了とすることが、企業の防御を確立する上で不可欠です。
- 【防御力強化のオプション】産業医・医師の活用
- 産業医を選任している企業は、必ず産業医の意見を聴取し、面談記録に「産業医の指導に基づき措置を決定した」と明記します。
- これにより、措置が医学的な客観性に基づいていることが証明され、防御力が格段に高まります。
2. 復職前面談|不利益取扱いを否定する核心的証拠
育休後の配置転換や労働条件の変更が、最も「不利益型マタハラ」と訴えられやすいリスクの高い局面です。ジャパンビジネスラボ事件のように、防御の鍵は「不利益回避の努力」の証明にあります。
- 必須となる行動と記録:
- 「復職後面談記録」を準備し、面談中にメモとチェックで記録を完結させます。
- 記録すべき核心は、「① 本人の意向」「② 会社の提案(ポストや労働条件)」「③ 変更理由(組織改編など)」「④ 本人の合意または非合意の理由」の4点です。
- 最も重要なのが、最終決定に対し本人に署名をもらうことです。
- これにより、会社の措置が一方的なものではなく、本人の意向を踏まえたプロセスであったことが証明されます。
- 【防御力強化のオプション】社労士・弁護士の活用
- 配置転換が大幅な不利益を伴う場合や、社員が会社の措置に明確に不満・異議を唱えている場合、事前に外部専門家の助言を得て、手続きの適法性を確認します。
- その助言内容を記録に残すことで、「企業が法的な公正性を確保しようと努力した」という強力な証拠となり、訴訟時の手続きの正当性を高めます。
3. ハラスメント予防|賠償額増大を防ぐ組織の責任
ハラスメントが起きた際、企業が防止義務を怠っていたと判断されると、賠償額が大幅に増大します。
- 必須となる行動と記録
- 防止方針の周知記録
- ハラスメント防止規程と相談窓口を記載した文書やポスターを全社員に周知し、その周知記録(例:配布メール、掲示写真)を保管します。
- 相談窓口対応記録
- 相談があった場合、「相談受付票」で日時、内容の概要、対応した措置を簡潔に記録します。
- 対応を放置していないことが、安全配慮義務の履行の証拠となります。
- 防止方針の周知記録
- 【防御力強化のオプション】外部相談窓口の委託
- ハラスメント相談窓口を、社労士などの外部専門家に委託することで、社内の二次ハラスメント発生リスクを大幅に低減できます。
- これは、企業の安全配慮義務を専門的な観点から履行する、訴訟リスク回避のための保険となります。
まとめ|マタハラ防御のための行動指針
裁判例が示すのは、企業が取るべきは「不利益回避のための実務的配慮の徹底」です。
マタハラリスクゼロのため、今日から「不利益を与えないための記録と手続き」を最優先で確立します。
行動指針|防御の核となる2つの重要文書
企業の防御は、以下の2つの文書の確実な作成と保管に集約します。
- 【妊娠中】業務調整措置決定書 (安全配慮の証明)
- 【復職時】復職後面談記録 (不利益取扱い否定の証明)
これらの記録には、措置の根拠と従業員の合意を必ず含めてください。
次回予告|パタニティ・ハラスメント(パタハラ)について
次回のテーマは、男性育休取得をめぐるハラスメント、「パタハラ」です。
「パタハラ」とは、上司や同僚が、男性従業員の育児休業取得や、育児を理由とした時短勤務などの制度利用に対して行う嫌がらせや不利益な扱いを指します。
「育児は女性の仕事」という古い意識が残る職場こそ、パタハラ対策は喫緊の課題です。
次回、詳細を解説します。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟
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- 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
- 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を、はじめての方にもわかりやすく、やさしくお伝えします。


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