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パワハラ防止の実践ステップ|ルールと意識改革で安全職場を実現

ルールと意識改革でハラスメントを無くす 企業のハラスメント防止
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社会保険労務士 戸塚淳二

執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二

戸塚淳二社会保険労務士事務所の代表として、日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方、人事制度の整え方まで、はじめての方にもわかりやすく解説することを心がけています。本記事では、「これだけは知っておきたい」労務の基礎について、専門家の視点からやさしくお伝えします。

社会保険労務士登録番号:第29240010号

本記事は「企業のハラスメント対策バイブル」シリーズの第5話です。

第1話は👉企業必見|ハラスメント対策の重要性と法的義務|人材流出・組織力低下を防ぐ方法

前回の記事では、パワーハラスメントが単なる「個人の問題」ではなく、「個人の意識」と「組織の構造」という2つの根本原因が絡み合って生まれること、そしてハラスメント対策が企業の持続的な成長に不可欠な「未来への投資」であることをお伝えしました。

前回の記事は👉パワハラが起こる理由と対策の5ステップ|職場改善の実践法

今回は、その根本原因にアプローチするための具体的な実践方法を、体系的な「5つのステップ」として掘り下げていきます。

まずは、すべての土台となる最初の2つのステップ、「ルールを定める」と「意識を変える」について詳しく見ていきましょう。

Step 1|ルールを定める|パワハラ防止に向けた組織の「不変の意志」を示す

ハラスメント対策の第一歩は、「ハラスメントは許されない行為」という組織の明確な意思を、社内外に示すことです。

この意思表示が曖昧だと、「厳しい指導」と「ハラスメント」の線引きがぼやけ、「見て見ぬふり」や「無自覚」が横行する原因になります。

ルールを明確にすることで、すべての従業員に共通の行動基準が与えられます。

これにより、ハラスメントが個人の問題ではなく、組織全体で容認しない行為であることが明確になり、被害者は安心して声を上げることができ、加害者も自身の言動を省みるきっかけとなります。

では、具体的にどのようにルールを定めれば良いのでしょうか。

パワハラを許さない組織に不可欠な「服務規律」と「懲戒規程」

ハラスメント対策を実効性のあるものにするには、単にハラスメントを禁止するだけでなく、服務規律と懲戒規程をセットで整備し、運用することが不可欠です。

これらは、ハラスメントを許さないという組織の強い意志を具体的に示すための「牙」とも言えるでしょう。

服務規律とは何か?

服務規律とは、従業員が会社に在籍する上で守るべき義務やルールの総称です。

これは、組織の秩序を維持し、円滑な業務遂行を可能にするための「会社における憲法」と言えます。

パワハラは、職場の風紀や秩序を著しく乱す行為として、この服務規律に違反します。

服務規律違反には、以下のようなものが含まれます。

  • 職務専念義務違反
    • 正当な理由のない遅刻や欠勤、業務中の私的な行為など。
  • 秩序維持義務違反
    • 職場の風紀や秩序を乱す行為で、パワハラ、セクハラ、暴言、暴力、飲酒運転などがこれに該当します。
  • 守秘義務違反
    • 会社の機密情報や顧客情報を外部に漏洩する行為。
  • 会社の名誉・信用を毀損する行為
    • 会社の評判を著しく貶めるような行為。

この服務規律は、就業規則に明示しておく必要があります。

明文化されていなければ、会社は従業員の不適切な行為に対して適正な懲戒処分を下すことが難しくなります。

また、従業員にとっても何が禁止されている行為なのかが不明瞭になり、予期せぬトラブルに発展するリスクがあります。

服務規律の記載例(就業規則より)
第〇条(服務規律)
従業員は、会社の一員として、次に掲げる事項を誠実に守り、職務を遂行しなければならない。
1. 職務上の命令には従うこと
2. 職場の秩序を維持し、他の従業員の就業を妨げないこと
3. 会社の信用を傷つけ、または不名誉となるような行為をしないこと
4. 会社の機密情報および個人情報を保持し、許可なく第三者に開示、漏洩しないこと

懲戒規程の役割

懲戒規程は、服務規律に違反した従業員に対し、どのような処分を下すかを定めたルールです。

これは、ルールを守らない従業員に罰則を科すことで、ルールの実効性を担保し、全体の秩序を保つために必要です。

懲戒規程がなければ、会社はパワハラを行った従業員に対して、客観的な根拠と公正な手続きに基づいた処分を下すことができず、法的リスクを負うことになります。

例えば、懲戒解雇のような重い処分を下した場合、その有効性が裁判で争われる可能性があり、会社が敗訴すれば多額の損害賠償を命じられることもあり得ます。

懲戒規程には、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など、さまざまな処分の種類を明確に定め、どのような行為に対してどの処分が適用されるかを具体的に記載する必要があります。

これにより、従業員は安心して働くことができ、同時に、ハラスメントを行った者には相応の責任が問われることを明確にします。

ハラスメント規定と懲戒規程の具体的な記載例

ハラスメントに関するルールは、就業規則本体に詳細を記載するのではなく、「ハラスメント防止規程」といった別規定として設けるのが一般的です。

これにより、社会情勢の変化に応じて柔軟に内容を更新できます。

ハラスメント防止規程の記載例

第〇条(ハラスメントの禁止)
いかなるハラスメントも禁止する。ハラスメントには、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント等を含む。

第〇条(パワーハラスメントの定義)
パワーハラスメントとは、職場において、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものをいう。

第〇条(パワーハラスメントの具体例)
前項のパワーハラスメントには、以下のような行為が含まれる。ただし、これらに限定されない。
1. 身体的な攻撃: 殴る、蹴るなどの暴行
2. 精神的な攻撃: 人格を否定する言動、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言
3. 人間関係からの切り離し: 隔離、仲間外し、無視
4. 過大な要求: 達成不可能な業務の強制、業務とは無関係な私的な雑用の強制
5. 過小な要求: 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた簡単な業務のみを命じる、仕事を与えない
6. 個の侵害: プライバシーへの過度な干渉

懲戒規程の記載例

ハラスメント行為は、就業規則に定める懲戒事由の一つとして明確に記載します。

第〇条(懲戒の種類)
懲戒は、その情状に応じ、次の区分により行う。
1. 譴責(けんせき)
2. 減給
3. 出勤停止
4. 降格
5. 諭旨解雇
6. 懲戒解雇

第〇条(懲戒事由)
従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、情状に応じ前条に定める懲戒を行う。
(中略)
4. ハラスメント防止規程に違反し、ハラスメント行為を行ったとき
(以下略)

これらのルールを定めることは、単なる義務の履行ではありません。

それは、従業員が安心して働くことのできる「心理的安全性」の高い職場を築くための、企業にとって不可欠な「未来への投資」なのです。

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パワハラ防止に向けたトップメッセージの発信

ルールを定めることは重要ですが、それだけでは不十分です。

規則が形骸化しないよう、経営層が主体となって「ハラスメントは絶対に許さない」という強いメッセージを繰り返し発信することが不可欠です。

このトップダウンの姿勢は、組織全体にルールの重要性を浸透させ、健全な職場文化を築くための強力な推進力となります。

入社式や朝礼、社内報、ウェブサイトなど、あらゆるチャネルを通じて継続的に伝えることで、組織の揺るぎない姿勢が従業員一人ひとりに浸透し、当事者意識を高めることにつながります。

Step2|意識を変える|パワハラ防止に向けて無知と無自覚をなくす

ルールを定めただけでは、ハラスメントはなくなりません。

なぜなら、多くのハラスメントは加害者の悪意からではなく、「無知」や「無自覚」から生まれるからです。

自分の言動が相手を傷つけていることに気づかず、古い価値観のまま行動してしまうケースが少なくありません。

この課題を解決するには、従業員一人ひとりの意識を変え、ハラスメントの根本原因を断ち切ることが不可欠です。

特に、部下を指導する立場である管理職の意識改革が重要になります。

パワハラ防止のための全従業員向け研修の実施

全従業員を対象にした研修では、ハラスメントの定義や法律上のリスクを学ぶだけでなく、「自分ごと」として考える機会を設けることが重要です。

ここでは、ワークショップという形式を取り入れることをお勧めします。

ワークショップとは、一方的に話を聞くだけの講義とは違い、参加者が主体となって課題に取り組み、話し合いを通じて学びを深める体験型の研修です。

総務部や人事部の担当者が中心となって企画し、参加者同士が具体的な事例についてグループで話し合うことで、単なる知識の習得に終わらず、「これはハラスメントになるかもしれない」という気づきを促します。

最も大切なのは、「言われた側がどう感じるか」という被害者視点を養うことです。

たとえ悪意がなくても、相手が不快に感じればハラスメントになり得ることを、ワークショップを通じて体感的に理解し、共感力を高めます。

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パワハラ防止に向けた管理職向け研修の強化

管理職は、ハラスメントを未然に防ぎ、健全なチームを育む上で重要な役割を担います。

そのため、より実践的な研修が必要です。

  • ロールプレイングの活用
    • 「厳しい指導」と「ハラスメント」の明確な線引きを、ロールプレイングを通じて実践的に学びます。
    • これにより、どのような言動がNGなのかを体感的に理解することができます。
  • コミュニケーションスキルの習得
    • 部下の能力を最大限に引き出すためには、「ポジティブ・フィードバック」や「承認」といったコミュニケーションスキルが不可欠です。
    • これらのスキルを習得することで、単に注意するだけでなく、部下の成長を促す建設的な指導ができるようになります。

もし、社内に研修運営のノウハウがない場合は、外部の専門家に依頼するのも良い手段です。

弁護士事務所、社会保険労務士事務所、またはハラスメント研修を専門とするコンサルティング会社などが、企業の状況に合わせた研修プログラムを提供しています。

意識改革は一朝一夕には実現しませんが、継続的な研修と対話を通じて、ハラスメントのない、お互いを尊重し合える職場文化を築くことができるでしょう。

まとめ|パワハラ防止対策の第一歩と意識改革の重要性

今回の記事では、ハラスメント対策の第一歩となる2つのステップ、「ルールを定める」と「意識を変える」について解説しました。

ハラスメント対策を形骸化させないためには、まず「ハラスメントは許されない行為」という揺るぎないルールを定めることが重要です。

就業規則に服務規律や懲戒規程を明記することで、組織としての強い意志を従業員に示すことができます。

しかし、ルールだけでは不十分です。

ハラスメントの根本原因である「無知」や「無自覚」をなくすために、ワークショップやロールプレイングといった実践的な研修を通じて、従業員一人ひとりの意識を変えていくことが不可欠です。

健全な職場環境は、従業員のエンゲージメントと生産性を高め、結果として企業の持続的な成長を可能にする最も重要な基盤となります。

次回予告|パワハラ発生時の対応と再発防止策を解説

次回は、今回ご紹介した「ハラスメント対策の5ステップ」の続きを深掘りしていきます。

ハラスメントが実際に発生した際の具体的な対応に焦点を当て、「Step 3|制度を整備する」「Step 4|事実を究明する」「Step 5|再発を防ぐ」について、詳しく解説します。

どうぞお楽しみに。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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