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【企業担当者向け】多様な働き方と有給休暇 |フレックスタイム・裁量労働制・リモートワークの実務と偽装請負対策

知っておきたい年次有給休暇の全てvol11 労務の基礎知識
派遣社員、日雇い、業務委託、リモートワークの有給は?
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本記事は「知っておきたい!年次有給休暇のすべて」シリーズのvol11です。

vol1は👉年次有給休暇の基本と付与のルール(企業担当者|中小企業経営者向け)

前回の記事では、増加する非正規雇用者の有給休暇について、比例付与の考え方から5日取得義務化への対応、雇用形態変更時の注意点まで、中小企業の皆さまが直面する課題と解決策を深掘りしました。

前回の記事は👉非正規社員の有給5日義務化|中小企業必須の実務対応ポイント

しかしながら、現代の働き方は、正社員、非正規雇用といった枠組みには収まりません。

フレックスタイム制、裁量労働制、在宅勤務・リモートワークなど、さらに多様化しています。

これらの柔軟な働き方は、従業員のワークライフバランス向上や生産性向上に寄与する一方で、有給休暇の運用をより複雑にしています。

多様な働き方に対応した有給休暇管理の課題と解決策

今回の記事では、こうした多様な勤務形態における有給休暇の具体的な考え方、取得時の「1日」のカウント方法、そして企業が直面しやすい実務上の課題と、その解決策に焦点を当てて解説します。

労働時間の柔軟性が高い制度だからこそ、有給休暇のルールを曖昧にしていると、従業員との間で認識のズレが生じたり、予期せぬトラブルに発展したりするリスクがあります。

この多様な働き方に即した有給休暇の管理は、企業のコンプライアンス強化はもちろん、従業員が安心して働ける環境を整える上で不可欠です。

複雑に思える運用も、正しい知識と具体的な対応策を知ることで、円滑に進めることができます。

フレックス・裁量労働制・リモートワークにおける有給休暇運用と課題

ここでは、一般的な非正規雇用者にとどまらない、さらに多様な勤務形態における有給休暇の具体的な考え方や、実務で生じやすい課題に焦点を当てて解説します。

フレックスタイム制における有給休暇の取り扱いと注意点

フレックスタイム制は、一定期間(清算期間)の中で総労働時間を定めておけば、日々の始業・終業時刻や労働時間を従業員の裁量に委ねる制度です。

この制度下での有給休暇の扱いは、通常の固定時間勤務とは異なる点があります。

フレックスタイム制|有給休暇取得時の「1日」「半日」「時間」の考え方

  • フレックスタイム制の場合、有給休暇を取得した日は、「標準となる1日の労働時間」労働したものとして扱います。
  • たとえば、1日の標準労働時間が8時間と定められている場合、有給休暇を1日取得すれば、その日は8時間労働したものとして扱われ、清算期間の総労働時間に8時間加算されます。
  • 半日単位年休・時間単位年休との組み合わせ
    • フレックスタイム制は、労働時間を柔軟に設定できるため、特に時間単位年休との相性が良いとされます。
    • 時間単位年休を導入していれば、たとえば「今日は午前中だけ病院に行きたい」といった場合に、半日ではなく必要な時間数だけ有給休暇を消化できるため、従業員の利便性が向上します。
    • 導入には労使協定の締結が必要ですが、従業員満足度を高める有効な手段となるでしょう。

フレックスタイム制|賃金の算出方法(標準労働時間に応じた賃金)

  • 有給休暇を取得した日の賃金は、原則として「平均賃金」「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」「健康保険の標準報酬日額に相当する額」のいずれかを就業規則等で定めて支払います。
  • フレックスタイム制の場合も、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」を基準とする際には、「標準となる1日の労働時間」に対して支払われる賃金を計算することになります。これにより、有給休暇取得によって給与が変動することを防ぎます。

裁量労働制での有給休暇取得ルールと注意点

裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や時間配分を大幅に労働者の裁量に委ねる働き方です。

この制度では、実際に働いた時間に関わらず、あらかじめ定めた時間(みなし労働時間)を労働したものとみなします。

  • 有給休暇取得時の「労働したとみなす時間」と賃金計算
    • 裁量労働制下で有給休暇を取得した場合、その日は、あらかじめ定められた「みなし労働時間」を労働したものとして扱います。
    • 例えば、みなし労働時間が8時間と定められていれば、有給休暇を1日取得した日も8時間労働したとみなされ、その分の賃金が支払われます。
  • 実際に労働しなくても給与が発生することの理解と運用上の注意点
    • 裁量労働制の特性上、有給休暇を取得した日は、労働の実態がなくてもみなし労働時間分の賃金が支払われます。
    • これは、「有給休暇を取得したことで賃金が減額されることはない」という労働基準法の原則を維持するためのものです。
    • 従業員がこの制度を正しく理解していないと、有給休暇を取ることに躊躇したり、誤解が生じたりする可能性があるため、制度の説明を丁寧に行うことが重要です。

在宅勤務・リモートワークにおける有給休暇の取得ルールと実務上の注意点

急速に普及した在宅勤務・リモートワークは、場所の制約を受けない柔軟な働き方ですが、有給休暇の運用には独自のポイントがあります。

有給休暇取得時の連絡体制と承認フローの明確化(オンラインツールの活用)

  • オフィスでの対面が少ないため、有給休暇の申請・承認プロセスを明確にする必要があります。
  • 勤怠管理システムやグループウェアなどのオンラインツールを活用し、申請・承認をシステム上で完結できる体制を構築することで、スムーズな運用と記録の正確性を確保できます。
  • 誰に、いつまでに、どのような方法で連絡するかを明確に伝えましょう。

「みなし労働時間制」適用時の有給休暇の考え方と、実態との乖離への対応

  • 在宅勤務にも、外勤が多い営業職などで「事業場外みなし労働時間制」が適用される場合があります。
  • この場合も、裁量労働制と同様に、有給休暇を取得した日は「みなし労働時間」労働したものとして扱われます。
  • もし、みなし労働時間と実際の労働実態に大きな乖離がある場合は、その制度設計自体を見直す必要があるため注意が必要です。
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在宅勤務における有給休暇中の「業務対応」への懸念と、信頼関係の構築の重要性

  • 在宅勤務では、従業員の勤務実態が見えにくいことから、「有給休暇中に本当に休んでいるのか。」「業務連絡に対応してしまわないか。」といった懸念が生じることがあります。
  • しかし、有給休暇は従業員の心身のリフレッシュを目的とした権利であり、企業は休暇中の従業員に業務を指示したり、連絡を強要したりすることはできません。
  • この問題の根底には、企業と従業員間の信頼関係が大きく関わっています。従業員を信頼し、明確なルールと期待値を共有することが重要です。
  • 休暇中の連絡先や緊急時の対応ルールを事前に取り決めることは許容されますが、従業員が安心して休暇を取得できるよう、企業側が「休む権利」を尊重する姿勢を明確に示すことが求められます。

派遣社員・業務委託・日雇い労働者の有給休暇ルールと付与条件

多様な働き方の中には、直接雇用ではない形態や、雇用期間が限定される形態も含まれます。

それぞれの有給休暇の取り扱いを確認しましょう。

派遣社員の有給休暇は派遣元・派遣先どちらが付与する?

この派遣社員に対する有給休暇の付与義務と管理責任は、派遣元企業(派遣会社)にあります。

派遣先企業は、派遣社員の有給休暇の取得を妨げることはできませんが、直接的に有給休暇を付与したり、その取得時季を決定したりする権限はありません。

派遣社員の有給休暇取得が派遣先の業務運営に支障をきたす可能性

しかし、派遣社員の有給休暇取得が派遣先の業務運営に支障をきたす可能性があるのも事実です。このような事態を避けるため、派遣先企業は以下の点に留意し、派遣元企業と密に連携して対応する必要があります。

事前の情報共有と連携体制の構築

  • 派遣契約締結時や更新時に、派遣元企業と有給休暇の申請・承認プロセス、連絡方法、緊急時の代替要員の可否などを具体的に確認し、取り決めておきましょう。
  • 派遣社員から直接有給休暇の申請があった場合は、速やかに派遣元企業にも情報共有を行うよう徹底します。

早期の申請と業務調整の協力

  • 派遣元企業に対し、派遣社員が有給休暇を取得する際には、できる限り早期に派遣先へ通知するよう働きかけを依頼しましょう。
  • 早期に情報が入れば、派遣先は業務の調整や引き継ぎ、代替対応の検討など、必要な準備をする時間を確保できます。

時季変更権の行使は派遣元の判断

  • 派遣先の業務運営に重大な支障が出る場合でも、有給休暇の時季変更権を行使できるのは、派遣社員の雇用主である派遣元企業のみです。
  • 派遣先は派遣元に対し業務上の困難を伝え、相談することは可能ですが、直接派遣社員に取得時季の変更を命じることはできません。
  • 派遣元企業が時季変更権を行使するには、その派遣元の事業運営に支障をきたす場合に限られます。

代替要員の要請

派遣社員が有給休暇を取得する際に業務が停滞するようであれば、派遣元企業に一時的な代替要員の派遣を相談する、あるいは派遣契約の人数を増やすことを検討するなどの対応が考えられます。

計画的付与制度の活用に関する相談

もし派遣社員の業務が計画的付与制度になじむ性質であれば、派遣元企業に計画的付与の導入可能性について相談し、事前に休暇日を定めることで業務への影響を最小限に抑えることも検討できます。

業務委託と有給休暇の関係|労働者性をどう判断するか

この業務委託契約は、雇用契約とは根本的に異なります。

業務委託契約を結んでいる個人事業主やフリーランスは、労働基準法の「労働者」には該当しないため、原則として有給休暇は付与されません。

偽装請負の問題

しかし、実態として指揮命令を受けていたり、労働時間や場所の拘束があったりするなど、「実質的に労働者と判断される」ケースも存在します。

このような場合、「偽装請負」とみなされ、企業は労働基準法上の義務(有給休暇付与を含む)を負う可能性が出てきます。

業務委託契約を結ぶ際は、契約内容だけでなく、実際の業務実態が「労働者性」を示していないかを慎重に確認する必要があります。

「うちは業務委託だから有給休暇は関係ない」と考えていると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。それが「偽装請負」です。

この「偽装請負」は最近特に注目される労働問題の一つです。

企業が偽装請負をしてしまう背景には、主に社会保険料や残業代などの人件費削減、採用・解雇手続きの簡素化といった目的があると考えられます。

形式的に業務委託契約を結んでいても、実態が「雇用契約」とみなされる場合、それは偽装請負と判断されます。

どんな場合に偽装請負とされる?(主なポイント)

以下の項目に多く当てはまるほど、偽装請負と判断されるリスクが高まります。

  1. 指揮命令関係がある
    • 業務の指示
      • 業務のやり方、進め方を具体的に細かく指示している。
    • 時間・場所の拘束
      • 勤務時間や出勤場所を会社が指定・管理している。
    • 勤怠管理
      • 遅刻や欠勤にペナルティを課すなど、労働者のように勤怠を管理している。
  2. 業務遂行の独立性がない
    • 代替性の否定
      • 契約者以外の人が代わりに業務を行うことを認めない。
    • 報酬の形態
      • 業務の成果物ではなく、時間や日数を基準に報酬を支払っている。
    • 備品提供
      • 業務に必要なパソコンや工具などを会社が無償で提供している。
    • 専従性の要求
      • 会社以外の仕事を受けることを制限している。
  3. 事業者としての責任がない
    • 業務の完成に対する責任(欠陥があった場合の修正など)が、労働者のように曖昧になっている。
偽装請負と判断されたらどうなる?
  • 労働基準法などの適用
    • 委託者が「労働者」とみなされ、会社は有給休暇の付与、残業代の支払い、社会保険・労働保険への加入といった義務を遡って負うことになります。
  • 多額の支払い
    • 未払いの賃金や保険料などが積み重なり、多額の費用が発生する可能性があります。
  • 罰則・指導
    • 労働者派遣法違反などとして、行政指導や罰則(罰金など)の対象となることもあります。
  • 会社の信用失墜
    • 法令違反が公になると、企業のイメージダウンや採用活動への悪影響が生じます。

「業務委託」は便利な契約形態ですが、実態が伴っていなければ大きなリスクになります。

契約内容だけでなく、実際の業務が指揮命令関係にないか、独立性が保たれているかを定期的に見直しましょう。

不安があれば、迷わず社会保険労務士などの専門家に相談してください。

日雇い労働者の有給休暇|例外的に付与される条件とは

  • 「日々雇用される者」とは、1日単位で雇用契約が更新される労働者のことです。
  • 原則として有給休暇の付与対象とはなりませんが、例外的に「継続勤務」とみなされる場合は有給休暇が付与されます。
  • 具体的には、6ヶ月を超えて継続勤務し、かつその6ヶ月間の出勤日数が労働契約締結当初から継続して雇用されている他の労働者の所定労働日数の8割以上である場合は、有給休暇が付与されます。
  • これは、形の上は日々雇用でも、実態として継続的に雇用されている労働者を保護するための措置です。

まとめ|多様な働き方に対応した有給休暇管理の実務ポイント

本記事では、フレックスタイム制、裁量労働制、在宅勤務・リモートワークなどの多様な勤務形態における有給休暇の取り扱いや実務上の注意点、さらに派遣社員、業務委託、日雇い労働者の有給休暇ルールや付与条件について整理しました。

ポイントを押さえることで、従業員が安心して有給休暇を取得できる環境を整えつつ、企業としてコンプライアンスを守った運用が可能になります。

次回予告|トラブル発生!有給休暇を巡る「これってNG?」ケースと解決のヒント

次回の記事では、有給休暇に関するルールをきちんと整備していても起こりうる、「有給休暇を巡るトラブル事例」に焦点を当てます。

  • 従業員からの突然の申請で業務が回らない!
  • 「体調不良」で休んでいたはずが、SNSで旅行中の写真が…
  • 有給休暇取得をめぐって従業員から不満の声が上がっている

など、実際に企業が直面しやすい具体的なトラブルケースを取り上げ、それぞれが法的に「NG」なのかどうかを分かりやすく解説します。

さらに、そうしたトラブルが発生した際の具体的な対処法や、労使双方の視点から考える解決策についても掘り下げていきます。

企業の「困った!」を解消するための実践的なヒントが満載です。どうぞご期待ください!

次回の記事は👉会社の都合を無視した有給申請への対抗策と時季変更権の限界

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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筆者 戸塚淳二
筆者 戸塚淳二
  • 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
  • 日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を、はじめての方にもわかりやすく、やさしくお伝えします。

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