知っておきたい!年次有給休暇のすべてvol2 人事担当者必見!シフト制アルバイトの有給休暇「付与」「計算」「管理」を徹底解説

スポンサーリンク
シフト制アルバイトの有給休暇 労務の基礎知識
シフト制アルバイトの有給休暇の基礎知識
スポンサーリンク
スポンサーリンク
社会保険労務士 戸塚淳二

執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二

戸塚淳二社会保険労務士事務所の代表として、日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方、人事制度の整え方まで、はじめての方にもわかりやすく解説することを心がけています。本記事では、「これだけは知っておきたい」労務の基礎について、専門家の視点からやさしくお伝えします。

社会保険労務士登録番号:第29240010号

社会保険労務士の戸塚淳二です。

前回は、年次有給休暇の基本的な権利や付与ルールについて詳しく解説しました。

しかし、人事担当者の皆さまから特に多く寄せられるのは、「シフト制アルバイトの有給休暇管理が難しい」という声です。週によって勤務日数が変動する短時間労働者への有給休暇の付与や、その取得時の賃金計算、さらには日々の運用でつまずきやすいポイントなど、その複雑さに頭を悩ませている方も少なくないでしょう。

今回は、まさにそのお悩みに焦点を当て、シフト制アルバイトの年次有給休暇の具体的な考え方と、実務で役立つ管理のヒントを徹底解説します。 複雑と思われがちなシフト制の有給管理を、一つずつ分かりやすく紐解いていきますので、ぜひ最後までお読みください。

スポンサーリンク

短時間労働者の年次有給休暇付与の基本 比例付与の原則

まず、シフト制アルバイトを含む短時間労働者の年次有給休暇は、「比例付与」という原則に基づいて付与されます。

比例付与の詳しい内容や、具体的な付与日数については、前回の記事「年次有給休暇の基本と付与ルールを徹底解説 人事担当者向け」で詳細に解説していますので、併せてご確認ください。

スポンサーリンク

シフト制アルバイトにおける比例付与の具体的な考え方

シフト制アルバイトの場合、週ごとの労働日数が変動することが多く、有給休暇付与の基準となる「週所定労働日数」をどのように判断するかがポイントになります。

基準となる「週所定労働日数」または「年間所定労働日数」の特定方法

  1. 雇用契約書による特定
    • 雇用契約書に「週3日勤務」「月12日勤務」などと明確に定められている場合は、その日数を基準とします。
  2. 実態による特定
    • 「雇用契約書に定めがない場合」や、「雇用契約書に定めはあるが実態とかけ離れている場合」は、過去の勤務実績から平均的な勤務日数や時間を算出し、これを基準とします。 たとえば、直近の半年間(26週)の総出勤日数が78日だった場合、週平均は「78日 ÷ 26週 = 3日」となり、週3日勤務の従業員として有給休暇を付与することになります。年間を通じての平均を算出するなど、実態に即した判断が求められます。
  3. 「週所定労働日数」が変動する場合の注意点
    • シフト制の特性上、週ごとの労働日数が変動することはよくあります。この場合、1ヶ月単位や数ヶ月単位で平均を出す、あるいは年間を通じた平均で考えるといった方法で、従業員にとって不利益にならないように判断することが重要です。就業規則で、シフトが変動する従業員の「週所定労働日数」の算定基準を明確に定めておくことをおすすめします。算定基準は、パートタイム就業規則や別途の運用マニュアル等に明文化しておくと、実務上の混乱を防ぎやすくなります。
スポンサーリンク

シフト制アルバイトの有給休暇取得時の賃金計算

有給休暇を取得した日には、原則として「通常の賃金(所定労働時間働いた場合の賃金)」を支払う必要があります。シフト制アルバイトの場合、この「通常の賃金」の計算が少し複雑になることがあります。

「通常の賃金(所定労働時間働いた場合の賃金)」の算出方法

最も一般的なのは、「時間単価 × 有給取得日に本来勤務するはずだった時間数」で計算する方法です。

  1. 日によって労働時間が異なる場合
    • 有給休暇を取得する日(シフトが確定している日)に、その従業員が本来勤務するはずだった所定労働時間に基づいて賃金を支払います。たとえば、あるアルバイトが月曜日は5時間、水曜日は8時間、金曜日は4時間とシフトに入っていた場合、水曜日に有給休暇を取得すれば8時間分の賃金を支払うことになります。
  2. 固定シフトではない場合
    • シフトが完全に流動的で、取得日の所定労働時間が事前に確定していない場合は、過去のシフト実績から平均的な労働時間を算出し、それを取得日の所定労働時間とみなす方法や、労使協定☟語句解説で別途賃金計算のルールを定めておくことも考えられます。就業規則等で明確な計算ルールを定めておくことで、従業員とのトラブルを避けることができます。

👆外国人採用の新しい形。Bossjobで企業の人材不足を解決!

  1. 【具体例】
    • あるアルバイトが、過去3ヶ月で総労働時間200時間、総勤務日数40日だったとします。
    • この場合、1日あたりの平均労働時間は「200時間 ÷ 40日 = 5時間」となります。
    • もしこのアルバイトが有給休暇を1日取得した場合、時間単価 × 5時間分の賃金を支払うことになります。
  2. このような計算方法を導入する際は、就業規則などでそのルールを明確に定めておくことが、従業員とのトラブルを避ける上で非常に重要です。
  3. 注意点
    • 「通常の賃金」の計算方法は、平均賃金を用いる方法や、健康保険の標準報酬日額を用いる方法など、いくつか選択肢があります。どの方法を採用するかは、就業規則で定めておく必要があります。シフト制アルバイトの場合、日によって労働時間が異なるため、最も実態に合った計算方法を選ぶことが重要です。
スポンサーリンク

シフト制アルバイトの有給休暇管理でつまずきやすいポイントと対策

シフト制アルバイトの有給休暇管理では、以下のような点がつまずきやすいため、特に注意が必要です。

ポイント1 基準日の特定と管理

  • 課題
    • 入社日が従業員ごとに異なるため、有給休暇の付与日(基準日)も個別に発生し、管理が煩雑になりがちです。
  • 対策
    • 基準日の統一: 全従業員の基準日を特定の月に統一する「斉一的取扱い」を導入することで、管理を簡素化できます。斉一的取扱いの詳細や導入時の注意点については、前回の記事「年次有給休暇の基本と付与ルールを徹底解説 人事担当者向け」で詳しく解説していますので、併せてご確認ください。
    • 管理簿の徹底: 労働者ごとの年次有給休暇管理簿(付与日、付与日数、取得時季、取得日数)を正確に作成・保存し、常に最新の状態を保つことが重要です。

ポイント2 有給休暇付与日数の正確な把握

  • 課題
    • シフト変動が多いと、従業員の「週所定労働日数」が変わり、付与される有給休暇の日数が途中で変動する可能性があります。
  • 対策
    • 定期的な勤務状況の確認: 半年や1年など、定期的に従業員の過去の勤務実績を確認し、現在の「週所定労働日数」に合っているか見直しましょう。
    • 従業員への周知: 付与される有給休暇の日数が変わった場合は、その旨を速やかに従業員に通知し、理解を促すことが大切です。

👆新しい働き方に対応する採用戦略を。求人広告ドットコムがサポートします。

ポイント3 5日取得義務化への対応

  • 課題
    • 2019年4月1日から、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者には、使用者に対して、そのうち少なくとも5日を毎年確実に取得させる義務が課されました(この件については、次回の記事で詳しく解説します)。この制度は、シフト制で働くアルバイトやパートタイム労働者であっても、付与日数が10日以上であれば対象となります。
  • 対策
    • 従業員への声かけ・取得促進
      • 積極的に有給休暇を取得するよう声かけを行い、取得状況を定期的に確認しましょう。
    • 会社による時季指定
      • 従業員が自ら5日取得しない場合、会社が時季を指定して取得させることができます。ただし、従業員の意見を十分に聞き、尊重することが義務付けられています。
    • 計画的付与制度の検討
      • 労使協定☟語句解説を結べば、有給休暇のうち5日を超える部分を計画的に付与できます。特に大規模な事業所や、特定の時期に一斉休業が可能な業種では有効な手段です。シフト制の柔軟性を考慮し、グループ単位や個人単位での計画的付与も検討できます。
ここで少し寄り道して、「労使協定」について簡単に説明させてください。

労使協定とは、会社(使用者)と従業員の代表者(労働組合、または労働者の過半数を代表する者)との間で書面で取り交わされる約束のことです。

「法律で定められていること」とは別に、例えば「時間外労働をさせる場合」や「変形労働時間制を導入する場合」など、特定の事項について、労使双方が合意し、それを書面で明確にすることで、初めてその内容が有効になります。労働基準監督署への届出が必要な場合もあります。

この労使協定は、従業員との良好な関係を築き、会社の状況に合わせた柔軟な働き方を実現するために非常に重要なものです。ただし、会社が一方的に決めることはできず、従業員側の代表と話し合い、合意することが大前提です。

計画的付与に関する労使協定のポイント

年次有給休暇の「計画的付与」を導入するためには、会社と従業員代表との間で労使協定を締結する必要があります。
この協定には、以下の項目を明記することが求められます。

1.対象者の範囲

計画的付与の対象とする従業員の範囲を定めます(例:全従業員、特定部署の従業員など)。

2.対象となる有給休暇の日数

労働者に年5日以上の年休を確実に取得させる義務(2019年改正)を踏まえ、その5日を超える部分のうち、何日を計画的付与に充てるかを明示します。

3.具体的な付与方式

計画的付与の実施方法として、次のような方式から選択・明記します:

  • 一斉付与方式:事業場や部署単位で、特定の日に一斉に年休を取得させる方式
  • 交代制付与方式:班やグループごとに交代で取得させる方式
  • 個人別付与方式:個々の従業員が希望日を提出し、会社が調整して指定する方式
4.付与日の変更ルール

業務上の都合など、やむを得ない事情により計画的付与日を変更する場合の取り扱いについて、あらかじめ定めておきます。

5.協定の有効期間

協定の適用期間を明記します。更新の有無や頻度を決めておくことも実務上重要です。

これらの内容を含めた上で、協定書を必ず書面で締結することが法的に求められます。会社の実情に応じて、従業員代表と十分に協議したうえで作成することが重要です。

ポイント4 欠勤と有給休暇の区別

  • 課題
    • シフトが確定した後の変更や、従業員が「シフトに入っていない日」に有給休暇を申請した場合など、これが有給休暇になるのか、単なる欠勤(シフトに入らない日)になるのかの線引きが曖昧になりがちです。
  • 対策
    • 明確なルール作り
      • 就業規則や社内規定で、「確定したシフトを欠勤する場合に限り、有給休暇を充当できる」といったルールを明確に定めましょう。
    • 「シフトに入っていない日」の有給
      • 労働義務のない日に有給休暇を申請することはできません。従業員にその旨を理解してもらうことが重要です。
人事労務管理ならこれ!

ポイント5 退職時の未消化有給休暇の取り扱い

  • 課題
    • 退職時に未消化の有給休暇が残っている場合、消化期間の確保が難しいことがあります。
  • 対策
    • 原則
      • 年次有給休暇は、労働義務がある日の労働を免除するものです。 したがって、未消化の有給休暇を消化するためには、退職日までの労働義務のある期間に取得する必要があります。実務上は、残っている有給休暇の日数分を考慮して最終出勤日を定め、退職日までの期間を有給休暇の消化にあてることで、労働者の有給休暇の権利を保障するのが一般的です。
    • 例外(買取)
      • 有給休暇の買い取りは、労働者の休息権を保障するという有給休暇本来の趣旨に反するため、原則として労働基準法上禁止されています。
      • ただし、例外的に、退職時に未消化で残っている有給休暇や、法定の付与日数を上回って会社が独自に付与した有給休暇など、もはや労働者が消化する機会がないものや、法的な義務の対象外の有給休暇については、企業が任意で買い取ることは法的に問題ないとされています。
      • これは企業に義務があるわけではなく、あくまで任意で行うものです。もし買い取りを行う場合は、その条件やルールを就業規則等に定めておくことが望ましいでしょう。
スポンサーリンク

就業規則・社内規定の整備の重要性

上記のようなつまずきやすいポイントをクリアし、円滑な有給休暇管理を行うためには、就業規則や社内規定を整備し、従業員に周知徹底することが不可欠です。

特に、

  • シフト制アルバイトの「週所定労働日数」の算定基準
  • 有給休暇取得時の賃金計算方法
  • シフト変更と有給申請のルール
  • 基準日の統一や、繰り越しに関する事項
  • 5日取得義務への対応方針

などについては、明確に記載しておくことで、従業員との不要なトラブルを防ぎ、人事担当者の皆さまの業務負担も軽減されるでしょう。

スポンサーリンク

まとめ

シフト制アルバイトの年次有給休暇は、その勤務形態の柔軟性から、複雑に感じられるかもしれません。しかし、比例付与の原則を理解し、実態に即した「週所定労働日数」を正確に把握すること、そして賃金計算や管理のポイントを押さえることで、適切な対応が可能です。

正確な管理と法令遵守はもとより、従業員が有給休暇を適切に取得し、心身をリフレッシュできる環境を整えることは、従業員のエンゲージメント向上や、結果として企業の生産性向上にも繋がります。この情報が、皆さまのシフト制アルバイトの有給休暇管理の一助となれば幸いです。

スポンサーリンク

次回は?

次回は、年次有給休暇の運用における労働者の「時季指定権」と会社の「時季変更権」について、深掘りして解説します。

また、年5日の年次有給休暇取得義務について、実務における注意点や具体例を交えながら、人事担当者の皆さまが円滑に運用できるよう、より詳しくお伝えする予定です。

有給休暇の取得をめぐるトラブルを未然に防ぐためにも、これら二つの権利と義務に関する正確な知識は欠かせません。ぜひ次回の記事もご期待ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

📌社会保険・労務対応・就業規則作成等について👉奈良県・大阪府・京都府・三重県など、近隣地域の企業・個人の方は・・・⇨戸塚淳二社会保険労務士事務所 公式ホームページからお問い合わせください。

📌遠方の方や、オンラインでのご相談をご希望の方は⇨ココナラ出品ページをご利用ください。

コメント