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熱中症対策に使える業務改善助成金とは?|助成額の目安と活用ポイント

業務改善助成金で実現する熱中症対策と賃金アップ 労務の基礎知識
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前回は、熱中症対策の費用負担を軽減するために、「働き方改革推進支援助成金」を活用する方法についてお話ししましたね。

前回の記事は👉【中小企業必見】熱中症対策に使える!働き方改革推進支援助成金の活用法➁

今回は、もう一つの強力な選択肢である業務改善助成金に焦点を当てていきます。

この助成金もまた、熱中症対策を強力に後押ししてくれる制度です。

働き方改革推進支援助成金が主に「労働時間」や「休日」といった働き方の改善を目的とするのに対し、業務改善助成金は「賃金」と「生産性」の向上に特化した制度です。

一見、熱中症対策とは関係ないように思えるかもしれませんが、実はそうではありません。

この助成金も、従業員を守るための労働環境改善に大いに活用できるのです。

業務改善助成金とは?

業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者の皆さんを応援するための制度です。

この助成金の大きな特徴は、単に賃金を上げるだけでなく、賃金アップと同時に行う「生産性向上」の取り組みをセットで支援する点にあります。

具体的には、「従業員の賃金を引き上げます」という計画と、「その賃金アップを可能にするために、業務を効率化する機械を導入します」といった生産性向上のための設備投資の計画を立てる必要があります。

熱中症対策と生産性、賃金アップの繋がり

では、なぜ熱中症対策が賃金アップに繋がるのでしょうか?

この助成金の仕組みでは、その論理的な繋がりが重要になります。

夏の猛暑の中で働く従業員の皆さんは、集中力の低下や体調不良のリスクが高まります。

これは業務効率を下げ、生産性の低下に直結します。

そこで、業務改善助成金を活用して空調設備や大型扇風機を導入すると、以下の良いサイクルが生まれます。

  1. 労働環境の改善
    • 従業員が快適に働けるようになり、熱中症のリスクが減ります。
  2. 生産性の向上
    • 集中力が維持され、作業効率が上がります。
    • これが「生産性向上」として認められるポイントです。
  3. 賃金アップの実現
    • 向上した生産性によって会社の利益が生まれ、それが従業員の賃金上昇につながります。

この一連の取り組みを支援するために、国から助成金が支給されるのです。

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誰が業務改善助成金を支給してくれるのか?

「生産性向上」として認め、助成金を支給するのは、各都道府県にある労働局です。

企業が提出した助成金申請書類は、労働局の担当者によって審査されます。

この審査では、熱中症対策のための設備投資が、企業の「生産性向上」にどのようにつながるのか、その計画が妥当であるかが詳細にチェックされます。

たとえば、「空調設備の導入によって作業場の温度が下がり、従業員の集中力が向上することで、不良品の発生率が減る」といった論理的な説明が求められます。

この計画が労働局に認められると、助成金の交付が決定されます。

この制度は、賃金アップの努力と、それを可能にするための工夫を両方行う企業を、国が後押しするためのものだと考えてください。

業務改善助成金の支給を受けるための基本要件

業務改善助成金は、「賃金を上げる努力」と「それを可能にする工夫」の両方を応援する制度です。

そのため、支給を受けるには以下の2つの要件を同時に満たす必要があります。

要件①|従業員の賃金を引き上げること

まず、事業場内(会社全体または一部の部署)の最低賃金を引き上げる必要があります。これは、時給制の従業員だけでなく、月給制の従業員も対象となります。

時給制の場合

現在の時給から、30円、45円、60円、90円といった決まった金額以上を引き上げます。

    • パート従業員の時給を現在の1,000円から1,050円に引き上げる。

月給制の場合

月給制の従業員については、最低賃金が時給換算で引き上げ目標額を上回るように調整します。

    • 月給20万円、所定労働時間160時間の場合、現在の時給は1,250円。
    • ここから30円以上の賃金アップを目指す場合、月給を20万4,800円(160時間×1,280円)以上に引き上げる必要があります。

この賃金引き上げは、これから実施するという計画を、賃金規定や就業規則、労働条件通知書などで明確に示し、助成金の申請時に提出することが求められます。

また、実際に引き上げた後は、賃金台帳などで証明できるように準備しておく必要があります。

要件②|生産性向上につながる設備投資を行うこと

賃金を引き上げても会社の経営が苦しくならないよう、業務効率化や労働環境改善につながる設備投資を行う必要があります。この「生産性の向上」は、単に売上が上がることだけを指すわけではありません。

この「生産性向上」を、誰が、どのように判断するのかというと、助成金を支給する労働局が、企業が提出する「業務改善計画書」の内容を見て判断します。

労働局がチェックするポイント

労働局は、企業が熱中症対策として導入する設備が、単なる快適性の向上だけではなく、会社の生産性向上にどれだけ貢献するかを具体的に審査します。

  • 改善前と改善後の違い
    • 設備導入前と後で、生産性がどう変わるかを具体的に示します。
  • 客観的な数値
    • 「作業効率が〇〇%アップする」「不良品の発生率が〇〇%減少する」といった、できるだけ具体的な数値を盛り込みます。
  • 論理的な因果関係
    • 「空調設備の導入で作業場の温度が下がる」→「従業員の集中力が高まる」→「作業ミスが減る」→「生産性が向上する」というように、論理的なつながりを明確に説明します。

このように、単に「エアコンを買います」と書くだけではなく、「熱中症対策が生産性向上に繋がる」というストーリーを、具体的かつ論理的に説明することが、助成金を受け取るための鍵となります。

業務改善助成金はいくらもらえる?計算方法と上限額

最も気になるのは、「一体いくら助成金がもらえるのか?」という点でしょう。

助成金額は、以下の2つの金額を比べて、低い方が支給されます。

「設備投資等にかかった費用 × 助成率」と「助成上限額」

助成率と上限額の詳細

助成率

  • この助成率は、事業所の規模や賃金水準によって変動します。
  • 通常は75%ですが、特定の条件を満たした場合、最大80%(4/5)まで引き上げられます。
  • この高い助成率を受けるには、「賃金を引き上げる前の事業場内最低賃金が、その地域の最低賃金から30円以内であること」といった要件を満たす必要があります。
  • これは、もともとの賃金が地域の最低賃金に近ければ近いほど、高い助成率が適用される仕組みになっているためです。
  • たとえば、現在の大阪府の最低賃金が1,114円だとします。この場合、賃金引き上げ前の事業場内最低賃金が1,144円以下であれば、80%という高い助成率が適用される可能性が高くなります。

助成上限額

  • 上限額は、賃金を引き上げる人数や金額に応じて変わります。
  • 以下の表を参考に、自社のケースに当てはめてみてください。

以下の表は賃金を引き上げる金額(コース)と、対象となる従業員の人数によって、助成金として受け取れる上限額がどれくらいになるのかを一覧でまとめたものです。

賃金引き上げ額助成対象労働者数助成上限額
90円以上1人50万円
2人120万円
3人180万円
4人240万円
5人300万円
6人360万円
7人以上450万円
60円以上1人40万円
2人100万円
3人150万円
4人以上200万円
45円以上1人30万円
2人80万円
3人120万円
4人以上150万円
30円以上1人30万円
2人50万円
3人60万円
4人70万円
5人80万円
6人90万円
7人以上100万円

※上記は2025年度の要綱に基づいた一例です。

具体的な計算例でイメージしよう

では、実務でよくあるケースで計算してみましょう。

ケース1 熱中症対策に200万円かかる場合

従業員10人の部署で、賃金を30円引き上げ、熱中症対策として空調設備に200万円かかったとします。

この場合、助成率は4/5、上限額は(上の表から)100万円です。

  • 「費用 × 助成率」
    • 200万円 × 4/5 = 160万円
  • 「助成上限額」
    • 100万円

この2つを比べるて、低い方の100万円が助成金として支給されることになります。

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ケース2 熱中症対策に80万円かかる場合

同じく賃金を30円引き上げ、熱中症対策として大型扇風機やWBGT測定器に80万円かかったとします。この場合、助成率は4/5、上限額は100万円です。

  • 「費用 × 助成率」
    • 80万円 × 4/5 = 64万円
  • 「助成上限額」
    • 100万円

この2つを比べるて、低い方の64万円が助成金として支給されることになります。

このように、助成金の金額は「設備投資にかかった金額」と「上限額」のどちらか低い方になります。

そのため、申請前にしっかりと計画を立てることが重要です。

熱中症対策は業務改善助成金の対象?

業務改善助成金は、賃金アップと同時に行う「生産性向上」の取り組みを支援するものです。

そして、熱中症対策のための労働環境改善も、生産性向上に繋がるものとして認められています。

では、どのようなものが具体的に助成金の対象になるのでしょうか。

業務改善助成金の対象となる具体的な投資例

熱中症対策として認められる設備投資の例をいくつかご紹介します。

  • 空調設備
  • 換気設備
    • 作業場全体の空気を循環させる大型の換気扇やシーリングファン。
  • 休憩環境の整備
    • 従業員が休憩中に涼を取れるように、冷水器やウォーターサーバー、塩分補給用のタブレットなどを設置する費用。
  • 暑さの「見える化」
    • 暑さ指数(WBGT)を測定する機器(WBGT測定器)の購入。
    • リスクを可視化し、適切なタイミングで休憩を促すために役立ちます。
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注意すべきポイント

ただし、どんな設備でも対象になるわけではありません。

汎用性の高い設備は、本来の目的以外にも使えるため、助成金の対象から外れる可能性があります。

  • PCや車両
    • これらの設備は、業務効率化に繋がりますが、熱中症対策に特化したものではないため、原則として対象外となります。

あくまで「熱中症対策」として、労働環境改善と生産性向上に直接的に結びつく設備を選ぶことが重要です。

申請する際は、その設備がどのように熱中症対策に役立ち、生産性向上に貢献するのかを、明確に説明できるようにしておきましょう。

まとめ|業務改善助成金の基本的な仕組みとは?

今回は、熱中症対策にも活用できる業務改善助成金について、その全体像を解説しました。

この助成金は、単に賃金を上げるだけでなく、「賃金アップ」と「生産性向上につながる設備投資」をセットで実施する企業を支援する制度です。

特に、空調設備や換気設備の導入といった熱中症対策は、従業員の健康を守り、結果として生産性の向上に繋がると認められています。

「設備投資費用×助成率」と「助成上限額」を比較して低い方が支給されるため、自社の賃金水準や賃上げ人数に応じた上限額を把握することが、申請成功の鍵となります。

次回予告|業務改善助成金の申請から支給までの完全ガイド

次回は、業務改善助成金の具体的な申請方法について、以下の内容を詳しく解説します。

  • 申請に必要な書類
    • 交付申請時と支給申請時に必要な書類をリストアップ
  • 申請のステップとスケジュール感
    • 申請書の作成から助成金入金までの具体的な流れ
  • 注意すべきポイント
    • 申請前に知っておくべき手続き上の落とし穴

「申請してみたいけど、何から始めればいいか分からない」という方は必見です。

次回の記事は👉熱中症対策に活用できる業務改善助成金の申請方法とポイント

ぜひ、次回の記事もご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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筆者 戸塚淳二
筆者 戸塚淳二

執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)

日々、企業の「ヒト」と「組織」に関わるさまざまな課題に真摯に向き合っています。労働法の基本的な知識から、実務に役立つ労務管理の考え方や人事制度の整え方まで、専門家として確かな情報を、はじめての方にもわかりやすく、やさしくお伝えします。

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