本記事は「あなたの働く人生を守るセーフティネット!雇用保険のすべて」シリーズの第14話です。第1話は👉雇用保険とは?何のためにある?|加入メリットや目的を解説
前回の記事では、雇用保険の傷病手当の全体像、そして失業手当や健康保険の傷病手当金との違いについて解説しました。
前回の記事は👉雇用保険の傷病手当とは?失業手当・健康保険との違いを解説
病気や怪我で働くことができない期間に頼りになる制度だとご理解いただけたかと思います。
- 失業手当は「働く意思と能力がある」ことが前提。
- 傷病手当は「働く意思はあるが、一時的に働く能力がない」状態が対象。
- 在職中の健康保険の傷病手当金とは全く別の制度。
今回は、いよいよ実践編です。
実際にあなたが傷病手当を受け取るために、どのような条件を満たす必要があるのでしょうか?
具体的にどのような手続きを踏めば良いのかを、一つひとつ丁寧に解説していきます。
傷病手当を受け取るための8つの支給条件
雇用保険の傷病手当は、誰もが受け取れるわけではありません。
この制度を利用するためには、これからご紹介する8つの条件をすべて満たす必要があります。
一つでも欠けていると支給対象になりません
ご自身の状況と照らし合わせながら確認していきましょう。
大前提として下記の条件を全て満たす必要があります。
傷病手当の支給条件①|雇用保険の基本手当の受給資格者であること
- 大前提として、ハローワークで失業手当の受給手続きを終え、受給資格者として認定されている必要があります。
傷病手当の支給条件②|ハローワーク求職申込後に病気やケガで15日以上働けないこと
- 病気や怪我で働けない期間が15日未満の場合は、傷病手当の対象にはなりません。
- 求職の申し込みをする前に発症した病気や怪我は対象外となります。
傷病手当の支給条件③|失業手当(基本手当)を受けていないこと
- 傷病手当は、あくまで失業手当の「代替」として支給される手当です。
- すでに基本手当が支給された日には、傷病手当は支給されません。
傷病手当の支給条件④|7日間の待期期間と給付制限期間の満了
- ハローワークに求職の申し込みをした日を含めて7日間の待期期間中や支給制限期間中に病気や怪我をした場合は、傷病手当は支給されません。
- 待期期間中や給付制限期間中に発病もしくは怪我をしても、その後15日以上就労不能が続けば、医師の証明に基づき待期満了日の翌日または給付制限中から傷病手当の対象となります。
- 待期期間や支給制限期間が満了した翌日からが対象となります。
傷病手当の支給条件⑤|病気や怪我の原因が業務外であること(労災保険との違い)
- 仕事中や通勤中の事故・災害が原因で療養が必要になった場合は、労災保険の対象となります。
- 失業中でも、求職活動の一環として短期アルバイトや日雇いの仕事をすることがあります。
- これらの活動中に怪我をした場合、それは「業務上の怪我」と見なされ、労災保険の対象となります。
- 一方で、自宅での家事中や趣味の活動中など、仕事とは全く関係のない事由で病気や怪我をした場合に、雇用保険の傷病手当が適用されます。
- 傷病手当は、あくまで業務外の病気や怪我に限られます。
傷病手当の支給条件⑥|働く意思はあるが労働能力がないこと
- 「働きたい」という意思はありながらも、病気や怪我によって一時的に働くことができない状態であることが必要です。
- 「働く意思がない」とみなされると、失業手当も傷病手当も支給されません。
傷病手当の支給条件⑦|療養に専念し求職活動を停止すること
- 傷病手当の支給期間中は、療養に専念することが求められます。
- この期間は、求人情報の閲覧や面接など、一切の求職活動を行うことはできません。
傷病手当の支給条件⑧|医師の証明があること
- 客観的に見て「働くことができない」状態であることを証明するため、医師の診断が必要です。
- ハローワークに提出する「傷病手当支給申請書」には、医師の証明を記入してもらう欄があります。
これらの条件をすべて満たしているかを確認した上で、手続きに進みましょう。
給付制限中に発病した場合の扱い
- 自己都合退職などの場合、原則 1か月の給付制限があります。
- この給付制限期間中に病気や怪我で 15日以上就労不能 になった場合は、
⇨給付制限が中断され、その期間は「傷病手当」に切り替え可能 です。 - 傷病手当の支給が終わったあと、残りの給付制限日数を消化したのちに基本手当の支給が始まります。
雇用保険の傷病手当|支給される金額と受給期間のルール
傷病手当は、いくら、そしていつまで受け取ることができるのでしょうか。
ここでは、支給される金額と期間のルールについて解説します。
雇用保険の傷病手当|1日あたりの支給金額
傷病手当の1日あたりの支給額は、基本手当の日額と同額です。
基本手当は、あなたが離職前の6ヶ月間に受け取っていた賃金に基づいて算出されます。
そのため傷病手当の金額もそれに応じて決まります。
ただし、基本手当と同様に、年齢ごとに上限額が設定されています。
支給期間の目安|所定給付日数との関係と延長の仕組み
傷病手当が支給される期間は、病気や怪我で働けないと認められた日数分です。
ただし、傷病手当を受け取った日数は、あなたの所定給付日数から差し引かれます。
例えば、所定給付日数が90日の方が20日間傷病手当を受け取った場合、残りの所定給付日数は70日となります。
傷病手当と基本手当を合わせた合計の給付日数は、所定給付日数を超えることはありません。
また、傷病手当の支給を受けた日数分だけ、基本手当の受給期間(原則1年間)が延長されます。
具体例
- 所定給付日数
- 90日
- 基本手当の受給期間
- 原則1年間
- 病気で働けなかった期間
- 20日間
この場合、あなたの基本手当の受給期間は「1年+20日間」に延長されます。
しかし、所定給付日数は90日から20日分減り、残り70日となります。
病気が治った後、この残りの70日分について基本手当を受け取ることができます。
このように、傷病手当は、単に療養中の生活を保障するだけではありません。
病気や怪我で失業手当がもらえない期間を無駄にせず、その後の再就職活動をしっかりサポートするための重要な仕組みなのです。
傷病手当の期間ごとのルールと注意点
病気や怪我で働けない期間によって、適切な対応が変わります。
- 病気・ケガが15日未満の場合
- この場合、傷病手当は支給されません。
- 病気が治った後に、ハローワークに病気で求職活動ができなかったことを申告すれば、通常の失業手当の給付を受けられる可能性があります。
- 病気・ケガが15日以上30日未満の場合
- この場合、傷病手当が支給されます。
- ハローワークに傷病手当を申請し、療養していた日数分(15日〜29日)の手当を受け取ることができます。
- 同時に、受け取った日数分だけ受給期間が延長されます。
- 病気・ケガが30日以上の場合
- この場合、「傷病手当を申請する」か、「受給期間の延長のみを行う」かの選択肢があります。
- 傷病手当を申請する
- 療養中の収入を確保できますが、所定給付日数は減ります。
- 受給期間の延長のみを行う
- 当面の生活費に余裕がある人向けの選択肢です。
- 所定給付日数を減らさずに済みますが、療養中の収入はゼロになります。
- 本来の受給期間である1年間に、病気などで働けない期間(最長3年間)を加えることで、合計で最長4年間まで受給資格を保持できる、という仕組みになっています。
- 傷病手当を申請する
- この場合、「傷病手当を申請する」か、「受給期間の延長のみを行う」かの選択肢があります。
このように、ご自身の状況に合わせて、最適な方法を選びましょう。
雇用保険傷病手当|申請の流れと必要書類をわかりやすく解説
病気や怪我で働けない状態になった場合、いざ手続きをしようと思っても、何から始めればよいか戸惑ってしまうかもしれません。
ここでは、傷病手当の申請手続きをスムーズに進めるための流れと、必要な書類について解説します。
傷病手当申請の手続きステップ|ハローワークでの流れを解説
- まずはハローワークに連絡
- 病気や怪我で求職活動ができない状態になったら、速やかに電話などでハローワークに連絡を入れましょう。
- 療養に専念するため、求職活動を一時的に中断する旨を伝えます。
- 担当者から具体的な手続き方法を確認
- 連絡を入れると、担当者から今後の手続きについて具体的なアドバイスを受けることができます。
- 申請方法や必要書類について、疑問があればこの時点でしっかり確認しておきましょう。
- 必要書類を準備し、提出
- 指示された書類を準備し、申請期間内にハローワークに提出します。
- 特に重要なのは、「傷病手当支給申請書」です。
- この申請書には、医師に働けない状態であることの証明を記入してもらう欄がありますので、早めに準備し、病院で記載してもらうようにしましょう。
病気が重い・怪我が重症の場合
もし病気やケガで電話やハローワークに行くことが難しい場合は、代理人が連絡を入れたり、手続きを行ったりすることは可能です。
これは、あなたが療養に専念するための重要な措置として認められています。
代理人による連絡・手続きの流れ
- まずは代理人からハローワークに電話連絡
- まず、代理人の方がハローワークに電話で連絡を入れ、本人が病気やケガで動けない状態であることを伝えます。
- その際に、今後の手続きについて指示を仰ぎましょう。
- 必要な書類を準備
- ハローワークから指示された書類(傷病手当支給申請書など)を準備します。
- 代理人が手続きを行う場合は、委任状が必要となることが一般的です。
- 委任状の書式については、事前にハローワークに確認しておくとスムーズです。
- 代理人による書類提出
- 書類の提出は、代理人がハローワークの窓口で行うか、郵送で行うことも可能です。
病気やケガで体がつらいときは無理をせず、家族などに協力を依頼して手続きを進めましょう。
自己判断で手続きを放置せず、必ずハローワークに連絡を入れることが、給付を受けるための第一歩となります。
傷病手当申請に必要な書類一覧|雇用保険で準備すべきもの
以下の書類を準備して、ハローワークに提出します。
- 傷病手当支給申請書
- ハローワークで入手できます。
- 雇用保険受給資格者証
- 失業手当の受給手続きをした際に交付されたものです。
- 医師の診断書
- 申請書に医師の証明欄がある場合が多いですが、ハローワークの指示によっては、別途診断書が必要になることもあります。
- その他、ハローワークが指示する書類
- 個別の状況に応じて追加で書類が必要になる場合があります。
傷病手当申請の期限と注意点|提出期限を過ぎると支給不可
傷病手当の申請には、決まった提出期限があります。
病気や怪我で働けなくなった期間の最終日の翌日から1ヶ月以内に、必要書類をハローワークに提出する必要があります。
具体的な例
- 病気で20日間働けなかった場合
- 療養期間が2025年9月1日から9月20日までであれば、10月20日までに書類を提出する必要があります。
- 病気で6ヶ月間働けなかった場合
- 療養期間が2025年9月1日から2026年2月28日までであれば、2026年3月31日までに書類を提出する必要があります。
この期限を過ぎてしまうと、手当が支給されなくなる可能性があるため、療養中は早めにハローワークに連絡を入れ、指示に従って手続きを進めることが重要です。
手続きに不安がある場合は、自己判断せず、必ずハローワークの担当者に相談することが、正確でスムーズな申請の鍵となります。
雇用保険傷病手当を受ける際の注意点|申請前に知っておくべきポイント
傷病手当は、求職者が安心して療養に専念するための心強い制度です。
しかし、いくつか注意すべき点があります。
正しく制度を利用するために、以下のポイントを確認しておきましょう。
単なる風邪や軽い体調不良は傷病手当の対象外
傷病手当の支給は、医師による「働けない」という証明が前提となります。
単なる風邪や軽い体調不良では、傷病手当の対象にはなりません。
あくまで、求職活動を継続することが困難なほどの病気や怪我であることが必要です。
傷病手当受給中は求職活動を行わないことが必須
傷病手当は、「療養に専念する」ことが条件です。
そのため、傷病手当を受給している期間は、求人情報の閲覧、企業への応募、面接など、一切の求職活動を行うことはできません。
万が一、この期間に求職活動を行ったことがハローワークに判明した場合、傷病手当が打ち切られたり、不正受給と見なされたりする可能性があるため、注意が必要です。
病気回復後は失業手当の受給手続きを速やかに再開
病気や怪我が治り、再び「働く意思と能力」が回復したら、速やかにハローワークに連絡し、失業手当の受給手続きを再開する必要があります。
この際、次の認定日にはハローワークに出向き、今後の求職活動について相談しましょう。
まとめ|雇用保険の傷病手当の申請・支給・注意点
今回は、雇用保険の傷病手当の申請手続きから、支給される金額、注意点まで、実践的な内容を解説しました。
- 傷病手当は、働く意思はあるものの、一時的に働けない求職者のための大切な制度です。
- 手続きは複雑に感じるかもしれませんが、慌てずに、まずはハローワークに相談することが何よりも重要です。
病気や怪我で再就職活動が一時停止しても、この制度を正しく利用すれば、あなたのキャリアを諦める必要はありません。
安心して療養に専念し、再び万全の状態で再就職活動に臨んでください。
あなたの早期回復と、素晴らしいキャリアの再スタートを心から応援しています。
次回予告|知って得する「教育訓練給付金」でキャリアアップ!
「再就職に向けて、新しいスキルを身につけたい」「キャリアアップのために、専門的な資格を取りたいけど、お金がかかる…」そんな風に感じていませんか?
失業保険は失業中の生活を支える心強い味方ですが、雇用保険の制度はそれだけではありません。
次回の記事では、働きながら、あるいは失業中に、資格取得や専門講座を受講した際に、その費用の一部が国から支給される「教育訓練給付金」について徹底解説します。
どんな人が対象になるの?どんな講座が対象?もらえる金額は?
この制度を賢く利用すれば、経済的な負担を減らしながら、あなたの市場価値を高めることができます。
次回の記事は👉教育訓練給付金とは?種類・支給額・支給条件をわかりやすく解説
あなたの未来のキャリアを拓くための大切な一歩を、一緒に踏み出しましょう。
どうぞお楽しみに。

執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
会社員歴30年以上、転職5回を経験した氷河期世代の社会保険労務士です。自らが激動の時代を生き抜いたからこそ、机上の空論ではない、働く人の視点に立った情報提供をモットーとしています。あなたの働き方と権利を守るために必要な、労働法や社会保険の知識、そしてキャリア形成に役立つヒントを、あなたの日常に寄り添いながら、分かりやすく解説します。
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