
執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二
会社員歴30年以上、転職5回以上を経験し、氷河期世代として激動の時代を生き抜いてきた社会保険労務士、戸塚淳二です。私自身が様々な働き方を経験してきたからこそ、机上の空論ではない、「働く人の視点」に立った労働法や社会保険法の役立つ情報をお届けします。あなたの日常に寄り添い、働き方と権利を守るためのヒントを分かりやすく解説していきます。
社会保険労務士登録番号:第29240010号
「本記事はあなたの働く人生を守るセーフティネット!雇用保険のすべて」シリーズの第1話です。
毎月のお給料から天引きされている雇用保険料。
「いったい何のために支払っているのだろう?」
そう思っている方もいるかもしれません。雇用保険とは、単なる税金や貯金ではありません。
これは、もしものときにあなたの生活と仕事を支えてくれる、国が運営する心強いセーフティネットなのです。
雇用保険とは?何のためにあるの?
雇用保険とは、働く人が失業したり、育児や介護で仕事を休んだりしたときに、経済的な不安を軽減し、再就職やキャリア形成を支援するための公的な保険制度です。
この制度は、国(厚生労働省)が運営しており、働く人々が安心して働き続けられるようにすることが目的です。
雇用保険の3つの目的
雇用保険は、主に3つの目的を持っています。
- 労働者の生活安定と再就職の促進
- 雇用保険の最大の目的は、失業者の生活を支え、早期の再就職を支援することです。
- もしセーフティネットがなければ、多くの人が職を失った途端に生活の危機に直面し、社会全体が不安定になってしまいます。
- 雇用保険は、このリスクを国全体で分かち合うことで、社会の安定を守る重要な役割を担っています。
- 雇用の安定と職業能力の開発・向上
- 雇用保険は、ただ失業時に備えるだけではありません。
- 景気の変動で企業の経営が悪化した際に、従業員の雇用を維持するための助成金も、この財源から支払われています。
- これは、企業が安易にリストラに走るのを防ぎ、雇用の安定を図るための公的な取り組みです。
- さらに、働く人のスキルアップを支援する教育訓練給付金は、個人のキャリアアップだけでなく、日本全体の労働生産性を高めるという、より大きな目的を持っています。
- 働く人が安心して働ける環境の整備
- 現代社会では、育児や介護といったライフイベントをきっかけに、仕事を辞めざるを得ない人が少なくありません。
- 雇用保険は、こうした人々が離職することなく、仕事と家庭を両立できるよう支援することを目的としています。
- 育児休業や介護休業中の給付金は、個人の生活を支えるだけでなく、貴重な労働力が社会から失われるのを防ぎ、多様な働き方を可能にするための公的な仕組みなのです。
このように、雇用保険はあなたの働く人生をあらゆる面でサポートしてくれる、とても身近で大切な制度です。
雇用保険は「強制加入」が原則
雇用保険は、特定の条件を満たす労働者にとって、強制的に加入が義務付けられている制度です。
これは、すべての働く人を守るという、国のセーフティネットとしての役割を果たすために重要な原則です。
雇用保険の加入条件
従業員の雇用形態にかかわらず、以下の2つの条件を両方満たす労働者は、雇用保険に加入する義務があります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
- これは、1週間の労働時間が20時間未満の場合は原則として加入対象外となることを意味します。
- 31日以上の雇用見込みがあること。
- 雇用契約書などに「31日以上雇用される見込みがある」と明記されている場合や、雇用された当初は31日未満の契約でも、更新によって31日以上になる可能性がある場合などが含まれます。
雇用形態は関係ありません
「雇用保険は正社員だけのもの」と思われがちですが、それは間違いです。
上記の条件を満たせば、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員など、どのような雇用形態であっても加入しなければなりません。
これは、同じように働くすべての人が、失業や休業などのリスクに備えられるようにするためです。
会社に加入手続きの義務がある
雇用保険の加入手続きは、労働者自身が行うものではありません。
会社は、入社した従業員が上記の条件を満たしている場合、ハローワークに届け出て雇用保険に加入させる義務があります。
会社がこの手続きを怠った場合、法律違反となります。
もし、あなたが上記の条件を満たしているのに給与明細に雇用保険料の記載がない場合は、会社の担当部署に確認することをおすすめします。
雇用保険に加入する3つの大きなメリット
雇用保険は、ただ給与から天引きされるだけではありません。
働くあなたの人生の様々な場面で、心強い味方となってくれる3つの大きなメリットがあります。
1. 失業時の生活を支える(失業給付金)
もし会社を辞めることになったとしても、すぐに次の仕事が見つかるとは限りません。
そんなとき、雇用保険はあなたの生活を支えてくれます。
- 失業給付金(基本手当)
- 失業中に、次の仕事が見つかるまでの一定期間、お金を受け取ることができます。
- これにより、焦って就職先を決めることなく、じっくりと自分に合った仕事を探すことができます。
- 再就職手当
- さらに、失業給付金の受給期間中に、できるだけ早く再就職できた場合にもらえる手当です。
- 早期の再就職を後押しするための制度です。
2. 人生の転機をサポートする(各種給付金)
雇用保険は、失業時だけでなく、育児や介護など、ライフイベントで仕事を休まなければならないときも、あなたの生活を支えてくれます。
- 育児休業給付金
- 育児のために仕事を休む期間の収入を補填してくれます。
- これにより、子育てに専念しながら、安心して休業することができます。
- 介護休業給付金
- 家族の介護のために仕事を休む期間の収入を補填してくれます。大切な家族の介護が必要になったときも、経済的な不安を軽減してくれます。
3. スキルアップを応援する(教育訓練給付金)
「もっとスキルアップしたい」「新しい資格を取りたい」――そんなあなたの意欲も、雇用保険はサポートしてくれます。
- 教育訓練給付金
- 厚生労働大臣が指定する専門講座や資格取得にかかった費用の一部が支給される制度です。自身のキャリアアップや新しい分野への挑戦を応援してくれます。
このように、雇用保険は失業や休業といった「もしも」のときに備えるだけでなく、あなたのキャリア形成を前向きに後押ししてくれる、非常にメリットの多い制度です。
まとめ 雇用保険は「いざという時の備え」
今回の記事では、雇用保険の基本的な役割と目的、そして加入するメリットについて解説しました。
雇用保険は、給与明細に載っている単なる天引き項目ではありません。
これは、あなたが失業したとき、育児や介護で仕事を休むとき、スキルアップを目指すときなど、人生のあらゆる局面で、あなたのキャリアと生活を守るための大切な制度です。
雇用保険の仕組みを理解し、いざというときに正しく活用できるかどうかで、あなたの将来の安心感は大きく変わります。
次回予告
今回の記事では、雇用保険の基本的な役割と目的、そして加入するメリットについて解説しました。
次回の記事では、あなたの給与明細から毎月天引きされている「雇用保険料」の仕組みに焦点を当てます。
「なぜこの金額が引かれているの?」「会社と自分、それぞれどれくらい負担しているの?」といった疑問に、具体的な計算方法を交えてお答えします。
さらに、なぜ近年、雇用保険料が上がったのかという背景にある「コロナ禍での雇用調整助成金や失業給付金の増加」についても詳しく解説。
知っているようで知らない保険料の仕組みを紐解き、日々の支払いが何に繋がっているのかを明らかにします。
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