本記事は「あなたの働く人生を守るセーフティネット!雇用保険のすべて」シリーズの第25話です。第1話は👉雇用保険とは?何のためにある?|加入メリットや目的を解説
前回の記事では、育児休業給付金で賃金の67%が支給されること、そして基本的な手続きを確認しました。
前回の記事は👉育児休業給付金の支給ルールを具体例で解説|期間・金額・注意点
この従来の育児休業給付金は、もちろん夫もそのまま利用できます。
しかし、給付金が出るとはいえ、額面給与を得ている夫が休業すれば、家計の収入は一時的に減少します。
単に収入減だけを考えるならば、夫は休業しない方が良いという考え方すら出てくるでしょう。
ここで朗報です。
雇用保険は、この収入減の不安を大幅に軽減し、男性の積極的な育休取得を力強く後押しするため、新たな休業制度を設けました。
それが、子の出生後8週間以内に取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)」です。
この新しい制度と、それに伴う給付金を活用することで、妻の産後の心身ともに負担の大きい時期のサポートを経済的に可能にする道が開かれました。
この記事でわかること
・産後パパ育休(出生時育児休業)の基本ルール
・従来の育児休業との違い
・出生後休業支援給付金の支給額と条件
・有給休暇との経済的な違い
・申請手続きと注意点
・実際のシミュレーション(金額例あり)
産後パパ育休(出生時育児休業)の基本|いつから・どのくらい休める?申請方法まで解説
「産後パパ育休」は、従来の育児休業とは別に設けられた、父親が子の誕生直後に集中して育児に参加するための非常に柔軟な休業制度です。
産後パパ育休(出生時育児休業)とは|新生児期に最大4週間取れる新しい制度
この制度は、以下の期間と日数を上限として取得できます。
- 対象期間
- 子の出生日(出産予定日)から8週間以内
- 最大取得日数
- 4週間(28日)まで
この「出生後8週間」という期間は、母親の身体が回復する上で最も重要な産後休業期間と重なります。
この時期、母親は会社を休んでおり、加入している健康保険から出産手当金(標準報酬日額の3分の2相当)が支給されている時期でもあります。
産後パパ育休は、その時期に父親が短期間に集中してサポートできるよう設計されています。
産後パパ育休の特徴|育児休業とは別に取れる“特別な4週間”
この産後パパ育休が従来の育児休業と大きく異なる点は、その取得枠そのものの特例性にあります。
- 【最も重要】従来の育児休業とは「別枠」で取得可能
- 従来の育児休業は原則2回までの分割が可能ですが、この「産後パパ育休」は、その回数とは別に、追加で取得できます。
- つまり、父親は出生後8週間以内にこの制度を利用した後、さらに従来の育児休業を分割して取得することが可能です。
- これにより、男性は短期間の集中休業と長期の育児休業の両方を柔軟に組み合わせることができます。
- 分割取得が可能
- この産後パパ育休だけでも2回に分けて取得することができます。
- 最初の休業の申出時にその旨を会社に伝えておく必要があります。
- 休業期間中の一時的な就業が可能(就業の特例)
- 従来の育児休業では、原則として就業することはできませんが、産後パパ育休では、会社と事前に調整すれば、休業期間中でも一時的・例外的に働くことが認められています。
- この柔軟性により、重要度の高い業務のみ短時間こなすなど、仕事への影響を最小限に抑えつつ、安心して休業を取得することが可能になりました。
この「別枠での取得」と「一時的な就業が可能」という特例こそが、短期間の休業でも職場の理解を得やすくし、男性の育児休業取得を力強く後押ししています。
出生後休業支援給付金とは?産後パパ育休中にもらえる給付金の内容と支給額
子の出生直後に父親の休業を経済的に支えるのが、「出生後休業支援給付金」です。
これは、「産後パパ育休」を取得した際に、雇用保険から支給される専用の給付金となります。
この給付金は、産後パパ育休(出生後8週間以内の最大28日間)の期間を対象に支給されます。
- 給付率
- 休業開始時賃金日額の67%
- この給付率は、従来の育児休業給付金の最初の180日間と同率です。
- 産後パパ育休は短期間であるため、全期間を通してこの67%が適用されるのが特徴です。
男性が子の誕生直後の貴重な時間を家族と過ごすために、この制度を最大限に活用しましょう。
【重要】有給休暇との違い|なぜ「産後パパ育休」を使うべきなのか
子の誕生直後に休む際、「給与が100%出る有給休暇を使ったほうがシンプルで良いのでは?」と考える方は少なくありません。
しかし、最新の利用実態と経済的な優位性を比較すると、短期間の休業でも有給ではなく「産後パパ育休(出生時育児休業)」を利用するべき明確な理由があります。
実際、2025年の最新データでは、育児休業を取得した男性の82.6%がこの制度と給付金を活用しており、多くのパパが有給休暇よりもこちらを選んでいる実態が明らかになっています。
制度を使う決定的な3つのメリット
| 特徴 | 産後パパ育休(給付金) | 有給休暇 | 制度利用の優位性 |
| ① 経済的な手取り | 実質的に高水準(給付率67%) | 賃金100%支給 | 社会保険料免除・非課税の優遇があるため、手取り率は有給と遜色ないか、上回る場合が多い。 |
| ② 貴重な有給残日数 | 残日数を消費しない | 日数が消費される | 有給を温存し、将来の病気や子の行事など、本当に賃金100%が必要な時に備えられる。 |
| ③ 社会保険料の免除 | 全額免除される(会社負担分も含む) | 免除されない(通常通り控除) | 年金・健康保険料の負担(賃金の約15%相当)がゼロになる、最も大きな経済的メリット。 |
なぜ給付金制度の利用が主流なのか
2025年4月に「出生後休業支援給付金」が創設され、経済的な優遇措置が改めて注目されたことで、男性の育休取得率は大幅に上昇しました。
高額な社会保険料が免除され、給付金が非課税となるこの制度は、有給休暇を使って休むよりも、総合的な手取りと将来の安心感(有給温存)においてメリットが圧倒的に大きいため、短期間の休業であっても制度を積極的に利用する動きが主流となっています。
出生後休業支援給付金の支給条件と申請期限・注意点
出生後休業支援給付金は、父親の休業を後押しするための特例的な制度ですが、給付金を受け取るためには、従来の育児休業給付金と同様の雇用保険に関する条件を満たす必要があります。
産後パパ育休の給付金は誰がもらえる?対象者の条件まとめ
- 基本的な要件
- 雇用保険に加入している方が前提です。
- 休業開始日以前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あることなど、賃金支払いの実績に関する要件は、従来の育児休業給付金とほぼ同じです。
支給期間と申請期限|産後パパ育休の給付金
| 項目 | 詳細 |
| 支給対象期間 | 子の出生日(または出産予定日)から8週間以内の休業期間(上限28日)が対象となります。これは、有給休暇の残日数を消費せずに、給付金を受け取りながら休める別枠の期間です。 |
| 申請期限 | 休業が終了した日の翌日から2ヶ月後の月末までに、会社を通じてハローワークへ申請する必要があります。 |
産後パパ育休の給付金はいつ申請する?タイミングと注意点
この給付金は、「産後パパ育休」という有給休暇とは別枠の制度を利用して、実際に休業した実績に対して支払われます。
そのため、休業に入る前の段階では、給付金の「支給申請」はできません。
会社は、休業が終了し、実際に休んだ日数と賃金が確定した後で、ハローワークへ申請を行います。
申請が遅れると、あなたの口座への振込も遅れるため、会社への申請に必要な書類(母子手帳の写しや口座情報など)は、休業期間中または休業終了直後に速やかに提出することが重要です。
夫の産後パパ育休(出生時育児休業)取得フロー(分割取得の例)
- 子の出生日が2026年4月14日
- 妻の育児休業開始日が2026年6月10日
- 夫が28日間を2回に分割して取得する
上記の場合の、会社への「休業の申し出」と「給付金の支給申請」を含む具体的なフローです。
1. 休業前の準備(会社への申し出)
- 2026年3月31日(火)
- 夫は会社に対し、第1回休業の申し出を書面で行います(休業開始の原則2週間前)。
2. 休業期間の取得|産後パパ育休の分割取得例
- 2026年4月14日(火)
- 子の出生。
- 夫の休業対象期間(2026年6月8日まで)がスタートします。
- 2026年4月14日(火)〜4月27日(月)
- 産後パパ育休(第1回目、14日間)を取得します。
- 2026年5月12日(火)
- 夫は会社に対し、第2回休業の申し出を書面で行います(第2回休業開始の原則2週間前)。
- 2026年5月26日(火)〜6月8日(月)
- 産後パパ育休(第2回目、14日間)を取得します。
3. 夫の産後パパ育休終了後、妻の育休はいつ始まる?
- 2026年6月8日(月)
- 夫の全休業期間が終了します(合計28日間)。
- 2026年6月10日(水)
- 予定通り、妻の育児休業が開始します。
4. 給付金の支給申請(ハローワークへの申請は1回のみ)
- 2026年6月9日(火)
- 給付金支給申請の手続き開始
- 【手続きのポイント】 2回の休業実績が確定したため、この日から2回分をまとめて1回で申請の手続きが可能になります。
- 夫は速やかに会社へ必要書類を提出します。
- 給付金支給申請の手続き開始
- 2026年8月31日(月)
- 出生後休業支援給付金の支給申請期限
- 会社は期限までに2回分の実績に基づく申請をハローワークへ提出します。
- 出生後休業支援給付金の支給申請期限
- 2026年9月下旬〜10月
- ハローワークでの審査を経て、2回分の給付金がまとめて指定口座に振り込まれます。
ポイント
- 休業の取得(会社への申出)
- 分割取得のため、3月31日と5月12日の2回、会社に申し出が必要です。(項目1、2)
- 給付金の申請(ハローワークへの提出)
- 2回分の休業が終了した後に、まとめて1回のみ行います。(項目4)
支給額のシミュレーション|月収35万円の場合の出生後休業支援給付金
実際に「産後パパ育休」を取得した場合、どれくらいの給付金がもらえるのかを具体的にシミュレーションすることで、経済的な不安が解消されます。
今回は、休業開始前の平均月収が350,000円の夫が、最大期間の28日間休業した場合を例にとります。
1. 産後パパ育休の給付金はいくら?支給額の計算方法と概算例
給付金の計算は、まず休業開始前6ヶ月の賃金総額を180で割って「休業開始時賃金日額」を算出します。
- 賃金日額の算出:平均月収350,000円の場合、賃金日額は約11,667円となります。(350,000 円 × 6ヶ月 ÷ 180日)
- 28日間の支給額:この日額に、出生後休業支援給付金の支給率67%を乗じ、28日間で計算します。
- 計算式
- 11,667円 × 28日 × 0.67
- 概算支給額
- 約218,879円
- 計算式
つまり、平均月収35万円の夫が28日間休業した場合、約21.9万円が給付金として支給されることになります。
2. 支給額の上限について
この給付金には、従来の育児休業給付金と同様に支給上限額が設定されています。
- 現在の賃金日額の上限(2025年8月1日時点)
- 16,110円(目安)
- 28日間の支給上限額
- 約302,223円(16,110 × 28日 × 0.67)
賃金日額が上限額を超える高所得者の場合、支給額は上記の約30.2万円が最大となります。
今回の月収35万円の場合は上限を下回るため、満額が支給されます。
まとめ|産後パパ育休と給付金の最大の価値
今回の記事では、従来の育児休業とは「別枠」で取得できる「産後パパ育休」と、全期間67%の給付率が適用される「出生後休業支援給付金」を解説しました。
この制度は、分割取得や一時的な就業が認められるなど柔軟性が高いため、男性がキャリアを中断する不安なく、給付金を得て育児に参加できるよう強力に後押しします。
最新のデータでも、多くのパパが有給休暇を使う代わりにこの制度を選択しており、そのメリットが広く浸透していることがわかります。
次回予告|社会保険料免除が家計とキャリアを守る仕組み
なぜこの給付金が実質的な収入減を最小限に抑えられるのか?その背景には、給付金が非課税であることに加え、もう一つの強力な経済的な優遇措置が隠されています。
次回の記事では、育児休業を取得する全ての方が知っておくべき、最も大きな経済的メリットを詳述します。
それは、休業期間中の「社会保険料(厚生年金保険・健康保険)が本人・会社負担分ともに全額免除される仕組み」です。
高額な保険料が免除されるこの制度が、あなたの家計とキャリアをどのように守るのか、その全貌にご期待ください。

- 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
- 会社員歴30年以上、転職5回を経験した氷河期世代の社会保険労務士です。自らが激動の時代を生き抜いたからこそ、机上の空論ではない、働く人の視点に立った情報提供をモットーとしています。あなたの働き方と権利を守るために必要な、労働法や社会保険の知識、そしてキャリア形成に役立つヒントを、あなたの日常に寄り添いながら、分かりやすく解説します。

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