本記事は「あなたの働く人生を守るセーフティネット!雇用保険のすべて」シリーズの第18話です。第1話は👉雇用保険とは?何のためにある?|加入メリットや目的を解説
前回の記事では、あなたが長期休暇を取得してスキルアップに専念する際、生活費の不安を解消する「教育訓練休暇給付金」について詳しく解説しました。
前回の記事は👉会社員向け|教育訓練休暇給付金で無給休暇中も生活費をサポート
この制度により、「時間」と「経済的な土台」は確保されました。
しかし、次に湧き上がる疑問は、「では、その貴重な時間を使って何を、どうやって学べばよいのか?」という点でしょう。
もちろん、あなたは教育訓練給付金を利用して受講費用の一部支援を受けられます。
ですが、この給付金には支給上限額があり、受講したい講座によっては依然として自己負担額が大きくなる場合があります。
また、「そもそも何から学び始めれば良いか分からない」という方もいるはずです。
そこで今回ご紹介するのが、受講料が原則無料(※テキスト代などは自己負担)で、あなたの学びを強力に後押しする公的制度、「ハロートレーニング(公的職業訓練)」です。
この制度を活用すれば、費用負担をほぼゼロに抑え、経済的な心配なく、あなたのキャリアを未来志向で再設計できます。
ハロートレーニングとは?無料で受けられる職業訓練の仕組みと法律的根拠
ハロートレーニングとは、国(厚生労働省・ハローワーク)や自治体が主導し、民間教育機関などとも連携して提供する、就職・転職・スキルアップを目的とした公的な職業訓練制度の総称です。
この制度の最大の魅力は、訓練コースの受講料が原則無料であることです(※ただし、テキスト代や教材費、交通費などは自己負担となります)。
この「無料」は、税金(国庫)と雇用保険の保険料(積立金)という公的な資金によって賄われています。
費用という大きな障壁を取り除くことで、国民の主体的なキャリア形成を力強く後押ししています。
ハロートレーニングの目的|失業不安の解消と経済活性化を目指す国の支援策
国が公的資金を投じてこの制度を運営する背景には、個人の利益を超えた、社会的な目的があります。
1. 生活の不安を解消し、労働者の主体的な能力開発を支援すること
- 不安の解消
- 離職中や無給休暇中であっても、生活の心配をせずに新しいスキル習得に集中できる環境を提供します。
- リスキリングの促進
- 労働者が自らの意思で学び直しに取り組み、市場の変化に対応できる人材へと成長することを支援します。
2. 雇用の安定と経済全体の活性化を図ること
- 雇用の安定
- 訓練を通じて失業者の早期再就職や、在職者のキャリアアップ・転職を支援することで、労働市場の流動性を高め、長期的な雇用の安定に貢献します。
- 経済活性化への寄与
- 労働者一人ひとりのスキルが向上することで、産業全体の生産性が高まり、日本経済全体の活性化と国際競争力の強化を目指します。
職業訓練の法的根拠とは?ハロートレーニングを支える3つの主要法律
ハロートレーニングの仕組みは、主に以下の3つの法律が連携することで成り立っており、訓練の内容から支援金まで、すべてが法的な根拠に基づいています。
法律名 | 公布年月日 | 主な施行年月日 | 役割と支援内容 |
職業能力開発促進法 | 昭和44年7月18日 | 昭和44年10月1日 | 公的職業訓練の基本原則を定める。 主に公共職業訓練や在職者訓練の根拠となります。(※制定時の名称は「職業訓練法」) |
雇用保険法 | 昭和49年12月28日 | 昭和50年4月1日 | 訓練期間中の基本手当の支給延長や給付制限の解除といった、公共職業訓練受講者への経済的なサポートの根拠となります。 |
求職者支援法 | 平成23年5月20日 | 平成23年10月1日 | 雇用保険を受給できない求職者向けの「求職者支援訓練」の実施と、訓練中の生活費を補助する職業訓練受講給付金の支給根拠となります。 |
このように、ハロートレーニングは、訓練の場(職能法)が提供され、訓練中の経済的な支援(雇用保険法・求職者支援法)が確保されるという、強力な法律体系に支えられた制度です。
ハロートレーニングの3つの訓練タイプ|あなたに合う職業訓練は?
ハロートレーニングは、受講するあなたの現在の雇用状況や目的に応じて、主に以下の3つのタイプに分けられています。
この違いを理解することが、適切な訓練を選び、必要な支援(手当など)を受けるための第一歩です。
訓練タイプ | 主な対象者 | 目的・特徴 | 期間の目安 |
1. 公共職業訓練 | 雇用保険受給中の離職者(失業手当受給者) | 長期かつ専門的なスキル習得、資格取得を目指すコースが中心。 ハローワークの「受講指示」が必要です。 | 6ヶ月〜2年程度 |
2. 求職者支援訓練 | 雇用保険を受給できない求職者 | 未経験からの早期就職を目指す。条件を満たせば、職業訓練受講給付金(生活支援金)を受け取れます。 | 数ヶ月〜1年程度 |
3. 在職者訓練 | 中小企業などの在職者 | 現職に必要なスキルアップ、DX対応、資格取得などを目指す。働きながら受けやすい短期集中型が中心です。 | 数日〜数ヶ月程度 |
1. 離職者が受けられる公共職業訓練|ハロートレーニングで再就職を目指す方法
この訓練は、主に雇用保険の基本手当(一般に「失業手当」と呼ばれるもの)を受け取っている方を対象としています。
- 対象者
- 雇用保険の失業手当の受給資格があり、ハローワークで求職活動を行っている離職者。
- 特徴
- 国や都道府県が設置するポリテクセンターなどで実施されることが多く、機械、電気、IT、建築など、専門性の高い分野をじっくり学ぶことができます。
- ハローワークの「受講指示」を受けて訓練に参加することで、訓練期間中は失業手当の支給が延長され、経済的な不安なく学習に集中できます。
ポリテクセンター(職業能力開発促進センター)は、主にものづくり分野に特化した公的職業訓練施設です。
独立行政法人 高齢・障害・求職者支援機構(JEED)が全国に設置・運営し、求職者や在職者、中小企業向けの高度な技能訓練・人材育成を担っています。
ポリテクセンターの主な特徴
- ハロートレーニング(公的職業訓練)の中核施設の一つで、機械・電気・電子・建築など「ものづくり分野」の訓練を特に充実しています。
- 離職者には再就職・転職向け、在職者にはスキルアップ目的の職業訓練コースを実施しています。
- 訓練期間は3か月~2年のコースが主流。
- 受講料は無料(テキスト代等は自己負担)、託児付き訓練や女性向けコースも増加中です。
- 全国63か所(東京都以外の46道府県)で開設されています。
カリキュラム・サービス
- 実技重視の少人数制カリキュラム
- 応募書類添削、模擬面接、専用求人の紹介など就職・定着支援
- 企業・在職者向け短期セミナー(能力開発セミナー)も実施
他施設との違い
- 国(JEED)直営で、ものづくり分野の高度な職業訓練を担う点が他の職業能力開発校(都道府県設置)や民間委託訓練と異なります。
ポリテクセンターは「ものづくりのプロフェッショナル」を育成し、地域の産業や雇用の安定に貢献している公的職業訓練機関です。
2. 雇用保険がなくても学べる!求職者支援訓練(非受給者向けハロートレーニング)とは
「働く意思はあるが、雇用保険の失業手当を受け取れない」という方を支援するための訓練です。
- 対象者
- フリーター、主婦・主夫、転職活動中の無職の方など、雇用保険の受給資格がない求職者。
- 特徴
- 訓練の内容は、IT・Webスキル、医療事務、介護など、幅広い分野にわたります。
- 最大の特長は、収入や世帯の金融資産などの一定の要件を満たせば、訓練期間中に「職業訓練受講給付金」(月額10万円)を受け取れる点です。
- これは、訓練に専念するための心強い生活支援となります。
3. 会社員も受けられる在職者訓練|仕事と両立しながら学ぶハロートレーニング
今の会社に勤めながら、キャリアアップやスキルチェンジを図りたい方向けの訓練です。
- 対象者
- 中小企業などに勤務している在職者。
- 個人事業主やフリーランスも対象となる場合があります。
- 特徴
- 現職の生産性向上や、時代の変化に対応するためのスキル習得(DX、業務改善など)を目的としています。
- 仕事と両立しやすいように、夜間や土日に開講されるコースや、数日間の短期集中型コースが中心となっています。
- 受講料は有料のものもありますが、非常に安価に設定されています。
最新の職業訓練コースを紹介|ハロートレーニングで学べる分野とスキルの具体例
ハロートレーニングの魅力は、そのコースの多様性にあります。
国や地域社会の最新の雇用ニーズを反映し、時代のトレンドから伝統的な専門技術まで、幅広い分野の訓練が提供されています。
あなたが目指すキャリアに応じて、数日間の短期集中から1年以上の長期コースまで、最適な学びを見つけることができます。
1. ハロートレーニングで学ぶ最新デジタルスキル|IT・Web・プログラミング訓練例
現在の市場で最も需要が高まっているのが、IT(情報技術)やデジタル関連のスキルです。
未経験からでも就職に直結できるよう設計されたコースが多く開講されています。
- IT・Web・プログラミング
- Python、Java、PHPなどのプログラミング言語、Webサイト制作、データベース管理、ネットワークセキュリティなど。
- デザイン・マーケティング
- Webデザイナー、グラフィックデザイン、SNSを活用したデジタルマーケティングなど、クリエイティブかつビジネスに直結する分野。
2. ハロートレーニングで学ぶ専門技術|医療・介護・モノづくり職の訓練例
人手不足が深刻化し、安定したキャリアを築きやすい専門職の技術を習得するコースも充実しています。
- 医療・介護・保育
- ホームヘルパー、介護職員初任者研修、医療事務、調剤薬局事務など、資格取得とセットになったコースが豊富です。
- モノづくり・整備
- 電気設備、溶接技術、自動車整備、CAD(コンピューター支援設計)操作など、現場で即戦力となる技術者育成を目指します。
3. ハロートレーニングで学ぶビジネス・事務スキル|簿記・OA・マナー訓練
業種を問わず求められる事務処理能力や、ビジネスパーソンとしての基本を磨くためのコースです。
- 経理・会計
- 簿記や経理ソフトの操作、給与計算、財務諸表の読み方など、企業のバックオフィスを支える知識。
- OAスキル・ビジネスマナー
- Word、Excel、PowerPointなどのOfficeソフトの上級スキル、基本的なビジネスマナー、コミュニケーションスキルなど。
学びやすい期間設定|ハロートレーニングで短期・長期スキル習得
訓練期間も、あなたが求める専門性や目的に合わせて多岐にわたります。
期間のタイプ | 主な目的 | 例 |
短期コース | 基礎知識の習得、資格試験対策 | 数日〜3ヶ月 |
中期コース | 実務に使えるスキルの習得、キャリアチェンジ準備 | 3ヶ月〜6ヶ月 |
長期コース | 高度な専門技術や難関資格の取得 | 6ヶ月〜2年 |
このように、ハロートレーニングは、技術の変化が速い現代社会においても、あなたが「何を学びたいか」「どのように働きたいか」というニーズに柔軟に対応できるよう進化し続けています。
公的職業訓練の3大メリット|ハロートレーニングで費用ゼロ・資格取得・就職支援
「公的職業訓練」は、単に知識を学ぶ場というだけでなく、あなたのキャリアチェンジを成功に導くための制度的な優位性を持っています。
経済面、スキル面、支援面から、この制度を利用する大きなメリットを改めて確認しましょう。
1. 経済面|ハロートレーニングの受講料が原則無料で費用負担ゼロ
最大の魅力は、訓練の受講料が原則無料であることです。
民間の専門学校やスクールで同等のコースを受講すれば、数十万円かかる場合も珍しくありません。
- 費用削減
- 受講料が無料になることで、自己投資にかかる費用を大幅に削減できます。
- 自己負担はテキスト代や教材費、交通費などに限定されます。
- 生活支援
- さらに、雇用保険の失業手当受給資格がある方には手当の支給延長、受給資格がない方には職業訓練受講給付金という強力な生活支援があるため、金銭的な心配を最小限にして訓練に集中できます。
2. スキル面|ハロートレーニングで実践的なスキルと資格を効率的に取得
ハロートレーニングのコースは、国が雇用情勢を踏まえて設計しているため、就職・転職市場で即戦力となることに主眼が置かれています。
- 即戦力設計
- 未経験者を想定した基礎から学べるカリキュラムから、高度な専門知識を深める長期コースまで、実践的な訓練を受けられます。
- 資格取得サポート
- 訓練と並行して、介護・医療事務・電気工事士・簿記などの就職に有利な公的資格を取得するためのサポートがカリキュラムに組み込まれていることが多く、効率的にキャリアを強化できます。
3. 支援面|ハロートレーニングで受けられる万全の就職・キャリア支援
民間のスクールと異なり、ハロートレーニングの根幹にはハローワークによる「就職支援」があります。
- 訓練中のサポート
- 訓練期間中からハローワークの担当者による定期的なカウンセリングや職業相談が受けられます。
- 修了後のあっせん
- 訓練修了後も、習得したスキルを活かせる企業への積極的な就職あっせんや、採用面接の指導など、手厚い支援が継続されます。
行動の第一歩|ハロートレーニングの情報収集と申込み方法
ハロートレーニングの最新情報や募集状況、そしてご自身の受講資格を確認するためには、以下の公的な相談窓口やウェブサイトを調べるのが最も確実でスムーズです。
情報収集|ハロートレーニングに関する公式ウェブサイトでコースと申込みを確認
- お近くのハローワーク 公式ウェブページ
- 職業訓練の全体案内、最新の募集コース詳細、申込み手順を確認できます。
- 職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)
- 希望する技術分野の訓練があるか、具体的なカリキュラムを調べます。
- 職業能力開発促進センター(ポリテクセンター) |独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
- 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)
- 全国の職業能力開発関連施設情報や求職者支援訓練の紹介を掲載しています。
- 職業能力開発促進センター(ポリテクセンター) |独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
ハロートレーニングの相談窓口|ハローワークとポリテクセンターで直接質問
公的な訓練は条件や給付金制度が複雑なため、直接専門の窓口に相談するのが最も確実です。
- ハローワークの職業訓練担当窓口
- 訓練相談から申込みまで、すべての中心となる窓口です。
- 受講条件の確認、給付金制度に関する質問、ハローワークからの「受講指示」を求める場合に利用します。
- 地元のポリテクセンター(職業能力開発促進センター)
- 具体的なコース内容、訓練スケジュール、実習設備など、コースの詳細について聞きたい場合に適しています。
あなたのキャリアを再設計する確かな一歩として、まずは最寄りのハローワークを訪問するか連絡し、あなたの状況に合った具体的な訓練コースの紹介を受けましょう。
まとめ|ハロートレーニングでキャリア再設計とスキルアップを実現
本記事では、受講料無料の公的職業訓練「ハロートレーニング」の全体像を解説しました。
- 制度の土台
- 訓練の枠組みは職業能力開発促進法、経済支援は雇用保険法や求職者支援法に基づき、公的資金で運営されています。
- 利用の選択肢
- 離職者向け(公共職業訓練)、非受給者向け(求職者支援訓練)、在職者向けの3タイプがあり、あなたの状況に合ったコースを選べます。
- 最大のメリット
- 費用が無料、実践的なスキルが習得できる、ハローワークによる万全の就職支援が受けられるという三拍子揃った制度です。
あなたのキャリアを再設計する最初のステップは、制度を知り、行動することです。
まずは最寄りのハローワークに相談し、ご自身の受講資格や興味のある分野のコースについて問い合わせてみましょう。
次回予告|失業手当の期間を「学びの時間」に変える!
さて、今回は「ハロートレーニング」が費用をかけずにスキルアップできる公的な仕組みであることを確認しました。
次回は、求職者向けの訓練の中でも、現在失業手当を受給している方にとって最も強力な支援策である「公共職業訓練」に焦点を当てます。
最大のメリットは、ハローワークの「受講指示」を得ることで、失業手当の支給期間が訓練終了まで延長されることです。
- 訓練の費用
- 無料
- 最大の支援
- 失業手当の支給期間が延長され、給付制限も解除される
次回の記事では、この「受講指示」を獲得するための具体的な要件や、失業手当を「焦り」から「学びの時間」に変えるための具体的なロードマップを徹底解説します。
次回の記事は👉公共職業訓練で失業手当を延長しながら再就職を目指す方法
経済的な不安なく、じっくりとキャリアを再構築したい方は、どうぞご期待ください。

執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
会社員歴30年以上、転職5回を経験した氷河期世代の社会保険労務士です。自らが激動の時代を生き抜いたからこそ、机上の空論ではない、働く人の視点に立った情報提供をモットーとしています。あなたの働き方と権利を守るために必要な、労働法や社会保険の知識、そしてキャリア形成に役立つヒントを、あなたの日常に寄り添いながら、分かりやすく解説します。
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