
執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二
会社員歴30年以上、転職5回以上を経験し、氷河期世代として激動の時代を生き抜いてきた社会保険労務士、戸塚淳二です。私自身が様々な働き方を経験してきたからこそ、机上の空論ではない、「働く人の視点」に立った労働法や社会保険法の役立つ情報をお届けします。あなたの日常に寄り添い、働き方と権利を守るためのヒントを分かりやすく解説していきます。
社会保険労務士登録番号:第29240010号
本記事は「あなたの働く人生を守るセーフティネット!雇用保険のすべて」シリーズの第12話です。第1話は👉雇用保険とは?何のためにある?|加入メリットや目的を解説
前回の記事では、失業保険を受け取りながらアルバイトをする際のルールや注意点について詳しく解説しました。
前回の記事は👉失業保険受給中にアルバイトする方法と控除額の計算例|注意点も徹底解説
再就職に向けた準備期間の生活を支える上で、アルバイトはとても役立つ手段です。
しかし、失業手当をもらっている期間中に、運良く早期に次の仕事が決まる方も多くいらっしゃいますよね。
その際、「まだ失業手当の給付日数がたくさん残っているけど、就職したらもらえなくなるのかな?」と、少し残念に感じる方もいるかもしれません。
実は、そうした再就職への意欲をしっかりと後押しするための制度があるのをご存じでしょうか?
それが、今回ご紹介する「再就職手当」です。
この手当は、失業手当の給付日数を多く残して就職した場合に、国から支給される一時金です。
再就職手当とは?早期再就職を支援する制度の目的と意義
失業保険は、失業中の生活を保障し、再就職を支援するための大切な制度です。
しかし、給付期間が長ければ長いほど、求職活動へのモチベーションが下がってしまったり、次の仕事を探す期間が長引いてしまったりする可能性も否定できません。
再就職手当は早期再就職を促すための制度
そこで、国は「失業手当を最後まで受給するよりも、早く再就職する方がメリットになる」ような仕組みを作ることで、求職者自身が自律的に再就職を目指すことを促しました。
再就職手当は、その代表的な制度です。
再就職手当の2つの目的|早期再就職と雇用の安定を支援
この再就職手当には、主に以下の2つの大きな目的があります。
- 早期再就職の促進
- 再就職手当は、残りの失業手当の給付額に応じて、まとまった一時金として支給されます。
- この仕組みがあることで、求職者は失業手当の受給期間を気にすることなく、より積極的に仕事を探すことができます。
- 結果として、失業期間の長期化を防ぎ、求職者が早期に社会復帰することを後押しします。
- 経済的な安定の支援
- 早期に再就職が決まったとしても、新しい仕事に慣れるまでの期間や、次の給料日までの生活費など、金銭的な不安が残る場合があります。
- 再就職手当は、そうした再就職後の新たなスタートを経済的に支援する役割を果たします。
再就職手当は単なる一時金ではなく、「早く再就職できた人」を称賛し、新たな門出を後押しするための制度だと言えるでしょう。
この制度をうまく活用することで、より安心して再就職活動に臨むことができます。
再就職手当を受け取るための8つの支給条件を徹底解説|申請前に必ず確認しよう
再就職手当は、早期再就職を支援する大切な制度ですが、誰もが受け取れるわけではありません。
この手当を申請するためには、ハローワークが定めるすべての条件を満たす必要があります。
ここでは、再就職を検討しているあなたが確認すべき、8つの支給要件について詳しく解説します。
雇用保険の受給資格者であること|再就職手当の支給条件①
大前提として、失業手当(基本手当)を受け取る権利を持つ人であることが必要です。
具体的には、ハローワークで求職の申し込みを行い、働く意思と能力があり、離職前の一定期間、雇用保険に加入していたと認められている人です。
また、再就職先で雇用保険の被保険者となることも条件となります。
待期期間が満了していること|再就職手当支給条件②
ハローワークに求職の申し込みをした日以降、7日間の「待期期間」が満了していることが必要です。
この期間中に就職が決まった場合は、再就職手当の対象外となります。
採用内定日が受給資格決定日以降であること|再就職手当支給条件③
再就職先への採用が内定した日が、ハローワークで雇用保険の受給資格が決定した日よりも後であることが条件です。
つまり、失業保険の手続きをする前に就職が決まっていた場合は、再就職手当をもらうことはできません。
支給残日数が所定給付日数の3分の1以上が必要|再就職手当支給条件➃
再就職手当の受給条件の中でも特に重要なのが、この「支給残日数」です。
就職日の前日までの時点で、失業手当の所定給付日数の3分の1以上が残っていることが必須条件となります。
【例】 所定給付日数が90日の場合、就職日までに30日以上残っている必要があります。
支給残日数が多ければ多いほど、もらえる金額も多くなるため、早期の再就職が、経済的なメリットにもつながります。
前の会社や関連会社への再雇用は不可|再就職手当支給条件⑤
再就職先が、失業保険の離職理由となった前の会社、またはその関連会社ではないことが条件です。
これは、退職と再雇用を繰り返すことで制度を不正に利用するのを防ぐ目的があります。
1年以上の継続雇用が必要|再就職手当支給条件⑥
再就職先での雇用期間が、1年以上継続して勤務することが確実であるとハローワークに判断される必要があります。
契約社員や派遣社員でも、契約更新によって1年以上働く見込みがある場合は対象に含まれます。
※実際に1年未満で離職しても「自己都合でなければ返還不要」です。
給付制限期間中に就職した場合の注意点|再就職手当支給条件⑦
自己都合退職などで給付制限期間がある場合は特に注意が必要です。
給付制限期間が始まってから最初の1ヶ月間に就職した場合は、ハローワークまたは厚生労働大臣の許可・届出がある職業紹介事業者(民間転職エージェントなど)の紹介で就職したことが必要です。
- 「1か月以内に自分で応募して就職」→原則、再就職手当は出ない
- 「1か月以内にハローワークなどの紹介で就職」→支給対象になる
- 「1か月を過ぎてから就職」→紹介経由でなくても支給対象になりうる
過去3年以内に受給歴がないこと|再就職手当支給条件⑧
過去3年以内に再就職手当や常用就職支度手当といった雇用促進手当を受給していないことが条件です。これは制度の繰り返し利用を防ぐための規定です。
これらの8つの条件をすべて満たすことで、再就職手当を申請できます。
ご自身の状況が対象となるか不安な場合は、自己判断せず、必ずハローワークに相談しましょう。正しい情報を得ることで、安心して再就職活動に専念できます。
開業でも再就職手当を受け取れる?個人事業主の場合の注意点と条件
再就職手当は、必ずしも企業に再就職して雇用保険の被保険者になることだけが受給条件ではありません。
上記の支給要件の1とは矛盾しますが、あなたが個人事業主として開業した場合でも、再就職手当を受給することは可能です。
雇用保険は、事業主に雇用される労働者を対象としているため、個人事業主は原則として雇用保険の被保険者にはなれません。
しかし、再就職手当の制度は、雇用保険の基本手当の受給者が「安定した職業に就くこと」を支援することを目的としており、この「安定した職業」には、自営による事業の開始も含まれています。
ただし、企業への再就職とは異なり、より厳格な審査が行われます。
再就職手当の支給を受けるためには、単に開業しただけでなく、1年以上の事業継続が確実であるとハローワークに認められる必要があります。
具体的には、税務署への開業届の提出や、事業の実態を証明できる契約書・事業計画書などの提出が求められます。
これらの書類を提出し、事業が安定して継続する見込みがあると判断されて初めて、雇用保険の被保険者とならなくても再就職手当を受け取ることができます。
安易に「開業すればもらえる」と考えるのではなく、事前にしっかりと準備し、ハローワークに相談することが大切です。
開業で再就職手当を受ける際の注意点|申請前に確認すべきポイント
会社への就職と異なり、開業の場合は以下の点に特に注意が必要です。
- 「失業」の概念との矛盾
- 失業手当は「働く意思と能力があるにもかかわらず、仕事が見つからない」状態を前提としています。
- 開業は「自ら仕事を生み出す」行為であり、この前提と矛盾すると考えられるため、ハローワークは「いつから事業を開始したとみなすか」を厳格に判断します。
- 開業届を出すタイミング
- 失業手当の手続きを終え、待期期間(7日間)が満了した後に開業届を提出することが鉄則です。
- もし、待期期間中に開業届を出してしまうと、再就職手当の受給資格を失ってしまいます。
- 給付制限期間中の注意点
- 自己都合退職などで給付制限期間がある場合、待期期間満了後、最初の1ヶ月間は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介による就職が条件となるため、この期間内に自己の判断で開業しても再就職手当は支給されません。
- 給付制限期間の2ヶ月目以降に開業する必要があります。
開業で再就職手当を申請する場合、これらの注意点を理解し、自己判断で進めるのではなく、必ず事前にハローワークに相談することが非常に重要です。
再就職手当の支給額|計算方法と上限額をわかりやすく解説
再就職手当の金額は、あなたの「支給残日数」と「基本手当日額」を基に計算されます。
早期に再就職するほど、多くの手当を受け取ることができます。
1. 再就職手当の支給額計算方法|早期就職でいくらもらえるか簡単にチェック
支給額は、再就職した時点での基本手当の残日数に応じて、以下のいずれかの計算式で算出されます。
- 給付日数が3分の2以上残っている場合
- 所定給付日数の支給残日数 × 基本手当日額 × 80%
- 給付日数が3分の1以上残っている場合
- 所定給付日数の支給残日数 × 基本手当日額 × 70%
具体的な計算例
たとえば、所定給付日数が90日、基本手当日額が7,000円だったとします。
- 残日数60日で就職した場合(3分の2以上残存) 60日 × 7,000円 × 80% = 33万6,000円
- 残日数40日で就職した場合(3分の1以上残存) 40日 × 7,000円 × 70% = 19万6,000円
この例からもわかるように、再就職が早いほど、より高い支給率が適用され、受け取れる手当の金額も大きくなります。
2. 再就職手当の支給額の上限|基本手当日額と年齢ごとの制限を解説
再就職手当の金額には上限があります。
これは、再就職手当そのものに上限が設定されているのではなく、基本手当日額に年齢区分ごとの上限が定められているためです。
計算で算出された金額が、この上限額を超える場合は、その上限額が支給されます。
たとえば、2024年度の基本手当日額の上限は、60歳未満で日額7,945円、60歳から65歳未満で日額6,793円となっています。
ご自身の基本手当日額は、「雇用保険受給資格者証」に記載されているため、必ず確認しましょう。
なお、基本手当日額の上限は毎年見直しが行われるため、最新の情報はハローワークの公式サイトなどで確認してください。
再就職手当の申請手続き|書類準備から申請の流れまで徹底解説
再就職手当を受給するためには、所定の期間内に必要書類を揃えて申請手続きを行う必要があります。
ここでは、具体的な手続きの流れと、準備すべき書類について、企業への再就職と自身での開業の2つのケースに分けて詳しく解説します。
1. 企業への再就職で再就職手当を申請する手続きと必要書類
再就職先から内定をもらったら、以下のステップで手続きを進めましょう。
- 内定後、ハローワークに連絡
- 再就職が決まったら、速やかにハローワークに連絡し、就職日や再就職先の情報を伝えます。
- 必要書類の受け取り(公式サイトからダウンロード可能)と記入
- ハローワークで「再就職手当支給申請書」を受け取ります。
- この申請書には、再就職先の事業主が記入する欄があるので、担当者にお願いして必要事項を記入してもらいましょう。
- 書類の提出
- すべての書類が揃ったら、就職日の翌日から1ヶ月以内にハローワークの窓口に提出します。
- 郵送での提出も可能です。(ただし、郵送の場合は記入漏れや不備があったときに手続きが遅れることがあるため、できれば窓口提出が安心)
申請に必要な書類
- 再就職手当支給申請書
- ハローワークで受け取り、再就職先に必要事項を記入してもらったものです。
- 雇用保険受給資格者証
- 失業保険の受給手続きをした際に交付されたものです。
- その他、必要に応じて求められる書類
- 雇用契約書の写しなど、追加の書類の提出を求められる場合があります。
2. 自身で開業した場合の再就職手当申請手続きと必要書類
開業後、以下のステップで手続きを進めます。
- 開業後、ハローワークに連絡
- 事業を開始したら、速やかにハローワークに連絡し、開業した旨を伝えます。
- 必要書類の受け取り(公式サイトからダウンロード可能)と記入
- ハローワークから「再就職手当支給申請書」を受け取ります。開業の場合は、事業の実態や継続性を示す書類を自分で準備する必要があります。
- 書類の提出
- すべての書類が揃ったら、開業日の翌日から1ヶ月以内にハローワークの窓口に提出します。
申請に必要な書類
- 再就職手当支給申請書
- 雇用保険受給資格者証
- 開業届の控え
- 事業内容を証明する資料
- 業務委託契約書、事業計画書、事業内容が分かる資料(ホームページやパンフレットなど)など、収益の見込みを示す書類も含まれます。
再就職手当の申請期間と注意点|期限内の手続き方法を解説
再就職手当の申請は、就職日または開業日の翌日から1ヶ月以内に行うのが原則です。
この期間を過ぎてしまうと、手当を受給する権利を失ってしまいます。
ただし、やむを得ない事情があるとハローワークが認めた場合は受理されることもあるため、期間を過ぎてしまった場合でも、まずは相談してみましょう。
まとめ|再就職手当を賢く活用して、新たなキャリアのスタートを
ここまで、再就職手当の目的や支給条件、そして具体的な手続き方法について詳しく解説してきました。
この制度を最大限に活用するための重要なポイントを、改めて確認しておきましょう。
実は、再就職手当を受給している人は、全体の約3割程度と言われています。
これは、制度の存在自体を知らなかったり、「手続きが複雑そうだ」と感じて申請まで至らなかったりする人が少なくないためです。
しかし、再就職手当は、早期再就職への意欲を高め、あなたの新たなスタートを経済的に後押しするための重要な制度です。
手続きを諦めるのはもったいないことです。
再就職手当の重要ポイント|正しく理解してハローワークに相談する
雇用保険の制度は複雑で、個々の状況によって適用されるルールが異なります。
自己判断で手続きを進めてしまうと、思わぬ落とし穴にはまる可能性もゼロではありません。
- 「私のケースでは再就職手当の対象になるの?」
- 「開業した場合の必要書類は?」
- 「申請期間を過ぎてしまったらどうすればいい?」
もし少しでも疑問や不安に感じることがあれば、必ずハローワークに相談してください。
専門の職員が、あなたの状況に合わせて適切なアドバイスをしてくれます。
再就職手当は、早期に再就職を決めた人への「ご褒美」であり、あなたの再就職活動を成功させるための大きな支えになります。
制度を正しく理解し、新しいキャリアのスタートを力強く切りましょう。
次回予告|失業中の病気や怪我に備える「傷病手当」の解説
再就職活動を進める中で、次の仕事が見つかることが一番の目標ですが、もしもその間に病気や怪我をしてしまい、思うように求職活動ができない期間があったらどうなるのでしょうか?
働く意思と能力があることが前提となる失業手当は、病気や怪我で働けない期間には原則として受け取れません。
しかし、ご安心ください。
そんな「働きたくても働けない」求職者を支えるための制度があります。
それが、失業給付金の代わりに受け取れる「傷病手当」です。
次回は、この「傷病手当」について徹底解説します。
- どのような条件を満たせば受け取れるのか
- 申請手続きの流れや必要書類
- 失業手当との違いや注意点
など、いざという時に困らないよう、知っておくべきポイントを詳しくお伝えします。
どうぞお楽しみに。
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