
執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二
会社員歴30年以上、転職5回以上を経験し、氷河期世代として激動の時代を生き抜いてきた社会保険労務士、戸塚淳二です。私自身が様々な働き方を経験してきたからこそ、机上の空論ではない、「働く人の視点」に立った労働法や社会保険法の役立つ情報をお届けします。あなたの日常に寄り添い、働き方と権利を守るためのヒントを分かりやすく解説していきます。
社会保険労務士登録番号:第29240010号
本記事は「あなたの働く人生を守るセーフティネット!雇用保険のすべて」シリーズの第8話です。第1話は👉雇用保険とは?何のためにある?|加入メリットや目的を解説
前回の記事では、ハローワークでの手続きを終えてから失業給付金がもらえるまでの「待機期間」や「給付制限期間」について解説しました。
前回の記事は👉失業給付金の待機期間と給付制限|自己都合・会社都合でいつもらえる?【2025年最新】
しかし、給付金を受け取る上で、もう一つ、いやそれ以上に重要なポイントがあります。
それが、あなたの「退職理由」です。
退職理由が「会社都合」か「自己都合」かによって、もらえる総金額に数十万円もの大きな差が出ることがあります。
さらに、会社によっては意図的に退職理由を「自己都合」にしようとすることがあります。
「どうして会社はそうしたがるの?」「そもそも退職理由って誰が決めるの?」
本記事では、こうした疑問を解消するため、失業保険における退職理由の詳しい分類と、会社とハローワークの認識が違った場合の具体的な対処法を分かりやすく解説していきます。
正しい知識を身につけて、あなたがもらえるはずの給付金をしっかり確保しましょう。
あなたの退職理由は会社都合?自己都合?失業保険での分類とは
失業保険の給付条件は、退職理由によって大きく変わります。
退職理由が「会社都合」なのか「自己都合」なのかで、もらえる給付金の総額に大きな差が出ることがあります。
失業保険における退職理由は、主に以下の3つの大分類と、そこに含まれる具体的なケースに分類されます。
1. 会社都合による退職|失業保険の給付制限なしで受け取れる場合
会社の倒産や解雇など、労働者本人の意思に反して退職を余儀なくされた場合が該当します。
給付制限期間はなく、最も優遇されます。
- 会社の倒産や事業所の廃止
- 会社の都合によるリストラや解雇
- 早期退職優遇制度の利用(事業縮小のためなど)
2. 特定の理由による退職|会社都合ではないけど失業保険を優遇されるケース
自己都合退職ではあるものの、やむを得ない客観的な事情が認められるケースです。
会社都合退職と同様に、給付制限期間は適用されません。
特定受給資格者
会社側に問題があったため、退職せざるを得なかった場合。
- 給与が2ヶ月以上遅れた、または大幅に減額された
- セクハラやパワハラなどのハラスメントが原因
- 契約時の労働条件(賃金や仕事内容)が実際と著しく異なっていた
- 時間外労働が過剰で、健康を害する恐れがあった
特定理由離職者
本人側のやむを得ない個人的な事情で、退職せざるを得なかった場合。
- 期間の定めのある労働契約が更新されなかった(雇い止め)者
- 病気や介護、障害など、正当な理由のある自己都合退職者
- 自身の病気やケガ、または家族の介護や看護のため
- 配偶者の転勤に伴い、転居するため(通勤が往復4時間以上になるなど、交通機関の都合で就業が困難になった)
- 妊娠や出産、育児のため
- やむを得ないとハローワークが認めた特別な事情がある場合
3. 自己都合退職とは?失業保険で給付制限があるケースと注意点
個人的な理由で退職した場合です。
原則として給付制限期間が適用されます。
正当な理由のない自己都合退職
- キャリアアップやスキルアップのための転職
- 単に仕事内容や人間関係に不満があった
- 漠然と「辞めたい」と考えた
このように、退職理由がどの分類に該当するかによって、給付金の受け取り条件が大きく変わります。
退職理由の判断に迷ったら?ハローワークや専門機関へ相談しよう
このように、退職理由の分類にはさまざまなケースがあり、すべての事例を網羅することはできません。
ご自身の退職理由がどの分類に該当するのか判断に迷った場合は、インターネットの情報だけに頼らず、必ず以下の機関に直接ご相談ください。
- ハローワーク
- 最終的な判断を行うのは、あなたの住所を管轄するハローワークです。
- 離職票を持って直接窓口に行き、職員に相談するのが最も確実です。
- ハローワークインターネットサービス
- 一般的な質問であれば、ハローワークインターネットサービスに掲載されている特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要で解決できることもあります。
あなたの状況を正しく伝えることが、適切な給付金を受け取るための第一歩となります。
離職票に正しい退職理由が書かれない?特定受給資格者・特定理由離職者の落とし穴
あなたの退職理由が、「雇い止め」「ハラスメント」や「家族の介護」だったとしても、会社の担当者が離職票にその詳細を正確に記入してくれる可能性は低いのが現状です。
なぜなら、多くの会社の担当者は、退職理由を「会社都合」か「自己都合」の単純な二択で判断しがちだからです。
失業保険における「特定受給資格者」や「特定理由離職者」といった細かい分類は、専門的な知識が必要なため、十分に理解していないことが多いのです。
会社にとって、「会社都合」の退職者が増えると、雇用保険料の負担が増えたり、国からの助成金がもらえなくなったりするデメリットがあります。
そのため、やむを得ない退職であっても、「自己都合」として処理しようとするケースが少なくありません。
結果として、あなたのやむを得ない事情が反映されないまま、離職票には「自己都合」と記載されてしまうのです。
しかし、だからといって諦める必要はまったくありません。
なぜなら、退職理由の最終的な判断は、会社ではなくハローワークが行うからです。
離職票に「自己都合」と書かれても諦めない!失業保険の退職理由はハローワークが判断
前述の通り、多くの会社はあなたの退職理由を「自己都合」として処理したがります。
しかし、離職票にそう記載されていても、決して諦める必要はありません。
なぜなら、退職理由の最終的な判断は、会社ではなくハローワークが行うからです。
ハローワークは、提出された離職票だけでなく、あなたからの話や証拠書類を総合的に判断します。
そのため、会社が「自己都合」と書いても、覆して「特定受給資格者」や「特定理由離職者」と認定される可能性は十分にあります。
特定受給資格者・特定理由離職者として認定されるための具体的な対処法
会社とハローワークの認識が違う場合、あなたが取るべき行動は以下の2つです。
1. 離職票を受け取ったら、すぐにハローワークに相談する
会社から離職票を受け取ったら、まずはその内容をしっかり確認しましょう。
もし、あなたの退職理由が正しく反映されていないと感じたら、最初にハローワークに行った日に異議を申し立てるのが最も良いタイミングです。
離職票を提出する際、「離職理由に異議があります」と窓口の職員に明確に伝えてください。
あなたの正直な状況を伝えることで、ハローワークは公正な調査を開始することができます。
2. 客観的な証拠書類を準備する
ハローワークにあなたの主張を認めてもらうためには、客観的な証拠が不可欠です。
退職理由に応じて、以下のような書類をできる限り準備しましょう。
- ハラスメントが原因の場合
- 録音データ、問題のメールやSNSのやり取り
- ハラスメントの状況を記録した日記やメモ
- 産業医や弁護士への相談記録
- 労働条件が異なる場合
- 採用時の雇用契約書、求人広告
- 実際の労働時間を証明するタイムカードや勤怠記録
- 給与明細など
- 病気や介護が理由の場合
- 医師の診断書や通院証明書
- 家族の要介護認定書や診断書
- 介護サービスの利用契約書など
会社が「自己都合」として処理しても、ハローワークにあなたの状況を正しく伝えることで、もらえるはずの給付金を守ることができます。
まとめ|退職理由と失業保険の給付を正しく理解するポイント
退職理由は、失業給付金の受給条件やもらえる金額を大きく左右する重要な要素です。
会社の言いなりにならず、自分の状況を正しくハローワークに伝えることが、あなたの給付金を守るための鍵となります。
会社の認識とハローワークの判断は違う場合があることを理解し、正しい知識と客観的な証拠を準備することが、安心して再就職活動を進めるための第一歩です。
自分の権利を主張し、適切な給付金を受け取れるように行動しましょう。
次回予告|失業保険はいくらもらえる?給付額と計算方法を解説
これまでの記事で、失業給付金をもらうための手続きや、退職理由による違いについて見てきました。
しかし、一番気になるのは、「結局、自分はいくらもらえるのか?」ということではないでしょうか?
次回の記事では、いよいよ失業給付金の具体的な計算方法を解説します。
- 給付金の額はどのように決まる?
- 給付日数は何日になる?
- 離職前の給料が少ないほど、給付率は高くなるってホント?
あなたの離職前の給料をもとに、もらえる給付額と給付日数を計算する方法を分かりやすくお伝えします。どうぞお楽しみに!
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