2025年・改正育児介護休業法【実務対応編】(19)育児休業制度の周知・意向確認における実務対応 規程整備の先にある実践ガイドvol2

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育児休業を取得しやすい職場へ 2025年改正育児介護休業法
育児休業を取得しやすい職場へ
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社会保険労務士 戸塚淳二

執筆者:社会保険労務士 戸塚淳二

法改正対応のスペシャリスト。戸塚淳二社会保険労務士事務所 代表として、多岐にわたる労働関連法規の解説から、実践的な労務管理、人事制度設計、助成金活用まで、企業の「ヒト」と「組織」に関する課題解決をサポートしています。本記事では、事業主の皆さまが安心して法改正に対応できるよう、専門家の視点から最新情報をお届けします。

社会保険労務士登録番号:第29240010号

2025年の育児介護休業法改正では、企業の育児休業取得を促進するための措置が強化されます。 既に義務化されている「従業員への育児休業取得意向の確認と適切な情報提供」といった個別の周知・意向確認に加え、さらなる取り組みが求められます。

しかし、法律で義務付けられた対応をするだけでは、真の意味で育児休業の取得を促進し、社員が安心して働き続けられる職場を作るには不十分です。この改正を機に、企業は義務対応のさらに一歩先、「実効性を高める取り組み」と「企業文化の醸成」が不可欠だと考えます。

今回の記事では、特に中小企業が持続的に育児休業取得を促進し、働きやすい職場を築くための実践的なステップに焦点を当てて解説していきます。

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取得意向確認後のアクション義務の具体的な進め方:一歩踏み込んだ個別支援

育児休業の個別の周知・意向確認は既に義務付けられていますが、単に確認するだけでなく、その後の丁寧なアクションが、社員の取得を後押しする鍵となります。

希望しない従業員への再度の情報提供と丁寧なヒアリング

「育児休業は希望しない」という従業員がいた場合でも、そこで対応を終えてしまうのはもったいないことです。

「なぜ希望しないのか」の背景を深く理解する

キャリアへの影響を懸念しているのか、同僚への業務負担を心配しているのか、経済的不安があるのか、あるいは制度自体への誤解があるのか。こうした懸念を理解するためには、丁寧なヒアリングが不可欠です。

懸念に応じた具体的な情報提供を行う

  • キャリアへの影響が心配な場合
    • 休業中のキャリア形成支援策や、復職後のキャリアパスについて具体的に説明しましょう。
  • 同僚への負担を懸念している場合
    • 業務分担の具体例、休業中の代行者・サポート体制について明確に示し、組織としてバックアップする意思を伝えます。
  • 経済的不安がある場合
    • 育児休業給付金のシミュレーションを行い、手取り額がどの程度になるのかを具体的に示し、不安を解消します。

再検討できる時間と機会を提供する

一度「希望しない」と答えても、すぐに結論を急がせず、じっくりと考える時間と、必要であれば再度相談できる機会を設けることが大切です。

希望する従業員への手厚い個別支援

育児休業を希望する従業員に対しては、休業前・休業中・復職後と、それぞれのフェーズで手厚い個別支援を行うことが、スムーズな取得と円滑な復職を支えます。

休業前

  • 詳細なすり合わせ
    • 休業期間、業務の引き継ぎ、復職時期や復職後の働き方(短時間勤務、フレックス、テレワークなど)について、具体的に話し合い、合意を形成しましょう。
  • 休業中の連絡方法・頻度に関する合意形成
    • 会社からの連絡をどの程度希望するか、どのような方法で連絡を取り合うかなど、本人の意向を踏まえて決定します。
  • 社内制度・公的支援制度の情報提供
    • 利用可能な社内制度だけでなく、保育園の入所手続きや自治体の育児支援サービスなど、公的支援に関する情報も積極的に提供しましょう。
  • 代行者・サポート体制の明確化
    • 休業中の業務を誰がどのように引き継ぎ、サポートするのかを明確にし、関係者間で共有することで、本人の不安を軽減します。

休業中

  • 定期的な情報共有
    • 本人の希望に応じた頻度と内容で、社内の状況や法改正情報、社内異動情報などを共有し、会社とのつながりを保ちます。
  • スムーズな復職に向けた準備支援
    • 復職面談の設定や、必要に応じて復職に向けた研修機会の案内など、復職への不安を解消するためのサポートを行いましょう。

復職後

  • 復職直後のフォローアップ
    • 復職後も定期的な面談を実施し、業務の状況や育児との両立に関する課題がないかを確認し、必要に応じて業務量の調整や再配置を検討します。
  • 柔軟な働き方の活用支援
    • 短時間勤務制度やフレキシブルな働き方(フレックスタイム、テレワークなど)が効果的に活用できるよう、積極的に支援しましょう。
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取得率向上のための企業文化の醸成:制度を「当たり前」にするために

制度を整えるだけでは、社員はなかなか育児休業を取得しません。社員が「当たり前」に育児休業を取得できるような企業文化を醸成することが、取得率向上には不可欠です。

トップダウンでのメッセージ発信とリーダーシップ

  • 経営層からの明確な意思表示
    • 経営トップが育児休業取得を積極的に推奨するメッセージを定期的に発信し、全社の方針として明確に打ち出します。
  • 管理職層の率先した推奨
    • 管理職が自ら育児休業の取得を推奨する姿勢を示し、部下が相談しやすい雰囲気を作ります。管理職自身が育児経験や育児休業取得経験を共有することも、説得力を高めるでしょう。

職場全体の意識改革と風土づくり

ハラスメント防止の徹底

育児休業に関するハラスメント(パタニティ・ハラスメント☟に用語説明ありますを含む)の具体例を示し、発生時の対処法について全社員向けの研修を定期的に実施します。安心して相談できる窓口の設置も重要です。

相互理解の促進

育児中の従業員が抱える課題やニーズについて、社内報や社内研修などを通じて啓発活動を行い、職場全体の理解を深めます。

業務の属人化解消と多能工化

特定の従業員が休業しても業務が滞らないよう、業務の可視化と標準化を進め、複数の社員が複数の業務をこなせる「多能工化」を推進します。

情報共有の透明化

育児休業取得者の情報(本人の同意を得た上で)や、その後の働き方に関する情報を共有し、成功事例を横展開することで、「自分にもできる」というイメージを具体的に示します。

「パタニティ・ハラスメント(通称:パタハラ)」とは、男性従業員が育児休業(育休)の取得を希望したり、育児を行うことを理由として、職場において精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、不利益な取り扱いをされることです。

具体的には、以下のような行為がパタニティ・ハラスメントに該当する可能性があります。

  • 育休取得の申し出を拒否される、または取得を諦めるように圧力をかけられる。
    • 「男が育休なんて取るな」「会社に迷惑がかかる」「非常識だ」などと言われる。
    • 取得希望を伝えたら、具体的な理由なく取得を認められない、取得期間を短縮するよう強要される。
  • 育休取得を理由に、降格や減給、不当な異動などの不利益な扱いを受ける。
  • 育休取得後、重要な仕事から外される、能力を評価されないなど、キャリア形成に悪影響を及ぼすような扱いを受ける。
  • 育休中の同僚や上司からの連絡が極端に多く、休業を妨げられる。
  • 育児に関する言動に対し、嫌味や嘲笑を浴びせられる。
    • 「奥さんに任せればいいだろう」「男のくせに育児なんて」など。

**マタニティ・ハラスメント(マタハラ)**が女性の妊娠・出産・育児を理由とするハラスメントであるのに対し、パタニティ・ハラスメントは男性に特化した育児に関するハラスメントを指します。

近年、男性の育児参画が重要視され、育児休業の取得促進が進む中で、男性が安心して育児休業を取得できる環境を整えるためには、このパタニティ・ハラスメントの防止が重要な課題となっています。企業は、ハラスメント防止のための研修や相談窓口の設置などを通じて、このような行為を根絶する努力が求められます。

男性育児休業取得の推進

男性の育児休業取得は、女性の活躍推進にも繋がります。

  • 男性育児休業取得の意義を繰り返し伝える
    • 男性が育児に参画することの意義(家庭への良い影響、子どもの成長、夫婦間の協力など)を社内で繰り返し伝え、取得へのモチベーションを高めます。
  • 「パタニティ・ハラスメント」の防止策
    • 男性が育児休業の取得を申し出た際に、否定的な言動や嫌がらせがないよう、具体的なハラスメント事例を挙げ、厳しく防止策を講じましょう。
  • 管理職への男性育休取得促進のための指導方法の研修
    • 管理職が男性社員に対してどのように育児休業を推奨し、支援すればよいのか、具体的な指導方法に関する研修を実施します。
  • 短期間の育児休業(産後パパ育休含む)から取得しやすい雰囲気作り
    • まずは短期間の育児休業(例:産後パパ育休)から気軽に取得できる雰囲気を作ることで、育児休業取得へのハードルを下げ、徐々に長期取得へと繋げていきましょう。
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中小企業における実践的アプローチ

限られたリソースの中小企業でも、効果的に育児休業取得を促進し、企業文化を醸成するための実践的なアプローチがあります。

限られたリソースでの効果的な運用戦略

  • 外部専門家(社会保険労務士など)との継続的な連携
    • 法改正への対応や、個別のケースに対する適切なアドバイスを得るために、社会保険労務士などの専門家と継続的に連携することは非常に有効です。
  • 中小企業向けの助成金・支援制度の活用
    • 育児休業取得促進のための助成金や、働き方改革を支援する各種制度は積極的に活用しましょう。厚生労働省のウェブサイトなどで最新情報を確認してください。
  • ITツールを活用した情報共有や手続きの効率化
    • 社内SNSやクラウドツールなどを活用し、育児休業に関する情報共有や申請手続きを効率化することで、担当者の負担を軽減し、従業員もスムーズに手続きを進められます。

成功事例に学ぶヒント

  • 育児休業取得促進に成功している中小企業の具体的な事例研究
    • 他社の成功事例を参考に、自社に合った取り組みを検討しましょう。地域の商工会議所や中小企業団体などが情報を提供している場合もあります。
  • 従業員の声を取り入れた制度改善のサイクル
    • 定期的に従業員へのアンケートやヒアリングを実施し、育児休業制度や働き方に関する要望を吸い上げ、継続的に制度改善を行うことで、より実効性の高いものになります。
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まとめ

2025年の育児介護休業法改正は、単なる義務化対応に留まらず、企業がより働きやすい環境を整備し、優秀な人材を確保・定着させるための大きなチャンスです。義務化された対応を超え、実効性を高める取り組みを通じて育児休業取得を「当たり前」にする企業文化を醸成することは、従業員のエンゲージメント向上、生産性向上、そして企業価値向上へと繋がります。

この法改正を負担と捉えるのではなく、企業と従業員双方にとってメリットのある「働き方改革」の絶好の機会と捉え、今日から一歩踏み出してみませんか?

「でも、具体的にいつ、誰に、何を話せばいいの?」そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。ご安心ください。次回は、今回の記事で触れた「育児休業取得の見える化フロー」を実践するための、具体的な意向確認と情報提供のタイミングや方法について、男性・女性それぞれのケースに分けて詳しく解説していきます。どうぞお楽しみに!

最後までお読みいただきありがとうございました。ご相談の際は、以下よりお気軽にお問い合わせください。☟

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