本記事は「あなたの働く人生を守るセーフティネット!雇用保険のすべて」シリーズの第26話です。第1話は👉雇用保険とは?何のためにある?|加入メリットや目的を解説
前回の記事では、父親が子の出生後8週間以内に取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)」の基本ルールと、その期間中に支給される「出生後休業支援給付金」について解説しました。
前回の記事は👉産後パパ育休はいくらもらえる?実例で見る出生後休業支援給付金
給付率が賃金の67%であること、そして従来の育児休業とは別枠で取得できる柔軟性が、男性の育休取得を後押ししていることをご理解いただけたかと思います。
しかし、「給付率67%で180日を超えると50%になって、本当に家計は大丈夫なのか?」という経済的な不安は、依然として残るかもしれません。
今回は、産後パパ育休(出生時育児休業)に限らず育児休業全般で適用される、家計を大きく支える重要な仕組み──「社会保険料(厚生年金・健康保険)の全額免除制度」について詳しく見ていきます。
この記事でわかること
- 社会保険料免除の仕組みと、将来の年金への影響。
- 「住民税は免除されない」という、休業中の重要な注意点。
- 給与と育休手当の「手取り」比較シミュレーション。
- 免除申請の具体的な手続き(誰が、どこへ申請するか)。
育休中の社会保険料免除で手取りを最大化する仕組みとメリット
育児休業中の家計を力強く支える仕組み、それが「社会保険料の全額免除」です。
この制度は、単に休業中の支出を減らすだけでなく、将来にわたってあなたの経済的な安心を保障する、非常に優れた特例措置です。
育児休業中に免除される社会保険料の対象と家計への影響
育児休業中に免除の対象となるのは、以下の保険料です。
- 厚生年金保険料(老後の年金に関わる)
- 健康保険料(医療費に関わる)
- 介護保険料(40歳以上の方のみ対象)
この制度の最大のメリットは、本人負担分と会社負担分の両方が全額免除される点です。
具体的な免除額|大阪府の例
あなたの毎月の給与から控除されていた保険料(労働者負担分)は、賃金の「約15%前後」に相当します。
この大きな負担がゼロになることが、育休手当の実質的な手取り率を大きく引き上げます。
例えば、2025年度の大阪府(協会けんぽ)に勤務する40歳未満の方の場合、毎月の賃金の約15%が免除されます。
| 保険料 | 労働者負担分の料率 | 備考 |
| 厚生年金保険料 | 9.15% | 全国一律で、総額18.3%の半額。 |
| 健康保険料(大阪) | 10.24%の半額 = 5.12% | 2025年度協会けんぽ・大阪支部 |
| 合計 | 約 14.27% | この額が毎月、全額免除されます。 |
さらに、賃金が支払われない育休期間中、雇用保険料についても計算の基となる賃金がゼロとなるため、実質的に負担はなくなります(免除制度は適用外ですが、結果は同じです)。
つまり、この制度により、すべての保険料負担がなくなるのです。
育児休業中の社会保険料免除でも年金額は減らない?記録の扱いを解説
「保険料を支払わない期間があると、将来の年金が減るのではないか?」という心配は無用です。
育児休業中の社会保険料免除期間は、あなたのキャリアに不利益をもたらさないよう、特別な措置がとられています。
- 年金記録の取り扱い|免除された期間も、保険料を「納付したもの」として扱われます。
あなたは保険料を一切支払わなくても、その期間が将来の年金受給資格期間としてカウントされ、老齢厚生年金等の年金額の計算で不利になることは一切ありません。
安心して休業に専念できる、非常に強力な制度設計となっています。
育児休業中の社会保険料免除申請は社員ではなく会社が行う
この大きなメリットを享受するために、社員であるあなたが自ら年金事務所に出向く必要はありません。
社会保険料免除の申請は、以下の通り勤務先(事業主)が行うことになっています。
- 社員(あなた)の役割
- 会社へ育児休業を取得することを申し出る。
- 会社(事業主)の役割
- あなたの申し出に基づき、「育児休業等取得者申出書」を作成し、日本年金機構(年金事務所)へ提出する。
産後パパ育休での手取り比較|有給休暇と出生後休業支援給付金の賢い選択
社会保険料免除の仕組みを理解したところで、具体的なシミュレーションと、有給休暇を含めた3つの選択肢の比較を行います。
ここでは、あなたが最適な戦略を選択するための判断基準を提示します。
ここでは、休業開始前の平均月収が35万円の夫が、産後パパ育休(28日間)を取得した場合を例にとります。
育児休業中の社会保険料免除と非課税給付金、住民税の扱い
休業中に負担がゼロになる保険料と、支払い義務が残る税金を確認しておきましょう。
| 項目 | 毎月の支払い有無 | 育休中の取り扱い | 資金計画上の重要度 |
| 社会保険料(年金・健保・介護) | 支払い あり | 全額免除 | 最大の優遇措置(※短期休業の場合は期間設定に注意)。 |
| 雇用保険料 | 支払い あり | 実質的に負担なし | 賃金がゼロになるため、保険料の計算もゼロとなります。 |
| 所得税 | 支払い あり | 非課税 | 出生後休業支援給付金に税金がかからないため、手取り率が向上します。 |
| 住民税 | 支払い あり | 免除されない | 支払いが必要。 休業前に納付方法を会社に確認必須。 |
産後パパ育休28日間の手取り比較シミュレーション|月収35万円の場合
| 比較項目 | 労働時の通常手取り | 産後パパ育休(出生後休業支援給付金)時 |
| 収入(額面) | 350,000円 | 出生後休業支援給付金 約218,879円(非課税) |
| 社会保険料の控除 | 約50,000円 控除 | 0円(全額免除) |
| 税金(住民税含む) | 約22,000円 控除 | 住民税 約20,000円 支払いが必要 |
| 最終手取り額(概算) | 約 278,000円 | 約 198,879円 |
計算の根拠と注意点
- 労働時の手取り計算
- 350,000円 (月収) – 50,000円 (社会保険料) – 22,000円 (税金合計) = 約 278,000円
- 出生後休業支援給付金収入の計算:まず、賃金日額を計算します
- 350,000円 × 6ヶ月 ÷ 180日 = 約 11,667円出生後休業支援給付金収入
- 11,667円 × 67% × 28日 = 約 218,879円
- 育休時の手取り計算:出生後休業支援給付金には所得税がかからないため、支払い義務が残るのは住民税のみ(約20,000円)です。
- 218,879円 (給付金) – 20,000円 (住民税) = 約 198,879円
手取り減少の事実と判断基準
通常の育児休業(数ヶ月単位)の場合、給付日数も30日になりますので、給付金の取得が一択となります。
11,667円 × 67% × 30日 = 約 234,507円
234,507円 (給付金) – 20,000円 (住民税) = 約 214,507円
しかし、短期間の産後パパ育休は有給休暇との選択が可能です。
シミュレーションの通り、出生後休業支援給付金制度を選択すると、手取り額は約7万9千円減少します。
この減少額を許容できるかどうかで、判断が分かれます。
- 目先の収入を重視するならば、有給休暇(手取り約27.8万円)に合理性があります。
- 短期間である産後パパ育休においては、有給の選択は極めて現実的な判断の一つです。
- 有給残日数の温存を重視するならば、出生後休業支援給付金が強力な選択肢となります。
- 手取りが約8万円減少する代わりに、本来支払うべき社会保険料の支払いが免除され、有給残日数という貴重な資産を温存できるという理由から、こちらを選ぶ人も多くいます。
- ご自身の有給残日数や今後の取得予定を鑑みて、本制度を選択する方が賢明な場合も多いでしょう。
産後パパ育休で手取りを守る3つの戦略|有給・給付金・併用の比較
産後パパ育休は短期間かつ柔軟な分割取得が可能なため、以下の3つの戦略的な選択肢を検討できます。
| 戦略的選択肢 | メリット | デメリット | こんな人におすすめ |
| ① 全期間を有給休暇 | 収入100%確保。手取りの減少がなく、手続きもシンプル。 | 貴重な有給残日数を28日分消費する。 約5万円の社会保険料負担は発生する。 | 有給残日数に十分余裕がある方、または直近で大きな支出があり収入維持を最優先する方。 |
| ② 全期間を 出生後休業支援給付金 制度 | 約5万円の社会保険料が全額免除され、有給残日数が温存できる。 | 手取りが約8万円減少する。出生後休業支援給付金と免除の手続きが必要。 | 有給残日数を将来のために温存したい方、または免除の優遇措置を最大限活かしたい方。 |
| ③ 有給と 出生後休業支援給付金 を併用 | 収入確保と免除のメリットをバランス良く享受できる。(例:前半14日を有給、後半14日を 出生後休業支援給付金 ) | 手続きが煩雑になりやすい。社会保険料免除の恩恵を受けるには、期間設定に細心の注意が必要になる。 | 柔軟な働き方を試したい方、または職場の理解が深く、細かな調整が可能な方。 |
社会保険料免除のメリットを確実に受けるための手続きと注意点
出生後休業支援給付金制度、育児休業給付金を利用する際、最大のメリットである社会保険料の免除を確実に受け、金銭的なトラブルを避けるために、以下の具体的な行動と注意点を必ず確認してください。
育児休業中の住民税の支払いと納付方法の確認
社会保険料(年金・健康保険)が全額免除される一方、住民税は免除されません。
住民税は前年度の所得に基づいて計算され、支払い義務が継続します。
通常、住民税は毎月の給与から天引き(特別徴収)されていますが、休業中は給与支払いがないため、この天引きができなくなります。
- 会社への確認事項
- 休業に入る前に、会社が住民税をどのように処理するか(一括徴収にするか、自分で納付する普通徴収に切り替えるか)を必ず確認してください。
- 資金の確保
- 普通徴収に切り替わった場合、自治体から送られてくる納付書を使って自分で支払う必要があります。
- 事前に住民税分の資金を確保しておくことが極めて重要です。
育児休業中の社会保険料免除|期間設定のポイントと戦略(出生後休業支援給付金の場合)
社会保険料の免除期間は、「育児休業を開始した日の属する月」から、「終了した日の翌日が属する月の前月まで」が対象となります。
つまり、免除の恩恵を最大限に受けるには、休業終了日を工夫することが非常に重要です。
免除月数が多い設定の原則
- 免除は、休業の「開始月」と「終了日の翌日の前月」で決まります。
- 特に、休業の「終了日」が月の末日である場合のみ、その終了月分まで免除されます。
【重要】免除月数を増やす期間設定の戦略的な比較 (10月30日出産と仮定)
- 産後パパ育休の期間設定は、免除の恩恵を左右します。
- 以下の事例で、月末の扱いを比較してください。
- ケース1|1回の取得で1ヶ月分に留まる例
- 休業期間
- 10月30日〜11月26日(28日間)
- 結果
- 10月分のみ免除で、1ヶ月間に留まります。
- 理由
- 終了日(11月26日)の翌日(11月27日)が11月に含まれるため、前月である10月までで免除が終了してしまいます。
- 休業期間
- ケース2|2回分割取得で2ヶ月分を獲得する例(月末を戦略的に活用)
- 1回目
- 10月30日〜11月10日
- 2回目
- 11月13日〜11月30日(合計28日間になるように調整)
- 結果
- 10月分と11月分の2ヶ月間が免除されます。
- 理由
- 最後の終了日が月末(11月30日)であるため、終了月である11月分まで免除が適用されます。
- 1回目
- ケース1|1回の取得で1ヶ月分に留まる例
- ポイント
- 短期間の休業であっても、免除月数を増やす最大の戦略は、「最後の休業の終了日を月の末日にすること」です。
- 月末を逃すと、その月は免除の対象外となり、金銭的な損失が発生します。
- 取得期間の設定には細心の注意を払い、人事担当者と密に連携を取りましょう。
社会保険料免除の申請手続き|申請の主体は誰か?
出生後休業支援給付金(育児休業給付金)や社会保険料の免除申請手続きは、すべて社員本人ではなく「会社(事業主)」を通じて進められます。
- 社員の役割
- あなた(社員)は、会社が手続きに必要な必要書類の提出に迅速かつ正確に協力することが主な役割となります。
- 会社任せにするのではなく、提出期限や必要な書類(母子手帳のコピーなど)を早めに確認しておきましょう。
まとめ|社会保険料免除で安心!産後パパ育休と育児休業給付金の賢い活用法
この記事で見てきた通り、社会保険料の免除は、長期にわたる通常の育児休業においては、文句なく最も有用な制度です。
しかし、短期間の産後パパ育休(出生後休業支援給付金)の取得においては、有給休暇との柔軟な比較検討が必須となります。
- 給付金制度の戦略的な価値
- 給付金制度の利用は、「目先の収入の減少」という一時的な損失と引き換えに、本来支払うべき社会保険料の免除と、給与100%が保証される有給残日数という貴重な資産を温存するための戦略的な選択です。
- したがって、産後パパ育休においては、この給付金制度を利用するのか、あるいは手取り額が減らない有給休暇を充てるのか、有給残日数や今後の家計の資金繰りを鑑みた柔軟な比較検討が必須となります。
- あなたの家計とキャリアを守るために、最も賢い組み合わせを見つけましょう。
次回予告|育休後のキャリアと家計を守る最新制度とは?
今回の記事で、休業中の収入戦略は完成しました。しかし、育児と仕事の両立における次の大きな壁は、「復帰後の働き方」です。
次回の記事では、2025年4月から始っている、キャリアと家計を守るための重要な新制度を徹底解説します。
次の戦略|復帰後の収入を守る「新しい給付金」
- 復帰後の収入減をどう防ぐのか?
- 新しい給付金の仕組みと活用法とは?
ご期待ください。

- 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
- 会社員歴30年以上、転職5回を経験した氷河期世代の社会保険労務士です。自らが激動の時代を生き抜いたからこそ、机上の空論ではない、働く人の視点に立った情報提供をモットーとしています。あなたの働き方と権利を守るために必要な、労働法や社会保険の知識、そしてキャリア形成に役立つヒントを、あなたの日常に寄り添いながら、分かりやすく解説します。

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