PR

残業代の正しい計算方法|自分で「1時間あたりの単価」を割り出す実践ガイド

残業代の正しい計算方法 会社員の給料とお金の基本
記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

本記事は「会社員の給料とお金の基本」シリーズの第4話です。

第1話は👉給料・給与・賃金・報酬の違いとは?知らないと損するお金の基本

前回の記事で、私たちは給与体系に潜む「固定残業代(みなし残業代)」の曖昧さが、「未払い賃金」や「最低賃金違反」という重大なリスクを生むことを確認しました。

制度のルールが曖昧であれば、その結果として給与計算も不透明になります。

あなたの給与明細の額面総額は正しく見えても、もし企業側が残業代の計算ルールを誤って解釈したり、単価の元となる基礎賃金を不当に低く設定したりしていれば、働いた時間に対する正当な対価は支払われません。

これは意図的な「ごまかし」だけでなく、単なる「計算ミス」や「複雑な法解釈の誤り」によっても発生します。

この記事でわかること

  • あなたの給与明細から「残業代の単価(基礎賃金)」を正確に算出する方法
  • 残業代の基礎に含めるべき手当・除外すべき手当の明確な区分
  • 「分母(平均所定労働時間)」の正しい計算手順と不当な引き下げの見抜き方
  • 実際の明細を使った未払い賃金の試算方法
  • 計算結果に疑義が生じたときの、会社・労基署・専門家への合理的な確認ステップ

残業代の未払いを防ぐ最強の防御策は「正確な単価計算」を身につけること

企業側に悪意があるか否かにかかわらず、働く私たちにとって重要なのは、自身の給与が法律に則って正しく計算されているかを客観的にチェックできるスキルを持つことです。

その鍵となるのが、残業代の土台である「1時間あたりの賃金(基礎賃金)」、つまり残業代の単価を正確に割り出す方法です。

残業代は、以下のシンプルな構造で計算されます。

残業代 = 1時間当たりの賃金 × 残業時間 × 割増率

この計算において、企業がミスを犯しやすい、あるいは意図的に操作しやすいのは、単価を構成する「分子」と「分母」です。

残業代の基本計算式を分解して理解する

月給制で働くあなたの単価は、以下の計算式で求められます。

1時間当たりの賃金 = 月給額(割増賃金の基礎となる部分) ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間数

本記事では、この計算式を構成する以下の2つの要素について、あなたの給与明細と就業規則を基に正しい数値を割り出す具体的なステップを徹底解説します。

  • 分子の確定
    • 残業代の計算に含めるべき手当と除外すべき手当の明確な分類。
  • 分母の確定
    • 会社が不当に単価を下げていないかチェックするための、正確な「1ヶ月の平均所定労働時間数」の算出方法。

残業代の計算が合っているかどうか。

ご自身の目で確かめる力をつけ、不当な未払いや計算ミスからあなたの権利と賃金を守りましょう。

基礎賃金(単価の元となる月給額)の確定|固定残業代トラブルを防ぐ最重要ポイント

残業代の単価(1時間あたりの基礎賃金)を算出するために、まずは計算式の分子となる「月給額(割増賃金の基礎となる部分)」を正確に確定します。

この額は、あなたの給与明細の総支給額とは異なることに注意が必要です。

割増賃金の基礎となる「賃金」の範囲を理解する|除外できる手当・含める手当を正しく把握する

労働基準法は、残業代の計算基礎に含めるのは「通常の労働に対する対価」であると定めています。

そのため、以下の基準に基づき、すべての支給項目を含める賃金と除外される賃金に分類する必要があります。

計算の基礎に【含める】主な賃金(労働の対価)

これらは、あなたの労働内容、職務、能力などに対して支払われるものであり、すべて単価計算の基礎となる給与に合算されます。

  • 基本給
  • 役職手当、職務手当
  • 資格手当、技能手当
  • 皆勤手当、精勤手当
  • 地域手当

計算の基礎から【除外される】主な賃金(個人的事情や時間外労働の対価)

これらは、従業員の個人的な事情によるもの、または通常の労働の対価ではないため、残業代単価の計算からは除外されます。

  • 固定残業代(みなし残業代)
    • これは「時間外労働の対価」であり、通常の労働の対価ではないため、必ず除外します。
  • 家族手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当(ただし、支給実態が全従業員一律であれば、含める必要があるため要注意)
  • 臨時に支払われた賃金(結婚祝金、見舞金など)
  • 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与、年2回支給の奨励金など)

企業が誤って計算から除外すべきでない手当(例:役職手当)を除外していると、あなたの単価が不当に低くなり、未払い賃金が発生します。給与明細を照らし合わせて、除外が正当かを確認してください。

分子となる「基礎賃金」の確定式|固定残業代の正しい単価計算に必須のステップ

上記の分類に従い、単価計算の分子となる「割増賃金の基礎となる月給額(基礎賃金)」は、次の計算で正確に確定します。

基礎賃金(分子) = 基本給 + (計算の基礎に含める手当の合計) - (固定残業代) - (除外される手当の合計)

この金額を正しく確定することが、あなたの労働に対する正当な対価がいくらなのかを知るための第一歩です。

1ヶ月の平均所定労働時間数の算出方法

残業代の単価を算出するための次のステップは、計算式の分母となる「1ヶ月の平均所定労働時間数」を確定することです。

月によって日数が異なるため、月給制の場合、労働時間の分母には1年間の労働時間を平均した数値を用います。

企業がこの分母を誤って大きく設定していると、あなたの単価が不当に低くなってしまうため、正しい計算方法を知っておく必要があります。

「所定労働時間」と「法定労働時間」の違い

まず、労働時間に関する基本的な用語を整理します。

  • 法定労働時間
    • 労働基準法で定められた労働時間の上限です。
    • 原則として1日8時間、週40時間と定められています。
  • 所定労働時間
    • 会社が就業規則や労働契約であらかじめ定めた、働くべき時間です。
    • これは、法定労働時間(週40時間)の範囲内で設定されます。

残業代の単価計算で分母となるのは、この「所定労働時間」を基にした平均時間です。

月給制における「平均所定労働時間」の計算式

月によって労働日数が変動するため、残業代の単価計算には、1年間の所定労働時間を12ヶ月で割って平準化した「1ヶ月の平均所定労働時間」を用います。

この数値は、以下の情報を用いて、正確に算出できます。

  1. 1日の所定労働時間(休憩時間を除いた時間)
  2. 年間休日日数(会社が定めた1年間の休日合計)

計算式は以下の通りです。

月平均所定労働時間 = (365日 - 年間休日日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月

計算例でチェック!

あなたの会社が定める年間休日日数と1日の所定労働時間を用いて、実際に計算してみましょう。

  • 会社の条件
    • 年間休日日数
      • 120日(土日祝、年末年始など)
    • 1日の所定労働時間
      • 8時間(例:9時~18時、休憩1時間)
  • 計算ステップ
    1. まず、1年間の所定労働日数(実際に働く日数)を算出します。
      • 365日 - 120日(年間休日) = 245日
    2. 次に、年間所定労働時間数を算出します。
      • 245日 × 8時間 = 1,960時間
    3. 最後に、月平均所定労働時間数を算出します。
      • 1,960時間 ÷ 12ヶ月 = 約163.33時間

この計算により、あなたの残業代の単価を計算する際の分母は163.33時間であることが確定します。

分母が不適正だと単価が下がる!

もし企業が、あなたの単価を計算する際に、この正しい数値(163.33時間)よりも大きな数値(例:173時間など)を用いていた場合、計算式の分母が大きくなるため、結果的に単価が不当に低くなります。

ご自身の雇用契約書や就業規則を確認し、正確な年間休日日数を用いて計算することが、単価の適正さをチェックする上で極めて重要です。

最終単価の決定と未払い賃金の試算|残業代の正しい支給額をチェックする

これまでの計算で確定した「分子」(基礎賃金総額)と「分母」(月平均所定労働時間数)を使って、いよいよあなたの正確な残業代単価を決定し、給与明細に記載されている残業代が適正かチェックします。

時間あたりの基礎賃金(単価の土台)の算出|給与明細を使った実例で学ぶ

以下の明細例の数値を、残業代単価の基本計算式に当てはめます。

従業員 Aさんの給与明細(計算に使用する支給項目)

支給項目金額残業代計算の基礎への影響
基本給200,000円⭕ 含める
役職手当30,000円⭕ 含める
地域手当15,000円⭕ 含める
皆勤手当10,000円⭕ 含める
家族手当10,000円❌ 除外
住宅手当15,000円❌ 除外
通勤手当8,000円❌ 除外
時間外手当45,000円❌ 除外
総支給額333,000円

基礎賃金(割増前の単価)の決定

まず、基礎賃金総額(分子)を再確認します。

基礎賃金(分子)= 200,000円 + 30,000円 + 15,000円 + 10,000円 = 255,000円

年間休日120日、1日8時間勤務の場合の月平均所定労働時間(分母)は、163.33時間です。

1時間あたりの基礎賃金 = 基礎賃金総額 ÷ 月平均所定労働時間数

1時間あたりの基礎賃金 = 255,000円 ÷ 163.33時間 = 1,561.26円

Aさんの割増率をかける前の1時間あたりの基礎賃金は、1,561.26円となります

試算による未払い賃金のチェック|残業代の支給漏れを自分で確認する方法

この基礎賃金に法定の割増率をかけ、実際に支払われるべき残業代の総額を計算し、企業からの支給額と比較します。

法定の割増率と適正額の計算

Aさんの法定時間外労働は25時間でした。法定時間外労働に適用される割増率は1.25倍です。

適正な残業代 = 基礎賃金 × 割増率 × 超過残業時間

適正な残業代 = 1,561.26円 × 1.25 × 25時間 = 48,789円

未払い賃金の有無の確認

項目金額
Aさんが受け取った残業代(給与明細記載)45,000円
Aさんの適正な残業代(自分で計算)48,789円
差額(未払い額)3,789円

この試算の結果、企業がAさんに支払った時間外手当は、本来支払うべき金額よりも3,789円少ないことが判明しました。

これは、基礎賃金に含めるべき手当を企業が計算から除外したことによる単価の不当な引き下げが原因である可能性が高いです。

まとめ|正確な残業代計算こそが未払い賃金防御の要

今回の計算方法で導き出した「正確な残業代単価」と、企業が実際に支払っている単価を比較し、給与の適正さをチェックしてください。

  • 正確な計算
    • 「基礎賃金(含める手当合計) ÷ 月平均所定労働時間」を割り出す。
  • 不備のサイン
    • 企業側の単価があなたの計算した単価よりも低い場合、含めるべき手当が除外されているか、労働時間数(分母)が不当に大きく設定されている可能性が高いです。

計算結果に疑義が生じた場合の次のステップ|未払い残業代を確認・是正する行動指針

計算結果に疑義が生じた場合は、感情的にならず、以下の手順で事実確認と是正を求めましょう。

  • 会社への確認
    • まずは給与計算の担当部署に、あなたが算出した「正確な単価の根拠」を提示し、計算ミスの有無について説明を求めます。
  • 専門家への相談
    • 会社が是正に応じない場合は、労働基準監督署(法令違反の指導・是正勧告)や、弁護士・社会保険労務士(交渉・法的手続き)に相談しましょう。

正確な計算に基づく論理的な主張と、給与明細や勤怠記録といった証拠こそが、あなたの権利を守る最大の武器となります。

次回予告|時効で消える前に動け! 請求権を守る「3年間の壁」と「証拠集」

今回の記事で、あなたはご自身の残業代単価の計算方法を習得しました。

しかし、計算で導き出された未払い賃金の請求権には、時効(タイムリミット)があります。

せっかくの計算結果を無駄にしないためにも、時効で権利が消える前に行動することが重要です。

次回は、請求を成功させるための「時間」と「証拠」に焦点を当てます。

  • 3年間の壁
    • 未払い残業代の時効期間(3年間)の正確な起算日と、時効が迫った際の完成猶予の手段を解説します。
  • 最強の証拠集
    • 請求額の根拠となる給与明細や勤怠記録など、「請求を裏付ける最強の証拠」の集め方を具体的にご紹介します。

次回は、「計算」から「行動」へ。あなたの権利を確実に守るための実践的なステップです。

ご期待ください!

筆者 戸塚淳二
筆者 戸塚淳二
  • 執筆者|社会保険労務士 戸塚淳二(社会保険労務士登録番号|第29240010号)
  • 会社員歴30年以上、転職5回を経験した氷河期世代の社会保険労務士です。自らが激動の時代を生き抜いたからこそ、机上の空論ではない、働く人の視点に立った情報提供をモットーとしています。あなたの働き方と権利を守るために必要な、労働法や社会保険の知識、そしてキャリア形成に役立つヒントを、あなたの日常に寄り添いながら、分かりやすく解説します。

コメント